この本は表題にもあるように、エボラウィルスについての闘いの記録です。 
 この本はナラティブ (物語風の)・ノンフィクションです。つまり実話です。 登場人物はすべて実在する、もしくは実在した人物で、筆者は可能な限りその方々と直接コンタクトを取り、取材を重ねてこの本を執筆されていました。

 私が新型コロナウィルスの発生以降、ウィルス関係の本を読んだのはこれが3冊目です。
 ですが前2冊はフィクション、今回はノンフィクション。圧迫感が違います。あの世界的に有名な作家スティーブン・キング氏も 、この本を『 私が生まれてこのかた読んだ最も恐ろしいものの一つである』 と述べられています。

 私はこれまでエボラ出血熱についての知識を、ほとんど皆無と言っていいほど持ち合わせていませんでした。 身体中の穴から大出血を起こして亡くなる感染症だというくらいの捉え方でした。

 現在エボラウィルスには五つのタイプがあるようですが、中でも最強なエボラ・ザイール株は、致死率90%にものぼります。感染すれば10人中9人は死に至るということです。 
 ウィルスが人の身体に入って増殖するスピードはあまりにも早く、体内組織は壊死し、細胞膜は破壊され融解し、 内臓組織はドロドロになり、身体中のありとあらゆる穴から出血を起こし、"崩壊" して、あっという間に亡くなります。
 しかしエボラウィルスは、短期間で劇症化するために、新型コロナウィルスのような世界規模での蔓延ということを避けられていることもまた事実です。感染者が動き回れないうちに亡くなってしまうからです。

 2014年から2016年にかけて、西アフリカ諸国で巨大なエボラ感染症のアウトブレイクが発生した時は、2万人以上の方が感染し、1万人の方が亡くなりましたが、今回の新型コロナウィルスによる死者は、それよりも桁違いに多い死亡者数を叩き出しています。

 もし新型コロナウィルスが突然変異を遂げ、エボラウィルスのような劇症型の強毒性ウィルスに変わってしまったとしたら。もしくはエボラウィルスが、 新型コロナウィルスのように空気感染で広がるウィルスに変わってしまったとしたら。人類の存続も危ぶまれる事態となるでしょう。
 ウィルスというのは、その環境に適応し、自らの形をどんどんと変化させていくことができる恐ろしい特性を持っていますので、可能性は充分にありますね。

 でも。 
 興味深い筆者の考察がありました。

 もしかすると我々人間こそが、地球にとっての寄生体ではないかと。
 人類の洪水のような増加、そして地球全域に及ぶコンクリートの "シミ" 、先進諸国に癌のように広がる工業廃棄物埋立地。 
 そしてその居住地は拡大の一途をたどり、生物圏を大量絶滅の危機に追いやっているという事実。
 その事実に対し、地球が自己防衛反応を起こし、人類に対して拒絶反応を起こしているのかもしれないと (本文参照) 。 
 筆者の言うように、地球の免疫システムによって、我々人類は今排除されつつあるのかもしれません。
 
 新型コロナウィルスの感染拡大は、私達に今こそ自らの生き方を振り返るべきだということを、示唆しているのではないでしょうか。
 私利私欲という物差しだけで自然を破壊し、我々にとって害のある動植物を駆逐し、あるいは商業化のために大量殺戮を犯すーー。
 そのような生き方を続けていたら、もしかしたらあの『復活の日』(著/小松左京) のように、 数ヶ月で人類が滅びてしまうような事態に陥る可能性も、なくはないと思います。

 強毒性のウイルスは、いつの日か自らが生き延びるために、弱毒化します。 ウィルスの住処となった人間その他の動物がさっさと死んでしまっては、自らもまた生き続けてはいられないからです。

 我々人間も、この地球で末永く存続したいと願うならば、自らを弱毒化する道を模索しなければならないと思います。