第165

 

 

 

高校に入学してすぐバイトをはじめてね

そのままづっと卒業までの3年間

よくもまぁつづいたと思うのよねほんとに

 

こちらおっちゃんむこうはおばちゃん

たがいの過去を語りあうなか

ぜんぜん知らなかった事実をきかされました

 

つまり母親ではなく女だったのかな

相手がいちばんでわたしはその次

もしくはどうでもよい存在だったのかも

 

学費のやすい公立高へすすむには

ちょいと学力が伴わぬ立場であるがゆえ

やむなく私立高しかえらべぬ身すなはち

それなりの学費を覚悟せねばならぬ状況です

とはいえまさかじぶんがその責を負わされるとは

まったく思わぬ展開に愕然としたことでしょう

 

ずいぶんと貧乏だったなぁ

それをかくすこころの余裕なんてなくてさ

だからわかってくれるひともいた

 

バイト先はスーパーの恩人

彼女のくらしぶりを知るパートのおばちゃんが

まわりにそれとばれぬようでもいつも

廃棄すべき惣菜を分けてくれたそうです

 

そんなくるしい原体験がおそらく

彼女をつよくぶっとく逞しくしたのですね

齢相応のあれやこれやをのりこえて

あっぱれに暮らしていることでしょう

 

ちょっとやんちゃしたけどさ

まぁいいでしょいまさら

 

いっしょに浸かる泡ぶろのなか

からだの一部にある彫り物を手でおおい

でもすぐ露わにしてはいささかの照れ笑い

 

Ball and Chain

Wall mais Obtain

 

達者でいてねいつまでも

 

 

 

 

 

 

第164段

 

 

 

いきつけのスーパーの駐車場

あさ9時あたりに軽自動車であらわれては

たぶん日没あたりまでおなじ位置

づっと居つづけるおっちゃんがおりました

 

野良着の身なりにアポロキャップは農協テイスト

小柄なおっちゃんはスポーツ紙がだいすき

されどそれを愉しむ時間をのぞきほとんど

運転席にぢっとづっとすごすのです

 

もちろん用足しはトイレにて

腹っぺりには弁当なんぞを購い

されど店内の片すみすわるところには

けっして近づかぬ潔さがございました

 

もわぁんと暑い夏のなか

首にてぬぐいをまきつけては

ぐったりうなだれるも脱水症状をねじふせ

びりりと痛い厳冬なのに

エンジンはかけずもっこり着込み

正ちゃん帽にひたすらぢっとすごします

 

そんな様子が数年つづいたはづ

ところがふいと姿を見せなくなりました

おなじ場所にあの軽がおるかしら

いくたびに確認するもいつも空振り

くるまを替えてはちがう位置におるかしら

でもどこにもおっちゃんはいないのです

 

古女房からごみ扱いに追い出され

嫁と相性芳しからずおなじ空気を吸えず

助け舟だせぬ非力なせがれにも追いやられ

他人とおなじむすめにも相手をされず

せめてもの孫にもかけるかけられることばなく

じつはその原因はぜんぶおっちゃん

もしそうだとしてもいまどこにいてはるのでしょう

 

Where have you gone

That's not what I'd like to say

Where have you been

That's what I want to say

 

 

 

第163段




ちょいとくるまで湯浴みへと

温泉によぉつかります

ちっさなところも湯治場も

温泉街とやらもすぐさまに

なんてなぢみはそのひとつ

まいど独りに泊まります


いつもありがとうございます

いぇいぇすぐです

呼んでみましょう


チェックインしてすぐさま

いつもの部屋のでんわが鳴り

いつもながらの朗らかなお嬢さん

別館に仕事中の同僚を

わざわざ呼んでくれるのです


いらっしゃいませ

ごゆっくりお過ごしくださいね

あすのあさまで勤務ですゆえ

よろしくおねがいします


なんてたをやかなお嬢さん

ふたりの弾ける声音に迎えられ

湯浴みのまえすっかり上機嫌にございます


大株主でもなけりゃ

上得意でもなしに色男でもない

ただ笑かしたいのそれだけに

冗談たれながしのあたくしに

ポップでファンキーなごあいさつ

この人間臭さあってこそ

またも泊まりにいくのでしょう


ただそこに居るだけで好い

なんておもえるそうですね

リッツカールトンやパークハイアット

マンダリンにペニンシュラでなくとも

ぢゅうぶん心地好いってのは

やはりホテルの愉しさですね


ずいぶん価値観が変貌しました

これまでのあたくしですと

でっかい屋敷へのあこがれ

丘に建つゆるやかな空気

眼下に見遣る草木のみどり

つねに感ずる生き物の息吹き


なんてのをいつぞやぜひに

そう生きてきたつもりですけど

ホテル住まいが恋しくなりました

家財をミニマムにしぼりこみ

蔵書も辞書だけにしぼりこむ

うるわしさへの扉を開けたいですね


いらっしゃいませ

いつもお会いできますね

いつでもご用命ねがいます


ふたりの娘がいるような

もしもいたのならば

こんなきぶんなのかしら


Here to be Watered,

Dear Daughters!