ちょ、間に合わなかったです。
明日こそは、完結をば!
以下、小説です。
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「頼む!! お前しか、お前しか頼めないんだ、たのむぅぅぅぅ」
受付の同僚兼友人が土下座をせんばかりに頭を下げてきた。
腹も満たし、少しばかり酒も入って浮かれていた気分に思い切り水をぶっかけられた気分だ。
懐寂しい給料日前に、奢ってやるよという甘言にほいほいと乗った己も悪いが、かといって……。
「……お前正気か? どう考えても、頼む相手間違えてるだろ」
友人の言い放った言葉に、眉間に出来た皺を揉んでしまう。
「それになぁ、私的な場面での忍術の使用は……」
「指名依頼として頼めば引き受けてくれるのか!?」
このときほど己のうかつな言葉を悔やんだことはない。
久しぶりに来た居酒屋の空気に気が緩んだか、それとも奢ってもらった酒の魔力のせいか。
このときの俺は、友人の言う頼みごと、かつ、最近御贔屓にしてくださる農家の方々の田畑づくりの手伝いで忙しいこの季節、よりにもよって受付員でもある友人の依頼が認可されるとは到底思えず、軽い気持ちでこう答えたのだ。
「まぁ、指名依頼なら快く引き受けてやるよ」
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「あぁ、今日は譲渡会に相応しい快晴っぷりだな! な、イルカ!!」
本日、2月22日。
にゃんにゃんにゃんの日ということもあり、木の葉会館で大体的に猫の譲渡会が開催された。
俺の隣にいる、猫の譲渡会のボランティアの指名依頼をしてきた同僚兼友人がご機嫌な様子で、髪の色に近い茶色い耳を立たせ、尻から出た茶色と白の縞々尻尾を天高く掲げている。
「……そうだな」
俺は耐え忍ぶという忍びの教本に真っ先に掲げられている言葉を胸の内で繰り返しながら、会場にどしどしと入場してくる顔見知りの好奇の視線を、笑みの仮面を張り付けてやり過ごした。
友人が猫耳尻尾をつけている傍ら、俺も髪の色と同様の黒い耳と尻尾を部分変化で取り付けていた。おまけに俺だけは何故か首に銀の鈴がついた青い首輪を巻いている。
そして、俺たちが今いる場所は、会場出入り口正面の案内ブース。いわゆるものすごく目立つ場所だった。
何を隠そう、友人が受付所に出した俺への指名任務は『猫耳尻尾を生やしての、猫の譲渡会の手伝い』だった。
違うだろ、違うだろ、そこは違うだろう!?
あの時も思ったが、ここでも声を大にして物申したい。
頼む性別間違っているぞ、お前は大いに間違っているぞ、と。
何が楽しゅうて男の猫耳が見たいよ、そこは可愛い可憐な女性が適役だろ。二十代の男を捕まえて頼むことでは違うと胸倉掴んで罵ってしまいたい。
だが、俺の鬱憤もどこへやら、俺が推している女性も猫耳と尻尾をつけていたりする。
その方々は忍びではない、純粋なボランティアのようで付け耳と尻尾だが、確かに猫耳の女性もいるのだ。
「……俺が変化する意味はあったのか?」
顔見知りに会うたびに飛ばされる野次へ手を振って応えてやる傍ら友人に尋ねれば、友人はノリノリな様子で肉球のついた手袋をはめた手で、色々なポーズをとって愛想を振りまきつつ答えた。
「あったり前だろう? お前はアカデミー教師で子供たちに顔効くし、上忍さまたちに顔が売れまくってるんだからな。ほら見ろ、今、お前の名を呼んだ方は、かの有名な夕日紅お姉さまであり、その隣にいる方は猿飛アスマ上忍ではないか!!」
「イルカちゃーん、似合ってるわよ~」と手を振りながら声を掛けてくれた黒髪の美女と隣にいる恰幅の良い男性に頭を下げつつ、俺は早口に言う。
「バッカ。去年、教え子の上忍師になってくれた縁で知り合っただけだ。俺じゃなくても、紅先生とアスマ先生なら来てくれたよ」
俺の言葉に友人は非常に冷めた目を向けてくる。なんだ、その反応は。
「あ、イルカせんせーい! 僕、猫もらいに来たんだよぉ」
「イルカせんせーい、本当に猫になってるー!」
「かわいい、イルカせんせーい!!」
きゃっきゃ言いながら親に手を引かれ、今受け持っている年少組の子供たちが手を振ってくる。
「おー、相性のいい子が見つかるといいなぁ! でも、幸せにしてやる覚悟がないなら、無理して飼うんじゃないぞ。お前たちと同じく、たった一つの命なんだからな!!」
『はーい!!』と元気よく返事する子供たちを笑顔で見送り、早速ケージに待機している猫たちを見に行っている。
俺のよく分からん猫耳姿にも、無邪気に喜ぶ子供たちは非常に癒される存在だ。
「にゃーんって鳴いてぇ」やら「黒猫ちゃーん、今夜その格好でどう?」など、俺をからかうためだけにきた汚い大人とは雲泥の差である。
だが、そこはきっちり取り締まり対策を打ち立てていた。
俺を冷やかすためだけに来た輩たちは、別働隊の取り締まり班によってお仕置き部屋に連行され、俺と同様に猫耳姿でボランティア活動に勤しんでもらうことになっているのだ。
どういう経緯で耳に入ったのか分からないが、俺の指名任務を知った三代目が「にゃんにゃんにゃんの日、ご祝儀じゃ」と言って、自らの懐から取り締まり班の依頼を出してくれた。
しかも、その取り締まり班には三代目の信任篤い、年配の上忍たちを三名もつけてくれ、非常に有難い限りである。
俺にからかいの言葉を投げつけた顔見知りの上忍が、早速お仕置き部屋に連行されるところを横目で見ながら、俺は会場入りする方々を笑顔で出迎える。
うむ、今日一日、俺と同じく羞恥に悶えるがよい。
つづく
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次、カカシ先生出ますです、はい!!