小説家を目指す、小説家の卵ブログです。ネットで公開したり、出版社へ公募しながら、プロへのチャンスを掴むため奮闘中。現在は、ショート作品がメインでイラストレーターと挿絵コラボしています。
暖炉今回の転校でもう6回目。この町に来て2週間。新しい学校が始まって、1週間。まだ友達はいない。僕は小さい頃から転校を繰り返していた。お父さんの仕事のせいで、一年に一回引っ越すのだ。それは仕方のない事だと割り切って不平不満を漏らしたことは一度もない。ただ、僕はそのせいで特定の友達ができない事が悩みの種だったりする。おそらくそれは、お母さんとお父さんは知らない事だ。でも、例え仲がいい友達ができたとしてもすぐに引っ越す事になり、会えなくなるのだから、頑張って友達を作る必要はないんじゃないかな。そう捻くれてしまうのが常になっていった。ただそんな捻くれた内の不安の部分が顔を出すときがある。そんな時は。一人でも強くなる気持ちを手に入れよう。とそう思う事で心が楽になる事を最近学んだ。今日は日曜日。空はどんよりと雲っている。こんなどんよりと曇っている日の小学生の過ごし方は家でゲームをやったり勉強をして過ごす方がきっと正解なんだろう。だが、僕は外に出る。こんな日に外を歩く小学生が少ないはずなので僕は外に出るのだ。僕が玄関で靴を履いていると「陽一、どこにいくの?」とお母さんがきいてきた。「ちょっと、そこまでだよ」どこに行ったっていいじゃないか。「あらそう。もしかして友達と遊びにいくの!?もう学校で友達が出来たってことかしら?」お母さんはウキウキした様子で聞いてくる。転校するたんびにお母さんは僕に友達ができたかどうかをすごく気にする。罪悪感と不安で僕にそう聞いてくるのだ。「そうだよ。新しくできた友達に家でゲームをしないかって誘われているんだ」僕はお母さんに、余計な詮索をされたくなかったので、適当に嘘をついた。「いってきます」まったく僕はよくできた息子だ。そんな気持ちで外に飛び出した。「あっ、陽一、傘を持っていかないでいいの?」僕はお母さんの言葉を背中で受けて、振り返らずに走って行った。どこに行こうか。しばらく、走ってから思った。だいたいこの近辺は探索したので、なにがどこにあるか知っている。僕の家の道路をまっすぐ右にいくと大きな交差点。左に行くと、公民館がる。小さな本屋は大きな交差点をまっすぐに渡った先。公園は大きな交差点を左に曲がってしばらくいったところ。そしてそこを通り過ぎると僕が通っている学校が見える。どこに行こう。あんまり遠くに行くと、迷ってしまうしな。でも迷ってから知っている道に出る発見を味わうのもいいかな。よし、今日は雨が降るまでとことん遠くまで行ってやる。帰りはずぶ濡れ覚悟だ。僕はまだ探索して場所の路地や道路を行ったりきたりした。しばらく道路を歩いていると、家や建物が少なくなっていって田舎のような街並みになって行った。「へー。ここはさっきとは全然違う。田んぼとか畑もある。ああー。疲れた。お腹も空いた。もうお昼すぎかな。帰ろうかな。」もう2時間ぐらい歩いていたので、僕はくたびれ始めていた。「おっ!なんだあれは?」前方に木が沢山生い茂る、山が見える。「すげー。なんだあそこは?」僕は、その山に向かって走り出した。さっきまでの疲れはあの山の向こうまで飛んで行っていた。山へとつづく舗道されていない坂道を僕は翔け上げる。山の入り口には大きな山の案内図が立てかけられていて、そこの横に山へと通ずる獣道が長く曲がりくねって伸びていた。「すげー。この先はどうなっているんだ。熊とか出てきたりして、蛇とか猪もいるかも」僕はまだ見ぬ冒険を想像してテンションが最高潮に高まっていた。そんな僕の熱くなった気分を冷ますかのように雨がぽつりぽつりと降り出した。「うわ。雨かよ。ここで雨かよ。くそ。でもここで帰るわけにはいかない。行くぞ」この先に宝物が眠っているかのように、僕は想像して山へと入っていた。歩くこと、20分。僕が想像していた冒険譚はそこにはなかった。熊も出ないし、猪も蛇もいない。ただそこには、木と葉っぱと虫がいるだけだった。「なんだよ。期待数値がどんどん下がっていくよ。それとは逆に雨は酷くなってくるし」もう帰ろうかな。僕のテンションは死んだザリガニの水槽を洗う時の低さになり、さっさと帰ろうと思った。「はあー。日が暮れる前に帰るかな。帰り道は来た道をまっすぐ帰るだけだし。迷うわずないよな」僕は、後ろを振り返って踵を返す。そして来た道を歩いていくが、一向に出口にたどり着かない。「そろそろ出口についてもいいはずなんだけどな。確かあの大きな木が目印だった気がするんだけど」それから、30分歩くが一向に景色は変わらない。足元を止め周りの景色を見渡す。そして僕は遠くをじっと見て呟いた。「ヤバイ・・・」もしかして、僕はいま遭難しているのか。これはこれで冒険の香りがするが。そんな余裕はいまの僕にはなかった。「いや、大丈夫」僕は自分に言い聞かせて歩き出す。迷ってなんかいない。きっと出口にたどり着くさ。雨は先ほどより、酷くなり、僕の体は全身が余す事なくびしょびしょになっていた。「くそ。やばいやばい」僕は雨が目に入り、雨を拭う。それと同時に涙が滲んできた。「くそ。大丈夫。大丈夫」僕は涙を堪えて歩く。もうかれこれ2時間は経っている気がする。日は落ち始めていた。僕は山道を下った先に開けたところに出た。「あっ!小屋がある。いや、あれはペンションかな」2年前にキャンプに連れて行ってもらった時に、確かあんな感じの木の家に泊まったぞ。あの家に誰かいるかも。僕は小屋に翔けていく。そして、扉を叩いて。「すいません。道に迷ったんです。あと雨にぬれていて、あと、お腹も空いていて。どうか入れてください」助かったという安堵の気持ちが僕の心の枷を外し厚かましいほどのお願いを口に出しながら扉を叩いていた。返事がなかった。僕は窓から中の様子を覗いてみる。電気はついてなく、人がいる様子もない。「だれもいないんですか?・・・空き屋かな」僕はそう思って扉を引いてみた。「開いた!あのー。誰かいませんか?入ってもいいですか?」僕は大声で家の中に向かって叫ぶが返事がない。どうしようか。入ってみよう。僕は恐る恐る家に入っていく。「すいませんー。いませんか。返事がないので入っちゃいましたよ」僕の声はなぜだか囁く程に小さくなっていった。これじゃあまるで泥棒じゃないか。でも、不法侵入には間違いないか。通報されたら捕まるのかな。そんな不安が過りながらも僕は家の中を見て回る。綺麗に掃除されている。だが、誰かが使っている様子はある。いまは留守といったところかな。「ふうー」僕はため息をついて椅子に腰かけた。「とりあえずここでゆっくりさせてもらおう。もうへとへとだし。それにしても寒いな。服も雨でびしょびしょだ」僕は目の前にある暖炉に目がいった。赤いレンガが周りに積まれている暖炉だ。もちろん、火はついていない。他に暖房器具がないところを見ると、あの暖炉が僕の体を暖めてくれる唯一の手段になる。「よし。着けてみよう。確かペンションの暖房はこうやって点けたよな」僕は暖炉の横に合った薪と紙を暖炉の中に入れて組み合わせていく。そして、マッチで紙に火を着けた。火は徐々に大きく燃え上がっていった。「おっ温かくなってきた」僕は、椅子に深く腰掛けて燃え上がる火をじっと見ていた。疲れていたのもあってか、僕はウトウトとしてきて、眠ってしまった。・・・。「おい」・・・。「おいっ!」「うわぁあ」僕は何者かに乱暴に肩を揺すぶられて起こされた。「あっすいません。雨宿りで家に勝手に入ってしまって、鍵が開いてたもんだからつい」僕はまだ頭が眠っている状態で懺悔の言葉を述べる。「ほおう。雨宿りでつい不法侵入してしまったと。それが許されるなら雨の日の空き巣は無敵だな」「えっ・・・女の子」僕の正面に立っていたのはおかっぱ頭の女の子だった。「女の子だがなにか?」おかっぱの女の子は腕組みをしてムスッとしている。「いや、あのごめん。勝手に家に入って、いますぐ出ていくよ」僕は椅子から立ち上がり頭を下げる。「なに初対面でため口になってんのよ。敬語つかいなさいよ」おかっぱの頭の女の子は上から目線で僕にそう言う。「いや、そっちこそタメ口じゃないか。そしてさっきからすごく偉そうだしモラルがないんだよ」「空き巣の分際でモラルを唱えないでよね」「だから、空き巣じゃなって。こんな小学生が空き巣をするわけないだろ」「何言ってるの。最近の犯罪は低年齢化が進んでいるそうよ。小学生の空き巣がいても不思議じゃないわ。しまいには三歳児が俺俺詐欺をするような時代になるわ」おかっぱの女の子は手を頭に当てて頭を振るとわざとらしくため息をついた。「三歳児が俺俺詐欺って。『もしもし、俺俺なんですけどお三輪車で事故ってしまってお金を振り込んでほしいですー』ってな具合になるのかよ」「なんなのそう某アニメの喋り方みたいな三歳児は。そんな奴、今時いるわけないでしょ」おかっぱ頭の女の子に軽くあしらわれた。「それであんた、名前はなんていうの?」おかっぱ頭の女の子は聞いてくる。「陽一だけど」「名字は?」「名字まで?まぁいいけど、伊東」「それで歳は?」「10歳」「住所は?」「住所?えっと公民館の近くの方だよ」なんで僕は住所とか聞かれているんだ。ん?あれ、この子ペンとメモ帳をいつのまにか取り出している。そして、なにやら書いているが、僕が言った事をメモっているのか?「ふむふむ。それで、いつから空き巣をのやっているの?」「事情聴取だったの!?今の一連の流れ!自己紹介にしては一方通行だと思った。それに空き巣じゃないって。勘弁してよ」「冗談よ。からかっただけ人と喋るのが久しぶりだったから」おかっぱ頭の女の子はそう言うとにこっと笑った。人と喋るのが久しぶり?学校とか休んでいるのかな。「私の名前は、藍子。吉田藍子。ネットに晒したり、悪用しないでよね」「しないよ。いいかげんにその犯罪者を見るような目で見るのをやめてよ」ぐう~~。「あんた、なんで人の家でオナラしてるのよ?」「オナラじゃないよ!ぐう~。がどう聞いたらオナラに聞こえるの?もし、ぐう~ってオナラがなったら内臓がどっかいかれているから、病院に行った方がいいよ。お腹だよ。お腹が鳴ったんだよ。一文字違うよ」「・・・長い」藍子は僕を鋭く睨んでその一言でズバッと切った。そして、すたすたとどこかへ消えて行った。なんだ!?そんなに僕のツッコミが長い事に腹が立ったのか?それとも僕のお腹が鳴った事で腹の虫がおさまらないのか?僕が、腹の事ばかり考えていると藍子は戻ってきた。「ほれ」藍子は僕に何かの塊を放り投げてくる。僕は放物線を描いて飛んできたそれを受け止める。「これは?」「ハムだ」「それは見て分かるんだけど」藍子が投げてきたのはお中元に送ればきっと喜ばれる紐で縛られたハムだった。「食え。お腹が空いているんだろ?」「いやいや。そのまま渡されても。その気持ちはありがたく受け取れるけど、このハムは一工夫してから受け取りたいよ」「うるさいやつね。このハムは生でも食べられるヤツよ。男ならかぶりつきなさいよ。噛みちぎりなさいよ」「こんな縛られたハムをかみ切るほど、僕は野性味あふれてないよ!」空き巣の次は原始人かよ。僕をなんだと思っているんだ。「めんどくさい坊やだこと。ほらお姉さまが切ってきてあげるからよこしなさいよ」僕は藍子に向かってハムを投げ返した。藍子は投げれられたハムを両手でうまくチャッチして厨房の方に戻って行った。「だったら最初から切ってもってこればいいのに。非効率的だよな。なんか変わってるよな。あんな女子、転校した学校にはいなかったぞ。歳は多分、僕と同い年ぐらいだよな。同い年のくせに生意気だな」「ちょっとさっきから心の声が丸聞こえなんだけど」厨房の方から藍子が叫ぶ。しまった。聞こえていたのか。地獄耳だなあいつは。「そしいま、地獄耳だなとか思ったでしょ」「げげなんでわかったんだよ!」ぼくは驚きの声をあげる。こいつはもしかしてエスパーなのか!だったらやばい。僕が何を考えているかが全てつつぬけじゃないか。どうする。どうしよう。そうだ。真っ白なものを考えるんだ。ミルク。雲。豆腐。あとはなんだ。他は・・・。僕は暖炉の火を見つめていた。まだゆらゆらと炎は燃え続けていたが、先ほどより小さくなっていた。「なに黙り込んでいるのよ。もしかして私の事エスパーだとか思った?そんな訳ないじゃない。あんたみたいな子供が考えている事はお見通しってだけよ」藍子はそう言うと先ほどの縛られたハムを細かく切って持ってきてくれた。「はぁー。お前にはかないそうにないよ」僕はため息をついて、お手上げのポーズをする。「わかればよろしい。ほら食べなさいよ」藍子は皿にのっているハムを一枚口に運んで食べた。「あっ、ああ。えっとありがとう」「あら、礼儀はなっているのね。不法侵入するくせに」藍子はまたもからかってきた。僕と藍子はハムを食べながら、くだらなくて、非生産的な会話を繰り広げた。喋っている間の時間の流れがゆっくりと流れているように感じて、それがとても心地よくて、まるで無敵アイテムをゲットしたゲームキャラのように昂揚していた。初めてかもしれない。こんなに人と沢山、喋ったのは。「あっ、もう雨が止んでいるわよ」藍子は窓の外に目を向けて言う。「本当だ」先ほどまで降っていた雨は止んでいて、空には晴れあがっていた。これなら帰る時は濡れないで済む。この家に来て結構、時間が経っているな。「雨が止んだんだし、そろそろ帰る?」藍子はそっけなく言ってくる。「そうだな。そろそろ帰らないとお母さんに怒られるし」「そうか。わかった。帰りはここを出て右の道をまっすぐ行ったら出れるよ」「わかった。あのさ、またここに来てもいい?」そう言ってなんだか恥ずかしくなった僕は下を向いた。「ふーん。私の事好きになっちゃったんだ」藍子はからかうように言ってきた。「なってなーよ!ただ・・・楽しかっただけだし。勘違いするなよな!」「なにそのツンデレ。男のツンデレは需要がないの知ってた?」「うるさいな。自分はツンツンで可愛げもないくせに」「ツンツンはマニアにはたまらない一品なんだからね」藍子はドヤ顔で言った。「明日、来てもいいけど、恐らく私は留守だわ。その時はお得意の不法侵入して暖炉に火を点けて待っといて」「誰が、お得意の不法侵入だよ!わかった。じゃあ、明日な」僕は照れ臭そうに言ってドアを開ける。「じゃあね」藍子がそう言ったが僕は後ろが振り向けずにそのまま外に飛び出した。藍子の言った通り、右の道をまっすぐ15分ほど進むと山の入り口に出た。もう、夕日が沈みかけている。僕は後ろを振り返る。「楽しかったな。また明日」僕は前に向き直り家へと走り出した。次の日。僕は朝早くに起きて藍子がいるあのペンションまで行った。今度は迷う事はなかった。僕は、扉を叩く。「おーい。藍子来たよ」返事はない。僕は扉をゆっくり引いてみた。鍵はかかっていない。「おーい。藍子いる?」やはり、返事がない。「入るぞー。返事がないから入るぞ。空き巣だって言うなよ」僕はそう言いながら、また不法侵入する。あたりを見渡すが人の気配はない。「いないか。藍子に言われた通りに、暖炉に火を点けて待つとするか」僕は昨日で手順を完璧に熟知したので、手際よく暖炉に火が付けられた。火が大きく燃え始める。僕は火をじっと見つめる。ゆらゆらと燃え上がる火。心が落ち着いてくる。「よお、不法侵入者」後ろから声が聞こえて振り返る。そこにいたのは、藍子だった。「不法侵入って、藍子が留守だったら家に上がって暖炉の火を点けとけって言ったんだろう」僕はにやけ顔で言った。また藍子に会えたのが正直嬉しかったのだ。僕はほぼ毎日、会いに行った。新しい学校では友達があまりできなかったが、僕は全然気にしなかった。お母さんも、僕が毎日遊びに出かけるので、いらぬ心配もかけてこなかった。僕は藍子と遊んでいる時が楽しくて、他にはいらなかった。藍子は僕が家に行ったときは決まって留守だった。だが、暖炉に火を点けたらどこからともなく現れる。なんどもそんな事が続くので藍子は、普通の人ではないなと思った。僕達とは違うと思った。ある日、藍子にたずねてみた。「なんで暖炉に火を点けたら、出てくるんだよ」聞いちゃいけないタブーように思っていたが、話の流れで僕は思わず聞いてしまっていた。これを聞いたらもしかすると藍子と会えなくなると思った要因の一つでもあった。藍子はさっきとは様子が変わって下を向いた。「私達家族ね。ずっと前に、この家で斬殺されたの。それでその犯人が死体の処理に困って私達を刻んで暖炉に投げ入れて燃やした」「・・・えっ。本当に・・・?」僕は背筋がゾクゾクっとなった。「嘘だよ。びっくりした?」藍子は僕のひきつった顔を見て大声で笑った。「なんだよ。勘弁してくれよ」僕は心の底から安堵した。藍子がそんな目に合ってなくてよかったて。「本当のところは私にも分からないのよ。陽一達と同じ生き物ではないわね。そもそも生きてるかどうかもわからないけど。私には記憶がないからね。自分がなんなのか分からない。ただ、陽一が暖炉に火を点けたから、ここにいるってことだけははっきり分かるの。」「なんだよそれ。幽霊とかでもないのかよ。宇宙人?」「いや、なんか宇宙人はイヤだ。最終的にキモイ生き物にトランスフォームして地球を滅ぼそうとしそじゃない?」藍子はB級映画じみた結末を陽気に語る。「そうだね・・・。暖炉の精。ってことにしとこう」「えっ?自分で言ってて恥ずかしくない?」「うるさいわね。メルヘンちっくな事を否定したら、女の子に嫌われるわよ」藍子は笑みを浮かべながらそっぽを向いて腕組みをした。そして三カ月経った頃。お父さんの仕事の都合で引っ越しする事になったと言われた。僕ははじめて親と喧嘩して家を飛び出した。「家出って、あんたね。今時そんな青春は時代錯誤よ」僕が家出して向かった先は藍子がいるあのペンションだった。「だってさ、何回も引っ越して転校ばかりするんだぜ。友達の離れ離れになるんだぜ。嫌だろう。はぁー」僕は大きなため息をつく。「まあね。でも仕方ないじゃない。あんたは自分一人で生きていけるほど自立してないんだし。親の養護を受けている間は我慢しなさいよ。あんたが一人前に自立したら好きにすればいいのよ」「でも、俺が一人前に自立できるかは子供の時が大事なんだぞ。グレて不良になって犯罪を犯すようになったらどうるんだよ」そんな訳ないと思いながらも僕は駄々をこねるように言った。「あんたは大丈夫でしょ。でももし、不良になったらリーゼントして私に見せてよ。指さして大笑いしてやるわ」「なんだよ、それ。俺、頭に太巻きが乗っているような髪型は嫌だよ。それに今時の不良はリーゼントなんかしてないよ」「あっそ。とりあえず夜までに帰りなさいよ。親御さんが心配するでしょ」「なんだよ、そっけないな。もう俺と会えなくなるんだぞ」僕は大声で喚いた。「また会いたくなった、暖炉に火を灯しなさいよ。そしたら会えるから」「いや、暖炉なんか滅多にないよ」僕は首を横に振る。「暖炉がないなら作ればいいじゃない。あんたが立派な大人になって暖炉の一個や二個、簡単に作りなさいよ」藍子はそう言うと僕の背中をバシッと叩く。「いや、暖炉は一個で十分だよ」その日、僕は夜には家に帰った。お母さんは泣いていた。お父さんには怒られなかった。ただ二人からごめんねと謝られた。そして、一週間後に僕は遠くの街に引っ越した。あの後、僕は藍子がいるペンションまで行って暖炉に火を灯したが、藍子は一度も現れなかった。僕はその日、決心した。20年後。「ねえ、パパ。新しい家はいつできるの?」「もうそろそろだよ。藍子があと10回、眠ったら出来るぞ」「そうなの?じゃあ、今日で10回眠ろう」「あっ、いや、夜眠る10回だよ。朝眠ってもダメなんだぞ」「なんだ、つまんない。早くできないかな。楽しみだ~」「楽しみにしとけ、特に、暖炉を見たらびっくりするぞ!」「暖炉?暖炉ってなに?」「えっとなー。暖炉ってのは、こう、なんだ、そう。温かくて、明るいものさ」↓ブログランキング参加しています。 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社会人俺は社会の落ちこぼれである。経歴はざっとこんなもんだ。高校卒業後に、二浪して大学に進学。そして、二留して大学を中退。就職せずにアルバイトを転々として5年。趣味のパチンコと競馬にはまり200万の借金をつくる。親にお金を立て替えてもらうが、「もう二度とうちの家族に関わるな」と父に言われる。そして、現在。歳は29になった。この家賃二万の汚いボロアパートに住んでもう9年も経つ。時が経つのはなぜこんなにも早いのか。振り返ってみても俺の人生は何も達成した事がない人生だった気がする。ただただ怠惰な人生を営んできた。先月も、警備員の仕事をクビになり、ただいま無職中。そろそろ仕事を探さなくてはいけない。「怠いな。特に面接が。嫌だな。はぁあー」俺は深いため息を漏らす。「明日、探そう」俺は考えるのが嫌になり、もう一度布団の中にもぐりこんだ。ドンドンドンドン。家の扉がけたたましく叩かれて俺は飛び起きた。「はっ!うっ。・・・大家さんだな」俺は気取られないように息を殺して全ての動きを止めた。そして、扉の向こうに意識を向けてきき耳を立てる。「吉村さん吉村さん。あんた今月の家賃と先月の家賃まだだよ。いいかげんにしないと出て行ってもらうよ」大家さんはそう言い残すと、去っていった。「ふー。行ったか」俺は安堵の息を漏らした。家賃どうにかしないとな。大家さんが俺の家に来て家賃を催促したのもこれで5回目だ。そろそろ家賃を払わないと本当に追い出されかねない。「あーあ。探すかー」俺はネットで求人情報を調べる。いろいろあるよな。職種も沢山ある。でも、資格も何一つない俺が出来るような仕事はほんの少しなんだよね。ここに載っているほとんどが、俺の中の選択肢から省かれる。飲食店はもう歳だし、無理だな。ノリについていけない。夜の仕事も嫌だな。なんか上下関係とか厳しそうだし。工場はベルトコンベアーから流れてくるものを、ただひたすら加工したりする作業だろ。気が狂いそうだ。なんか全部パっとしないな。「選択肢が多いように見えて、選べる道は極少ないってのが世の中だよね」俺はそんな事を愚痴りながら、画面のページをめくっていく。「おっ!これは?」俺はある求人に目が止まった。『年齢不問 経験不問 自給は1000円+a 簡単なお仕事です まずはお電話ください』これはよさげじゃないか。ただなんの仕事なんだ?簡単はお仕事としか書かれていない。あと自給の+aというのも気になる。歩合制のようなシステムでもあるのか。わからん。電話するしかないか。雑誌に記載されている番号を携帯電話で押した。『はい、もしもし』野太い男の声だ。「あ、もしもし求人雑誌を見て電話をかけたんですけど」『あーはいはい。じゃあ、面接しますから、雑誌に載っている場所まで履歴書持ってき来てくださいね』「ちょっと、いろいろ聞きたいことがあるんですけど」『聞きたいことなら面接できいてくださいね』野太い声の主はそう言うと、電話切った。「なんだよ。あれ!対応悪いだろ。それに俺の名前とかも聞いてないし、面接の予約大丈夫なのか。ああー。もうそんな対応が悪いところは行きません。断じていきません」俺は他の求人情報を調べ始めた。だが、あまりいい案件は見つからず。めぼしいやつに電話をかけたが、今はもう募集を終了していると言われた。「なんだよ。急いで探してるっていうのに、どこもダメじゃねーかよ。くそー。もうあそこしかねえか」さっき電話した、野太い男が告げる面接場所に行くしかないよな。「はあー。履歴書の用紙は・・・ないな。買いにいかなくては」俺はコンビニへと走った。「名前は田中明、年齢は29歳か。結構、歳いっているね」俺が差し出した履歴書は片手に持ち、もう片方の手は肘をついて顎に手を当ててるこの太った男。「はぁー」俺は気だるそうに返事を返す。こいつの態度むかつくな。俺の事、社会のクズめって目で見てやがるぜ。絶対そうだ。「この年で就職せず、フリーターってどうなの?なんで今までフリーターだったの?」「えっと、そうですね。タイミングがなかったていうか。大学辞めてバイトしたら、そこからずるずるフリーター生活を送っているって感じですね」こいつ、ずけずけと不躾な質問をぶつけてくるじゃねーか。俺を見下してるな、絶対。「ふーん。それでいろんなバイトを転々としているよね?短いのは三か月とかで辞めているし。これはなぜ?」「これは、職場が合わなかったというか。人が合わなかったというか」「職場とか人のせいにしているけど、それは君が合わせられなかっただけじゃないの?社会って郷に入れば郷にした従えが重視されるよね?わかっている?」「ええー。はぁ。まあ、わかってます」くそー。うるせーよ。合わせられない人もいるだろう。バイトなんだから、そういう時は辞めて当然だろ。ああー。むかつく。帰りてー。どうせ落ちるだろ。またほかのところ探さないとな。「・・・はい。あなたの事がだいたい分かりました。採用です」「あっ、そうですか。それではこれで・・・ん!採用?」採用って言ったのか?いや斉藤って言ったのかも。裏にいる斉藤さんを呼んだのかもしれない。「はい。採用です。それでは明日、午前9時にここに来てくださいね。特に必要なものはないです。私服でOKです」採用だ!聞き間違いじゃなかった。なんだよ。全然、好印象じゃなかったはずなのに、俺採用なのかよ。あっでも。「ありがとうございます。でも、俺まだ詳しい業務とか給料の話し聞いてないんですけど」俺は、まだこの仕事が何かも分かっていない。そんなところの採用を手放しで喜べない。「ああ、そうだったね。業務は、簡単だよ。渡された書類をただPCで入力するだけ。給料は自給1000円でそこに出来高しだいで上乗せされていく方式」「そうなんですね。わかりました。よろしくお願いします」なんだ簡単な仕事じゃないか。よかった。それに給料も悪くなそうだし。歩合で+されていくのも悪くないな。よっしゃー。明日から気合入れていくぞ。そう意気込んだ俺だったが、いまの俺にはこの職場がブラック企業だとは知る由はなかったのだ。あの時に、採用を断っていればと何度も思う事になるのだった。「おい。仕事が遅いぞ。まだできてないの?」「これミスあるぞ。修正しとけよ」「この日本語おかしいぞ。小学生から出直して来いよ」「まだかよ。これ仕上げてからあがれよ」出勤初日、俺はハゲるんじゃないかと思うほどのキツイ指導を受けた。なんだよ。ここ辞めよう。最悪だ。特にあの、面接をした、上川と言うヤツが腹たつ。あいつはここの社長でこの世は俺を中心に回っているといった考え方の奴だ。俺を見下しやがって。クソが。飛ぼう。明日はいかねえーからな。コンビニに寄ってでビールとおつまみを買って俺は家に帰った。「おい。何度言えば分かるだよ。能無しが」「ここは違うっていっているだろうバカが」「おい、このクズ。仕事中にボケッとしてんじゃねーよ」ああーくそが。結局、俺は飛ばなかった。家賃の支払いもヤバイし、とりあえず一か月だけ働いて給料をもらってから辞めようと思考をチェンジした。絶対に一か月、耐えて見せるからな。そして、一か月が過ぎた。俺はいまだにあの職場で働いている。何故なら、ギャンブルをして借金を作ってしまったからだ。ギャンブルで借金を作ったのも、この職場のストレスのせいだ。くそが。そして、いまだに「このクズが早くしろボケが」「チンタラしてんじゃねえよ。殺すぞ」「またミスかよ。はい時給マイナス100円」上川から悪態をつかれている。以前にも増して。そしてあの最初に言っていた時給1000円+aってのはミスをしたらマイナスを+するんだよと言われたのは愕然とした。ホントに上川はクソだ。はぁー。嫌になるよ人生。そして1年が過ぎた。上川は俺を目の敵にしていびるようになっていった。「グエッヘヘ。今日は、サイコロを10個ふって出た目の数だけお前の給料を減らそう」「グエッヘヘ。今日はサイコロを2個ふってお前の公休を減らそう」「グエッヘヘ。今日はサイコロを5個ふってお前の残業時間を決めてやる」上川はもはや常軌を逸していてまるでゲームかアニメのようないびり方をしてくるのだ。もうだめだ。辞めよう。ここにいては死んでしまう。今度こそ本当に辞めようと決心した、翌週だった。上川が逮捕された。恐喝罪、労働法違反、その類ではなかった。覚せい剤所持で捕まったそうだ。確かに最近は言動がおかしかった。社長が逮捕されこの会社は倒産。俺はまた無職に逆戻りだ。新しい仕事を探さないといけないな。俺は翌日、コンビニで求人雑誌を手にいれた。さっそく家に帰ると目を通した。「どれにしよかな。もう30だしな。これがいいかな。いや、これも良さげだ。ちょっと待って。ここも悪くなさそうだ」俺は求人雑誌のページをペラペラとめくっていった。↓ブログランキング参加しています。 押して頂けると嬉しいです!!にほんブログ村
今年も祭りの季節がやってきたぞ。金魚をすくいたいだろ?お面を被りたいだろ?かき氷で頭がキーンってなりたいだろ?そして私が誰か気になるだろ?よし。ならまずは自己紹介をしよう。私の名前は平松武。年齢は35歳。好きなものは祭りだ。大好きだ。祭りがないと生きていけない。祭りがない人生は生きても意味がない。祭りのような人生を送りたい。それが私だ。祭り=私だ。祭りの何が好きか。花火?浴衣?いや違う。露店だ。露店があってこその祭りだ。露店がない祭りなど祭りではない。露店があってこその祭りなのだ。祭り=露店だ。つまり、露店=私でも間違いではない。とくに私の地元の祭りはすごいぞ。露店の数が半端なく多いのだ。一夜ではとても全部、回りきれないほどだ。そこで、いつくかおすすめの露店を私が紹介しよう。ぜひともこの露店は行ってみてほしい。まずは、金魚すくい。金魚すくいの露店は数あれど、じんさんがやっている金魚すくいの店ほど長い間やっている所はないはずだ。じんさんが出している金魚すくいの店は50年の歴史があるのだ。知らないかもしれないが、群雄割拠する金魚すくいの露店で50年生き残るというのはすごい事なのだ。私がはじめてじんさんの店で金魚すくいをしたのは小学生の時だ。スイスイと泳ぐ沢山の金魚の群れ。私はその沢山の金魚の中で一匹の金魚に目が止まった。その金魚は真っ赤なボディーに白い模様が入っていた。その模様はジグソーパズルのピースの形をしていてても色鮮やかで綺麗だった。私はその金魚の事を勝手にピースと名付けた。すぐに父にあの金魚がほしい、とねだった。私と父は網を手にしてピースと対峙した。父と一緒になってピースを網ですくおうとするが、何度も失敗した。ピースは網に乗った瞬間がむしゃらの生存本能で尾びれをばたつかせて網を破るのだ。こんなにも、往生際が悪い金魚がおったであろうか。結局、私達の網が20枚ほど敗れたところで、私と父は諦めた。あの時の悔し涙は今でも忘れない。来年の祭りの日、僕はまたじんさんの金魚すくいの店に行った。もしかしたら、まだピースがいるかもしれない。まさかね。1年経っているのだ。誰かにすくわれたか、寿命で死んでいるはずだ。そう思ったが・・・ピースはいた。間違いではない。あの白いジグソーパズルのような模様が入っている。こいつはピースに間違いない。僕は感動の再会で嬉しくなり、じんさんから網を一つもらって金魚すくいに挑戦した。だが、例年の如く失敗した。ピースの生存本能には脱帽させられた。そして、次の年もピースはいた。もちろん、僕はまた金魚すくいにチャレンジするが失敗した。また次の年も、その次の年も。ピースはずっと、誰にも捕まらず、15年間生き続けていた。ピースの生存本能恐るべし。今年もおそらくピースは水槽で優雅に泳いでいる事だろう。今年こそはピースを捕まえるつもりだ。次の露店を紹介しよう。なに?お腹が減ってきただって?それなら、かずきさんのたこやき屋だ。このたこやきを食べないと祭りがはじまらないぞ。かずきさんのたこ焼き屋は一目ですぐわかるはずだ。ギャラクシーたこ焼きと派手な極採色で書かれた看板を掲げている店がそれだ。なんともシャレた名前なのである。ここのたこ焼きはいままで食べたたこ焼きを凌駕する事間違いなし。見た目はごく普通のたこ焼きなのだが、中に入っているたこがちょっと違う。噛んだ瞬間、汁が小龍包のように口いっぱいに広がり、たこはがとろけるほどにやわらかい。気づいたら、6個全て平らげている事だろう。あっ、そうそう。こういう噂が流れた事があったな。まぁ、話し半分で聞いてくれ。ライバル店のたこ焼き屋が、かずきさんが使っている具材のタコが気になったらしい。売れる理由はタコにあると睨んだんだな。だが、かずきさんはあのタコのは事は企業秘密だと言って教えてくれないのだ。それでライバル店のヤツは、かずきさんがいない隙に露店に入り込んでタコが入っているクーラーボックスを開けたそうだ。すると中には緑色をしたタコがいて、足は普通のそれよりあきらかに多かったそうだ。気持ち悪くなり、クーラーボックスを閉めようとしたらその緑のタコが『タ・ス・ケ・テ・ク・レ・ワ・レ・ワ・レ・ハ・・・』そう喋って息絶えたそうだ。そんなのは作り話に決まっている。ライバル店がかずきさんを陥れるために流したデマだといってみんな信じなかった。まったく困ったものだ。ただの悪い噂だから安心して食べてくれ。今まで食べたたこ焼きより絶対に美味しいはずだ。あっそうだ。言い忘れたが何故かこのたこ焼きを食べた後は、必ず舌が軽くピリピリ痺れて緑色のう○こをしてしまうが、一時的なものなので気にしなくてもいい。次の露店だ。祭りの時はやはりお面を被りたくなるものだよな。お面を買うなら、たろうさんのお面屋さんだ。不思議な雰囲気は醸し出しているその店は色とりどりのキャラクターのお面が並んでいる。その中で一際、異彩を放っているお面があるはずだ。そのお面は、眼も口も鼻もない、のっぺらぼうのお面だ。それは一つだけ置いてあって、たろうさんに、これいくらときくと、無料だから持って行っていいよ、と答えてくれる。私は以前に気になってなんでこのお面は無料なんですか?と聞くと、たろうさんはお茶を濁す返答しかしなかったが、私が眉間に皺が寄るぐらいしつこく聞いていたら答えてくれた。「あのお面は早く手放したいんだよ。あれはダメだ。ああ・・・ダメだ。だから無料であげているんだよ。でもな、必ず俺のところに戻ってきちまうんだがね」たろうさんのお面屋さんには毎年一つだけのっぺらぼうのお面が置いてある。一度そのお面を被ってみてはいかがだろうか?そして、最後に、熱い夏にはぴったりの露店を紹介しておく。そう、かき氷だ。かき氷を買うなら、ひろさんがやっているかき氷屋さんだ。なんでもエベレストからとってきた氷で作っているらしい。見た瞬間に分かるが、氷がふわふわだで、交じりっ気のない純度が高い氷だと分かる。そして、口に入れたらまるで雲を食べいるような天にも昇る食感なのだ。そういえば去年、私はひろさんのかき氷を急いで食べてしまって頭がキーンとなってしまった。猛烈な頭痛に頭を抱え、目を瞑ってうずくまってしまった私。すると、突然冷気が吹いてきて躰全体が冷え始めた。寒い。なんだこの寒さは。そう思って目を開けると一面に雪景色が広がっていた。どこだここは?なんで私はこんな所にいるんだ?雪山?幻覚か?だがこの寒さは本物だ。私は突如、雪山に立っていたのだ。その間もずっと頭がキーンと痛かったのを覚えている。どうしたらいいだ。こんな浴衣一枚では寒すぎる。ん?あれは?私は遥か前方にあるそびえたつ山を見た。「あれは・・・エベレスト」さっきまでのキーンとした頭痛がやっと治まってくれた。それと同時に私は露店がひしめき合う、祭囃子が響く元いた場所に戻っていた。あれはなんだったのだろう。夢だったのかとおもった私。ん?なんだが歩きづらい事に気づいた私は下駄の方を見た。下駄には夏だというのに沢山の雪が詰まっていた。真夏の暑い夜に涼みたいのなら、ひろさんのかき氷を食べるといい。私が紹介したのはほんの一部の露店だ。まだまだおすすめの露店は沢山あるがそれはぜひとも足を運んで自分で体験してみてくれ。露店の数だけ思い出がある。さあ、祭囃子が聞こえてきたぞ。↓ブログランキング参加しています。 押して頂けると嬉しいです!!にほんブログ村
物々交換僕には双子の兄がいる。兄の名前は雄太。僕の名前は健太。雄太はガサツで粗暴で独善的な性格。対して僕は物静かで大人しく、あまり自分の意見を口に出せないタイプ。もちろん、対照的な性格なのでうまくいくはずもない。だが、そう思っているのはおそらく僕だけで、雄太はそんな事は一切気にしていないと思う。一方的に僕が雄太を嫌っているだけだ。何故なら雄太は、僕が持っているモノを交換してくれと言い、半ば無理やりに奪っていくのだ。僕が食べていたチョコレートと雄太が食べていたせんべいを交換され。僕が持っていたロケット鉛筆と雄太の歯型がついた小さくなった鉛筆を交換され。僕が持っていた匂い付き消しゴムと雄太が持っていた全ての角がこすれてまるくなったなんの変哲もない消しゴムを交換させられた。雄太は僕が持っているモノを隣の芝生は青いといった目線で見ているのだ。同じ双子だからそれが顕著に感じられたのかもしれないが。僕が8歳の誕生日の時の事だ。母が真っ赤なラジコンカーを買ってくれた。僕は嬉しくて、そのラジコンカーを公園で何度も何度も走らせて喜んでいた。「お前のラジコンカーいいなー」ある日、雄太が公園でラジコンカーを走らせている僕に向かって言ってきた。「そうでしょ」僕はニコニコ笑いながら、ラジコンカーを走らせる。「俺のこの変身ベルトと交換しようぜ」雄太は誕生日に特撮ヒーローの変身ベルトを買ってもらっていた。だが、それは去年の誕生日に買ってもらったやつなので、いたるところが汚れきっている。「ええ、嫌だよ。僕はラジコンカーの方がいい」まだ買ってもらって3日ほどしかたっていないラジコンカーと、いたるとろが汚れていて臭そうな変身ベルトを交換する気などまったく起きなかった。「なんだと?お兄ちゃんのいい事がきけないのか。いいからよこせ」雄太はたった5分早く生まれた事だけの事をさも大義名分が自分にあるように主張して、僕からラジコンを奪った。「ちょっとやめてよ」僕は涙目になりながら雄太にすがりついた。「返して、返してよ」雄太の服を掴み、縦に横に引っ張る。「離せよ。ほら、代わりに変身ベルトやるからどけよ!」雄太は僕を突き飛ばして、変身ベルトを僕にポンと放り投げた。僕は地面に尻もちをついて、痛さと悔しさで泣いた。この時から、雄太は傍若無人ぶりを発揮していたのだ。そして、あとで知った事だが、その変身ベルトは壊れていたのだ。雄太は壊れていらなくなったから僕と、無理やり交換したのだ。今思い出しても腹が立つ。大きくなっていくと僕らはまともに口もきかなくなっていく。中学生になった雄太は夜遅くまで遊ぶことが増えて高校になると不良になっていた。横暴さもさらに磨かれていって、家の中では僕は悪ふざけで殴る事はしょっちゅうだ。僕は中学でまじめに勉強して、そして高校は雄太とは違う進学校に入学した。進学校に行ったのは、ちょっとでも雄太と離れたかったからだ。そう。例の如く僕のモノをことごとく交換と言って盗っていくのも健在だ。僕が買った腕時計と雄太が持っていたUFOキャッチャーで取った安っぽい腕時計を交換させられ。僕が買った限定物のスニーカーを雄太が履きつぶした靴と交換され。僕が買った最新の携帯ゲーム機を雄太が持っていた一世代前の携帯ゲーム機と交換された。雄太はまともに学校もいかなくなってからは、態度も横柄になっていて、親も手がつけられない状態になっていた。高3の夏。なんと僕に初めての彼女ができた。名前は、由梨。活発で常にみんなの注目を集めていて、明るく元気な女の子だった。由梨は高校1年の時にたまたま僕と席が隣だったのでよく喋った。そして、3年間同じクラスになって、ずっと仲がよかった。僕は意を決心して、好きになったと告白したのだ。由梨の答えはOKだった。今思い返しても、あの時の僕の勇気は称賛に値する。ただ僕は雄太に彼女が出来た事は口が裂けても言わなかった。あいつの事だから、絶対よからぬ事をするに決まっている。そして付き合って一か月後。「あっ!!」僕は由梨と手をつないでデートをしている時に雄太と出くわしてしまった。雄太も金髪の女の人と一緒に歩いていた。最悪だ。まさか雄太と出くわすなんて。僕の心臓が早鐘を打つ。雄太は由梨をチラッと見ると、僕に向かって「なんだお前、彼女いたのかよ」と言ってきた。「えっ・・・一応」僕は口ごもってしまう。バレた。くそ。最悪だ。この世に神はいないのか。「だれ?」由梨が僕にきいてくる。「あっ、あ兄貴だよ」赤の他人だよと言いたかった僕はしどろもどりになりながら兄貴と答える。由梨は僕に双子の兄がいる事は知っていたが、雄太とは面識はなかった。会いたいと言っていたが、全力で言い訳をして会せなかったからだ。「ああ、双子のお兄ちゃんね。どうも由梨ですよろしく」由梨は軽く会釈する。本当に礼儀のいい子だな由梨は。「どうもどうもこちらこそ。健太の双子の兄、雄太です。よろしく」雄太はニヤニヤしながら会釈する。なんだか気色悪いぞ。いつもの雄太のテンションじゃない。嫌な予感がする。「まさか、こんなところで会うなんて奇遇だよな。お互いデート中だしよ。あっ、こいつは俺の彼女ね。美香っていうんだ」雄太がそう言うと、美香はちょこんと頭を下げた。「なあ、ダブルデートしようぜ。お互い兄弟だし弟の彼女の事もいろいろ知りたいし」それは最悪の展開だ。絶対に嫌だ。こいつは間違いなく、僕の由梨をどうにかする気なんだ!「あっ、いいね。私達、ちょうど、どこ行こうか迷っていて相談してたんだ」そうだ。由梨はそういう性格だ。みんなで大勢楽しみたいといったタイプだ。好きになったせの性格も今はうっとおしいほど嫌いだぁぁあ。「おおー。由梨ちゃんはノリがいいね。行こうぜ、行こうぜ。なあ、健太いいよな?」雄太はそう言うと、僕の肩をがっしりと掴んできた。いたたった。なんて力で掴むんだよ。脅しじゃないかよ。「・・・いいよ。そうしよう」そう答えた僕が心底嫌いだった。そして、ダブルデートが始まった。僕達は近くの遊園地に行った。遊園地にいる間は雄太がずっと由梨に話しかけていた。自分の彼女もそっちのけで。二人で乗る乗り物にも、雄太は由梨の隣を陣取っていた。それを見せつけて、雄太は僕に向かってニヤッと笑うのだった。「楽しかったな。由梨ちゃん面白いね。俺達気が合うと思うわ」「はは。楽しかった。私も健太のお兄ちゃんがこんな面白い人だと思わなかった」遊園の帰り道、雄太と由梨は隣同士で楽しそうに喋っている。なんだよ。由梨も僕にもっと気を使えよな。僕は金髪の美香とその後ろで、隣同士で歩いている。特に会話をするわけでもなく。というより、ずっと携帯をいじっているし会話なんてできるわけがない。本当、最悪につまらないダブルデートだ。「この後、どうするか。・・・あっ!美香の家行こうぜ」雄太はそう提案する。「別にいいよ」美香は携帯を見たままそう答える。「こいつの家、親が夜遅くまで帰ってこないんだ」雄太は由梨を見て言う。「そうなんだ。行こう行こう!」由梨はまだ遊園地のテンションが抜けてないようで、右手を高く上げた。なんで由梨は僕をそっちのけでOKするんだよ。はぁー。「よし、決まり。なっ、健太」雄太はまたも僕の肩をがっしりと掴んでくる。いいたたあ。「わかった。・・・行くよ」そう答えるしかなかった。僕達は遊園地の最寄駅から電車にのって20分程のところにある美香の家についた。「たしかお菓子あったよな、美香。もってきてくれ」雄太はテーブルの前に座って、背中越しに美香に命令する。「あるよ」美香はそういうと、お菓子を持ってきた。美香は雄太にあんな扱い方をされているのに嫌な顔の一つもしない、まるでよくできたメイドだ。カップルというより主従関係といったほうがいいのではないのかと思う。「あと、お酒も頼むわ」お酒?雄太は今お酒と言ったのか!?「えっ!お酒のむの?」由梨がびっくりした様子で聞く。そりゃあそうだ。僕達は高校生だ。お酒なんて飲んではいけない。何故なら、法律でそう決まっているからだ。うん。だから飲んではいけない。「いいじゃねえか。飲もうぜ。飲んだら楽しいぞ。俺と美香はここで何回も楽しく飲んでるんだ。由梨ちゃんはお酒飲んだことねえのか?」あるはずないだろ。僕達は高校生だぞ。「んーん。ある。友達に誘われてだけどね」ええーー!ショックだ。まさか由梨がそんな不良だったとは。「おおー。なら、いいじゃねえか。飲もうぜ」雄太がそう言う。「はい」美香がちょうど缶酎ハイを持ってきた。レモンとリンゴとぶどうとカルピスの酎ハイだ。四本ある。一人一本。僕も飲めってことか。雄太がりんご酎ハイを手に取る。プシュと音をたててリンゴ酎ハイが開けられた。「はいはい飲もうぜ、ほら」雄太はカルピス酎ハイを由梨に手渡す。由梨はそれを手にとり・・・プシュッ。開けた!?「ほらよ」雄太は僕にブドウ酎ハイを放り投げる。僕は、慌ててそれを受け止める。ナイスチャッチだ。「美香はレモンな」美香はレモン酎ハイを受け取り、開ける。「かんぱーい」雄太はそう言って缶を持った手を前に突き出す。由梨と美香もそれに合わせて手を突き出す。「おい、早くしろよお前。空気読めよなマジで」乾杯をしない僕は雄太が睨んで罵ってくる。当然、僕はそれに抗う事は出来ずに手に持った酎ハイはみんなと突き合わせる。「はい。改めて乾杯」「乾杯~!」由梨は弾むような口調で乾杯とって酎ハイを飲む。なんだよ。飲めばいいのかよ。くそ。由梨にもなんかがっかりだよ。ああーもう。やけ酒だ。僕はお酒をぐいっと流し込む。僕はこの時、初めてお酒を口にした。ブドウの果汁の後に広がるエタノールの味が僕の眉間に皺を作る。「すごい!健太お酒飲めるんだね」由梨は僕の気も知らずに、はしゃいでいる。「これぐらい、たいしたことないよ」僕ははしゃぐ由梨に苛立ってぶっきらぼうに言って、二口目をぐいっと喉に入れる。喉の奥がカッと熱くなる。うわ。この後味の薬品臭さは苦手だ。これがおいしいと飲んでいる大人が理解できない。由梨をちらっと見る。由梨は眉間に皺を寄せることなく、ちびちびと飲んでいる。「おおー、由梨ちゃんいけるね。俺もどんどん飲むぞ」雄太はそう言って缶酎ハイを一気に飲み干した。それから、二時間後。時刻は夕方過ぎになっていた。僕は頭がくらくらして視界がぼやけていた。これは完全に酔っているぞ。といっても酎ハイ2杯しか飲めてないけど。最初のペースは嘘のように失速して、僕は、一時間ほどぼーと細目をしているだけだった。ぼやけた視界で由梨の方を見た。由梨が・・・雄太とキスをしている!「ちょっと・・なに・やってるんだよ」僕は雄太に向かって言う。人の彼女となにキスしているだ。「なんだよ。いいじゃねえか。由梨もまんざらでもないんだよ。なあ、由梨」「そうらよ。いま気持いいかんじなろ。ごめんね健太」由梨は顔を赤らめて呂律が回っていない様子だ。由梨は雄太に促されて、4杯も缶を開けていた。泥酔状態だ。「由梨、あっちの部屋でいいことしようぜ。こいつはほっといてな」雄太はそう言って由梨の手を強引に引っぱっていく。雄太も結構お酒を飲んでいたはずだが、足元はしっかりしている。「ちょっと・・・まってよ」僕はおぼつかない足で雄太の裾を掴んだ。「うるせーな。お前は、美香に相手してもらえ。彼女の交換だよ。美香こいつの相手頼むわ」雄太はそう言い残して由梨と奥の部屋へ消えて行った。「おい!まって・・・まってよ!」僕は虚しくそう叫ぶ。突然、僕のズボンが勝手に下がりだした。なにごとだ?と思ってズボンに目をやると何者かが僕のズボンを掴んでいた。美香の手だ。美香が僕のズボンを下ろしていっているのだ。「うわっ、ちょっと何してるの?」「雄太が相手しろって言ったから、相手してあげる」美香はそう言う。美香も顔が赤い。美香も先ほどからずいぶん飲んでいた。酔って正常な思考ができなくなっているのか!?「ちょっと待ってよ。君は雄太の彼女でしょ?」「えっ!そうだけど、雄太が彼女交換っていったから、今はあなたの彼女」美香はそう言って、僕のベルトを外してズボンを脱がす。「いや、ちょっと待ってよ」と言いながら僕は全然抵抗していなかった。これは悲しい男の性だ。だが、僕には由梨と言う彼女がいる。それに今、由梨は雄太に奥の部屋へ連れて行かれたのだ。早くいかねば。行かねば。そう思っていたが僕は流されて流されて。酔っていたし。もうでうにでもなれと思った。由梨もどうせ雄太にやられているんだろうし。あいつも浮気しているんだから、これは仕方がない事だ。僕は自分にそう言い聞かせた。僕はその日、大人の階段を上った。その日から、由梨は僕と別れて雄太の彼女になった。その数か月後。美香が妊娠したと雄太から告げられた。あの一夜で出来た子供らしく、お前が責任を取れと言われた。双方の両親と話し合った。そして、美香と話した結果。僕は責任を取って美香と結婚して子供を育てる事に決まった。何か大いなる流れに逆らえないといった感じだ。僕は高校を中退して工場で働きだした。仕事は辛く、給料もよくないが、僕はあくせく働いた。こんな事になるなんてあの時の僕は、知る由もなかったな。たった一回の性行為で妊娠するなんて、そして僕が美香と結婚するなんて、不思議な事もあるものだな、としみじみ思う。一方、雄太はというと、由梨とはあの後すぐに別れたらしい。ただ僕から由梨を奪いたかっただけの行動に見える。雄太は高校卒業後、大工を3か月ほどして、親方と喧嘩してホストになった。警察沙汰も何度かあったし消費者金融もとい闇金からもお金を借りていて、まともな大人にはなっていなかった。クズ街道まっしぐらだ。そして、大人になってからも僕の物を交換と言って無理やり取り替えられた。僕の最新のノートPCと雄大がもっている旧型のノートPCと交換され僕の家にあるデスクチェアと雄大が持っているパイプ椅子と交換され僕が買った新車と雄大が持っていた中古車を交換された。もう僕は限界だった。妻の美香にも迷惑をかけているし、子供の沙世にも示しがつかない。どうすればいいんだ。そう思っている矢先に、僕は倒れてしまった。心臓の病気だった。医者が言うには、心臓を移植しないと治らないそうだ。ドナーが見つかるにはかなりの時間がかかるそうだ。だが、もってあと1年の命らしい。僕の人生は一体なんだったのだろう。「どうしよう」僕はため息をつく。「ネットで調べたんだけど、闇で臓器売買とかしているらしいよ」妻の美香がたばこを片手に言ってくる。「いや、怖い事いうなよ。違法だろそれ?」「さあ、大丈夫なんじゃない」美香がそっけなく返す。「いや、違法だよ。闇で売買されているのはもれなく違法だよ」僕は冷や汗をかいた。犯罪なんかに手を染めるなんて考えられない。そもそもそんなところで売買された臓器なんて、信用できない。猿の臓器を掴まされるとかあるのではないか?僕はネガティブな思考を巡らせていると、美香が、「そんな事いっているけど、あなたが死んだら、子供はどうするの?どうやって育てるの?それに二人目も、今年の春には生まれるんだし」そう言って、大きくなったお腹をさすった。「・・・うう・」言葉が出ないとはこの事だ。「とりあえず、コンタクトとってみてよね」美香は叱るように厳しく僕に言いつけた。仕方なく僕は美香に言われた通りに、臓器売買の情報を集めてブローカーと呼ばれる人と会コンタクトを取った。「あんたが、タダシさん」僕が待ち合わせ場所の公園のベンチに着くと絵にかいたような怪しい男がサングラスを着けて座っていた。「あっはい、タダシです」タダシは僕がネットで名乗った偽名だ。「隣、座りな」僕は促されそのサングラスを着けた男の隣に座る。「確か、あんた心臓がほしいんだって?」サングラスの男は突然、脈略もなくきいてくる。誰か聞いているのではないかと冷や冷やしてあたりを見回すが、遠くで犬を連れて散歩させているおじいちゃんがいるだけだった。だれも僕らの会話などきいてはいない。そうと分かると僕は一息ついて、話し始めた。「はいそうです。僕、心臓の病気でして。移植しないと助からないそうなんです。それで心臓が必要でして。でもドナーを待つとなると10年以上はかかるみたいで・・・」僕は自分が今置かれている現状を説明した。「なるほど。でも心臓は高額だぞ。それに手術は日本では簡単にできないしな」サングラスの男はそう言う。やはり、ブローカーの仕事をしているから詳しい。「だいたいいくらぐらいかかります?」僕は恐る恐る聞いた。500万ぐらいか?500万なら、方々から集めたらなんとかできない額ではない。「3000万円だな。さらに、それを手術してくれる闇医者を紹介すると別料金がかかる」「3000万!!・・・無理です・・・」3000万なんて無理だ。僕の安月給ではとても払えない。やはり、こういう話しはブルジョワの間でなされる話しだったんだ。僕なんか貧乏人には早々に死ぬのがお似合いなんだな。ちくしょう。「そうか。まあ、金の都合がついたら、また連絡してくれ」そういうと、男は椅子から立ち上がった。「あっ」「ん、なんだ?」男は僕の声に動きを止める。「その闇医者を紹介してくれる料金と、手術代だけだといくらになりますか?」僕はサングラスの男にそう尋ねた。男は一瞬、戸惑っていた。そもそも心臓が買えないなら、そんな事を聞く必要がないではないか、と思ったのだろう。だが、サングラスの男は健太の考えを組み取ったようだ。「・・・そうだな。150万あれば十分だな」と教えてくれた。「150万・・・そうですか」150万かそれならいける。「あんたが、何を考えてるのか分からんが。心臓が手に入らんと手術は無理だ。だが、もし心臓がどこかで手に入ったのなら連絡してきな。相談に乗ってやるぜ。相談料は別料金だがな」サングラスの男は、カッカカカと笑って、冗談だよと付け足すと、僕に電話番号を渡して去って行った。「なんだよ、こんな所に呼び出して」急に、家に呼び出された雄太は不機嫌そうだった。「大事な用とか言ってたけど、くだらない事だったしょうちしないからな」悪態をつく雄太。こいつは、いつもそうだ。子供の時からずっとだ。僕の人生はこいつに散々奪われてきた人生だった。「ああ、大事な用なんだ。まぁ、かけてくれ」いままでの僕にしてきた仕打ち。理不尽だと思った事は何度もあった。「ちっ、わかったよ。お茶ぐらいだせよ。早くな」そうだ。だから、今度は僕が奪う番だ。「すまない。ちょっと待っててくれ」これで、今までの分はチャラだ。僕は、座っている雄太の首元を狙って注射器を刺した。「いて!お前、何してるんだ!っつ」雄太は首元を押さえて、膝をついた。「ぐっ、ぐっ、がは・・・」そして、すぐに動かなくなった。「終わったの?」美香が奥から顔を出してきた。この事は美香も了承済みだ。というより、美香が綿密に計画したのだ。「ああ、あっという間だったよ。これで雄太はしばらく意識はあるが動けないはずだ」「そう。早く電話しないと」美香は無表情で僕に言う。「そうだな」僕は、携帯を取り出して数日前に貰った番号に電話をかける。『もしもし』男が出た。声から、あのサングラスの男だと分かる。「・・・もしもし、以前、連絡したタダシです。心臓が手に入ったので電話しました」正確には、生きた心臓が付いた人間、だが。『そうか。今から言う住所まで心臓をもって来い』僕は、サングラスの男が言う住所まで車を飛ばした。動かなくなった雄太を乗せて。「手術は成功だ。特に拒絶反応もない」白衣を着た医者が言う。雄太の心臓は僕と相性が良かったようだ。同じ双子だからだろうか。「ありがとうございます。それでは、もろもろの300万円です」僕は現金をその医者に渡す。サングラスの男には、この医者に全額払ってくれればいいと言っていた。僕がこの医者に渡したお金の何割かがサングラスの男に渡る手筈なのだろう。「もう、退院していいよ。新しい心臓で第二の人生を満喫しな」医者をそう言って、さびれたビルから出ていく僕を見送ってくれた。家に帰ろう。僕は駐車場に行き、車に鍵を刺してエンジンをかけた。ふと、バックミラーを見ると、雄太が映っていた。「ええっ!なっ!!」これはなんだ?幻覚か?『おいおい、ひどいな。俺の心臓を奪っちゃうんだからよ。お前は最低なクズ野郎だな』「なんだと!お前に言われたくない。僕から、ずっとずっと奪ってきたお前には!」僕は長年の怒りをぶつけるように幻覚相手に怒鳴る。『違う。そうじゃないだろう。俺達のルールはよ。俺達は互いの物を交換してきただろう?俺はお前からもらう代わりに俺の物をあげた。美香だって俺があげたろう』「違う!子供ができたから、結婚したんだ。お前からもらったとかそんなんじゃない!」『くっくっく。そもそも、あの子供はお前の子供かな?たったの一回で妊娠するかな?あれは俺の子供かも知れんぞ。わっははは』バックミラーに映る雄太は笑う。大きく目を見開いて口を大きく開けて、笑う。くそ、こいつは幻覚だ。相手にするな僕は心でそう言い聞かせて落ち着かせる。『まぁ、そんな事はいい。話しは戻るが、お前は俺の心臓をもらったんだ。だが俺は何ももらっていない。フェアじゃないよな。フェアじゃ。いくら俺でも、お前からタダで何かをもらったのは一度もないのによ』「ふざけた論理だ。一方的に無理やり交換しただけだろ」僕は吐き捨てるように言う。『そうだな。だから、今回も無理やりだが、交換させてもらったよ』そう言った後、バックミラーに映っているのは雄太ではなく、僕に変わっていた。『なんだこれ?おい、なんだよ。どうなってんだ。僕の体が・・・考えが・・・意識が』「俺の心臓とお前の人生を交換だ」俺はアクセルを思いっきり踏みこんだ。さあ、家に帰るか。↓ブログランキング参加しています。 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僕はおじいちゃんの事が大好きです。 おじいちゃんは僕とよく遊んでくれます。 一緒にたこあげしたり、メンコをしたり、ゴム鉄砲で遊びました。 とても楽しいです。 それにおじいちゃんは物知りです。 昔の話しをいっぱい教えてくれるし、怪我の治し方や、風邪が早く治る方法、おもちゃの作り方を教えてくれます。 おじいちゃんは、僕が悪い事や失敗をしても、怒りません。 この前も、おじいちゃんが大切にしていた盆栽をボールでぶつけて割った時も、怒りませんでした。僕にとても優しいおじいちゃんなのでした。 でも、おじいちゃんは亡くなってしまいました。 僕は、おじいちゃんが亡くなって家でずっと泣いていました。 その日の夜。 僕は声を聞きました。 「悲しんでくれてありがとう。じいじはいつも側にいるよ。だから泣かないでおくれ。できればわしをたまに思い出しておくれ。そしたら、じいじは天国にいけるから」 僕は、もう泣かないと決めました。僕が泣いていたら、じいじが天国にいけない。 お母さんに、じいじを忘れないために、写真をとってほしいとお願いしました。 お母さんは、僕がそれで立ち直れるならいいよと言って、棺桶に入っているじいじを写真に撮ってくれました。 眠っているような顔のじいじの写真。 僕は、それをいつも肌身離さず持っていました。そしてあれから、17年が経ちました。 俺は仕事もせず、親のすねをかじって怠惰な生活を送っていました。 典型的なダメ人間ってやつです。 その日、母が今日はおじいちゃんの命日だからお墓参りに一緒に行く?と聞いてきました。 俺はめんどくさいし、いい。と言って断ったのです。 小さい時はおじいちゃん子だったのにね。 母はそう言って、寂しげな顔をして出ていきました。 そんな小さい時の事を言われても、俺はあまりよく覚えていませんでした。 もう10年以上はおじいちゃんのお墓参りをしていない気がします。 まあいいか。 ドン。 その時、何かが落ちる音がしました。 なんだ? その音は押入れから聞こえました。 俺は押入れを開けます。 段ボールが倒れていました。 なにかの拍子に倒れたのか。 俺はひっくり返った段ボールを直そうとします。 中にはたくさんのおもちゃが入っていました。 あっ、子供の時の俺のおもちゃか。なつかしいな。 メンコ、たこあげ、ゴム鉄砲、ほかにもあるぞ。 あっ、このおもちゃって、確か・・・。 そう僕がおじいちゃんと遊んだ時の物でした。 すると、おじいちゃんとの記憶が蘇ってきます。 俺は、そのおもちゃを手に持って、泣いてしまいました。 ごめん、ごめんよおじいちゃん。俺、こんなんなっちゃって。ごめんよ。許してくれ。 今までため込んでいた感情が決壊するかのように涙があふれてきます。 あっ。 俺はばら撒かれたおもちゃの下敷きになっている、白いものを見つけました。 写真? 俺は手を伸ばします。 確か、俺が小さい時、お母さんが取ってくれた、おじいちゃんの写真だ。 安らかな顔だったのを覚えている。俺は不安になった時、何度もあの写真を見て元気をもらっていたんだから。 俺は裏になっていた写真を手にとってめくった。!!!!! そこに映っていたおじいちゃんの顔は目が見開いて、俺をずっと凝視していた。 許さん。そういっているように俺は感じました。↓ブログランキング参加しています。 押して頂けると嬉しいです!!にほんブログ村
夏休みが始まって一週間が過ぎた頃の事だった。 朝起きると、家に長椅子があった。 黒くて革張りで、人がゆうに寝れるほどの大きさのやつだ。 それが家の玄関へと続く通路を占領している。 「ねえ、これを注文したの誰?」 私は居間でくつろいでいたお姉ちゃんに聞いた。 「うーん、お父さんじゃない?」 お姉ちゃんは、TVを見ながら素っ気なく答えた。 さほど興味がないといった様子だ。 こんなのが通路にあったら、通りにくくてしょうがないじゃない。 私はその長椅子を持ち上げようとしたが、長椅子はしっかりとした作りのようでかなり重かった。 「うぐっ。無理。重くて無理。すごい邪魔。どうするのよこれ」 「さあ、お父さんに言ったら」 素っ気なく返すお姉ちゃん。 もう。ちょっとは興味もってもいいんじゃない?お姉ちゃんはいつも無関心すぎる。 私はイラッとして自分の部屋に戻った。 「あら、この長椅子はどうしたの?」 お母さんがパートから帰ってきたようだ。 「お母さんも知らないんだ」 私は自分の部屋から出て母の元に駆け寄った。開口一番、長椅子の事を言っているので、お母さんもこの長椅子について知らないようだ。 「知らないわよ。お母さんがパートに行く前はなかったわよ。お姉ちゃんは知らないの?」 お母さんがまだソファーでくつろいでテレビを見ているお姉ちゃんに向かって言った。 「だからお父さんなんじゃないの?」 お姉ちゃんはうんざりした様子でこちらを見ずに言い放った。 思春期ってのは、ああなっちゃうのかなと思うと、歳をとるのが嫌になった。 「じゃあ、お父さんが帰ってきたら、きいてみましょうか。もうそろそろ帰ってくる頃だし」 お母さんは、通りにくそうに長椅子と通路の間を縫ってキッチンまで行くと、夕食の準備を始めた。 それから、しばらくしてもお父さんは帰ってこなかった。 「お父さん、どうしたのかな?」 先にご飯を食べる事にした私とお姉ちゃんとお母さん。 いつもなら、夕食前には帰ってくるはずなのに。 「それが、お父さんに電話しても繋がらないのよ」 お母さんは心配そうな顔で言う。 それから1時間経ってもお父さんからの連絡はない。 心配になってお母さんがお父さんの会社に電話をかける。 「ねえ、お父さん何かの事件に巻き込まれたのかな?」 私はお父さんがこんなに帰りが遅くなった事はなかったので、ひどく心配した。 遅れるにしても連絡するだろうし、連絡がつかないのは異常な気がしてならない。 「ちょっと変な事言わないでよ」 私が事件とか言ったから、お姉ちゃんが怒った。 どうやら、お姉ちゃんも動揺している様子だ。 電話が終わったらしく、お母さんが居間に戻ってきた。 お母さんの顔は強張っていた。 「どうだったの?」 私とお姉ちゃんはお母さんにたずねる。 「それが、さっき会社の方に電話したら、今日は出社してないって」 「え!」 私とお姉ちゃんは思わず声が裏返った。 「そういえば、今朝からお父さんと会ってない」 お姉ちゃんが言う。 私も頭を縦に大きく振った。 「私も。お父さん会社に行くときは『いってきます』って言って出ていくのに今日はそれも聞こえなかったし、顔も見てない」 「警察に電話しましょう」 お母さんは警察に電話をしはじめた。 だが、あまり、まともに相手をしてもらえなかった。 とりあえず、一日は様子を見てください。との対応だったそうだ。 警察は全然頼りにならないということを知った。 結局、一日経ってもお父さんは帰ってこなかった。 そして、次の日も、その次の日もお父さんは帰ってこなかった。 警察にも捜索願を出したが、なんの成果もでず、お父さんが失踪してから一週間が過ぎた。 「この長椅子が家に届いてから、お父さんがいなくなったね」 私はぼそりと呟いた。 「結局、この長椅子はお父さんが注文したのかしら?」 お姉ちゃんが言った。 あの長椅子は玄関に置いておくのは邪魔なので私とお姉ちゃんとお母さん三人で居間の空いているスペースに移動した。 結局、この長椅子はどこのメーカーが作ったとか誰が運んできたとか一切分からなかった。 お父さんがこの長椅子を持ってきたのかな?お父さんが家まで運んだのかな? お父さん、どこでなにしているの? 私の胸中は心配と不安が入り混じっていた。 ある日。お母さんが、あの長椅子に座っていた。 なんであの得体の知れない椅子に座っているの?私はそう思ったが口には出さなかった。 「今日、パートじゃなかったけ?」 私はお母さんにたずねた。 「・・・」 お母さんは目を瞑っていて私の問いに答えない。 「ねえ、お母さん!きいている」 私はさきほどより、大きな声で問いかける。 「・・・今日は、パート休んだの」 お母さんは蚊の鳴くような声で言う。 「えっ?なんで休んだの?体調が悪いの?」 「・・・もう、どうでもよくなっちゃったの」 お母さんは、そう言ってまた目を閉じた。 「ちょっと何言ってるの?しっかりしてよ、お母さん」 「・・・」」 お母さんは、それきっり目を閉じたまま喋らなかった。 「もう知らない!」 私はそう叫んで自分の部屋に駆け上がった。 イライラする。 お父さんがいなくなってショックなのはわかるけど。ちゃんとしてよね。母親なんだから。 私は下まで聞こえるように、自分の部屋のドアを思いっきり強く閉めた。 翌日。 「ねえ!なにこれ!?」 朝起きると、新しい長椅子がキッチンにあった。 色は赤で前の長椅子より少し短い。 幅いっぱいに長椅子が押し込まれていて、長椅子を跨がないと奥にいけない。 「ねえ、だれかいないの!?ここにきてよ」 私は大声で叫んだ。 「何よ、朝っぱらからうるさいな」 私の声をききつけて、二階の部屋からお姉ちゃんが降り来た。 「これみてよ!はやく」 私はお姉ちゃんを急かすように居間へと誘う。 「わかったから。うるさいな・・・ってなにこれ!?また椅子が増えている。あんたの仕業?」 お姉ちゃんが私を睨みつける。 「私の仕業なわけないでしょ!逆にお姉ちゃんじゃないの?」 「はぁ?なんで私がそんな事するのよ」 「じゃあ、一体、誰の仕業よ」 私とお姉ちゃんは口論になった。 「ねえ、それよりお母さんは?」 私はふいにお母さんがいない事に気づいた。 「お母さん?パートじゃないの?」 お姉ちゃんは素っ気なくそう返す。 「違うと思う。昨日もパート休んでたし、なんか昨日様子がおかしかったし・・・」 私は昨日とった冷たい行動で罪悪感に包まれた。 「様子がおかしいってどんな感じだったの?」 「もうどうでもよくなったとか言ってすごく、暗かった」 「なによ、それ。どうでもいいってなに?私たちはどうなるのよ?もしかしてお母さんは私達を置いて出ていったの?」 お姉ちゃんはわめきちらした。 「わかんないよ、とりあえずパート先に電話してみるよ」 私はいたたまれなくなってそこから出て電話をかけた。「どうだった?」 電話を終えた私にお姉ちゃんが聞いてくる。 「・・・パート先には来てないって」 恐らくそうだと思っていたことが現実になった。 「じゃあ、どこに行ったの?」 お姉ちゃんはそう言って、「お母さん」と大声で叫んで、家中をくまなく探し始めた。 私も一緒になって探した。 「いないわ」 「こっちもいなかった」 私達二人は途方に暮れた。 重い空気が流れる。 するとお姉ちゃんが口火を切った。 「ねえ・・・やっぱりお父さんの時みたいにいなくなったのかな?」 「私達を置いて?どこに?」 私はお姉ちゃんにたずねる。 「知らないけど、状況がお父さんの時とまったく一緒だもん」 確かに。急に長椅子が家に置いてあって、お母さんがいない。 お父さんの時とまったく一緒だ。 「・・・警察に電話しよっか」 お姉ちゃんがぼそりという。 私は、小さく首を縦に振った。すぐに警察官が家に来てくれた。 お父さんの件もあるから対応が早かった。 私達はお母さんがいなくなって代わりに長椅子が家にあった事を話した。長椅子と失踪の件は関係性が低いと思いますと言われただけだった。 絶対、この長椅子がなにか関係しているはずだと私とお姉ちゃんは説明したが、とりあってくれなかった。そして、今日、一日はお母さんが帰ってくるかもしれないから、様子を見てくださいと言って帰って行った。 「なんなのよ、あの無能な警察官は」 お姉ちゃんは警察官が帰ると悪態をついた。 確かに私もあの警察官の態度は気にくわなかった。 決して事件を解決に導いてくれる感じはしなかった。 「そして、この椅子もなんなのよ!」 お姉ちゃんは声を荒げて、長椅子を足蹴りにする。 この椅子がお父さんとお母さんがいなくなった事に関係しているのは確実だ。 でも、なにがどう関係しているのかはまったく見当がつかなかった。 「この椅子って、だれが運んできたのかな?」 この椅子は一体だれがこの家に届けたのだろう。そしてだれが受け取って、誰が、家に置いたのだろう。 「私じゃないわよ」 お姉ちゃんが私を振り返る。 もちろん私でもない。 突然、長椅子が出現した感じだ。お母さんとお父さんの代わりに。 「もういい。今日は、頭が混乱しているから寝るわ」 お姉ちゃんはそう言って、階段を上って自分の部屋へ入っていた。 私もお姉ちゃんと同じように、頭が混乱していたので、部屋に入ってベッドで長椅子について考察していた。 もちろん、答えなど出るわけもなく、私は知らぬ間に寝てしまっていた。翌日。私は昼過ぎに目が覚めた。 部屋を出て一階に下りていく。 すると、すでにお姉ちゃんが起きていて玄関にある黒い長椅子の前で座り込んでいた。 「なにやってるの?」 お姉ちゃんは手にメジャーを持っていた。 「椅子の事を調べようと思って、それで長さを測ってたの」 昨日、取り乱していたのが嘘のように、今日は冷静だった。 「二つの椅子の長さを測ったら、最初にあった黒い椅子の方が175cm、それで次にあった赤の椅子は157cm」 「黒い方が長いんだね」 一目見た時から、そう思っていた。なんで椅子の長さなんて測っているんだろう。 「黒の方が長いとかはどうでもいいのよ」 お姉ちゃんはそこじゃないといった様子だ。 「この黒い椅子と赤の椅子の長さ、お父さんとお母さんの身長と同じぐらいじゃない?」 「えっ!?」 この長椅子の長さとお父さんとお母さんの身長が一緒? でもそう言われてみれば・・・。 私は、黒の長椅子を見る。 そして、キッチンまで行き赤の長椅子をみた。 「言われてみたら、一緒な気がする」 「でしょ!」 「でも、長さが一緒だからってなんなの?」 「わからないよ。そんな事」 お姉ちゃんが、首を激しく振る。 「ねえ、とりあえず私達の身長も測っておかない?」 お姉ちゃんはメジャーを私に見せる。 「測ってどうするの?」 「もし、次にこの長椅子が家に現れたら、長さを測って確かめたいのよ」 「何言ってるの?もう、こんな事、起きないし。無意味だよそんな事」 「わかんないじゃない。こんな事ぐらいしかできないんだし、お父さんとお母さんが見つかる手掛かりになるじゃない」 お姉ちゃんは涙を流して、大声で叫んでいた。 私もそれにつられて涙が流れていた。 お父さんとお母さんがいなくなって二人とも精神的にかなりまいっていたのだ。 「わかったわよ。測ればいいんでしょ」 私はそう言って、柱に背中をくっつけた。 「早く測ってよ」 そう言うと、お姉ちゃんはメジャーを柱につけて地面から、私の頭の天辺まで伸ばす。 「154cm。次は私ね」 お姉ちゃんは私にメジャーを渡して、背中に柱をつける。 私は同じようにお姉ちゃんの身長を測る。 「158cm」 そう言って私はメジャーをお姉ちゃんに返す。柱に背中をつけて身長を図ったのは小学生ぶりだった。翌日。 「あの椅子には座った?」 お姉ちゃんが唐突に聞いてきた。 「あの椅子ってあの黒と赤の長椅子?座ってないけど。なんで?」 私はあの椅子がどこか気味悪くて一度も座っていなかった。 「そう。そっか。それならいいの。もうういいの」 そう言ってお姉ちゃんは振り返って去って行った。 その時のお姉ちゃんの顔からは生気を感じられなかった。次の日。 いまだにお父さんとお母さんは帰ってこず、警察の人も捜査になんの進展もない様子だった。 私は目が覚めて適当に朝食を作って食べていた。 一時間程経過した。 だが、お姉ちゃんが下に降りてこない。 「お姉ちゃん!?」 私は下で大声でお姉ちゃんを呼ぶが返事がない。 私は嫌な予感がして二階にあがった。お姉ちゃんの部屋の扉をドンドンと叩く。 「お姉ちゃん!いるの返事して?」 返事はない。ドアも鍵がしまっている。 私は思いっきりドアに体当たりした。 すると、ドアがガコンと鳴って外れた。 私はお姉ちゃんの部屋に入る。 「・・・うそ」 私は二の句を継げずに固まっていた。 そこには青い長椅子だけがぽつんと置いてあった。 「・・・なに。なんなのよこの椅子は!」 私はそのドアの前で膝をついて叫んでいた。 いったいなにが起こっているの。 あっ、そういえば。 私はあることを思い出して、下に駆け下りた。 長椅子の長さだ。 お姉ちゃんの身長は158cm。長椅子の長さは。 私はメジャーで長さを測る。 「・・・158cm!」 お姉ちゃんの身長とぴったり合う。てことはこの長椅子は、お姉ちゃんなの? なんなの?長椅子になるとかいったいなんなの。そんなの常識ではありえないけど。 お姉ちゃんがいなくなって部屋に長椅子がある。それにお父さんとお母さんが消えて長椅子が現れた。 これは、もうお父さんとお母さんとお姉ちゃんが長椅子になったとしか考えられない。 なんなのよ、いったい。 「あっ、お母さんとお姉ちゃんは長椅子に座ってから翌日に消えたんだ。違う、消えたんじゃなくて長椅子になったんだった」 もしかしたら、長椅子に座ったら家族が長椅子になった理由が分かるかもしれない。 でも、長椅子に座ったら私も長椅子になるかもしれない。 どうする。 でも、このままなにもわからないのはイヤだ。 私は青い長椅子、お姉ちゃんの長椅子に座った。 すると、ふと意識が落ちた。 あいつらほんとうざい。なんで私がいじめに合わなきゃならないのよ イライラする。むしゃくしゃする。ストレスがたまる こうやって小動物をいたぶっている時が一番ストレス発散になるわ 猫と犬合わせて20匹ぐらい殺したかな。 ああー。もう殺すのも飽きちゃった。てかもう人生にも飽きちゃった。 こんな人生もういい「っっは!!」 私は目を開けた。 「さっきの頭に流れてきたイメージはお姉ちゃんの?」 お姉ちゃんの感情が一気に私の中に入り込んできた。 「お姉ちゃん、・・・学校でいじめられてたんだ」 そして、そのストレスで犬や猫を殺していた。 お姉ちゃんがそんな最低な奴だったなんて。全然気づかなかった。 この椅子に座ると、椅子になった人の感情が流れ込んで来るの? じゃあ、お母さんとお姉ちゃんはこの椅子に座ってこれを体験したんだ。 それで、いったい何を見たの? 私は、下に降りて行って赤い椅子、お母さんの椅子に座った。 すると、また意識が落ちた。私が一番癒されるのはホストでお金を使っている時だわ。 お金もなくなってきたし、マルチでまた何人か騙さないといけないわね それにしても子育てめんどくさいわ、子供なんてつくるんじゃなかった あの人との愛も冷めきっているしこんはずじゃなかったんだけだ もうどうでもいいわこんな人生私は目を開ける。 「・・・お母さんそんな事思ってたんだ。それにホストに入れ込んでたなんて軽蔑するわ」 次は・・・。 諸悪の根源。この黒の長椅子、お父さんの椅子だわ。 私は椅子に腰かけた。 意識が落ちる。 株で借金をしてしまった。こんな大金どうやって返せばいいんだ 会社の金に手を出してしまった。これで借金は返せるな お金があれば人生が変わるな、今日は女子高生と会うんだ、娘と同い年だな ヤバイ、会社の上層部がなにか勘ぐっている様子だバレるのも時間の問題か 殺ってしまった。そんなつもりはなかった。あの女が俺を脅して来たから なんでこんな人生になったんだろ私は目を開ける。 「最低。クソ。ゴミ。クズ」 お父さんは借金をして会社のお金を横領した。 そして、横領に味をしめてお金で女を買った。娘の私達と歳も変わらないような子を。 それで、その女に脅されて殺した。 「なんなの私の家族は!!」 お父さんもお母さんもお姉ちゃんもみんなおかしい。 最低な家族。 「はぁー。まあ、私も人の事言えないか」 そうして、私は翌日、長椅子になった。↓ブログランキング参加しています。 押して頂けると嬉しいです!!にほんブログ村
僕が生きた33年。実にタイミングが悪い人生といっていい。たった今、予定がはいったから、無理だ。 たった今、満席になってしまいました。 たった今、売れきれました。 たった今、他の会社と契約しちゃったよ。 たった今、先輩に告白されて付き合うことになったからごめん。 たった今、息を引き取りました。そんな事の連続だ。 いつも、タイミングを逃してばかりだ。そんな僕を見越して友達が、ある人を紹介してくれた。 鈴木さんという人で、いろんな人に人生のアドバイスをしてくれる人らしい。 僕も鈴木さんからアドバイスをしてもらえと言わた。そして今日、待ち合わせの喫茶店に来ている。 「どうも、鈴木です」 僕が鈴木さんが座る席に行くと、すぐに立ち上がってくれて名刺をサッと渡してくれた。 「あっ、どうも、えっと」 僕もスーツの内ポケットをさぐるが、なかなか名刺入れが見つからない。 あれ?確かにいつもはここに入っているのだけど。 ・・・あっ!あった。左の内ポケットに入っていたのか。 「すいません、どうぞ、田中です」 僕は鈴木さんに名刺を差し出した。 「ありがとうございます」 お互い名刺交換をして席につくと店員さんがメニューを持ってきてくれた。 「僕は、アイスコーヒーで」 鈴木さんが注文する。 「えっと、じゃあ、僕はエスプレッソで」 僕がそう言うと店員さんが 「申し訳ございません。たった今、機械が故障してしまいまして。エスプレッソをお出しする事はできません」 と言われた。 またか。いつもの事だ。 「じゃあ、僕もアイスコーヒーで」 「かしこまりました」 店員さんが頭を軽く下げて席から離れていく。 「田中さん、聞いていた通りタイミングが悪い人ですね」 鈴木さんは笑ってそう言ってきた。 「あっ、すいません。悪気はないんですよ。気を悪くしないでくださいね」 「いいんですよ。いつもこんな感じなんで。もう諦めてます」 僕はため息をついた。 「田中さん、タイミングが悪いのはなぜだか知っていますか?」 「何故と言われても分からないですよ。運が悪いとか、持って生まれた宿命みたいなやつじゃないんですか?」 僕は鈴木さんにきいた。 タイミングが悪い理由か。 そういえば考えたことなかったな。ただ運が悪いぐらいにしか思ってなかった。 「違うんですよ。田中さん。ただ、タイミングを逃しているだけなんですよ。タイミングさえ見極めて、それを掴めばいいんですよ」 鈴木さんが力強く言ってくる。 「えっ、それはいったいどういう」 僕がそう言いかけると 「失礼します。アイスコーヒーをお持ちしました」 店員さんが注文したアイスコーヒーを持ってきた。 「あっ、ありがとうございます」 また、変なタイミングで店員さんが来る。 俺は心の中でため息をついた。 「えっと、さっきの話しですけど、どうしたらいいんですか?」 鈴木さんはアイスコーヒーに口を付けてテーブルに置くと、何やらカバンから取り出してきた。 「なんですか?これは?」 僕はテーブルに置かれた冊子をまじまじと見た。 どうやらパンフレットの様だ。表紙に太文字でこう書かれている。 「チャンスを掴む会?」 「はい。ぜひこの会に入会すれば、チャンスを掴めます。私もこの会に入って人生が変わったんです。特にこの講師の天上院神ノ郷(テンジョウインカミノゴウ)さんがすごい人なんですよ。絶対にあなたを導いてくれます」 突然、鈴木さんはエンジンがかかったかのように熱く語りだしてきた。 「いや、でもちょっと待ってください。僕はこういうのはじめてですし。チャンスの会に入ればチャンスが掴めるようになるなんて」 僕は突然の鈴木さんの変わりように泡を喰っていた。 「大丈夫です。みんなはじめてですし、まずはセミナーに来てください。それから入会するかどうかを決めてもらってもいいです。きっと人生が変わりますから」 鈴木さんはどんどん熱を帯びていく。 人生が変わる・・・。 「このまま味も素っ気もない人生を送っていいのですか?」 「・・・嫌です」 「なら変わりましょう。チャンスを掴む男に」 「チャンスを掴む男・・・」 「そうです。今が人生の大事なターニングポイントです」 「・・・ターニングポイント」 「田中さん、タイミングを逃したらダメですよ」 そうだ。もうタイミングを逃さないぞ。変わるんだ。よし。 「鈴木さん!・・・そのセミナー行きます」 僕は、鈴木さんの熱意に感化されて、燃えたぎっていた。 「それでこそです、田中さん。それではセミナーの受講料は5万円になります。この用紙に名前と生年月日とあと住所と電話番号を記入してください」 鈴木さんは用紙とペンを僕に差し出してきた。 「5万!お金を取るんですか。にしてもちょっと高くないですか?」 セミナーの受講料5万って高くないか?セミナーに行ったことはないけど高い気がするぞ。 「相場はこんなものですよ。大丈夫です。5万もすぐ取り返せますよ。田中さんが一人セミナーに誘えばその50パーセントが自分自身に入りますし・・・とまあ、この話しはまた詳しく話します。さあ、書いてください」 50パーセント返ってくる!なんだなんだ。よくわからんが。・・・・美味しい話しかも。 僕はペンを取り、用紙に全て記入した。 「ありがとうございます。それでは、いまちょっと幹部に連絡してみますね」 鈴木さんはそう言って電話をかけ始めた。 「もしもし、いまセミナー希望の羊が・・・えっ、はい・・・え!!あっ・・・わかりました」 電話をしていた鈴木さんの声が曇っていく。 なんだか、ただならぬ様子だけど。 なにかあったのかな。 僕が心配していると鈴木さんは携帯電話から耳を離して、内ポケットにしまった。 「田中さん」 「はい」 僕は呼ばれて返事をした。 なんだ? 「残念なことに、この話しはなかったことにしてください」 「ええー!!なぜですか?」 僕は、喫茶店で大声で叫んでしまった。 周りのお客さんがこちらを注目している。 うわ、恥ずかしい。顔から火がでそうだ。 「それが、言いにくいんですけど」 鈴木さんは一瞬、言い淀む。 「なんですか?」 僕は鈴木さんに食い下がった。 「たった今、天上院神ノ郷先生が詐欺の容疑で警察に逮捕さたそうです」 「・・・」 僕はまたタイミングを逃したようだ。↓ブログランキング参加しています。 押して頂けると嬉しいです!!にほんブログ村
むかしむかし、深い山奥に祟り神が住んでいました。 村の者達は3年に一度、祟り神に娘を生贄に捧げる掟があります。 掟を破れば村にはとてつもない災厄が訪れると言い伝えられています。 もう、この風習が300年も続いているのでした。 そして、今年がその生贄をささげる年です。生贄はくじびきで決められます。 赤いくじを引いた娘が今年の生贄に選ばれるのです。 村長がくじを持って、15歳以上の娘の前に立ちます。 そして、娘達は店長が手にしたくじを順番に引いていくのです。 今年の赤いくじを引いたのはサヨでした。 サヨは、おじいさんとおばあさんと暮らしています。 おじいさんとおばさんはサヨが赤いくじを引いた事を落胆してとても悲しみました。 「わたしが生贄になったらおじいさんとおばあさんは大丈夫かしら。きっと二人とも苦労するに決まっているわ」 サヨは足腰が弱いおばあさんとおじいさんだけを残すのはとても心配でした。 するとそんなサヨを見かねて村の誰かが言いました。 「サヨとのころは、じじとばばしかいねえぞ。サヨが生贄になったら、誰が面倒みるんだ」 するとまた誰かが言いました。 「アツコでいいねえか、あいつは独り身だし、なんてってたって3年前の事件の一家だしよ」3年前。 生贄のくじを引いたのはアツコの姉サトミでした。 だけど生贄の当日、アツコの両親はサトミを連れて逃げたのです。 村人が大勢で後を追うと、崖の下から落ちて死んでいる両親とサトミが発見されました。 みんなは祟り神さまの祟りだと噂します。 その年は、サトミの代わりに他の娘が生贄になりました。 置いて行かれたアツコを生贄にしたらどうかという声もありましたが、アツコはまだ年齢が達していなかったので生贄の対象にはならなかったのです。 以来、残されたアツコは村のみんなから罰当たりな親の娘と揶揄されて、白い目で見られるのでした。 「うーん。たがくじびきで決めるのが今までの仕来たりだしな」 村長が頭を悩ませます。 「村長。みんなの言うとおりだと思います。私にその御役目、務めさせてください」 立候補して前に進み出たのはアツコでした。 「いや、だがな。仕来たりがあるしな」 村長は迷っている様子でした。 「いいでねえか。仕来たりなんてよ。アツコ本人が自分でいいっていってるしよ」 村人は一様にアツコを生贄にするように強くおしてきます。 「村長、こうなる事は3年前から決まっていたのだと思います。私は自らの意思でこの御役目を全うします」 アツコは深々と頭を下げます。 「そうか、わかった。では・・・皆の者、今年の生贄はアツコに決まった。明朝アツコを御影山まで連れて行く」村長はみんなにそう告げました。 こうして、今年の生贄はアツコに決まったのでした。 アツコは明朝まで離れの社で一晩を明かしました。 そして、明朝。白い装束に着替えたアツコは村長と村の男数名に連れられて、御影山を登ります。 木々を抜けて険しい山道を登り、小川沿いに歩いたところで村長が言いました。「ここから先は、わしらは踏み入れぬ土地。お前だけで行くのじゃ。まっすぐ行けば分かる」 そう言うと、村長と男達は来た道を戻っていきます。 アツコは、言われた通りまっすぐ道を進んで行きます。 すると、岩が大きくくり抜かれた空洞に着きました。 そこは光がかすかに差し込み、両端を緑で囲まれています。 そして洞窟の奥に、真っ赤の祠がポツンと一つありました。 アツコは社の前に座り、目を閉じて手を合わせます。 すると、突然アツコの周りを冷冷たる空気が占め始めました。 アツコは全身に寒気を感じます。 すぐ後ろに何者かの気配を感じるのでした。 生けとし生けるものではなく、異形の気配。 「お前が、今年の生贄か?」 アツコは声がした後ろを振り返ります。 そこには、優に3mはある黒々とした者が立っていました。 「はい、そうです」 アツコはその黒々とした者を見据えます。そして、頭を垂れました。 「そうか」黒々としたものは、そう言ってアツコを品定めするかのように見つめます。アツコはこの異形の者こそが、祟り神なのだと頭で理解します。 「お前は、よく俺の姿を見て悲鳴をあげなかったな。大概の娘は俺の姿を見ると悲鳴をあげるんだがな」祟り神の姿はとても普通ではありませんでした。大きな獣のような顔に、赤く鋭く光る複数の眼。鼻はなく、口は端から端まで裂けています。大きな垂れ下がった両手は地面につくほど長く、大きな足は歩くだけで地面を踏み鳴らしそうなほどごつく、そして、その身体中からはなんと無数の黒いウジのような物が湧いて蠢いているのです。 こんな姿の者を見たら誰もが腰を抜かす事でしょう。 だけど、アツコは言いました。 「祟り神様に悲鳴をあげるような失礼な事はできませぬ。」 「ふん。もしも悲鳴をあげたら、その時点でお前を喰っていたがな」祟り神は大きな口をガパっと開けます。ふぞろいな鋭い歯が並んでいます。そして、アツコにこう告げました。「だが、お前はどのみち遅かれ早かれ俺に喰われるのだ。それがお前の定めだ」 「はい、存じております。私は祟り神様に捧げられた身。祟り神様の仰せのままに尽くしましょう」 アツコは祟り神にそう言うと、深く頭を下げます。 「ほーう。いい心がけだな。お前は死ぬのが怖くないのか?」 祟り神はアツコにたずねました。 「私は誰にも必要とされず、無為に生きる事のほうがよっぽど怖いのです。村のために生贄になる事を誇りに思っています」 「浅はかなな者よ。だが、いつまでその感情が持つかな」 そういうと、祟り神は不敵に笑いました。「喜べ。そんなお前に生贄になるまでの間、やって貰う事がある」「はい。なんでしょうか?」アツコは礼儀正しく、祟り神にたずねます。 「お前には今日からこの祟り神の体から湧き出るウジをとってもらう。 30日間休むことなく毎日だ。途中でやりおおせなければ、その時点でお前を喰う。そして30日間やりとおせても俺やはりお前を喰う」 祟り神の目の奥は絶望が渦巻いてるかのように、ひどく濁っていました。 「わかりました。祟り神様の仰せのままにいたします」 この日から、アツコの祟り神に献身する日々が始まりました。 大きな体を横にする祟り神。 アツコはその体からから湧き出てくる黒いウジをお箸で上手につまみ、祟り神から渡された茶色の壺にいれていきます。 全ての黒いウジを壺に入れるのは、夕方までかかりました。 祟り神にまとわりついている黒いウジは壺を埋め尽くすほどたくさんいました。 「やっと終ったか」 祟り神はむくっと上体を起こします。 ウジを全て取り終えた祟り神の躰の表面は、皮膚は浅黒く全身傷だらけでただれていました。 「はい。終わりました」 アツコは黒いウジが入った壺に蓋をして紐で縛ります。 「俺の躰はな、次の朝を迎えれば、また沢山のウジ湧いてくる。何度とっても何度もわいてくる。だからお前は何度も何度も、毎日毎日、数えきれないほどのウジを取り続けて、ここにある壺を満たしていくのだ。そして壺が30個貯まると、お前は俺に食われる」アツコの運命は最終的には死がまっている非情なものだったのです。「わかりました」 アツコは、こくりと首を縦に振ります。動揺もせず怯えもせず絶望もせず希望もせず、アツコの表情は静かな顔つきでした。 「今日はもう休んでいい」 祟り神はそう言うと、のしのしと歩き出し洞窟から出ていきます。 アツコは疲れ切って泥のように眠りました。 次の日。 アツコが起きるとそこには既に祟り神がいました。 「やっと起きたか。お腹が減っているだろ?それを食べときな」 祟り神が指さした石の上。そこには竹の皮に包まれたおにぎりがありました。 「これは?」 アツコが不思議そうな顔で祟り神を見ます。 「安心しろ。これは俺がお前なんか下賤の者に作ったものじゃない。これは村の者が俺の御供えに持ってきたものだ。この生贄の儀のあいだの30日間は御供えが届く仕来たりになっているのだ。お前はそれを食べて30日間、俺のウジを取り続けるのだ。そして30日後には俺がお前を喰うのだがな」 祟り神はそう言うとニヤリと笑います。 「そうでしたか。それでは、このおにぎり、いただきます」 アツコは祟り神に頭を下げおにぎりを食べます。 「それを食べ終ったら、ウジを取れ」 祟り神はそういうと楽な体勢になります。 アツコは急いでおにぎりを食べ終わると祟り神のウジをとりはじめました。 それが終わるとウジでいっぱいになった壺に蓋をしてアツコの一日が終わるのでした。 蓋をした壺が10個ほどできた頃でした。 アツコがいつものように、祟り神からウジを取り除いていると 「今までの娘は、顔は歪み、手は震え、泣きながらウジをつまむやつが大半だ。途中でこの洞窟から逃げ出す奴もいた。まぁ、逃げ出したヤツはすぐに追いかけて喰ったがな」 祟り神が言います。 「だが、お前は珍しい奴だな。嫌な顔を一つせず。俺からウジを取り除く」 そう言われてアツコはこう言いました。 「私がウジを取り除けば、その日ばかりは祟り神様が、楽になると思って努めています」 「ふん。おこがましい考えだ。それがお前を支える源のようだな」 アツコはウジを全て取り終えて壺に蓋をします。 「だが、そんな感情などひどく脆いぞ。特に死が自らの身に迫ってくると、なおさらな」 祟り神はそう冷たく言うと立ち上がり洞窟から出ていきました。 そして蓋をした壺が15個ほどできた頃でした。 「お前達がなぜ生贄を捧げ続けているのか分かるか?」」 その日のウジを取り終わったアツコに向かって祟り神はききました。 「申し訳ございません。分かりません。ただ、いいつたえでは、祟り神様に生贄を捧げなければ村が災厄に見舞われるとしかきかされていません」アツコをはじめ、詳しいことを知る村の者はあまりいませんでした。 「やはり知らぬか。お前らの祖先にその原因があるのだ」 「私達の祖先に?」 アツコはききかえします。 「あれは300年ほど前のことだ、俺ら御影の一族が滅ぼされたのは」 今から、300年前。どこもかしこも狂気がはびこる戦乱の世でした。 そんな時代に人目置かれていたのが御影の一族です。 御影の一族は、将軍に仕え幾度もの戦を勝利に導いてきたのです。 特にすごかったのが、御影の長を務める、寅吉でした。 寅吉はまるで予知するように戦の流れを読み、大胆不敵な作戦を立て勝利に導くのです。みなが寅吉を慕い尊敬していました。 ただ、そのあまりの秀でた才覚とみんなからの人望を集める寅吉を将軍は恐れるようになります。 そして、遂に将軍は御影の一族を滅ぼす事に決めました。 御影の一族はでっちあげられた、謀反の罪で全員捕らえられます。 そして女、子供、老人も関係なく虐殺されました。中でも一番、惨たらしく殺されたのが寅吉でした。 寅吉はみせしめのためにひどい拷問の末に殺されました。 死体はもはや人の形はしていませんでした。 「俺はその御影一族の寅吉だ。俺は無念の恨みで祟り神になったのだ」 祟り神はアツコにそう話しました。 「・・・それでは私達が・・・」 アツコは言葉に詰まります。 「そうだ。お前らがその将軍の子孫だ。お前らが生贄を捧げ続けているのはお前達祖先の業のせいだ」 「申し訳ございません」 アツコは頭を深々と下げた。 「私は知りませんでした。私達の先祖がとんでもない事をしてしまった事を」 顔をあげたアツコは涙を流していました。 「なぜお前が泣く?」 祟り神は不思議そうにアツコにたずねます。 「自分たちの先祖の愚かしさに。その事実を知らなかった私たちの恥ずかしさに涙しています」 アツコはそう言うと涙を拭います。 「安い涙だ。そんな取り繕った感情でお前らの恨みは消えん。お前らは俺を切り刻み、皮を剥ぎ、眼をくり抜き、舌を割き、耳をそぎ落とすなどの拷問を30日間続け絶命させられたのだ。これはお前ら一族に対する復讐なのだ」 祟り神の口調は荒くなっていて、怒気を孕んでいました。 それは祟り神の憤怒の叫びでした。 祟り神の素性を知ってからのアツコは前よりも懸命に頑張りました。 そんなアツコを見て祟り神も心を少し許したのかアツコによく喋りかけるようになっていました。 蓋をした壺が20個ほどできた頃です。 「お前は自分の両親を恨んでいないか?」 祟り神はアツコにたずねます。 「とんでもあります。この世に生を受けたのは、私の父と母のおかげです。感謝こそすれど、恨むなんてとてもできません」 「何を言っている。お前の両親は10年前お前を置いて姉のサトミを連れて逃げたのだぞ。そのせいでお前は村の連中からは白い目で見られているではないか」祟り神は言います。 「父と母は村の掟に反する事をしましたが親として立派な事をしたと思います。私を連れて行かなかったのは私の事を思ってした事だと思います。だから私は父と母を誇りに思っています」 アツコはまっすぐにそう言います。 「だが、お前の両親と姉は崖から転落して死んでしまったぞ。無駄な行為に終わったのだぞ?」 祟り神は言います。 「私は信念の元に行った行動は無駄になるとは思いません。それが何かのきっかけになると思うのです」 アツコは祟り神に言います。 「生意気な事を言う。崖から両親とお前の姉が落ちたのは、元はといえば俺のせいだぞ。俺は恨んでいるだろう?」 祟り神はアツコにききます。 するとアツコは 「いいえ。恨んでいません。恨んでも私の心に安らぎはありません。それならあるがままを受け入れようと思います」 と言います。 「受け入れる?」 「そうです。心が楽になるほう選べば優しい気持ちでいられると思いますから」 アツコはそういいました。 「お前はつくづくおめでたいやつだな」 祟り神は鼻で笑うと、立ち上がりました。そして洞窟から出ていきました。 蓋をした壺が25個ほどできた頃でした。 「お前は自分がここにいる事は不条理だとは思わんのか?」 今日の分の壺に蓋をしているアツコに祟り神がたずねます。 「そのような事は思いません。これも全て私の運命だと思います」 「両親に捨てられて、村の連中からは疎まれて、生贄にされ、俺のウジを取り、最後には喰われるのがお前の運命なのか?」 祟り神は嫌味っぽく言います。 「はい。村人の誰かがやらねばならない務めです。私がこれを全うするのが定めだと思っています」 アツコは祟り神の黒いウジを壺にいれながら言います。 「だが、村人はお前に感謝など一つもしてないぞ」 祟り神はそう言うと、立ち上がりアツコに 「ちょっと来てみろ」 と言いました。 祟り神は洞窟から出ます。 アツコもそれについて行きます。洞窟から出たのは、ここに来てから初めての事でした。 すぐそばの小川で祟り神は立ち止まります。 「ここを覗いてみろ」 祟り神は川を指さしアツコに言います。 アツコは言われた通りに川の前で立ち止まり、顔を覗き込ませます。 すると、その川がゆらゆらと揺れて映像が浮かび上がってきます。 「ここは・・・私の村・・・ですね」 浮かんだ映像はアツコがいた村の景色でした。 またゆらゆらと映像が切り替わります。 そして、次に映し出されたのは数人の男と女が喋っている映像でした。 「もう、アツコが村からいなくなってだいぶたつな」 なんと川から、声が聞こえてきました。 「えっ声が?」 アツコが驚きます。そしてしまったとばかりに手を口で抑えます。 「こちら側からの声はあちら側には聞こえない」 祟り神が静かに言います。 「そろそろ祟り神様に喰われているんじゃない?」 村の男が言います。 「おそらく、まだ生きておる。生贄が死んだらわしたちがお供え物を置いているところに骨が置かれるのじゃ」 「その骨って?」 村の男が恐る恐るきく。 「生贄の娘の骨じゃ。毎回、置いてある」 その事実を知らない何人かの村人は縮み上がっていた。 「でも、今回は長く生きているんだな。いつもは御供えをしてだいたい10日ほどで骨が置かれるんだがな」 村の男が言います。 「そうじゃな。アツコは初めて御供えの30日間生き残るかもしれんの」 村長が言います。 「洞窟の中で一体何がおこなわれているんだ?」 村の男が言います。 「分からん。あの洞窟には生贄の娘以外は立ち入り禁止なのでな」 村長が答えます。 「まあ、サヨが生贄に選ばれてたら3日ともたないだろうな」 村の男がそう言うと大声が笑います。だいぶ酒がまわっているようです。 「失礼ね。私だってやるときはやるわよ」 サヨがぷいっとそっぽを向きます。 「本当かよ。引くくじ間違えたくせによ。にしてもサヨが赤いくじを引いた時の顔は笑えたな」 村の男が酒を片手に大笑いした。「仕方ないでしょ。引くはずもない赤いくじを引いたら、びっくりするわよ」 最初に赤いくじを引きあてたサヨは、そうしゃべります。 「まったく、あれほど右端のくじを引くようにといっておったのに」 村長が呆れたようにいいます。 「ついうっかりしちゃってて。でもその後のあんたの機転には感謝しているわ。アツコを推薦してくれてさ。あとは村長にお金を渡してくれたおじいちゃんとおばちゃんに感謝ね」 サヨはニヤリと笑います。 「ははは。まあ、あの状況だったらああ言うしかあるまい。でも村長も憎いよな。しぶる演技をしてよ」 「当たり前じゃ。くじで決めるというのが代々からの仕来たりじゃからな。おいそれとアツコに決められんじゃろう。それにアツコの性格からして自分から行くと分かっておったよ。10年前の事もあるしな」 村長が言います。 「10年前の事も俺達が仕組んだんじゃないか」 村の男が村長に言います。 「おい、声が大きいぞ。村の誰かに聞かれたらどうする。まったく、今回の事で村の何人かは不信がっているというのに」 村長が村の男を咎めます。 「大丈夫ですよ。村長、今回のアツコが選ばれたのは、みんな心の中で納得してると思いますし、真相を知ってしまったアツコの両親はもういませんしね」 村の男が声をひそめて言います。 「そうじゃな。でも、殺す事はなかったじゃろ?そのまま村から逃がしてもよかったんじゃないかと思う事もあるのじゃ」村長はそういうとしんみりとした顔になり酒に口をつけます。 「何言っているんだ。くじをインチキしてたってバレたら村長はおしまいだぞ。真相を知った者は排除しなければならねえ。だから俺達が崖から落としたんじゃないか。いまさら後悔してもおせーぞ」 村の男が村長をキツク説き伏せます。 「そうじゃな、あれでよかったんじゃよな」 下を向いて、村長は言いました。 「・・・これは・・・」 川を覗き込むアツコは言葉が出ないといった様子でした。 「見ての通りだ。あの生贄を選ぶくじ引きは村長たちが自分達の都合のいいように操作していた。そしてそれを知ってしまったお前の両親はサヨと一緒に崖から落とされて殺されたのだ。真実は残酷だな」 「・・・」 アツコは放心状態で言葉もでませんでした。 「戻るぞ」 祟り神は突き放すようにそう言うと洞窟へ歩き出します。 アツコはそう言われて祟り神の後に続きました。 洞窟に着いてからもアツコは一言も喋らず静かに佇んでいました。 「人というのがいかに愚かな生き物か分かっただろう。み自分がよければそれでいいとする生き物なのだ」 祟り神はそう言って洞窟から出ていきました。 次の日。 アツコは祟り神のウジを全て取りました。 次の日も、そしてまた次の日も。 アツコはあの日から、元気がない様子でした。 それを受けてか祟り神もアツコに喋りかける事はありませんでした。 そして・・・。 蓋をした壺が30個、溜まりました。 「遂に、30個溜まったな」 祟り神は最後の壺に蓋をしているアツコに言いました。 「30日間やりとおせたのはいまだかつてお前しかいない。ほとんどの娘が途中で投げ出して俺に喰われた。よくやったな」 祟り神は、30日間、毎日欠かさずウジを取り続けたアツコを褒めます。 「私に与えられた務めを果たしただけです」 アツコはそう答えます。いまだ元気がない様子です。 「特別だ。やりとげたお前には俺に喰われる前に一つだけ願いを叶えてやろう」 「・・・願いですか?」 アツコは首を傾げます。 「ああそうだ。それに俺はお前が気に入った」 祟り神は健気なアツコを大変気に入ったのでした。 「願い・・・」 アツコは祟り神にそう言われて頭を悩ませます。 「そうだ。なんでもいいぞ。例えば、ここから生きて逃げたいとかあるいは・・・」 「あるいは?」 アツコは祟り神にたずねます。 「村人達に復讐をしたいとか」 祟り神はニヤリと笑います。 「・・・復讐」 アツコは呟きます。 「そうだ。お前の両親と姉を殺し、お前を生贄に仕組んだ村人達にだ」 祟り神はアツコにそう囁きます。 「・・・」 アツコはなにやら考えています。 「願い事はなんでもいいんですね?」 アツコが念を押すように聞いてくる。 「ああ。なんでもいいぞ。言ってみろ?」 祟り神は言います。 「生贄は私で最後にしてください」 「なに?どういう事だ」 祟り神はアツコの選択に理解できずにいました。 「この生贄の風習がなくなれば、全ての人が楽になると思ったからです」 アツコはゆっくりと目を閉じます。 「なるほど。そうきたか。まさかそんな願いをいうとはな俺の予想の範囲外だった」 祟り神は笑います。 「お前は村人達を恨んでいないのか?あいつらに復讐したいと思わないのか?」 祟り神はアツコにたずねます。 「村長たちの行いは決して良いことではありません。でもあの風習が人を狂わせたのだと思うのです。私達は過去の過ちも忘れ、生贄の風習で心が荒んでいるのです。この風習がある限りは同じような悲劇が起こると思います。恨みでは前に進めないとそう思うのです」 「こいつ、言いよるな。それはつまり俺の存在も否定するわけだが。なら俺を消すような願いをいったらどうだ?」 祟り神はアツコを睨みつけます。 「いいえ。そのような事は思いません。祟り神様は立派なお方です。でもいくら恨んでも寅吉様の心は癒えないと思います」 「知った風な事を、お前には俺ら一族の恨みは分からぬ」祟り神は怒鳴ります。 「まあよい。・・・お前は、両親と姉を殺された卑しい村人たちのために俺に喰われる道を選ぶのだな?本当にそれでいいのだな」 祟り神はアツコに念を押すようにききます。 「はい。私で最後の生贄にしてほしい、それが願いです」 アツコはそう言うと手を合わせて目を閉じました。 「わかった」 祟り神はそう言うと、アツコの両肩を掴み、大きな口を開け、頭から顔を一口で食べました。 アツコは首から大量の血を噴き出します。 祟り神は上からモグモグとアツコを食べていきます。 そして、あっという間に祟り神はアツコを食べつくしてしまいました。 その後、村では生贄を捧げる風習はなくなりました。 そして、あの洞窟の真っ赤な祠の横に小さな真っ赤な祠が建てられたのでした。 ↓ブログランキング参加しています。 押して頂けると嬉しいです!!にほんブログ村
四畳一間の部屋に男が4人いた。 男たちは酒を片手にくだらない雑談で終始盛り上がっていた。 「なあ、誰にも言ってない事をカミングアウトしないか?」 酒が回ってきたがっちりした角刈りの男が場を盛り上げるためにそう切り出した。 「カミングアウトか、いいね。それ」 痩せたメガネの男が賛成する。 「じゃあ、俺からいくぞ。俺の秘密は・・・まだ童貞だ」 がっちりした角刈りの男が意気揚揚に語りだす。 「まじかよ。あっ、でもなんか童貞っぽいな」 お菓子の食べかすをつけた太った男が言う。 「なんだそれ。失礼だ。じゃあ、次はお前がカミングアウトしろ」 がっちりした角刈りの男は食べかすをつけた太った男を指名した。 「俺かよ。じゃあ・・・俺の秘密は・・・昔、痩せていた」 「ふっ。昔、痩せてたって。大したカミングアウトじゃないよ」 痩せたメガネの男が鼻で笑う。 「なんだよ。別にいいじゃないかよ。じゃあ、次はお前が言えよ」 食べかすをつけた太った男が痩せたメガネの男を指名する。 「俺か、俺の秘密は・・・実は伊達メガネだ」 「ブハハハなんだそれ。なんで伊達メガネつけてんだよ」 「メガネの方が、秀才に見えるからだよ。はい、次、最後はお前だな」 メガネの男はくせ毛の男を指名する。 「ああ、俺か。話してもいいが、今からする話しはここだけの話しにしてくれ」 くせ毛の男は唇の前で人差し指を立てる。 「なんだよ、気取っちゃって。いいから話せよ」 がっちりした角刈りの男がせっつく。 「わかったよ。誰にも言うなよ。あれは俺がまだ小学生の頃だったな。偶然にも俺達は秘密基地でこうやって、お互いにの秘密にしている事を打ち明けていたんだ」 今は誰も使っていない木の小屋。この小屋を太一と翼と隼人と慶介は秘密基地にしていた。 ほぼ毎日、学校が終わるとここに直行して、漫画をみたり、ゲームをしたり、くだらない話しで盛り上がるのだった。 「なあ、みんな。秘密の話しを一人一つずつしようぜ」 太一が唐突にみんなに提案する。 「秘密の話しってどんな?」 翼が小首を傾げた。 「それぞれが、まだ誰にも話した事がない秘密の話しを語るのさ。もちろん、ここで聞いた事は他言無用。絶対に誰にも言ってはいけない」 太一が意気揚揚とルールを説明する。 「おもしろそうじゃん。やろうぜ」 隼人がノリノリで答える。 「俺は、あんまり乗り気しないな」 慶介は素っ気なく返事をして持っていた漫画を読み直す。 「なんだよ、慶介ノリ悪いなー。翼は賛成だよな?」 隼人が翼に話しを振る。 「えっと・・・僕は」 「いいじゃないか。やってみようぜ。まず言い出しっぺの俺からいくぞ」 翼が言い終わるのを制して太一が喋り出した。 「俺は・・・1組の恵子が好きだ」 太一は言い終わると照れたような表情になる。 「えー!そうだったのかよ。うわ、全然知らなかったよ」 「僕も、まさか太一が恵子の事好きなんて」 「はいはい。俺の番は終わり。次は誰がやる」 「じゃあ、次は俺が言うよ」 隼人が手をあげる。 「俺は、保健室の美奈子先生とキスした」 「うそだろ!なんでどうやって」 太一が喰い気味に隼人にきいてくる。 「保健室でズル休みしててさ、美奈子先生と喋っている時に俺が顔を近づけてキスしてやったのさ」 「すごいな。お前、よくそんな勇気あるな」 「褒めるな褒めるな」 「本当、本当。お前すごいよ。その顔でよくそんな大胆な事ができたな」 「貶すな貶すな。誰が俺の顔が不細工だよ」 ケタケタとみんなが笑う。 「それで、次は誰が話すんだ?」 話し終えた隼人が言う。 「じゃあ、次は俺が喋るよ」 「おお、慶介か。じゃあ、よろしく」 「あんま人に言う事じゃないから、秘密にしていたんだが・・・俺の親は実の親じゃない」 「え・・・・そうなんだ。両方とも?」 翼はびっくりした様子で慶介にたずねる。 「そう、両方とも。小さい時に施設にいた俺を今の両親が引き取ってくれた。俺は、本当の親の顔も知らない」 「そうなんだ。大変だな」 「・・・・この話し重いな」 太一が気まずそうに頭を掻く。 「じゃあ、翼で最後だな」 太一が気をとりなおしてという風に、トーンを切り替える。 「えっと、やっぱり話さなきゃダメだよね?」 翼はいかにも喋りたくないという態度を出してくる。 「当たり前だろ。みんな喋ったんだから。お前も喋ろよな」 隼人が翼に詰め寄る。 「わかったよ。喋るよ。ただ、その前にこの話しは絶対に、他の人に言わないって約束して。ここにいる僕達だけの秘密にしてほしい。でないと言わない」 翼が頑なにそう宣言する。 「いいぜ。約束するよ。ここで話した事は他言無用だ。喋ってみろよ」太一が自分の胸をドンと叩く。 そう言われて翼は少し間をおいて喋り始めた。 「いま、行方不明になっている2組の純一君いるよね?」 「ああー。いるね。ここ一週間、消息が分からなくなっている純一だろ」 「でその純一がどうしたんだ?」 隼人が翼にたずねる。 「純一君は行方不明じゃないんだ」 「え?じゃあ、なんなんだよ?」 「お前は何か知っているわけ?」 太一は翼にたずねる。 「純一君は・・・殺されたんだ」 翼は胸につっかえているモノを吐き出すに言った。 翼の言葉を受けて、辺りが静まり返っていく。 みんなが息を飲むのが分かる。 殺された?なんで?どこで?だれに?なんで知っているんだ? みんなの頭にその疑問が広がっていく 「おいおい。嘘だろ?悪い冗談言うなよ」 そう言った隼人はひどく動揺している様子。 「本当だよ。一週間前の夜、僕は見てしまったんだよ。塾の帰りに、誰かが血を流している純一君を河に捨てているところを」 隼人と太一と慶介は顔を見合わせる。 「おいおい、河って?すぐ近くの河川敷のか?見間違いじゃないのか?暗かったんだろ?それにこの事、警察に言ったのか?てか犯人はだれなんだよ?」 太一が興奮気味で翼に迫ってくる。 「警察には言ってないよ。怖くなって急いでその場から逃げ出したんだ。それに、もしかしたら見間違いかもしれないって僕も思って。でも次の日、純一が学校に来てなくて。それで、僕はやっぱり見間違いじゃなくて、あの血を流していたのは純一君だったんじゃないかって思って。それで、僕の机に手紙が入ってたんだ。それを見て、純一君が殺されたのが確信に変わって。それと同時にこのことは秘密にしようって思ったんだ」 「手紙って・・・その手紙になんて書いてあったんだ?」 慶介が翼にたずねる。 翼はとても言いずらそうに口を開いた。 「“この事を誰かに喋ったらお前を殺す”」 「マジかよ。かなりヤバイだろ。それ。てかお前、俺たちに言っているじゃないか」 隼人は怖くなったようであたふたしはじめる。 「うん・・・でも誰かに喋りたかったんだよ」 「そんなこと言われてもな。俺らにはどうする事もできないぞ。警察に言った方が絶対いいって」 隼人が言う。 「でも手紙を渡して来た相手はどうするんだよ?そいつは僕の事を知っていて、尚且つ学校に自由に出入りできるんだぞ。僕が警察なんかに喋ったらすぐにバレれて殺されちゃうよ」 翼はいまにも泣き出しそうな勢いだ。 「その、河に捨てた奴の顔は見てないのか?」 太一がたずねる。 「暗くてよく見えなかったんだ。ねえ、どうしたらいいかな?教えてくれよ」 「・・・・」 辺りを沈黙が占めて重い空気が流れる。粘っこくて後を引くような感情がみんなの胸に渦巻いている。 「やっぱり警察に行くべきだと思うぞ。全部、事情を話したら保護してくれるんじゃないか」 慶介が極めて冷静に翼に言う。 「・・・あっ、俺、そろそろ帰るよ。お父ちゃんが今日は早く帰ってこいって言ってたんだ」 隼人が慌てた様子で立ち上がり、逃げるように秘密基地を出ていく。 怖くなって、その場にいるのが嫌になったみたいだ。 「・・・俺も帰ろうかな」 慶介も同じように立ち上がる。 「じゃあ・・・とりあえず、今日は解散するか」 「え!?・・・うん・・・」 翼は他の三人を薄情だと思ったが、みんな問題が大きすぎて、どうしていいのか分からなったのだ。そういう時は、その場を去りたくなるものだ。 頭がパニックになって逃げるといった行動をとるのが極自然だ。そう、これは普通の行動だ。 自分は無関係なんだから、巻き込まないでくれ。 必ず誰にもそんな感情があるはずだ。 次の日、翼は学校にこなかった。 その次の日も、また次の日も。 翼は純一を殺したヤツに殺されたのだ。 三人は翼の事も純一の事も秘密にした。 何故なら、三人の机にも手紙が入っていたからだ。 “あの事を誰かに喋れば殺す”と書かれた手紙が。 「てな事があったんだ」 くせ毛の男は喋り終った。 「・・・なんだよ。その話し」 がっちりした角刈りの男が言う。 みんなのテンションがさっきより明らかにトーンダウンしている状況になった。重々しい空気が流れている。 「まあ、カミングアウトちゃっカミングアウトだけど、この話し重くない?てか冗談?冗談だったらお前はよくやったぞ。ここで大爆笑が起きる」 食べかすをつけた太った男が言う。ムリヤリ明るく振る舞っているが、顔は引きつっている。 「いや、冗談じゃない。これは本当にあった事なんだ。あと、一つ誤解している事がある」 くせ毛の男が言う。 「誤解?」 痩せたメガネの男が問いかける。 「俺は、まだカミングアウトしていない」 「どういう事だ?」 みんながくせ毛の男に注目する。 「俺の秘密は・・・あの時に純一と翼を殺して机の中に手紙をいれたのが、俺だってことなんだよ。この話しは・・・くれぐれも他言無用で頼むよ」 ↓ブログランキング参加しています。 押して頂けると嬉しいです!!にほんブログ村
仕事帰りの事だった。夜道を歩いていた私は突然後ろから何者かに突き飛ばされた。 「きゃっ」 バランスを崩し、道端に倒れこむ私。 「いたたた」 倒れこんだ私が上を見上げると、そこには黒い影が立っていた。 どうやらその黒い影は男で、黒の覆面を被っていると認識した。こいつが私を突き飛ばした。私は、何か言おうと口を開くが言葉が出てこない。怖い。声がでない。私は男の手元に目がいった。何か持っている。そして、男はそれを大きく振り上げた。 「えっ!」 その瞬間スローモーションになり、男が持っているものがハンマーだとわかる。そして男が私を目がけて勢いよくハンマーを振り下ろしてきた。 激痛が走る。こめかみ辺りに電気が走ったような衝撃。脳が危険という信号を頭に送り込んでくる。 「いたーーーい!」 男が振り下ろしたハンマーは尻餅をついた格好の私の右足に直撃し、脛の方から右足全体にかけてじんじんと痛みが広がっていく。 「いたい、いたいよ。だれか!だれか助けて!」私の細胞全体が恐怖でスパークして、それらが暴れまわり、助けを求める言葉になって外に出ていく。 私は近隣住人に聞こえるように大声で助けを求めた。 男は私が叫んだから、踵を返しそそくさと去っていく。その足取りは慌てる様子もなく、足音なく夜の闇に消えていった。 「はぁはぁ、とりあえず殺されなくてよかった・・・いたた」 命があって安心したのと激痛で、なんだか意識が遠のきかけていく。・・・あっ!人が倒れいている!だいじょうですか!?私は、そこで意識を失った。 「松葉杖にはもうなれたかい?」 私の速度に合わせて隣を歩いてくれている、よしゆきが心配そうに訪ねる。 「うーん。まだ慣れないよ。歩きづらいし、手とかすごく痛くなる」通り魔にあってから一か月。 私はハンマーで叩きつけられた足が骨折していた。その時の医者は、複雑骨折じゃなくてよかったですね。いやーきれいに折れてますよ。と何故だが私のレントゲン写真を見て微笑んでいた。ハンマーで足の骨がきれいに折れるのがそれほど珍しかったみたいだ。そして私は今、松葉杖生活を余儀なくされていた。 「辛くてしんどい事があったらなんでも僕に言ってね。どんな事でも力になるから」 よしゆきは私に優しく微笑んでくれた。 「ありがとう。でもよしゆきには普段からも頼りっぱなしだから悪いよ」 よしゆきとの初めての出会いは、通り魔に襲われた時だった。 彼が叫び声をききつけて、路上で倒れている私を発見したらしい。 その後は救急車に電話をしてくれて、心配だからと言って病院まで付き添ってくれた。 その後、よしゆきはちょこちょこ見舞いにきてくれるようになり、身の回りを世話してくれたのだ。 そして、退院する時に告白された。私は彼の誠実で優しいところに惹かれたのでOKの返事を出した。 「大丈夫。いつでも頼ってよ。僕が君の支えになるからさ」 3か月後。 私の足は無事完治して、自分の足でなんなく歩けるようになった。 「無事に治っておめでとう」 よしゆきはケーキを用意してくれていた。 プレートにおめでとうという字が書かれている。 「ありがとう、よしゆき」 私はよしゆきにハグをする。 「辛い中よく耐えたね」 よしゆきは私の頭を優しく撫でてくれた。ある日の夜。 私は友達とディナーに行き家に向かって帰っていた。 こんな時間に外を歩いていると以前に襲われた記憶が蘇ってくる。 周りを見渡すと人が誰もいない事に気づく。 急に怖くなって速足で歩き出す。 まさか、二度も通り魔に襲われるなんてことはないよね。 そう思っていた・・・そこの曲がり角を曲がるまでは。 曲がり角を曲がると、そこに黒の覆面を被った男が立っていたのだ。 私はギョッとして体が一瞬、硬直した。 そいつはただの通りすがりの人ではない事がわかった。通りすがりの人はハンマーなど持っていないからだ。 「キャアーー」 私は渾身の力で叫んだ。 あの男だ。私を一度襲ったあの男がいる!顔は確認できないが、あいつに間違いない。 私は反対方向を向き走り出した。だが、覆面の男に髪の毛を引っ張られて、後ろに倒されてしまった。 「いたっっ」 尻もちをついた私はお尻の痛みで顔が引きつる。 そして、すぐにその痛さを超える激痛が襲ってきた。 「いだぁああい」 覆面の男が私の足にハンマーを叩きつけていた。 私が痛さで転げまわっていると男はすぐにその場を去っていた。 「なんで?・・・なんで二回も通り魔にあわなくちゃいけないのよ!!」私は心からの悲痛の叫び声をあげた。 「足の具合はどう?」 すぐにかけつけてくれたよしゆきが心配そうにきいてくる。 通り魔に合って病院に担ぎ込まれた私はベッドで横になり片足を吊るされた状態だ。 「うん、骨が折れているみたい。複雑骨折ではないから、しばらくギブスをして安静にしたら2か月ぐらいで治るそうよ」 「そうか、それまで大変だね」 「また、最初の内は松葉杖になるみたい」 「大丈夫。君が治るまで僕が支えになるから。いや、君が死ぬまで支えになるよ」 「えっ!それってもしかして・・・プロポーズ?」 「うん。結婚してください」 「・・・はい。」私は彼と支え合って生きていく事を誓った。 しばらくして足が治るとまた通り魔に襲われて足を骨折した。 そして松葉杖の生活。 私は何度も通り魔に襲われて足を骨折して繰り返し松葉杖の生活を送った。 もう、気づいていた。でも私はそれを受け入れるしかないのだ。 いまでは彼が私の支えなのだから。 ↓ブログランキング参加しています。 押して頂けると嬉しいです!!にほんブログ村
「セミってさ、一週間しか生きられないだろ?」 ともやは透明で四角い虫かごを持ち上げる。 中には先ほど捕まえたセミが三匹と木の枝が一本入っている。虫かごに投獄されたセミはさきほどから飽きもせず泣き続けていた。 「セミが一週間以上、長生きする方法、知ってる?」 そう言われた、たけしは首を横に振る。 「知らない。なに?どうするの?」 ふっふふと、不敵な笑いを浮かべてともやは緑色をしたむしかごの蓋を引きはがす。手を虫かごにグイッと入れてセミを一匹掴むとそのまま虫かごから手を出した。 掴まれたセミはさっきより鳴き声が大きくなった。悲鳴をあげているようにも聞こえる。 「こいつらさ、ちぎってやったらもっと長生きするんだぜ」 ともやはセミの腹の部分を手で下におもいっきりひっぱった。 ブチュっと小さな音がなってセミの胴体が二つに別れ、白い液体がトローと流れ出してきた。 「うげ、気持ちわる」 セミは胴体がちぎれたのに、依然として動いているがあの甲高い鳴き声は発しなくなった。 「これで本当に長生きするの?」 こんなグロイ状態では到底、長生きなんてできるわけがないとたけしは思った。 「するよ。絶対するって近所のお兄ちゃんが言ってたもん」 ともやはムキになっている。その近所のお兄ちゃんを崇拝しているかのような口ぶりだ。突然の事だった。家の屋根が外れてものすごい大きな手が伸びてきたのだ。 「うぁあああ!」 「なになに!」 その真っ白な大きな手はともやを掴んで、上へと持っていった。 そのすぐ後、地面に肉が叩きつけられる音がした。 胴体が二つにちぎられたともやだった。赤い液体をダラダラ流しているともやは目を見開いて口をパクパクさせながら、手をじたばたさせている。 ちぎれた腰から下は動く事はしないが、赤い液体がドクドク出ている。 たけしは、恐る恐る上を仰ぐ。 屋根を持ち上げて、下を覗き込んでいる大きな何かがいた。 その大きななにかは、しばらくその様子を覗き込んで満足したかのように、屋根を戻した。 上を見ていたたけしはともやに視線を移す。 もう、ともやは微動だにしなかった。 「・・・なんだ。やっぱり長生きしないじゃん」 ↓ブログランキング参加しています。 押して頂けると嬉しいです!!にほんブログ村
人生の三分の一は寝ているらしい。 一日は24時間、8時間睡眠で三分の一は寝ているという計算だ。 そんなに寝ていてはもったいない。 睡眠時間を削れば、もっと人生を有意義に楽しめるではないか。 俺はそう思って今までの人生、睡眠を削って生きてきた。 俺は一日中起きて、翌日に三時間程寝るというライフワークを20歳から24歳まで送ってきた。 体長も良く気分もいい健康診断でもどこにも異常は見当たらなかった。 だが最近、睡魔に襲われるようになった。 だれにでも一日の内に訪れるであろう睡魔。 それが、ここ最近多いのだ。今まではこんなことはなかったのに。 最初は、軽い眠気でウトウトしてきて寝てしまう事が続いていた。 でも、だんだんと悪化していって、その眠気は抗えないほど強くなっていった。その睡魔について分かったことだが、この睡魔がくるのはかならず午前中、そして睡魔がきたらきっかり10分寝ていること。 それを危惧して、俺は有給をとり睡眠も十分にとるようにした。 だが依然として睡魔は襲ってきた。 その眠気が来たら頭の中が鉛のように重くなり、瞼が重力に逆らえなくなってくる。 そして立っている事もままならなくなり、意識がだんだんと遠のいていき、落ちる。最近は、睡魔に襲われて寝てしまう時間も増えてきている。いまでは1時間も寝てしまう。もしかしたら、何かの病気かもしれない、そう思って病院に行き脳の中を撮られたりしたが、なんの異常もないと言われた。 規則正しい生活をして、決まった時間に寝て起きる事がもっとも改善の方法と言われたので俺は医者に言われた通りにした。だが依然としてよくなる事はなく症状はさらに悪化していった。突然意識を失う事が多くなっていき、睡魔におそわれて寝てしまう時間もいまでは4時間になった。睡魔で寝てしまうならそれまで寝るのをやめようと思った。だが、睡魔が来た睡眠は全然、眠気も疲れも取れなかった。ただ、いたずらに睡魔に俺の時間が奪われていっている様だった。俺はこの症状をいろいろ調べたし、何人の医者にも見てもらったが治る事はなかった。そして、遂に俺の午前中の時間は全て睡魔に支配された。寝ている時間は合計18時間。起きている時間は8時間だ。 皮肉にも人生の三分の一しか起きていない様になった。 そして今もなお、睡魔に襲われ寝る時間が増え続けている。 このままだと最終的には、俺の人生の時間全てを睡魔に奪われてしまうだろう。ある晩、印象的な夢を見た。 夢に俺が出てきたのだ。 夢の中の俺はこう言った。「起きている時間がもったいないと思ったからさ。だから、これからはずっと寝て有意義に人生を過ごす事にしたよ」これは謎の睡魔に襲われているから見た夢なのか? ずっと寝る事が人生を有意義に過ごすって、なんだそれは。そんな事あるわけないだろ。 これは今までのツケが回ってきたのか?そう思わざるを得ない。俺はその日またも睡魔に襲われた。 とてつもなく、深い深いところに誘われるような、今までの睡魔とは一線を画すものだ。 遠くの方でなにか声が聞こえるようだ。 全身が重く重くなって、立っていられなくなって、俺は床に倒れこんだ。 体中の力が抜けてまるで浮遊したような感覚になる。 視界がぼんやりと霞んでいき瞼が勝手に降りていく。 瞼が降りる瞬間、どこまで広がる一面の黒い景色を見た。まるで包み込んでくれる宇宙のような。 そして声が聞こえた。俺の声だった。 「おやすみ」 俺は意識を閉じた。↓ブログランキング参加しています。 押して頂けると嬉しいです!!にほんブログ村