是日々神経衰弱なり
【生島マリカ(いくしま・まりか)】

1971年、神戸市生まれ。最終学歴小学校卒。在日2世。

複雑なアイディンティティを持つ両親のもと幼少期は乳母に育てられる。異母異父姉兄9人。

生母の没後すぐ父親の再婚を機に13歳で家を出され、単独ストリートチルドレンとして残飯を漁りながらネオン街で育つ。その後、モデル、社長秘書、北新地と銀座のホステス、クラブ経営などを経て3度の結婚と離婚を繰り返す。

2度の癌を経験し、40歳を目前に、自分が死ねば同じく天涯孤独になる一人息子への遺言を兼ね、文章を書き始める。

2012年夏に真言宗某寺にて得度。同年春に撮り下ろした荒木経惟撮影の写真集を刊行予定。


「不死身の花」新潮社刊
2015年12月22日より全国の書店またはAmazonなどで発売。
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いや〜 たったいま大変な目にあってました。

 

日頃からタクシーを使う機会が多いわたし。

ということは、様々な運転手さんに遭遇することも人より多い。

 

たまにタクシートラブルをツイッターやこちらのブログでも書いていますが、今回は最悪。

 

 

 

今夜は時間が押していたため、テレ朝通りのマッサージ店から

ミッドタウン近くのジムに行くのにタクシーを使うことにしました。

 

道の向こうから黒いタクシーが見えました。ああ、あれが来たら乗ろう。

 

そう思った矢先に、手前の道を左折して現われた緑色のタクシーが

黒いタクシーに割り込むカタチで先にわたしの前につけ、ドアを開けた。

 

急いでいるわたしはその緑色のタクシーに乗り込み、すぐに行き先を告げた。

 

「ええと、このまままっすぐ行ってグランドハイアットを越えて右斜めに。六本木通りに出て

六本木の交差点を左折。ミッドタウン前まで行ってください」

 

運転手はわたしから行き先を聞き終える前にメーターをたおし、

向き直ってわたしに言った言葉は、

 

「あのさ、このへんの道ってよく分からないんで説明して」

 

は?は?は?耳を疑った。またか!!

しかし急いでいるため怒ってもいられない。説教は次回や。

 

「あの、このあたりの道がよく分からないんだったら最初から言ってください。

そしたら乗らないんで。急いでますからとにかく降ろしてください」

 

「降りるのはかまわないけど、金払って」

 

「は?なんで道も知らない、動いてもいないのに代金を支払うんですか。冗談じゃない、降ります」

 

「いいよ、じゃ電話するからね」

 

「どうぞ」

 

運転手はどこかへ電話をかけだした。わたしはてっきりタクシーセンターかその運転手の会社に電話をかけたと思った。

上等だ。お望みならばあなたの愚行を告げてあげましょう。しかし、電話を代われと促すも無視。

 

予約の時間がせまっている。なんでわたしが彼の電話が終わるのを待っていなきゃいけないんだ?

 

「あの、電話に代わらなくていいなら急いでるんで降りますよ」

 

やり取りはものの2分もかかっていない。車には乗り込んだが1mmも動いていない。

 

 

予約時間まであと10分しかない。早く早く早く!!!

 

念のためボクシングの先生にまえもって5分遅れの連絡を入れているとはいえ、

遅刻しないにこしたことはないのである。社会人として当たり前のこと。

 

 

それにこの運転手がどこやらと電話でダラダラと話しているのを待たねばならない理由もない。

付き合うのはやめ、さっさと降車して、初めに乗ろうと見当をつけていた黒いタクシーを停めた。

 

「あら、お客さん。どうして前の車を降りちゃったんですか?」

乗車するやいなや訝し気に質問された。

 

「あの運転手さんミッドタウンが分からないっていうし、行き方を教えても道を知らないから

ぜんぶ細かく説明しろとか言われて。急いでるから降りたんです。なんだか気持ち悪い運転手さんでした」

 

「そうだったんですか。たまにいるらしいですよね、困った運転手」

 

「ミッドタウンわかりますか?」

 

「わかりますとも」

 

「近くて申し訳ないんですけど、なるべく急いで行って下さい!」

 

そして気を取り直して目的地に向かった。その運転手さんは行き先を告げるとスムーズに目的地へと車を滑らせた。

2分くらい経ったころあいだったろうか、突如サイレンを鳴らしたパトカーが後ろから近づいてきた。まさかな。

 

 

そのまさかだった。

 

 

緑色のタクシー運転手が電話していたのは会社やタクシーセンターでなく警察だったのだ。

警察官の声がスピーカーの大音量で拡散された。よりによって六本木のど真中だ。今すぐ止まれという。

 

 

権威を使って非常識を通そうというのか。

 

この状況に、わたしは変な闘志がメラメラと燃えた。

不当には屈しない。理不尽を認めることはできない。

 

 

警察官とのやり取りは、黒いタクシーに乗ったままで開けられた窓越しに始まった。

わたしは何も悪いことをしていない。絶対に車から降りませんよ。

説明によれば、緑色のタクシーの運転手による乗り逃げの通報で駆けつけたという。

 

 

は?なんですって?乗り逃げ?は?誰がぁ?!

 

いうにことかいてよくも乗り逃げだなどと。冤罪を着せるつもりか。

 

 

何回もいうがわたしはものすごーく急いでいるのである。

 

 

身分証明書と電話番号を警察官に渡して事情と状況を説明。

同じく、乗り換えた黒いタクシーの運転手さんも警察からの質問に答える。

 

 

緑色のタクシーに乗って降りた地点と、黒いタクシーに乗った地点はあたりまえだが同じ。

それでどうして乗り逃げ被害などと言えるというの。

 

10分経過。

 

警察官がやってきて、相手の運転手がお金を払ってくれと言っているよと。

嫌です、そんなの。

 

道を知らないから教えろ、なんて言われて急いでいたから降りただけなのになぜ料金を払う義務があるのか。

だいいち1mmも走っていないし、目的地まで乗せてもらってもいない。

 

受けてもいないサービスにお金を払えるか。もらってない商品に金を払えなんてそんなのヤクザじゃないの。

 

410円。絶対に屈しませんよ。

 

15分経過

 

また警察官がやってきて、今度は運転手が話し合いたいと言っていると伝えてきた。

絶対に嫌です。わたしはがんとして拒否した。車内カメラと走行記録を確認してください。私は嘘を言ってません。

 

15分経過。もうこの時点でマッサージ店を出てから50分ほど経過していた。

 

遅刻から、もう間に合わないとの連絡を先生に入れた。

「僕の方は大丈夫です。落ち着いたら連絡してください。しかし災難ですねえ…」

 

さらに10分経過。イライラしてきた。

 

なんなのこれは。遅刻からキャンセルになってしまったじゃないの。

この運転手のせいで、ボクシングジムに行けなくなったり時間を奪われたり。

 

さっさと410円を投げつけてジムに行くのは簡単。

でも、ここで屈したらダメ。こういうことをまかり通らせたらアカン。

 

楽しみにしていたキックボクシングをキャンセルする羽目になり、

わたしの心はクールダウンしていった。

 

「ああもういいですわ。わかりました。民事裁判しましょう。わたしは絶対に払わない。

そっちが裁判を起こすならしてください。ここで帰らせてくれるならやらないが、もしこれ以上ゴネるなら、

わたしのほうも時間を奪われてトレーニングジムへ行けなかった分のキャンセル代金や迷惑料を請求することにします」

 

不当な410円。たった410円でも払いたくないものは絶対に払わない。

 

たとえ裁判費用に100万円かかってもいい。わたしは間違ってないし嘘もついてない。

 

「どちらが嘘をついているか、車内のカメラ、ドライブリコードや走行履歴を見れば分かることですから、

公にどちらが本当のことを言っているか明らかにしてもらうことにしましょう。わたしはかまいませんよ」

 

この時点で警察官らはわたしが嘘をついていないことくらいは、

後に乗った黒いタクシーの運転手の証言もあり、分かっていたと思う。

 

 

すいませんおねえさん、運転手が折れました。もう目的地に行かれていいですよ。

 

 

解放されるまで約1時間弱。

とっくに目的地に向かう用は無くなったわ!!!

 

 

ほんとにとんでもなく常識が欠落したひとに巻き込まれましたわ。

 

あのとき納得のいかない410円を投げつけてその場を去ることもできた。それも道。

関われば確実に自分の時間を失うことにはなるからね。

 

でも、やっぱり間違ったことはまかり通らないってことを認識するチャンスだとも思うんですよね。相手も、わたしも。

 

 

 

黒いタクシーの運転手さんは、緑色のタクシーの運転手が警察官にゴネている間も、

ただのひとことも文句を言わず、静かにしていてくれた。

 

まったく無関係なのに立ち去らず、必要な証言もしてくれ、終わるまでメーターを止めて

キチンと最後までいてくれた。その場に居合わせた自分の責任として。

 

 

馴染みの女の子にマッサージをしてもらってリラックス。からのボクシングジムでトレーニング

をするはずが、とんだ事件に巻き込まれてしまったが、

黒いタクシーの運転手さんに行き先を変更し自宅へと送ってもらった。

 

 

「いやあ、わたしから言わせてもらってもあの運転手の言い分はおかしいです」

 

無事に自宅へ到着。

 

 

わたしが悪いわけでもないんですが、お時間を取らせちゃって申し訳なかった。

ただ、運転手さんが警察に見たこと聞いたことを証言してくれて嬉しかったですわ。

こういう場合は面倒なことには巻き込まれまいとどっか行って逃げちゃうひとも多いのに。

 

 

「夜半は寒いんで、これであたたかいコーヒーかラーメンでも召し上がってください」

少し多めに代金を渡すと「いいえ、いただけません」と。なんて謙虚な人だ。さっきの運転手とは大違い。

 

「そんなことおっしゃらないで」「いえ、こまります」「お願いです。受け取ってください」「では…これだけ」「だめです。それではわたしの気がおさまらない」「ああ、いやあ、それではありがたくいただきます」

 

このような心の美しい方と関われるとこちらも奇麗な気持ちになれるよね。こっちがありがたいよ!!!

 

それにしてもこの件で感じたのは、救急車やパトカーを気軽に呼ぶなってこと。まったく…

 

 

警察も救急もよろずやと違うねんで!!

 

 

 

警察官に子供騙しな嘘をつき、不当な410円を支払わせようとした緑色のタクシー運転手。

 

わたしを犯罪者に仕立てようとした愚か者。

 

 

 

世の中はな、どんなに荒んでいようがこんな無理無体はまかり通らぬのじゃ。わかったか、バカ者め!!