第070話 鏡の中の世界 | らぶどろっぷ【元AV嬢の私小説】

第070話 鏡の中の世界

「どうして!どうしてこんな事!!」


お母さんが
私の手首にタオルをきつく巻きつける。

泣き叫び発狂しながら。


気がつくと私は
お母さんの胸の中にいた。


狼狽しきったお母さんが
「ごめんね!ごめんね!ごめんね!!」
と搾りだすような声で繰り返す。


『昨日の喧嘩が原因で
手首を切ったと思っているんだ・・・。』


ぼんやりした頭でそう思い
お母さんがとてもかわいそうに感じる。



「…お母さん」



「違うの…。」



お母さんの胸に抱きしめられながら
本当の理由を告げようとして
私は小さく口ごもる。


ウェッジウッドの
白地にストロベリー柄のバスタオルに
みるみる血が滲んでいく。


泣きすぎて

目が腫れているからか
視界が狭くなり
ひどく狭い世界にいるように感じる。


正面にある鏡には
お母さんに抱かれて
肩を落とし頭を垂れ
ダラリと横座りをしている少女の姿が映っている。


鏡の中に別の世界が存在していて
惨劇の起こった舞台は鏡の側で
今の私とは関係ないみたい・・・。


歪曲した次元を通り抜けて
同じ時間、同じ空間なのに
実は違う世界にいるみたい・・・。


そんな不思議な感覚に襲われる。


何かが少しだけズレていて
全体がピタリと重ならない。


例えば
ワンピースだけが
違う種類のものと入れ替わり
絶対に完成する事のないパズル。


六色きちんと同数あるのに
なぜか六面に成り得ない

ルービックキューブ。


半覚醒状態の虚ろな頭で
そんなものを思い浮かべた。


血の気が完全に引いて
顔は青ざめ
足の先まで冷たくなっている。


体が冷えているのに
手首だけが燃えるように熱い。


ヒリヒリと焼けつく痛みだけが
かろうじて過去と現在を

そして
鏡の中とこの場所を繋ぎ止めていた。


kagami


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