第064話 実家 | らぶどろっぷ【元AV嬢の私小説】

第064話 実家

お母さんが荷物を車に運び込み
私は部屋の片付けをする。


少し前まで
私と優弥が一緒に寝ていたお布団をたたむ。


優弥が私の部屋から学校に行き
私は警察に補導されて
お母さんが迎えに来た。


数時間前には
予想だに出来なかった状況だ。


半年前は何もなくて
とてもさみしい部屋だった。


最後までテレビは買わなかったし
部屋に電話も引かなかったけれど
荷物はそれなりに増えている。


車に入りきらない荷物は
ダンボールにつめて
宅急便で送る事にする。


もう明日からは見る事はない
窓から外を見ると
銀杏の木はすっかり葉を落としていた。


空っぽになった部屋を最後に見渡し
短い間だったけれど
それなりに愛着のある部屋に
別れを告げる。


私は
7人の小人のぬいぐるみの中から
眠そうな顔をしている『優弥』だけを手に持ち

一緒に車に乗って膝の上に乗せた。


お母さんは不思議そうに

「何なの?それ」

と聞いたけれど

私は

「ちょっと思い入れがあってね。」

とだけ言った。


『今夜も優弥のお店に遊びに行く約束してるのにな。』


今日は優弥に会えないのかと思うと

さみしさと共に不安を感じた。


これからの事を考える気力が今はない。
なんだか力が抜けてしまった。


高速を降りてからは

長い一本道で

私の実家は閑静な住宅街にある。


広い道路は綺麗に舗装され

均等に植えられた街路樹や

ゆったりと建ち並ぶ家々を見て

とても綺麗だなと思う。


見慣れていた景色のはずなのに

住んでいた時には気がつかない事ってあるんだな。

と感慨深い。


実家についても
私は気持ちの整理がつかずに
「疲れたから少し寝るね。」
とそのまま自分の部屋にいった。


私の部屋は
出て行った時のままで
なつかしい匂いがする。


子供の頃は

弟と二段ベットだった木の箱みたいなベットに

つっぷして寝転がった。


そういえば
美咲は大丈夫だったかな。
と心配になる。

美咲は少し前に18歳の誕生日を迎えていたから
大丈夫かもしれない。


優弥と美咲に連絡しなきゃと思うけれど
何もする気がおきない。


ピンクのカーペットや
本棚に並ぶ少女漫画や
机の上に置かれたままの教科書を
しばらくぼんやりと眺めているうちに

私は眠っていた。


お母さんの
「ご飯よ。」
という声で目を覚まし

リビングへ行く。


5人掛けのテーブルに
お父さんと弟と妹が座っている。


お母さんは

台所からお料理を運んでいる途中だ。


私の場所は

ちゃんとあいていて

まるでこの半年間が

長い夢だったかの様に感じる。


お父さんは

私の顔を見るなり

目を細めてうれしそうな顔をした。


5歳年の離れた弟が
「おかえり。」
と言い、それに続いて
10歳下の妹も
「おねーちゃん、おかえりなさい。」
と言ってくれた。


お母さんにそう言うようにしこまれてるな。
と思ったけれどその微笑ましさに
また熱いものがこみ上げてきてしまう。


私は前と変わらない明るい声で
「うわーー!超おいしそぉ~!」
と喜んだ。


家族の中での私の役割は

明るい存在でいる事だった。


お母さんが腕を振るったお料理が

テーブルいっぱいに並べられて
本当にすごくおいしそうだ。


家にいた頃は

これが普通の日常だったけれど

今の私には感謝の気持ちがあった。

                         
いつでも
『時間になるとご飯の準備がされていて
私はただ食べるだけ』というのは
決して当たり前の事ではないんだと

この半年で私は知ったのだ。

                      

私はそれを素直に言葉にした。


「家を出てはじめてわかる事ってあるでしょ。」
とお母さんは笑って
「いいから、早く食べなさい。」
とみんなに食事を促した。


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