今回は、より想定しやすい身近な問題から見ていきたいと思います。

テーマは『ヘイトスピーチと表現の自由』です。

 

今回扱う法律の内容は民法の損害賠償請求制度と憲法の表現の自由・平等権などの話になります。

 

近年、ヘイトスピーチが増加しているというニュースを聞くことも多いのではないでしょうか。

グローバル化が進む中、日本でも他人事ではなくなってきているこの話題です。

 

では、ヘイトスピーチを憲法的な視点から考えたときに、どのような問題点があるでしょうか。

先ほど申し上げた通り、日本国憲法では表現の自由が認められおり、

 第二十一条 
    集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。

というふうに定められています。

表現の自由が認められている根拠としては、個人の自己実現として大切な手段であること、現代の民主主義社会において政治的参加を促す社会的価値があることなどが言われており、どんな表現でもこの憲法21条の保障範囲に含まれるとされています(もちろん、他の利益との調整で制限されることはあります)。

 

ヘイトスピーチは、内容に差別的な発言が含まれているにしても、それを行なっている人にとっては、自己実現の手段であり、国の移民政策などに対する政治的意思の表明となっている可能性はあるのです。

 

ただし、ここではもう一つ憲法14条の平等権という問題が生じます。

第十四条
すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
 

憲法は人種により差別されないということを14条の平等権のもと保障しており、ヘイトスピーチの内容はこの平等権に違反するのではないかという問題も同時に生じます。

 

ここで、ヘイトスピーチが問題になった判例を見ていきたいと思います。

 

原告(訴える側)は学校法人京都朝鮮学園で、被告(訴えられる側)は「在日特権を許さない市民の会」という、在日韓国・朝鮮人に対する入管特例法などを在日特権と定義し、その廃止を目的として設立された会です。

 

ホームページには、

 在特会とは、在日特権を廃止するために活動する愛国市民団体です。私たちは在日特権の根幹である入管特例法を廃止する事を目的に、日々活動しております。その目的のために、私たちは集会・勉強会・公開討論会・デモ・街頭宣伝等の公益活動を行っております。

との記載があり、実際この事件でも在特会の元メンバーら8人が、京都朝鮮第一初級学校近くで、拡声器を使って「朝鮮学校を日本からたたき出せ」「ゴキブリ、ウジ虫、朝鮮半島へ帰れ」などと怒声を浴びせる街宣活動を繰り返したことや、この映像がインターネット上で公開されたことが問題となりました。

 

この裁判では、原告が民法の不法行為に基づく損害賠償を求めたもので、結論としてはこれが認められることになりました。

第709条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
この不法行為というものは、とても幅のある概念で、この条文の要件を満たせば、それに基づく金銭の賠償請求が認められるというものです。今回のケースでは、ヘイトスピーチに違法性が認められるとして金銭賠償が決定しました。あくまでこの事件においての違法性判断が中心であったので、憲法の問題にはあまり触れられませんでした。しかし、違法性が認められたということには大きな意義があります。
 
この違法性の中で、国際規約である人種差別撤廃条約に違反しないかということが争われましたが、
本件示威活動における発言は,その内容に照らして,専ら在日朝鮮人を我が国から排除し,日本人や他の外国人と平等の立場で人権及び基本的自由を享有することを妨害しようとするものであって,日本国籍の有無による区別ではなく,民族的出身に基づく区別又は排除であり,人種差別撤廃条約1条1項にいう「人種差別」に該当するといわなければならない。
 
との判断を下しています。
表現の自由との関係は正面から論じられることはありませんでしたが、ヘイトスピーチにより金銭賠償が認められるに至ったというこの意味は大きいのではないでしょうか。
 
今日はこのくらいで終わりにしたいと思います。
最後まで読んでくださりありがとうございました!