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海外医療情報

海外の医療情報についてお届けします

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こどもを連れて海外旅行する人の数は増えつつあります。海外旅行はこどもにとってえがたい経験になるかもしれません。しかし、旅行によって、こどもがかかりやすい感染症にさらされたりした結果、思わぬ病気に見舞われることもあります。ここではこどもの持つ特徴に的を絞って、海外旅行で起こりうる問題への対応について考えましょう。

■乗り物に関する問題

■飛行機での移動
大人とこどもで一つのシートベルトを使用することは危険です。航空会社によっては、大人のシートベルトにつける形のこども用シートベルトを配ってくれるところもあります。こども用に座席を予約していれば、チャイルドシートを貸してくれる場合もあります。
乳児の場合、赤ちゃん用の小さなベッドが使えることがあります。前もって航空会社にご相談ください。
飛行機の上昇、下降にともなって、こどもでは耳の痛みがよく起こります。乳児には、不機嫌になったら哺乳瓶で飲料を飲ませられるように準備しておくとよいでしょう。また、年長児には、アメをなめさせると効果があります。
呼吸器の病気や、生まれつきの心臓の病気がある場合、飛行機の上昇にともない酸素が地上の80%程度に薄くなるため、病気が悪化することがあります。かかりつけ医に、飛行機での旅行が可能かどうか確認し、必要に応じて航空会社と相談して酸素などの準備をしてください。

■車を使った移動
国内での車の使用に準じて、チャイルドシートを確保してください。発展途上国では車にシートベルトが装備されていないことがあります。車での移動を考慮する際には、現地の情報を入手することが重要です。

■虫除けについて
こどもの場合、蚊でうつるマラリア、デング熱などの感染症は大人に比べて重くなりやすく、命にかかわることがしばしばあります。このような病気がはやる地域では、虫よけ対策を十分に行って下さい。特に以下に注意してください。

●エアコンのある部屋、窓に網戸がある部屋に宿泊し、できる限り蚊帳の下で寝かせるようにしなければなりません。
●バギーには蚊帳を張って使用することをご検討ください。
●屋外では長ズボンや長袖など、皮膚を覆る服を着せましょう。
●虫除け剤は皮膚が露出しているところにだけつけ、傷口を避けてください。
●虫除け剤は、こどもの目や口には使用せず、耳の周囲は量を控えめにしてください。
●薬による事故を防ぐために、こどもには虫除け剤を触らせず、大人が自分の手で虫除け剤を付けてあげてください。また、こどもの手の届かないところに虫除け剤を保存してください。
●こどもは手を口に持っていくことが多いため、こどもの手には虫除け剤を付けないようにしてください。
●外出から戻ったら、石鹸と水で皮膚を洗って虫除け剤を早めに落としてあげてください。
●蚊取り線香を使う際にはやけどに注意してください。

■下痢になった場合には
食べ物・水に注意をするのはもちろんですが、こどもは大人に比べて免疫がなく、また、手指の衛生が保ちにくいため、下痢をきたす消化器系の感染症にかかりやすい傾向があります。一旦下痢をし始めると、こども特に乳児は容易に脱水になりますので、水分補給をしっかりと行う必要があります。

次のような場合には、すぐに医療機関で診てもらってください。
●中くらい以上(表を参照)の脱水がみられる場合
●下痢に血が混じる場合
●38℃台後半の熱がある場合
●続けて吐いてしまい、水分がとれない場合
●よくわからないが具合が悪そうな場合

こどもの下痢に際してはORS(経口補水液)を使って、頻回に水分を与えましょう。ORSはほとんどの国で、売店や薬局で売っています。ボトルで売っている水や煮沸した水に加えて使用します。(ORSが手に入らない場合には自分で作ることもできます。こちらを参照)10kg未満のこどもには、下痢がある度に60~120mlずつ投与します。10kg以上のこどもでは、この倍を与えます。
母乳栄養の乳児には、母乳を欲しがるときに応じて母乳を与えます。

■動物に触らせないように
こどもは動物が大好きです。しかし、動物は安全ではなく病気を持っていると考えてください。狂犬病は症状が出ると助からない病気ですが、大人よりもこどもで死亡者が多いです。これは、こどもが動物を触りたがること、咬まれても大人に伝えないこと、身長が低く、脳に近い頭や首を咬まれやすいこと、咬まれた傷が深いことなどによります。

動物には近寄らないように、また、動物に触れたり、咬まれたりした場合には必ず大人に知らせるように、こどもに教えてください。
狂犬病のある地域(地図)で哺乳動物に咬まれたら、水と石鹸で徹底的に洗ってください。そして、直ちに医療機関を受診し、狂犬病予防のために狂犬病ワクチン接種を受けてください。

■水辺ではこどもの監視を
旅行中のこどもの死亡原因の第2位は、水の事故です。必ず水辺ではこどもを見張る人を決めておき、決してこどもから目を離さないようにしてください。
住血吸虫症が流行する地域では、殺菌処理されていない淡水で泳ぐと、この寄生虫がうつってしまうことがあります。こどもも大人も泳がないようにしてください。

■こどもは日焼けに弱い
新生児や乳児は皮膚が弱いため、日光にさらされないように十分に注意しなければなりません。(万が一、重い日焼けになったら直ちに医療機関で診てもらう必要があります。)日光の強い季節、強い場所では、赤ちゃんは日かげにおき、衣服で全身を覆うようにしてください。また、日焼け止めの使用もご考慮ください。

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今日の日本では、寄生虫病にかかる人は少なくなりました。ですが、海外ではとても多くの人が寄生虫病にかかり、そして命を落としています。寄生虫の恐ろしさを知っていただくため、いくつかの例をご紹介いたしましょう。

寄生虫の中には、脳に寄生するものが数多くあり、有鉤嚢虫(ゆうこうのうちゅう)はその一つです。有鉤嚢虫は、有鉤条虫(ゆうこうじょうちゅう)(サナダムシの一種)の幼虫で、主に豚の糞に含まれる虫卵で汚染された水や食品を摂取することにより人に寄生します。この寄生虫は体の様々な場所に寄生しますが、特に脳に寄生することを好みます。多数の有鉤嚢虫が脳に寄生することにより、脳が穴だらけになっていることがあります。有鉤嚢虫が脳に寄生すると、体が痙攣したり、意識を失ったり、失明したり、場合によっては死亡することがあります。有鉤条虫の虫卵は豚の糞だけではなく有鉤条虫にかかっている人の大便にも含まれています。家族が有鉤条虫に感染していると、家族の大便が原因で有鉤嚢虫にうつることがあり、自分が有鉤条虫に寄生されていると、自分の大便から自分に有鉤嚢虫がうつってしまうことがあります。

エキノコッカス症は、主に肝臓に寄生するエキノコッカスという寄生虫の幼虫に寄生されることによっておこる病気です。主にキツネやイヌなどの糞に虫卵が含まれており、この虫卵で汚染された食品や水を摂取することによりエキノコッカスに寄生されます。寄生された後、数年(1~30年)はなにも自覚症状はないのですが、その間にエキノコッカスは、少しずつ肝臓などの臓器を食べ続けており、自覚症状が現れたときには、肝臓は寄生虫に食い荒らされて蜂の巣のようになっています。残った部分も肝硬変を起こして正常な部分がほとんど残っていません。さらに、肝臓から漏れ出た寄生虫が脳、その他の臓器や骨髄などに寄生し、死亡します。

バンクロフト糸状虫は、蚊にさされることによってうつる寄生虫です。症状が全くないことも少なくないのですが、重症化することもあります。この寄生虫はリンパ管、腕や足などに寄生しますが、陰嚢や陰茎に寄生することもあります。陰嚢に寄生すると陰嚢が巨大化し、重症の場合には陰嚢が大きくなりすぎて歩くのが困難になります。江戸時代に陰嚢が巨大化した芸人が複数存在したことが文献(「想山著聞奇集」「東海道中膝栗毛」「北斎漫画」)に記載されています(大きいもので五斗=90リットルくらいあったようです)が、これらの芸人はバンクロフト糸状虫に感染したものだろうと言われています。

寄生虫には、肉眼では見ることの難しい小さな原虫というものと、指でつまむことのできるくらいおおきな蠕虫というものがあります。

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「元気だから旅行に行くのに、何で医者にかからなきゃいけないの?」と思う方は多いのではないでしょうか。でも、少し考えてみませんか。あなたは旅先ではやる病気のことを知っていますか。怖い感染症でもワクチンを打てば防げるものもあります。感染症などの予防についても、専門家から要領を得た説明を聞けばうまく実践できます。また、もしあなたが普段管理してもらっている病気をお持ちなら、旅先で病気が悪くならないように、また悪くなった場合に備えて、かかりつけの先生や専門家に詳しく対処法を聞いておいた方がよいでしょう。このように、予防接種、感染症の予防、ご自分の病気に対する管理や投薬のため、旅行前に診察を受けることにより、海外旅行にともなう危険を減らすことができます。

では、どのような医療機関に相談すればよいでしょうか。
まず、かかりつけの先生に体調管理について詳しくお聞き下さい。旅行先によって行った方がよい予防接種について、また、旅行先での注意点、携帯した方がよい薬については、旅行に関する医療を専門に扱っている、病院の渡航外来やトラベルクリニックに相談することも考慮しましょう。医療機関にかかる前には、自分の旅行日程やそこでの活動内容(たとえば観光、フィールドワークなど)、これまでかかった病気、受けた予防接種などについて整理しておいてください。予防接種を行うことを考えれば、旅行の少なくとも6週間前には受診することをお勧めします。しかし、それに遅れても受診によって対処できることはたくさんあります。

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予防接種で予防できる病気

ポリオ(急性灰白髄炎)

ポリオはポリオウイルスによって、急性の麻痺が起こる病気です。

ポリオが流行しているアフガニスタン、ナイジェリア、パキスタンのほか、ポリオが発生している国に渡航する人は追加接種を検討してください。

WHOでは、患者が発生している国に渡航する場合には、以前にポリオの予防接種を受けていても、渡航前に追加の接種をすすめています。

特に、1975年(昭和50年)から1977年(昭和52年)生まれの人は、ポリオに対する免疫が低いことがわかっていますので、海外に渡航する場合は、渡航先が流行国でなくても、渡航前の追加接種を検討してください。
質問

何を準備すればいいのか分かりません。

回答

行き先では、感染症のみならず慢性疾患の管理、精神問題、海外医療保険などに対処することが必要です。

準備として、海外での健康問題を専門的にとらえる渡航外来のある病院や、トラベルクリニックに相談してみてください。