閑話休題3 雪山の怪
先日近くの山に登った。その朝降った雪が5cmくらい登山道をおおっていた。駐車場に車がなかったので、先行者はいないと思っていたけれど、登山道には大小二人分の足跡がついていた。きっと夫婦で登っているのだろう、と勝手に想像しながら後をついていった。 足跡というのはおもしろいものだ。その人の歩き方が分かり、その情景まで想像できる。一歩一歩順調に進んでいた足跡があるところで両足揃って、立ち止まり後ろ向きになる。ああ、疲れて立ち止まり、自分の歩いてきた道を振り返っているんだな、とか、たたらを踏んでよろけた足跡からはバランスを崩してあわてている顔が思い浮かぶ。一人の山歩きも先行者の足跡を見ていると、一緒に歩いているような気がしてくる。 しばらくして上から声をかけられる。下りてくる人が私を待ち受けていたのだ。道を譲ってくれたお礼を言ってすれ違い、なおも進む。険しいところでふと気が付くと、先行者の足跡はあるのに、今下ってきた人の足跡がないのだ。そんなはずはない。今確かにすれ違ったのだから、必ず足跡はあるはずだ。登山道を外れた所にもない。あの人はどこをどうやって歩いてきたのだろう。 超常現象は信じないいたって現実的な人間なのに、不思議でしょうがない。考えられることは ①出会ったのは気のせいで、本当は誰にも出会わなかった。 ②彼女は現代の山姥で、人を惑わせて喜んでいる。 ③私と出会う直前、わき道から出てきた。 ④私と出会ったところで引き返した。先には行っていない。 ④しかないだろうな、でも②だったらおもしろいな、などと考え、その日の山歩きを楽しんだ。 さて、人の足跡のことを書いたけれど、自分はいったいどんな足跡を残しているのだろうか?