指揮者の父とチェリストの母の娘として生まれた、16才の女子高生の物語です。

 しかし母は、彼女が10歳の時に難病にかかり、病のことを夫にも娘にも知らせず、離婚して、黙って主人公のもとを去ってしまいます。ただ一人、後輩のチェリストにだけそのことを打ち明けて。

 その後輩のチェリスト、ある日突然主人公のもとにやってきて、あなたのお父さんと結婚したからと告げるのです。
 しかしこのチェリストも、主人公と出会った時にはもうチェリストではありませんでした。
 彼女もまた、ある病を抱えチェリストを諦めることを余儀なくされたのです。

 この、チェロを弾きたくても弾けなかった2人の女性の苦しみを目の当たりにし、主人公は決断します。
 
 10歳の時にチェロに別れを告げた主人公が、16歳になり、再びチェロを手に取り、その腕に抱いて昔の練習曲を奏でてみた時、彼女の指は練習曲を正確に記憶していました。
 それを表現したくだり👇。

 昔離れ離れになってしまった、大好きだった人。どんな人ごみの中でも、その人見分けられるみたいに。

 なんだか感極まって号泣してしまいました。

 音楽家の両親を持つということの複雑さ、音楽家の娘であるという運命の受け入れの難しさ、そして不器用だけれども娘を愛して止まない父親。

 この本は、音楽の話なので、読んでいるとすぐにピアノを弾きたくなってしまって困ります爆笑
 でも原田マハさんの本というよりは、なんとなく宮下奈都さんの本の匂いがしました。

 と思っていると。。

 なんと解説を書かれていたのが、その宮下奈都さんでした照れ

 物語は音楽がテーマですが、ピアノが好きでピアニストを目指そうとする男子高生と、音楽プロデューサーを目指す女子高生と、主人公の3人の成長物語・友情物語としても楽しめるお話です。

 音楽とは麻薬ですね。
 少なくともプロの音楽家を目指そうとしている者には、そしてプロの音楽家となってしまった者には。

 音楽をただ楽しむレベルに存在する、私を含め多くの人たちにとっては、音楽とは楽しみです。癒しです。時に心のいい薬でもあります。 
 でも、それに取り憑かれた者たちにとっては、もう抜け出せない宇宙空間。その心地よさと引き換えに、時には大きな物を失うことが分かっていても、そこに進まずにはいられない。
 いや本当は、何か大切なものを失うということさえ、わかってさいないのかもしれません。

 でも、それもまた、一つの人生なのですね。