『婆ちゃんご飯よー。』
夕食時に孫が私を呼ぶ。
『はいー。』
と一応気のない返事をし、ひと呼吸、ふた呼吸、しばらくしてからたいぎそうにダイニングへ向かう。
ドア持って面倒臭そうに開け、それでもテーブルに載ったおかずのチェックは怠らず、ドスンと座ろうと椅子を引いた瞬間、手が止まった。
座布団の上に食品が入っていたであろう、ビニールのパッケージが裏返して置いてある。
これは嫁か孫が何か食べた空袋をわざと私の椅子に置いたんではないか。
一瞬のうちに色々な考えが頭をよぎり、サッと周りを見渡す。
嫁、孫は普通の態度に見えるが見せかけなのか。
こういう時には黙っておく訳にはいくまい。
やはり一家の大黒柱、指導者としては、見逃すわけにはいかないだろう。
声を張り上げる準備で息を深く吸い込み、ことさら大きな動作、音を出し、光より速く裏返しの空袋を表に返して、
『この○○のゴミは誰が置いたんね‼︎』
と言うつもりだったが、息を飲んだ。
私が食った。
私がみんなの留守中に食った、さきイカだった。
どういう経緯で、そこに辿り着いたのかは分からないが、確かに私が食ったイカでした。
嫁がチラリと見たがそれには反応せず、速やかに目立たぬようスッと空袋を横に裏返して置き、気配を消してご飯をかっ食らった。
誰よりも速く食べたら、また右手で目立たぬよう空袋をつまみ、食器と共に流しへ運ぶ。
そして、ゴミ袋の中に音を立てぬようスッと奥へ押し込む。
任務完了だ。
自室に戻って安堵のため息をつく。
そのため息すら聞こえぬよう、テレビの音量を少し上げた。