「日本のうた」である子守歌を滅ぼしてはいけない。子守歌は、母の歌であり、いのちの賛歌でもある。
大切に歌い継ぎ、親と子、人と人の絆(きずな)をつむいでいきたい。
ねんねんころりよ おころりよ
坊やはいい子だ ねんねしな
坊やのお守りは どこ行った
あの山越えて 里へ行った
子守歌は「母から子、そして孫へ」と歌われてきた“題名のない名曲”といえる。大名の参勤交代に伴っ
て各地に伝わり、多数の類歌を生んだ「江戸の子守唄(うた)」もあれば、「五木の子守唄」のようにそ
の土地で自然発生的に育ったものもある。
歌ってくれた人の数だけ子守歌はある、と言われるのも、その時々で自由に歌われてきたからだろう。
子守歌を聴くと、人はなぜか心がほほ笑んだり、切ない気持ちになる。心の一番深いところに触れるから
に違いない。母の背で聴いた歌は、子どもの心の中に無意識に記憶される。愛情の原点といっていい。
作家西舘好子さんは六年前、民間非営利団体(NPO)「日本子守唄協会」を設立した。埋もれた子守歌を
探しては、譜面化し続けている。子守歌を通して「いのちの大切さ、家庭の平和」を考え直そうという思
いからだった。
その西舘さんは、最近の子どもは子守歌を知らないと嘆く。「揺籃の歌」(ゆりかごのうたを…)「こも
りうた」(ねんねや、ねんねや…)「ブラームスの子守歌」と、すてきな子守歌がたくさんあるのに残念
なことだ。
ある育児用食品メーカーが行った「子どもの寝かしつけ」調査によると、「子守歌を歌ったことがない」
と答えた若いお母さんは22.4%に上った。一方で「ほぼ毎日」が14.6%、「時々」は31.1%だった。家庭
で子守歌が歌われなくなっている。
泣げば山がら もっこア来るじゃ
泣がねば海がら じょうじょ来るじゃ
あんまり泣げば かましコ下げで
袋下げで もっこア来らア したはで 泣ぐな
岩崎地方(深浦町)に残る子守歌だ(「日本わらべ歌全集」から)。
「地域の中で子守歌が聴かれなくなって、犯罪が増えたという学者がいます。子守歌は人が最初に聴く歌
であり、母親がわが子に歌う最初の歌。親と子の絆をつくる素材です。大事に伝承していきたい」という
西舘さんにエールを送るとともに、ぜひよろしく、と頼みたい。
忙しい世の中である。日々の生活の中で、やすらぎやゆとりが失われがちだ。そんな時代だからこそ子守
歌を歌ってあげてはどうか。親子の愛情をはぐくむのにきっと役立つだろう。
家庭教育のあり方が問われている今、心の絆、人間の原点を見つめ直したい。
2006年3月24日付 東奥日報「社説」より抜粋
大切に歌い継ぎ、親と子、人と人の絆(きずな)をつむいでいきたい。
ねんねんころりよ おころりよ
坊やはいい子だ ねんねしな
坊やのお守りは どこ行った
あの山越えて 里へ行った
子守歌は「母から子、そして孫へ」と歌われてきた“題名のない名曲”といえる。大名の参勤交代に伴っ
て各地に伝わり、多数の類歌を生んだ「江戸の子守唄(うた)」もあれば、「五木の子守唄」のようにそ
の土地で自然発生的に育ったものもある。
歌ってくれた人の数だけ子守歌はある、と言われるのも、その時々で自由に歌われてきたからだろう。
子守歌を聴くと、人はなぜか心がほほ笑んだり、切ない気持ちになる。心の一番深いところに触れるから
に違いない。母の背で聴いた歌は、子どもの心の中に無意識に記憶される。愛情の原点といっていい。
作家西舘好子さんは六年前、民間非営利団体(NPO)「日本子守唄協会」を設立した。埋もれた子守歌を
探しては、譜面化し続けている。子守歌を通して「いのちの大切さ、家庭の平和」を考え直そうという思
いからだった。
その西舘さんは、最近の子どもは子守歌を知らないと嘆く。「揺籃の歌」(ゆりかごのうたを…)「こも
りうた」(ねんねや、ねんねや…)「ブラームスの子守歌」と、すてきな子守歌がたくさんあるのに残念
なことだ。
ある育児用食品メーカーが行った「子どもの寝かしつけ」調査によると、「子守歌を歌ったことがない」
と答えた若いお母さんは22.4%に上った。一方で「ほぼ毎日」が14.6%、「時々」は31.1%だった。家庭
で子守歌が歌われなくなっている。
泣げば山がら もっこア来るじゃ
泣がねば海がら じょうじょ来るじゃ
あんまり泣げば かましコ下げで
袋下げで もっこア来らア したはで 泣ぐな
岩崎地方(深浦町)に残る子守歌だ(「日本わらべ歌全集」から)。
「地域の中で子守歌が聴かれなくなって、犯罪が増えたという学者がいます。子守歌は人が最初に聴く歌
であり、母親がわが子に歌う最初の歌。親と子の絆をつくる素材です。大事に伝承していきたい」という
西舘さんにエールを送るとともに、ぜひよろしく、と頼みたい。
忙しい世の中である。日々の生活の中で、やすらぎやゆとりが失われがちだ。そんな時代だからこそ子守
歌を歌ってあげてはどうか。親子の愛情をはぐくむのにきっと役立つだろう。
家庭教育のあり方が問われている今、心の絆、人間の原点を見つめ直したい。
2006年3月24日付 東奥日報「社説」より抜粋