8月22日、宇多田ヒカルさんの母である歌手・藤圭子さんが亡くなった。

私は、生きていることに悩み、苦しみ、人間を信じられなかった時期に、宇多田ヒカルさんの歌に救われた。

幼年期に友人を喪い、自分の存在意義を問い続けていた。
なぜ、何の為に、辛苦に耐えながら、自分は生きているのか。

#ヘッドフォンをしていると
人混みの中に紛れると
もう 自分が消えてしまったんじゃ
ないかと思うの
散らかった部屋に帰ると
君の存在で自分の孤独、確認する
ー「For You」
喪失感と自分の存在の希薄さを、代弁してくれると同時に、心に仄かな安らぎを与えてくれた。

君だけじゃない。私だけじゃない。
同じ想いをしている人が、
終わりなき孤独を抱えながら、それでも生きている人がいる。

そう語りかけてくれた気がした。

親の離婚騒動で普通の青春時代を奪われ、人より早く大人に成らざるを得なかった境遇も、同じだった。

そして、母に人生を狂わせられた、どうしようもない憎悪に似た感情と、それ以上の母性愛の希求。

周りからは母のようになるな、と言われながら、母と近似した人生を歩んでいくことへの嫌悪感と恐怖。

宇多田ヒカルさんも親の離婚により日米を往き来し、友達と別れ、どちらの国にも自分のアイデンティティを失った。離婚は絶対にしない。
そう思いながらも、宇多田ヒカルさんは離婚して、母と似た運命、時代を創った歌手・引退・離婚という道を辿った。

#母さん どうして
育てたものまで 自分で壊さなきゃ
ならない日が来るの
…何もつかめない手
夢見てたのはどこまで?
ー「Be My Last」

もし自分の母が自殺したら…いつか自分も同じ道を辿るかもしれない。
そのような気持ちが胸を過った。

どれだけ多くのファンに囲まれ、歌を愛され、有り余る富を手にいれても、彼女の孤独や心の傷は癒えないだろう。

それでも、彼女は再び歌うのだろう。
母が才能を見出し育て上げた、歌手の宇多田ヒカルとしてーー。

学生運動の最期を救った歌手・藤圭子さんのご冥福を申し上げます。



風よ惜しめ
一つこもり居る
薔薇の紅

本書はひどく暑い夏の盛りに始まり、四季をめぐって、翌年の雨がちの夏の暮れにひとまず終わった、うねり惑う思念の記録である。

一切の形式を無視し、
一切の形式を動員せよ。

解像すべき対象のほうが従来の形式など、とうに無視してうごめき、肥大しているのだから。

あぁ、ひどく暑い。
百日紅の花のしゃれたちりめん皺が、今日はこ憎らしく見えるほど暑くて、しきりに汗が滴るのだけれど、近ごろはずっと酔醒こもごも、境目のはっきりしない毎日だからって、それが私自身の影を濡らしたのに、熟した路面に吸われた刹那に跡形もなくなる。
まるで、なにごともなかったかのように……。

友よ熱き頬よせよ
消えゆく若き日を泣かん

「帰途」田村隆一
言葉なんかおぼえるんじゃなかった
日本語とほんのすこしの外国語をおぼえたおかげで
ぼくはあなたの涙のなかに立ちどまる

吉井勇
紅燈のちまたに往きて かへらざる
ひとをまことの われと思ふや

北原白秋「邪宗門」
香炉いま 一燈のかをり。
あはれ、火はこころのそこに。
さあれ、その 一燈のけむり、
かの空の青きみづしに。

青き花
そは暗きみどりの空に
むかし見し幻なりき。
青き花
かくてたづねて、日も知らず、また、夜も知らず、国あまた巡りありきし
そのかみの われや、わかうど。

そののちも人とうまれて、
微妙くも奇しき幻 ゆめ、うつつ、
香こそ忘れね、
かの青き花をたづねて、
ああ、またわれはあえかに
人の世の 旅路に迷ふ。