第063話 お母さん | らぶどろっぷ【元AV嬢の私小説】

第063話 お母さん

家出をしてから

お母さんに連絡をしたのは一度だけだ。


その時も

「水商売の寮に入ったから心配しないで。」

とだけ伝えて

一方的に電話を切った。


取調室を出て
最初にいた大きな部屋に戻ると
お母さんが来ていた。


お母さんは
少し切ない様な優しい顔で

「何やってるの。」

と小さく微笑んだ。


いろいろな感情が入り混じり
熱いものがこみあげくる。


でも私は
「頭下げるのが先生じゃなくて警察になっちゃったね!あははは」
と底抜けに明るい声で
おどけてみせた。


お母さんは
私が本当にピンチの時には
いつも優しい。


最終局面では
いつだって親は
私を助けてくれる。


お母さんが来た事で
子供の役割に戻るのを感じながら
「かつ丼食べたいなぁ。」
と舌を出して悪ふざけした。


お母さんは
「まったくもう。」
と苦笑して
その場にいた警察官からも
微笑みがこぼれた。


普段の私が大人のふりをしているのか

今の私が子供のふりをしているのか

自分でもよくわからない。


お母さんは
「親の監督不行き届きですいませんでした。」
と申し訳なさそうに頭を下げている。


私にはお馴染みの光景だったけれど
今日はその言葉の響きに

なつかしさを感じる。


警察も
お母さんのそつのない対応に
問題ないと思ったのか
たいしたお咎めもなく
警察署から送り出してくれた。


お母さんは車で来ていたので
そのまま寮に

荷物を取りに行く事にした。


ハンドルを握るお母さんの手を見て
ずいぶん痩せたように思う。


「お母さん痩せたね。」


そう言って
お母さんを見ると
運転しながら

声を出さずに泣いていた。


私は少し驚き
それから
我慢していたものが
一気に溢れだして
ぽろぽろと
止め処なく涙を零した。


私とお母さんの感情が
車の中で溶けあい
一つになっていく。


この半年間

私は親の思惑に反してやるという

意地だけで

孤立無援生きてきた気がする。

『お母さん。お母さん。お母さん。』

どうしても声には出せなくて
心の中で何度も何度も
『お母さん』と
繰り返し呟いていた。


dsd


続き気になる人はクリックしてね♪

rankm