「あなたに会いたかったのよ」
そう言って、目をじっと見つめ
まるで外国人の挨拶みたいに
私の肩を抱いて来られた
それからもう一度
「あなたにずっと会いたいと思ってた」
っておっしゃった
そして、私の手首をつかんで
建物の奥へ奥へと引っ張って歩きながら
「話があるのよ、電話で話すことじゃないし」
「私ね、すごいことがあったのよ」
いい話なのか
それとも、よくない話なのか
見当がつかない
「私、すごいことがあったの
あなたに話したくて、待ってたんだよ」
この後、私は喜びを表すことになるのだろうか
それとも・・・ やっぱり読めない
約2年ぶりに会った方に
これほど素早く、親しげになのか深刻になのか
刺さるほどの勢いで手を引っ張られることは
普段は、ない
ここはその方の職場で
その方は60代の女性で、ここで
責任ある立場で仕事をなさっている
その方と初めて出会ったのもここで
もう9年位前だったと思う
今二人で座った売店前のイス
9年前もまさにこの売店前のイスでお話をした
私はこの売店のカウンターの角に
大きな大きなアヒルをデンと置いて
職員さん向けの『保険相談会』をしていた
まだまだガムシャラに意気込んで
私自身がお客さま対応をしていた時代だ
自分の体より大きなアヒルのぬいぐるみを抱え
定期的にこの企業で職員さん向けの
保険相談会をしていた
当時、そのような相談の機会はあまり無く
職員さんたちは、自分と家族の保険をちゃんと
考えるためにこのカウンター前に並ぶ
その家族のための保障の図を描いて
コンサルティングしていく
家族ごとに違う「図」をひたすら描くために
私はアヒルを抱えてここに繰り返し通っていた
今も同じ方法でその絵は描くけど
もう、あの頃みたいにたくさんはやらない
当時、この方が50代でいらっしゃった時
そうやってお客さんになってもらった
それから、少し働きすぎでダウンされた時
入院や手術の保険金支払いのお手続きをしたこともあった
普段はいつも忙しく働いておられる方、
急にお邪魔してもなかなか会えないし
ゆっくり話せるチャンスも多くない
そして今はお客さま対応のほとんどを
外回りのスタッフと内勤のスタッフとの連携で
やってもらっているので
私の出番はあまり無い
けれど、何でだろう
今日は、急に出来た空き時間
その方に会いたい、お訪ねしなきゃと、
急に、行こうと決めた
ご用があるわけでも、理由があるわけでもない
事務所から1時間ほどかかる場所
お邪魔してその方の部署へと入っていくと
やはり席にはおられない
あ、やっぱり・・お忙しいよね
それじゃ、置手紙でも・・と思いながら
振り向くと・・
じっと私のほうを見て立っておられた
ハグから、手首をつかんで廊下を歩き・・
ひざを突き合わせてイスに座った
私ね、すごいことがあったのよ
娘が、上のお姉ちゃんの方が
乳がんになった
2年ほど前にわかって、それから
本当に大変な日々を過ごしてた
あなたと話したかった
あなたのところの若いスタッフの方が来てくれて
私が紹介したあの方のところも、あの方のところも
いつもちゃんと訪問してくれて、安心してるよ
でもね、
うちの娘、乳がんになった
まだ30代なのに乳がんになって
本当に大変だったこのこと、あなたに言いたくて
海老蔵さんのところのマオちゃん
乳がんでしょ、進行性でしょ
うちの娘も同じかな
ステージ進んでて、手術は出来なくて
抗がん剤治療やってて
転移してるからね、もう抗がん剤しかなくて
お医者さまももっと早かったらっておしゃって
うちの娘ね、隠してたんだよ
病気になったこと
スポーツやってる子だからね
ダイエットかな、体絞ったんだろうねって
痩せたことも、そんな風に思ってた
何で、気付いてやれなかったんだろうかって
母親としてなんで・・・って
娘のダンナさんもね
僕がそばにいて、気付いてやれなかった
お義母さん、申し訳ありませんって言うんだよ
緩和ケアって言うの?
お医者さまが勧めるんだけど
娘は拒む
もう治療さえしない状態って解釈するのかな
断っちゃって
今、車椅子だよ
ダンナさんができることは全部してくれる
恵まれてるなって思う
子供がね、まだ中学生でしょ
本当は関西からこっちに呼び戻して
傍において看病したい
でも、娘にとって、今はもう
親じゃなくて、子供が家族でしょ
ダンナさんが家族でしょ
引き離すようなことしちゃいけないから
私が通って看病しようって決めたの
そしてね
妹がお姉ちゃんの傍に行って
毎日病院に通って看病してる
まだ独身で20代でしょ
仕事バリバリやってたあの子がパートに変わって
全力でお姉ちゃんの看病をしてくれてる
それが有り難くて・・・
私、あなたのFB、ブログ、毎日読んでるよ
楽しみに読んでる
心のケアとかしてるんだよね
あれだね
がんになったりすると本人だけじゃなくて
家族のケアも大事だよね
私、倒れちゃって
食べられなくて、水飲んでも嘔吐で
参っちゃったり・・
人間ってさ・・・
娘ががんになったって聞いたときね
人間って、あまりのショックの時って
座ったり、横になったり出来ないんだね
立ったままさ、夜中中ずっと立ったまま
座ることも横になることも出来なくて
ずっと立ちんぼのまま、
どうすることも出来ないんだ
なんだろね、あれ
乾いた両目がかっと見開いたまま
ここまで話され・・・
やっと、やっと
涙がポロポロとこぼれ始めた
バッグからティッシュを出して渡すと
大きく息を吸って吐いて・・をされ、
肩がひとつ、ストンと落ちた
悔しいことがひとつある
娘がね、あんな治療があるらしい、
試したい!
こんなこともあるらしい、
トライしたい!
って、少しも言わない
何でだと思う?
もっと、前向きにがんばって欲しいのに
お医者さんのおっしゃる提案だけに
力なく従う・・それだけ
ねぇ、何でだと思う?
私は
今は、エネルギーを奪われてしまってる時・・
なのかもしれませんね
と答えた
患者さんのそのような時を多く見てきた
そして、立ち上がっていかれる
エネルギーが満ちたときを迎えられる姿も
多く見てきたので
9年前、この売店前で
ご家族の保険の絵を描いた時
ご夫婦と、下の娘さんにお客さんになってもらった
そしてその後、
すでに嫁がれてご苗字の変わっておられる
上の娘さんの保険もとおっしゃり、絵を描かせてもらった
郵便でやり取りをしたものの
遠方のためかあまり積極的に話は進まなかった
つまり、私が考える
がん保険の備えが、上の娘さんには
準備できないで今に至った
親しくさせてもらっているお客さんの
大切な大切な娘さんの、いざと言う時
このように深刻な乳がんの治療の時
私はお手伝い出来なかったのだ
母親として、最も辛い時に
こういうときお手伝いすると約束したのに
「契約がない方」の娘さんががんに罹られた
目の前で泣いておられる
本来の「保険」でのお手伝いは出来ないのだけど
また会いに来ますと言って別れた
今より少しだけ前に目をやれて
未来の希望を見ていただくような言葉を差し上げて
がん検診、大事だね
書いてね
とニッコリされた
だから、今日のことをこうして
すぐに書くことにした
私自身も娘がいる身として
保険の・・特にがん保険の仕事をする身として
そして、娘も息子も
アフラックで社員として本気で
この仕事を勉強し始めたことも
私たち一族が、チームが、
本気である証明みたいなもので・・・
色んなことが絡み合って
気の利いた書き方にはなっていないと思う
けれど、
あえて今日のことを、今日書いてみた
チームメイプルが
本気でこの仕事をしていることは事実で
でも、こうして悔いとなってしまうことが起きるのも
また事実で
だからと言ってまだ何も無い平和な空気に
恐ればかりを持ち込んでする仕事ではない
でも、でも、でも・・
やっぱり私たちにはやるべきことがあって
伝えるべきことがあるのです
これ以上言っても空回りなので
今夜はここで止める
ミラクルなHAPPYへと進むことを願って
読んでくださってありがとうございます