これはタイトルでもわかるように、本に携わる人々の物語です。
 本といえば、現在は電子書籍もずいぶんと普及し、電子書籍は紙の本の売上の半分ほどにも達しています。 
 この本はそういった電子書籍という時代の波に戸惑いながら、紙の本の将来を不安に思いながらもなんとかそれを守っていこうと奮闘する人々の姿が描かれています。

 『時代』とは人が作るもの。
 最初は小さな流行りが次第に多くの人々に支持され広がり、ひとつの時代を作る。
 人々によって作られたはずの時代は、やがて人の手を離れ、大きな大きなうねりとなり、それを是としない人々をも飲み込んで行く。

 そのようなことは本の世界だけでなくていろんな世界で起こっていることで、その時代に翻弄されながらも自分達が大切にしてきたものを守り、それと共に生きてきた自分の人生を守っていく。
 この本はそういった時代の陰で自分の立ち位置を探し、迷い、守りながらそこに踏みとどまっている人たちの生き様を掬いとり、暖かい眼差しをもって描かれています。

 そして、本とは。

 自然災害で命からがら避難し毎日を生きていくことがやっとの状態にある時は、その重要性は衣食住の上に来ることは決してなく、音楽やお笑いなどのエンターテイメントと同じように、それに携わる人々を肩身の狭い思いにさせるものかもしれません。実際コロナ禍の時代にしばらく閉店を決めた書店や取りやめられたコンサートなど多々ありました。

 しかし『本は不急であっても不要ではない』と、ある登場人物のセリフに乗せて筆者の思いが綴られています。
 非常時には確かに不急なものですが、人生の営みにおいて娯楽は決して不要ではなく、むしろなくては生きていけないものであることも、それによって命が救われることもあるのだと思います。

 世に溢れるたくさんのモノは、出来上がったものしか見る機会は少ないですが、その向こう側にたくさんの人がたくさんの思いを抱えて一つのものを手を合わせて作り出しているということを、改めて気づかされる本でした。