第074話 電話
「3ヶ月だってさ。」
平然とそう言う私に
お母さんは
返す言葉を捜している。
診察室から出てきた私は
驚く程冷静だ。
乳児特有の泣き声が
どこか別の部屋から聞こえてきて
「先に車に乗ってるね」と
お母さんに会計を頼んで病院を出る。
外の空気を思い切り吸い込み
車に乗って目を閉じる。
お母さんが車に戻ってきて
エンジンをかけながら
「大丈夫?」
と本当に心配そうに私の顔色を窺う。
「おろすから。心配しないで。」
キッパリとそう言い
窓から流れる景色に視線を移した。
飛行機が綺麗な放物線を空に描いていく。
お母さんはきっと
『産みたい』と言いだす事が
一番困るに決まっている。
サイドミラーに映る後ろに遠のいていく景色が
まるで自分の方が世界から離れていっているかのような
錯覚をおこさせて私は身震いする。
『一体ここはどこなんだろう。』
「手術にはお母さんがついていてあげるからね。」
「ああ…。うん。
なんかね、同意書っていうのがあるみたいでさ
帰ったら相手の男の子に電話してみるよ。」
「もしかしたら彼が付き添ってくれるかもしれないし。」
お母さんは相手の男の事など
正直どうでもいいというかんじで
ため息をつく。
手術の時に優弥に側にいてほしい。
そう思うけれど…。
でも…。
どうすればいいのかわからない…。
家につき
すぐに電話をかける。
電話には優弥のお母さんが出て
優弥を呼び出してくれている。
受話器を握る私は
どうすればいいのか
わからないままだ。
何も考えていないし
何の言葉も準備されていない。
「まっぴ~。。。大丈夫?心配したよー?」
優弥の声は寝ぼけている。
「…。うん。ごめん。ちょっと親と喧嘩して
家出れなかったのぉ。」
「そうだったのかー。何回もベル鳴らして悪かったね?」
「ううん。全然それは大丈夫だよ。」
「そうか、そうか。あんま親に心配かけるなよな?」
何も知らない優弥の優しい声に
私の胸は急に圧迫され
涙が溢れだす。
優弥は
私が手首を切った事も
優弥の赤ちゃんがお腹にいる事も知らない。
「ちょっと、しばらく遊びに行けそうもないかも。」
「そっか。親が夜遊びするなって?」
「うん。それもあるんだけどね…。」
私は言葉に詰ってしまう。
「ん?なんかあったの?」
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