澤宮優著「後楽園球場のサムライたち 沢村栄治から城之内邦雄まで」(現代書館)を読みました。
去年、澤宮優さんの本についてブログで書いたところ、嬉しいことに澤宮さんご本人からコメントをいただいて、
この本に神田武夫投手について書かれていることを教えていただきました。
それで、教えていただいてから時間がたってしまいましたが、読んでみました。
この本には、巨人軍で活躍した6人の選手について取り上げています。
すでに戦死した沢村選手以外は、直接ご本人に取材をされていて、とても貴重な話を読むことができます。
以下、選手ごとに簡単に感想を書きます。
(1)沢村栄治
沢村投手は、戦前の職業野球とか、プロ野球の歴史とか、その手の本には必ず取り上げられる方なので、今までもそれなりに読んできました。
さらに、彼について書かれた本で、電子書籍で購入していながらまだ読んでいない本も2冊ほどあります(^^;))。
この本には、小田野柏さんと多田文久三さんの、沢村投手についてのエピソードが書かれています。
小田野柏さんという方は、ノンプロとプロ野球を行ったり来たりされた方のようで、ノンプロ時代に沢村投手と対戦をされました。
その時(昭和10年)は、まだプロ野球が巨人軍しかなくて、ノンプロと対戦していた頃だったのですが、その時の沢村投手の球はとにかく凄かったそうです。
一方、多田文久三さんは、巨人軍で活躍された方(この本でも取り上げられています)で、昭和18年、沢村投手の最後の球を受けられたそうです。
そのときの球は、昔の勢いはなくて、見るも無残な出来栄えだったとのことです。
沢村投手が2度の戦争ですっかり勢いが落ちてしまった、という話はすでに知っていましたが、作者の方が、沢村投手の球を実際に受けたことのある人から直接聞かれた話なので、よりその重みを感じ、何とも悲しい気持になりました。
素晴らしい才能を戦争や巨人軍にことごとく利用され、潰され、最後は命まで奪われて・・・なんてかわいそうな人生なのだろう、と、悲しく腹立たしくやりきれない気持になります。
沢村投手については、あまりにも思うこと、考えさせられることが多いので、未読の本を読んでから、また改めて書きたいと思っています。
(2)川崎徳次
戦前は南海で活躍し、戦後は巨人、西鉄で活躍された投手。
神田投手についても触れられているのは、この方の話の中です。
川崎投手は、南海に在籍されていた昭和16年、17年(1941年、1942年)に、神田投手と一緒になり、選手不足の中、試合のほとんどを二人で投げています。
この本の中での神田投手に関する記述は少ないですが、それでも、神田投手がどれだけ才能のある素晴らしい選手であったかが、充分に伝わってきます。
特に、川崎投手が南海に入団して神田投手を見たときのことを「そのとき彼(注:川崎投手)はチームに今までも見たことのない偉大な投手を眼にする。」
と書いているのがとても印象的でした。
この本や、川崎投手ご自身で書かれた本(「戦争と野球」)で神田投手について語っているのを読んで、川崎投手は、選手および監督として活躍され、どんなに多くの優秀な選手を見ても、神田投手の存在は特別であり続けているようなような印象を受けました
(私のひいき目かもしれませんが・・・)。
やはり、神田投手は、川崎投手が今までに見たことのない才能やセンスを持っていた、そして、それだけでなく、才能や実績を超えた何かを持っていたのでしょう。
神田投手が活躍していた時代におそらく一番近い存在であった川崎投手が、神田投手についての思い出を残してくださったことに感謝です。
もちろん、川崎投手も素晴らしい投手です。今の時代では見られない豪快な試合を多くしています。
特に、昭和24年4月26日の大映戦で、13点を取られながらも自ら3本の本塁打を打って完投勝利した試合の描写は、読んでいてとてもハラハラしながらも気持ちが良かったです。
(3)多田文久三
戦前から戦後にかけて、投打の両方で活躍された方。
投手と捕手の間を行ったり来たりされ、その両方で素晴らしい活躍をされています。
投手と捕手を行ったり来たりしたのには、戦争などで人手が足りなかった、という事情も大きかったようですが、
そのような恵まれない環境の中で、チームのためにどんな役目でも引き受けた姿は、本当に「サムライ」という言葉がぴったりで格好いいです。
余るぐらい人材がいて、競争過多で、役割が完全に分業化された今の時代には考えられないし、今後も現れることはないでしょう。
現在、大谷選手が「二刀流」と言われていますが、本当の意味で「二刀流」と言えるのは多田選手のような人だと強く感じました。
(4)千葉茂
今回の本で取り上げられた話は、どれも感動的でしたが、その中でも特に私が感動し、うるうると来てしまったのが、千葉茂選手の話です。
千葉選手は、昭和50年代ぐらいに、「週刊ベースボール」に昔の野球選手のことを連載で書いていて、その中に、神田投手について書いているものもありました。
そのことで、千葉選手は私にとって存在感のある選手だったのですが、この本を読んで、千葉選手をますます尊敬しました。
千葉選手は、本当に野球が好きで、亡くなるときまで、野球を発展させていくことにその人生を捧げた方だと感じました。
巨人軍時代は、スター選手として華のある打撃、超人的な守備をされていたようですが、タイトルは取れなかったそうです。
タイトルが取れなかったことについては、決してご本人が意図されたことではなく、悔しい気持もあったと思いますが、しかし私は、個人のタイトルよりも、巨人の優勝に貢献すること、魅せるプレーで観客を喜ばせることを優先した結果のような気がします。
引退後は近鉄の監督になりましたが、三年連続最下位のためチームを去らざるを得なくなり、その後はユニフォームを着ることは無かったそうです。
しかし、それで野球と縁を切ったわけではなく、オールスターゲームの松山(千葉選手の故郷)での開催に尽力したり、近所の小学生に野球を教えたり、亡くなる直前まで野球の発展のために生きた人生でした。
神田投手など、昔の選手について週刊ベースボールに書かれていたのも、「昔の素晴らしい選手のことを後世に残したい」という気持ちからだったのでしょう。
性格的には、繊細で人見知りだったということなので、現役時代の大胆で豪快なプレーも、引退後の積極的なご尽力も、すべて、ご自身の名誉や自己顕示欲のためではなく、野球のためだったんだな・・・と感じました。
千葉選手のようなプレー、そして生き方ができる選手は、もう現れないような気がします。
(5)村瀬広基
村瀬投手のことは、この本で初めて知りました。
昭和36年の途中で巨人に入団し、いきなり登板を命じられ、シーズン中に5勝を挙げて巨人の優勝に貢献します。
しかし、翌年は期待されたにも関わらず成績が振るわず、結局昭和40年限りで巨人を引退します。
村瀬投手の話も、今の時代では考えられない話だなあ、と驚いてしまいました。
シーズン途中で入団、というのは今の時代には無いことだと思います。
村瀬投手は、最初が華やかだったがゆえに、2年目以降はどんなに辛かっただろう・・・と考えてしまいます。
今は、野球をきっぱりとやめて、全く違う板前の道に進み、お店を開いて順調に行っているようです。
彼のお店のホームページを見てみましたが、お店の歴史のところに、巨人軍に入団したことも書いてありましたので、彼の中でも、巨人軍で活躍したことは、
今の彼に繋がっている、なくてはならない経験だったのでしょう(もし消したい過去ながらば、あえて書かないと思うので・・・)。
もともと野球選手は寿命が短くて、若い頃に栄光を受けた分、引退後の生活は大変だろうな、惨めになることもあるだろうな・・・なんて思ってしまっていたのですが、村瀬投手の引退後の生き方は、こういう生き方もまた良いかもしれないな・・・と思わせてくれました。
(6)城之内邦雄
巨人のV9時代にエースとして活躍された方。
この本の中では、他の選手の2倍以上のページ数を使って書かれています。
新人でいきなり開幕投手になり、その後5年間で100勝を挙げるという素晴らしい活躍をします。
巨人のV9は、彼がいたからこそ達成できたのだろうな、と思いました。
恥ずかしながら、この投手のことは存じ上げていなかったのですが、彼について読んで、とにかくカッコいい人だと感じました。
人一倍練習し、体力づくりに励むストイックな姿勢。
迫力のある独特な投球フォーム。
彼の試合や投球について書かれた文章を読んでいたら、実際に投げているところを見たくてたまらなくなりました。
最後は腰を悪くして巨人軍を去り、その後、1年半ほどして少しだけロッテに復帰し、半年ほど在籍後、完全に引退します。
しかし、一旦引退して野球評論家として活躍していた時も体を鍛えていたようで、それで、ロッテに復帰することができたそうです。
常に手を抜かずに自分を鍛え続けるその姿勢は本当にカッコいいと思いました。
また、城之内投手について少し検索したところ、2年ほど前に、「巨人V9の真実」という本の出版を記念して行われた座談会の記事が出てきました。
その座談会に城之内投手も出席されて、彼の写真も出ていたのですが、今でも現役時代のような男らしさ、カッコよさがにじみ出ていました。
彼こそが、本当の「男の中の男」なのだと感じました。
どの選手の話も、とても印象深く感動的で心に残るものでした。
巨人軍には記憶や記録に残る選手がたくさんいる中、沢村投手以外は比較的取り上げられることの少ない、それでいて素晴らしい選手を取り上げたことも良かったです。
作者はこの本で「男とは何か」を追い求めた、とあとがきで書いていらっしゃいますが、その通り、豪傑で大胆で男らしい、まさにサムライという呼び方がふさわしい人ばかりでした。
今の時代は、戦争でどうせ死ぬのだから思い切り好きなことをしよう、という時代でもなければ、明日は今日よりも良くなる、ということを確信できる時代でもない。
先細りで漠然とした不安が漂う時代、周囲と合わせて和を乱さないように生きることが大事だとされています。
そんな時代では、たとえプロ野球選手でも、この6人のように生きることは難しいでしょう。一般の社会人であればなおさらです。
それでも、この6人の方々の存在を忘れずに、自分のできる範囲で、信念をもって大胆に生きていけたら・・・と思いました。