ちょ、間に合わなかったです。

明日こそは、完結をば!

 

以下、小説です。

 

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「頼む!! お前しか、お前しか頼めないんだ、たのむぅぅぅぅ」


受付の同僚兼友人が土下座をせんばかりに頭を下げてきた。
腹も満たし、少しばかり酒も入って浮かれていた気分に思い切り水をぶっかけられた気分だ。
懐寂しい給料日前に、奢ってやるよという甘言にほいほいと乗った己も悪いが、かといって……。


「……お前正気か? どう考えても、頼む相手間違えてるだろ」
友人の言い放った言葉に、眉間に出来た皺を揉んでしまう。
「それになぁ、私的な場面での忍術の使用は……」
「指名依頼として頼めば引き受けてくれるのか!?」
このときほど己のうかつな言葉を悔やんだことはない。
久しぶりに来た居酒屋の空気に気が緩んだか、それとも奢ってもらった酒の魔力のせいか。
このときの俺は、友人の言う頼みごと、かつ、最近御贔屓にしてくださる農家の方々の田畑づくりの手伝いで忙しいこの季節、よりにもよって受付員でもある友人の依頼が認可されるとは到底思えず、軽い気持ちでこう答えたのだ。


「まぁ、指名依頼なら快く引き受けてやるよ」



******


「あぁ、今日は譲渡会に相応しい快晴っぷりだな! な、イルカ!!」


本日、2月22日。
にゃんにゃんにゃんの日ということもあり、木の葉会館で大体的に猫の譲渡会が開催された。
俺の隣にいる、猫の譲渡会のボランティアの指名依頼をしてきた同僚兼友人がご機嫌な様子で、髪の色に近い茶色い耳を立たせ、尻から出た茶色と白の縞々尻尾を天高く掲げている。


「……そうだな」
俺は耐え忍ぶという忍びの教本に真っ先に掲げられている言葉を胸の内で繰り返しながら、会場にどしどしと入場してくる顔見知りの好奇の視線を、笑みの仮面を張り付けてやり過ごした。
友人が猫耳尻尾をつけている傍ら、俺も髪の色と同様の黒い耳と尻尾を部分変化で取り付けていた。おまけに俺だけは何故か首に銀の鈴がついた青い首輪を巻いている。
そして、俺たちが今いる場所は、会場出入り口正面の案内ブース。いわゆるものすごく目立つ場所だった。


何を隠そう、友人が受付所に出した俺への指名任務は『猫耳尻尾を生やしての、猫の譲渡会の手伝い』だった。
違うだろ、違うだろ、そこは違うだろう!?
あの時も思ったが、ここでも声を大にして物申したい。
頼む性別間違っているぞ、お前は大いに間違っているぞ、と。
何が楽しゅうて男の猫耳が見たいよ、そこは可愛い可憐な女性が適役だろ。二十代の男を捕まえて頼むことでは違うと胸倉掴んで罵ってしまいたい。
だが、俺の鬱憤もどこへやら、俺が推している女性も猫耳と尻尾をつけていたりする。
その方々は忍びではない、純粋なボランティアのようで付け耳と尻尾だが、確かに猫耳の女性もいるのだ。


「……俺が変化する意味はあったのか?」
顔見知りに会うたびに飛ばされる野次へ手を振って応えてやる傍ら友人に尋ねれば、友人はノリノリな様子で肉球のついた手袋をはめた手で、色々なポーズをとって愛想を振りまきつつ答えた。
「あったり前だろう? お前はアカデミー教師で子供たちに顔効くし、上忍さまたちに顔が売れまくってるんだからな。ほら見ろ、今、お前の名を呼んだ方は、かの有名な夕日紅お姉さまであり、その隣にいる方は猿飛アスマ上忍ではないか!!」
「イルカちゃーん、似合ってるわよ~」と手を振りながら声を掛けてくれた黒髪の美女と隣にいる恰幅の良い男性に頭を下げつつ、俺は早口に言う。
「バッカ。去年、教え子の上忍師になってくれた縁で知り合っただけだ。俺じゃなくても、紅先生とアスマ先生なら来てくれたよ」
俺の言葉に友人は非常に冷めた目を向けてくる。なんだ、その反応は。


「あ、イルカせんせーい! 僕、猫もらいに来たんだよぉ」
「イルカせんせーい、本当に猫になってるー!」
「かわいい、イルカせんせーい!!」
きゃっきゃ言いながら親に手を引かれ、今受け持っている年少組の子供たちが手を振ってくる。
「おー、相性のいい子が見つかるといいなぁ! でも、幸せにしてやる覚悟がないなら、無理して飼うんじゃないぞ。お前たちと同じく、たった一つの命なんだからな!!」
『はーい!!』と元気よく返事する子供たちを笑顔で見送り、早速ケージに待機している猫たちを見に行っている。
俺のよく分からん猫耳姿にも、無邪気に喜ぶ子供たちは非常に癒される存在だ。
「にゃーんって鳴いてぇ」やら「黒猫ちゃーん、今夜その格好でどう?」など、俺をからかうためだけにきた汚い大人とは雲泥の差である。
だが、そこはきっちり取り締まり対策を打ち立てていた。
俺を冷やかすためだけに来た輩たちは、別働隊の取り締まり班によってお仕置き部屋に連行され、俺と同様に猫耳姿でボランティア活動に勤しんでもらうことになっているのだ。
どういう経緯で耳に入ったのか分からないが、俺の指名任務を知った三代目が「にゃんにゃんにゃんの日、ご祝儀じゃ」と言って、自らの懐から取り締まり班の依頼を出してくれた。
しかも、その取り締まり班には三代目の信任篤い、年配の上忍たちを三名もつけてくれ、非常に有難い限りである。


俺にからかいの言葉を投げつけた顔見知りの上忍が、早速お仕置き部屋に連行されるところを横目で見ながら、俺は会場入りする方々を笑顔で出迎える。
うむ、今日一日、俺と同じく羞恥に悶えるがよい。
 

 

つづく

--------------

 

次、カカシ先生出ますです、はい!!

 

 

またス○デューバレーのゲーム日誌です。
妄想プラスで脚色あり。
お嫌いな方はスルーしてくださいまし!!
ネタバレありありです!



以下、日誌。






はろー、えぶりわん!
わたし、まお。

権利書を見つけた翌日、横暴上司に辞表を叩きつけた足でバスに揺られること数時間。やってきたわ片田舎!!
ほんと緑しかない何もない山の奥地、ここがわたしの新天地!
やってみせるわ、おじいちゃん!
ここで天下をとったるでぇぇぇぇぇぇ!!!

意気揚々と今後のわたしの破竹の勢いで邁進する未来像に胸を熱くしていると、初老のおじいちゃんが出迎えにきてくれたの。

この町の村長だと名乗ったおじいちゃんは、わたしのおじいちゃんと親友だったみたい。
おじいちゃんが昔住んでいた、今日からわたしが住む家に案内してくれる道すがら、おじいちゃんと過ごした思い出話をふーへーはーとやり過ごし、現れたぼろ小屋と荒れまくった土地に思わずふざけんなと素で怒鳴りそうになったけど、その家の前に佇む第一村人もとい町人の目を気にして、ぐっと飲み込んだ。

この町の大工をやっているという赤茶の美人さん。
やだ、気の強い美人さんっ、いいわいいわ、好みよ、美人姉さん魅力的ー( ´∀`)。

はじめましてぇとここぞとばかりに媚をうったわ。そのうち、このまお帝国が建国した暁には十二分に尽くしてもらうからー!

そんな美人さんに、ぼろい家とディスられつつ、建て直しの時は声掛けてと別れる。
村長がそれなりにフォローいれてくれたけど、美人さんだからいいの。美人さんだからいい、の……( ノД`)…

くっそ、金や、まずは金やぁぁ。
こんのくっそぼろい家を建て替えつつ、荒れ地も農園にしていくんだからーー!!

村長に頑張れよと、春の農作物の種をもらい、村長とも別れる。

え、一人で農園しろと?
この都会からやってきた素人になんのアドバイスもなく、まぁ頑張れやと丸投げですと!?
親友の孫が来た割にはドライな村長に、沸き立つ怒りの波動を、村長の帽子の下に生えてるか生えていないか分からぬ髪に壊滅しますようにと呪いをはきながら、わたしは家にはいった。
家の中はそこそこ綺麗。でも風呂無しトイレ無しのそれに体が震えてくる。

わたし、これからやっていけ……いいえ、わたしやってみせるわ!
だってこここそがわたしの、わたしのための、わたしだけに与えられた絶対帝国の第一歩なんだからーー!!

ちきしょー、目がしおっ辛いぜ!。゚(゚´Д`゚)゚。
こちらはスタデューバレ○というゲームのネタバレ日誌的なものです。

内容は農地と牧場、釣り、冒険して、伴侶作るも良し、何でも自由にしちゃいなよ、ユーってなゲームです。
だいぶ脚色しておりますし、趣味全開となっておりますので、読む方はご注意くださいm(_ _)m


では、以下、ゲーム日誌となります!!







こんにちは、わたし、まお。ブラック企業に勤める永遠のバツバツ歳!
栄養ドリンク飲んで徹夜してた同僚や、白骨化するまで働いていた社畜極まる人につられて頑張ってきたんだけど、もう……(ヽ´ω`)
私の人生もうここでおさらばするしかないのかなってそう思ってたんだけど、数年前に亡くなった私の大好きなおじいちゃんのことを思い出したの。
おじいちゃんは亡くなる間際に、私にある一通の手紙を手渡しながら、こう言ったの。

人生つらいこともあるじゃろ。頑張ってもがんば(略)
その時はこの手紙を開けて(略) その日まで開けちゃ駄目(略)
それじ(略)

って!!

私、家に帰ってその手紙を開いたの。そうしたら、そこには片田舎の土地の権利書が!!
何か手紙も入ってたけど、私はもうわかってる。
おじいちゃんは、その村でお前の欲望を解き放てとそう言っているの。
やっすい賃金で寝ることすら許されずに働かさせられ、乙女の花の季節を無為に費やされ、お局たちには嫌がらせをさせられ続けた私にこの村で鬱憤を発散し、金をしこたま儲けて、村の純朴な男も女も関係なく10股して、村社会のトップに君臨して女王さまになれと言ってるのね!!
おじいちゃん、私、頑張る。
今度は私が底辺の虫けらどもを踏みつける番!!✨✨


こうして始まる、まおの牧場物語。
果たしてまおは村社会の女王さまとして君臨できるのか。
無差別交際をして村を疑心暗鬼の坩堝に陥れるのだろうか。
こうご期待!!(゚Д゚)!!
あけました、おめでとうございます!
遅くなりましたが、今年もよろしくお願いします!!

長いこと留守にしてすいません。
ええ……ゲーム三昧してました(ヽ´ω`)

昨年の夏に発売された、ゼルダの伝説夢を見る島から始まり、スイッチのソフトを大人買いきまくり、ウハウハとやっておりました。

………へへ、す、すんませーん。
小説書いてませーん( ノД`)…

ネタが、ネタが降りてこない。
何か、何かないものかー!!

何か書かないと鈍るので、カカイルじゃないけども何かあげときます。
うん、ゲーム日誌的な……、す、すんません。

最後になりましたが、拍手くださる皆様ありごとうございます!!
ネタ降りたら書きますー!
次は猫の日かなー?かなー?
((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル

以下、拍手コメントのお返事となります。


11/24

○11:54の方様

リンク切れの報告ありがとうございます!!
ぼちぼち直していきますー!
ありがとうございましたm(_ _)m

お知らせ。

けものびと、サイトに移す予定です~!!

これを最後に、サイトへ移動だぜ!!

ピクシブは単発向きだなとしみじみ思いました。

そして、ブログも……。

 

以下、小説です、どうぞ~!

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******



「綺麗な町だなぁ……」
目の前に広がる街を見て、イルカはつぶやく。


落ち着いた色彩の店の前の歩行者が歩く道は、色違いのタイルで舗装され、街路樹と街灯が等間隔で立っている。
その隣の大きな道は二車線で車が走っており、それを越えて反対方向に走る車がこれもまた二車線で走っていた。
木の葉ではいまだに舗装された道路は少なく、火の国の都が辛うじて舗装された道路を使っているが、ここまで見目に気を遣ってはいない。
しかも、燃える油を使った車という乗り物を、誰もが身近に利用していることが驚きだった。
木の葉の里には火影が所有している車が二台あるが、定期検査や動力源になる燃える油を確保するのになかなか大変であり、故障したら火の国まで行って、専門の技術職に修理を頼まなければならないため、車という乗り物は金持ちの道楽という認識だった。
火影さまも本当はあるだけで金を食う車を手放したく思っているようだが、火の国の重鎮や、州の大名などを接待する時などに箔付けとしてどうしても必要だと苦い顔をして言っていた。


「……獣の顔をしてるけど、同じなんだよなぁ」
脇に抱えた絵本を持ち直し、隣にいる狼人を見上げる。
狼人はイルカの視線に気づくや否や、嬉しそうに耳をぴんと上に立たせ、尻尾を振り回している。
「%&’$+*‘‘@:+&%%%?」
何度聞いても獣の唸り声にしか聞こえない声に、イルカは遠い目をする。
さきほども大きい本屋で絵本を買ってもらったが、この狼人は何だかすごく横暴なことを店員さんに行った気がする。そして、今思えば、本屋の自動で動く扉へ絵が張ってあったのだったが、あの絵には二本足で立つ丸い頭の人型が書かれてあり、その上に大きく赤くバツ印がついていた。たぶん、あれは、木の葉で言うところの、店にペットは連れて行ってはいきませんの注意絵ではなかろうか。
「……お前さ、社会のルールは守った方がいいぞ? 俺を優先してくれるのは嬉しいしありがたいけど」
狼人のイルカに対する態度は、対等関係?を前提に接してくれているのは非常に助かっている。だが、狼人にとっては不利益になること請け合いだ。
木の葉でだって、ペットを連れて飲食店などに入ったら、飼い主が軽蔑の眼で見られるのだから。


イルカの気持ちが分かったのか分からないが、狼人はきゅんきゅんいって、イルカへ擦り寄ってくる。
イルカより身長は少し高いだけだが、筋肉質の体は厚く重く、圧し掛かられればあっけなくイルカは潰れてしまう。
「あー、分かった、分かった! よしよしよしよし!!」
肩口にじゃれつく狼人の頭を豪快に撫でて宥める。
すると、狼人は先の尖った鼻先からふぅぅんと幸せそうな息を吐き、名残惜しそうにイルカの頬へ頬を擦り合わせて、イルカの手を取った。
「$%&’”#$*@@‘*+;++」
「あー。ん? ご飯? 小腹は空いたくらいかな。今はいらないよ」
狼人が自分のお腹を押さえて、首を左右に大きく傾げる仕草を見て、イルカは首を横に振る。すると狼人は耳を萎びさせ、ひどくがっかりした気配を漂わせたので、少し考え、喉を軽く押さえた。
「でも、喉は乾いたかも」
「@@:**!! $%&! #$%%&!!」
イルカの要求に、狼人は目を輝かせて、興奮気味に何か言ってくる。その際、指をある一点で示してきたのでそちらを見やれば、広い緑の敷地が見えた。


人が歩く道沿いに木々が生え、奥には草原が広がっている。
ところどころ腰をかける三人用のベンチがあり、そこに座ってお弁当を広げている獣人がいる。中には草原にシートを引いて、同行者と話している姿もあった。
「公園っぽいな」
遊具があり、もっぱら子供たちとお年寄りの憩いの場所としてある、木の葉の公園とはまるで違うが、人々が憩いを満喫している点ではそう言ってもいいかもしれない。
狼人はイルカの手を引き、大きな公園らしき場所へと入ると、近場にあったベンチに座らせた。
「#$%&’+*@@@@! ”#$%&+|=‘?」
すぐ先にある、屋台といっては語弊がある、おしゃれな移動式店屋を指さして、狼人は必死に何か言い聞かせてきた。
店を指さした後、狼人を指す。そして、イルカを指さしてベンチを指し示す。
「あぁ、分かった。ここで待ってるよ。お前の帰りを待ってるよ」
言いたいことが分かって、任しておけと頷く。狼人は意思疎通が出来たことを喜び、鋭い牙のある口元を上に上げさせたが、すぐさまだらりと下げてしまう。
なんだなんだと様子を見ていると、狼人はきゅんきゅん言いながらひどく心配そうに何かイルカへ言ってきた。
始めは鷹揚に対応していたイルカだったが、それが一分を越え、三分を越えた頃になると、イライラしてくる。時間がもったいない。
「うるせぇ!! 俺はここで待ってるって言ってんだろが! さっさと行ってこい!!」
「きゃいーーん!!」
軽く切れたイルカの罵声に、狼人はまるで犬のような悲鳴をあげて、飛ぶように店へと駆け込んでいく。その慌てぶりに思わず吹き出しつつ、笑っては失礼だとこみ上げる笑いを押し殺す。
時々おかしなスイッチが入るなと、店に駆け込んだ狼人を微笑ましく眺めていると、ふと視線を感じた。


周りを見る振りをして、さりげなく視線の主を特定する。
イルカの斜め前。狼人がいる店からは反対側にあるベンチに座っている、獅子の獣人。その周囲には鷲、鼠、狐、牛といった獣人が何かを囲むように立っていた。
獅子の獣人はイルカから目を離さず、嫌な気配を滲ませた視線を向けてくる。
粘着的であり嗜虐的なそれに厄介ごとの臭いを覚え、気付かないふりをしてやり過ごそうとした、そのとき。
「や、めてっ。い、たいよぉ」
か細い声が聞こえた。
ざぁっと全身の肌がざわめく。
駄目だと理性の声が叫んだのは一瞬だった。
獣人たちの訳の分からない、それでも愉悦に滲んだ声の合間、もがき苦しむようにくぐもった悲鳴があがる。それを聞いた瞬間、抑えることができなくなっていた。


「止めろ、貴様ら一体何をしている」
瞬身を使って、獣人たちの輪の中に入るなり、蹴り上げようとした牛獣人を逆に蹴り飛ばした。
吹っ飛ぶ牛獣人と、突然、現れたイルカに、獣人たちは呆気に取られて固まっている。
その隙に中にいた者を胸の中に抱き留め、さっさっと囲みから出る。
「大丈夫か? 意識はあるか?」
「う、っ」
獣人たちから暴力を受けていたのは、十歳くらいの男の子だった。
全身傷だらけで、特に左腕は歪に曲がっている。体から異臭が漂い、体もがりがりで、満足にご飯を食べていないことが分かって、胸がひどく痛んだ。
「@:*+**!!」
ごぉうっと肉食獣に吠えられた。
ぎりっと奥歯を噛む。
こちらに向かってくる風切り音と気配に、怒りが沸いてきた。
振り返りもせずに体を屈め、すかさず後ろ足で抉るように足刀を放つ。
狙い過たず、襲ってきた獅子の鳩尾を貫き、質量のある音を立てて獅子はその場に倒れこんだ。
「+*”$%&!?」
「%&$!」
{#$%&’+*:!!」
周囲を囲んでいた獣人が口々に何か言っているがイルカには意味一つ分からなかった。ただ一つ言えるのは。


「いくら見栄え良くしても、お前らは獣だよ。浅ましさしかねぇ、ケダモノ風情が」


吐き捨て睨み付ければ、言葉は通じないまでも侮辱されたことは分かったのだろう。
牙を剥き出して、威嚇する表情を見せつけた獣人に、イルカは戦闘態勢を取る。


頭が燃えるように煮えたぎっている。
イルカがここに来て接した獣人は理知的だった。特にイルカを買った狼人は常にイルカを尊重して、信頼し、同じ目線で物を見ようとしてくれた。
だが、実際はどうだ。
イルカが恵まれていただけで、こんな幼い子が理不尽な暴力に遭っている。物も食べられず、満足な治療はしてもらえず、身なりさえ綺麗にしてもらえていない。
分かっている。本当は分かっている。
イルカやこの子たちは攫われて、人身売買にかけられた。買われた先で境遇が天と地の差もあることはままあることだ。任務中、そんな境遇の子供を何度も見たことだってある。
でも、でも。


ぐっと奥歯を噛みしめる。
イルカは思いのほか、狼人に心を許していたらしい。
買われたという事実を忘れ、気心の知れる者と共に生活をしていたと錯覚してしまったようだ。
胸が痛い。
狼人がいい奴だったから、他の奴らもきっといい奴だなんて、そんな甘ったるいことを思っていた。話せば分かるんじゃないかって、半ば本気で思っていた。
だが、それは間違いだった。


「おい、ケダモノ野郎。人間様に歯向かったこと、後悔しろよ?」
チャクラを体に巡らした。
もういい。このままこの子を抱えて、逃げ出そう。
イルカ一人でも、この子ぐらいだったらどうにか匿って逃げることはできる。
このまま町に潜んで、情報を得て、そして、木の葉へと。


鷲の獣人が羽ばたきを繰り返す。鼠と狐の獣人が毛を逆立てて、こちらに飛びかかろうと筋肉を震わせる。
じっとお互いがにらみ合い、一触即発の空気に染まった直後。

 


ズンとその場を威圧するように気配が現れた。
獣人たちはもちろん、イルカもその気配に体を震わせる。
背後から、何かが来た。
圧し掛かる様に心身にくるそれに、イルカは固まる。
殺気だ。それもものすごく濃い、殺気。
それは、化け物と言ってもいいほど隔絶した存在が発することができるもの。
忍びでいえば、上忍。


だが、この殺気はその上忍でさえも軽く凌駕するような気配を醸し出していた。
過去のどの戦場よりもひどい。
行きあったが最後、確実に死が見えるそれ。


荒くなる呼吸を意識的に抑え、気配を殺す。
見つかったら最後、生き残れない。
イルカにできるのはただ祈りながら息を殺すことだけだった。


目の前にいる獣人たちは、その気配を出している者を見ているのだろう。
誰もが絶望的な顔をし、息を吸うことさえもできずに固まっている。見開いた目が恐怖に染まっていた。このままでいれば、そのまま失神しそうな獣人たちを見つめ、いつ自分もその牙にかかるのかと流れる汗に目を顰めながら思う。


「+*$%&’@?」
一つ声がした。
それに対し、目の前の獣人たちが涙を流しながら、動けない体で必死に顎を引き、何かを承諾していた。
途端、圧し掛かっていた空気が霧散する。
それと同時に、獣人たちはイルカが気絶させた獅子を抱え、脱兎のごとくこの場から逃げ出した。
呆気なく去っていく獣人たちを見送り、覚悟を決めて振り返ろうとした矢先、きゅっと後ろから優しく抱きしめられた。


「+*+*+!! #$%&*+!!」
毛むくじゃらの手に、肌触りのいい服。
ぴすぴすと愛らしい音で鳴いて、何かを言っている音は、不思議と懐かしく思える声だった。
「……お前かよ」
緊張していた体から力が抜ける。
責めるようにぴすぴすと鼻を鳴らす音に、頭に上っていた血が下がった。
「あー。ごめん。ぶち切れて、約束破っちまったな。ごめん……」
考えなしに行動するはおろか、そのまま何の見込みもなく脱走としようとした己を深く反省する。
下忍時代、お前は頭に血が上ると自棄になる傾向にあると、難しい顔で叱ってきた上忍師の先生を思い出した。
まだまだ修行が足らないなと己の未熟さを痛感していると、狼人がイルカの腕の中にいる者に気付く。


「う、ヴヴヴヴヴっヴヴ」
イルカを抱きしめたまま、子供に威嚇音を発した狼人に、イルカは頭をぶつけて唸り声を止めさせた。
「キャイン!」
ひどい、何するのと言わんばかりに、イルカの顔を信じられない表情で覗き込んできた狼人へイルカは願うように言う。
「この子を見捨てるなら、俺はもうあんたと一緒にいられません。……お願いですから、あんたをあんな奴らと一緒だなんて思わせないでください」
覗き込む狼人の灰青色の瞳をじっと見つめる。
狼人はイルカの黒い眼をじっと見つめ、ぐっと鼻に皺を寄せたかと思うと、急にぴすぴすと鳴いたり、またぐっと鼻に皺を寄せて牙を剥き出しにした直後、きゅーんと切ない声を上げて耳を伏せた。


「*+‘@@@”#$……」
震える声で何かを言った狼人に、イルカは顔をほころばせる。
何となく。でもはっきりと分かった。
狼人はこの子供を見捨てない。きっとあいつらのようなことは絶対にしない。
「ありがとうっっ」
胸に子供がいる為抱き着けないが、イルカは自分から狼人の頬へと擦り寄った。感謝を込めて、嬉しさを隠さずに、狼人がイルカへするように何度も頬を首筋へと擦りつけた。
「#$$%&’%##”$&’%%;:@:::!!! うおぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉん!!!」
するとどうだろう。
狼人は突然体を震わせ、何かを言ったと思ったら、遠吠えをした。
それに反応して、周りで憩いの時間を満喫していた獣人たちは何故か急に怯え始め、そして、波が引くように公園から駆け出し、あっという間に人の気配が無くなった。
狼人が飲み物を買いに行った店まで、慌てて店じまいして移動する始末で一体何が起きたのかとイルカは目を白黒させる。


狼人はやたらと荒い鼻息を繰り返すと、イルカの胸に抱え上げていた子供を左腕に、そして狼人が買ってきた飲み物であろうカップをイルカへ持たせると、イルカまで右腕に抱きかかえた。
「うえ、ちょ、え」
子供は分かるかがイルカを抱える必要はないと下りようとしたが、狼人はそのまま二人を抱えたまま走り始めた。
「うあ、ちょ、こえぇぇっっ!!」
子供の身長ならば問題ないが、イルカは狼人とほぼ同じくらいの身長差だ。
すぐにトップスピードに乗る狼人の走りに、慌てて首に縋りついて落ちないようにしがみつく。
何故かそれでやる気を漲らせたのか、狼人の走る速度が上がる。ビュービューと風を切る音を聞きながら、これで子供が落ちたら怪我どころではないと、左腕に狼人の首を絡ませ、胸で絵本を抱き、右手で子供の体を支える。
すると何故か一瞬速度が落ちたが、次の瞬間には前よりも早く走り出すから度肝を抜かれた。


「もう何なんだよぉぉぉ!!!」
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!!」
狼人は遠吠えをあげながら、街中を疾走した。



 

続く。
 

 

こんにちは!!

読書の秋、食欲の秋と言いますが、私はどうやら創作の秋だった模様!! と思い立ったまおです。

 

どうもご無沙汰です。

いや、でも、結構素晴らしい更新具合ではないかと一人によによしています。

アップ作品いかがでしたでしょうか?

女イルカ先生は好みが分かれるので無理強いはできませんが、読んでいただけると飛び跳ねて喜びますっ!! はい!

 

話変わって、最近情報収集をおろそかにして、アップご報告をしようとカカイルサーチさんへお邪魔した時にようやく気付いたのですが、今月26日(←日にち間違えてました……orz 正しくは27日です)にカカイルオンリーが開催されるんですって!!!

 

なんやとtぉぉぉぉっぉぉっっ\(゜ロ\)(/ロ゜)/

えらいこっちゃ、めでたいこっちゃ!!!

 

完璧出遅れた。いや、出遅れた以前の問題です~!!

 

もうこれだから情弱はっていう話ですよ。

もう書くことに精いっぱいで世間様の動きについていけないという……。

 

狩りに行かれる方、楽しんでくださいね。

草葉の陰から見守っております(´Д⊂ヽ(心的表現)

 

 

うふふふ、いつか参加できたらいいなぁ。

新刊、新刊の問題が問題が……。

 

 

最後になりましたが、拍手下さる方々ありがとうございます!!

奥ゆかしい方もありがとうございました!

この調子でかくぞぉぉぉ、おおお!!!!

 

 

 

それでは、以下、拍手コメントのお返事となります!

 

10月14日

 

・15:26の方さま

 

告白シーン気に入ってくださって嬉しいです!

こう、ちょっと情けないくらいの告白が好きです。イルカ先生、カカシ先生共に、様にならないねっていう。

何度も読んでいただくとはありがたすぎますです。

はぁ、ありがたや、ありがたや(*´Д`人)

次回も頑張ります!!

 

拍手コメントありがとうございました!!

 

 

 

 

 

 

 

 

蛇足:

ゲーミングチェアとゲーミングデスクを買ったよ!!

最高だった!!

もう最高っっ!

首が痛くなーいぞぉぉぉぉぉ、腰も楽だぞぉぉぉぉっぉ!!!

小説書きまくりだぜ、ひゃっはぁぁぁぁ!!!

 

 

 

 

こんにちは!!

木曜日休みが当たり前になり、もし木曜休みが無くなったら仕事できないかもしれないと思うほどに享受しきっているまおです。

 

まだまだ残暑暑いですね! でも風が冷たくもなっているので、風邪にはお気を付けくださいm(__)m

 

さて、本当に久しぶりに更新いたしました。

予定ではお盆の連休使って、全部アップしてやんぜと勢い込んでいたのに、蓋を開ければだっさいこと!!

遅れて一か月後って、どうなってるのやら。

 

今回のお話は、イルカ先生をビンゴブックに載せたい&愛されイルカ先生見たいと一心で書きました。

すると何てことでしょう!!

辻褄合わない、木の葉の里どうかしてる、火影カカシさんの判断を疑われちゃう結果になったたたたた((;゚Д゚))

 

くっ、悔しい。

ほとんど管理人の妄想だからスルーしていただけると皆様を信じていますが、ありなしで言ったらなしですなぁ……。

う、イルカ先生……いつか、いつか説得力のある愛されイルカ先生、ビンゴブックに載ってもおかしくないよ小説書けるように頑張るからね……。うぅぅ、イルカ先生……。゚( ゚´д`゚ )゚。

 

 

話変わって、9月22日にオンリーイベントあるんですねぇぇ!!!

きゃぁぁあぁぁ(*‘∀‘)すごい!!

 

……新刊ないし、行けないですけど、地方から開催をお喜び申し上げております!!

あぁ、募集状況が切ない……。管理人もにぎやかしに参加できればよかったのに、よかったのに。新刊……。

 

来年は5月30日(土)とか!! え、土曜日!? えぇぇえ!?

え、普通の日!? なんですと!?( ;∀;)

 

お、おお。来年のこの時期だったら新刊用意できてるかな、できるように頑張ろう……。

こうしてオンリーを開催できるのはマジでありがたいことなので、これを絶やさぬようにこそっとその一助になるように生きていたい、今日この頃の管理人でした。

 

最後になりましたが、拍手くださる皆さま、ありがとうございます!!

こいつ、更新する気ねぇなと思われつつも拍手してくださっているだろう皆さまの優しさがうれしいです……!!

もう半端にあげると書かない恐れが出てきているので、完結したら載せるを旨にやっていこうと思います。

……更新しなくても、こいつ終わったなと思わずに、気が向いた時でいいので覗いてやってください、お願いします、プリーズ……(ノД`)・゜・。

 

それでは、皆さま、アディオス!!

オンリー行かれる方は楽しんできてくださいね!

 

 

 

 

 

 

 

蛇足:

はぁはぁはぁ(*´Д`)

つ、ついに明日、ゼルダの伝説、夢を見る島(任天堂スイッチ)が発売します!!

 

うはははっはははっははははっは!!! ひやっほぉぉぉぉぃ!!

くっそ、昔のCMが頭の中で響いてるぜ!

「でるでるでるでるついに出る♪」

何気に好きだったよ、このCM。

YouTubeにのってるかなぁ。

 

やだもう、これもやるけど、カカイルも書くからぁぁあぁぁ、完結したら載せるからぁぁぁぁ!!

息抜きにやるからぁぁぁぁぁ、あぁっぁっぁぁ、ゼルダ万歳!!

 

こんにちはー!

毎週木曜日がお休みになってうはうはしているまおです。

 

さて、皆様、お元気で過ごしていらっしゃるでしょうか?

東海より上は梅雨に入っているというのに、管理人が住んでいるところは梅雨入りしていません。

(梅雨入り宣言なし 九州北部~近畿、東北北部ですって!∑( ̄Д ̄ :)水不足っっ)

……もしかして梅雨なしってことも有り得るんでしょうかね。

 

よそ様に聞いたところによると、田んぼ持っている方はじとじとと降る雨がないとお米が育たないようで。

うぅぅぅ、お米ショック再び経験したくないよー( ;∀;)

ブランド米は食べたくないよー。

でも、外国産のお米も昔よりかは美味しくなったとかいうけれども、やっぱ地元のお米が希望です。はい。

 

梅雨、来ますように。なむなむ(-人-;)

 

それでは最後になりましたが、拍手くださる皆様、奥ゆかしい方、応援ありがとうございます!!

ぼっちぼっち書き溜めるぞー! おー!!

 

 

 

以下、拍手コメントのお返事となります。

 

 

5月21日

 

・12:08の方さま

 返信遅くなってすいません!

 新作と一緒に返信するぞと思ったのが間違いだった……orz

 たっぷり読んでくださると嬉しいです! はい(`・ω・´)ゞ

 

 そして、スイッチ購入希望なんですかー! きゃぁぁぁ(*゚∀゚*)

 とにかくお勧めしたいのは「ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド」なんですが、3Dに酔う人にはお勧めできないのがものすごく悔しいですっ。

(自分も酔って、いまだにクリアしていないという……orz 酔う、酔っちゃう)

 どうやら続編という話もちらほら聞いて、パッションが高まる一方です!!

 聖剣伝説コレクションもありですね!

(しかし完全移植にしてはお値段高いかも……)

 相当古い画質(1は白黒画像)かつドット絵&2Dで、今のゲームとは逆行しているんですが、内容がいい!! 思い出補正が入っているかもしれませんが堪らなく好きなゲームです(*´Д`*)

 ただこのコレクションに入っている、聖剣伝説3が2020年にリメイクくするようで、こちらを買うのもありかなぁと思いつつ、うーん。

 あと今年9月20日に発売の「ゼルダの伝説~夢を見る島」もっっ。

 もちろん、「ヨクのアイランドエクスプレス」も!!(*≧▽≦)

 そして、今年冬に出る新作の「天穂のサクナヒメ」というのも期待大!!

 幼女な神様が稲作したり、化け物退治したりするアクションRPGです!

 これは面白いか分かりませんが、ご興味あれば!!

 

 うおお、ゲームの話ばっかり書いてしまいましたが、カカイルも忘れてませんー!!

 

 拍手コメント、ありがとうございました!!

 

 

 

 

 

 

 

蛇足:

久しぶりにカカイル関連の夢を見ました。

夢の中の私はカカイル本を五冊持ってました。

その一冊を読みつつ、カカイル出ないなーまだ出ないなーと思いつつページを読み進め、ふと気付くと目が覚めていました。

 

くっ、くそぉぉぉぉぉ、いっつもこれだよ!

せめて最後まで読ませてよ!! カカイルしているところまでいかせてよ!!

うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!

残り四冊は一体どんな内容だったんだぁぁぁぁ、ぎゃぁぁぁぁぁあぁx!!!!

 

おわる。

 

 

こんにちは!

超大型連休、GWにアップしようと思っていたけど、なんだかんだで今日になったまおです。

 

ご無沙汰しております。

お元気でいらしたでしょうか?

 

本日、オンリーカカイル開催日でしたね!!

おめでとうございます、&貢献できずに非常にすいません。

 

次は9/22かぁ。

おーぅ。うーん、おーう。

ちょ、ちょっと色々考えてみます、はい。

事件簿の続き書きたい気持ちはばりばりまだありますです、はい。

 

更新する日がとんとなくなり、もうこのサイト自然閉鎖かなと思われたかと思いますが、管理人はしぶとく水面下でうにゅうにゅ動き回っておりました。

うん、ま、なんというか、任天堂スイッチのインディーズゲームをよいこさんが紹介してて、それを見てうはははは~とダウンロード散財+熱中しておりましたが、書いておりましたよ!

おまけにね、ゼルダの伝説でVRができるとあったら、もうやるしかないでしょとVRキットを作ったりなんだりしておりました。

(でもまだVR体験してない…。酔いそうで体調がすこぶるいい日を待っている段階……。チキンです)

 

これを機にぼちぼち更新していきたい所存であります(`Д´)ゞ

 

最後になりましたが、拍手くださる皆様ありがとうございます。

既存の続きを書いていきまーす!!

 

それでは、みなさま、あでぃおす!!

 

 

 

 

蛇足:

「ヨクのアイランドエクスプレス」というゲームをお勧めしたい!!

(任天堂スイッチ、PS4、Xboxあり。ただ日本語版に対応していないものがあるので注意してください! 管理人は任天堂でダウンロードしたぜ!)

ヨクが可愛い、登場人物可愛い、音楽好きっ。背景も素朴感がよい~っ(*´Д`*)

ピンボールゲームなのできっとみんなできるはず!!

ゲーム何かしたいなぁと言う方はぜひともこちらを!!

こちらをぉぉぉぉぉっぉぉぉ!!!!

 

ラストー!!

 

以下、小説です。

 

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*******



「お騒がせしてすいません! はたけ上忍、今、ここに入りませんでしたか! いらっしゃいますよね!?」
耳に飛び込んできた懐かしくも温かい声に鼓動が跳ねあがる。
イルカ先生を追い返すよう頼んだゲンマが、上忍待機所入り口で応対してくれている。
二言三言話した後、イルカ先生がしょげた気配を醸し出して、ようやくその場を後にした。
去り行く一瞬、ソファの陰から顔を出し、イルカ先生を見つめる。
オレといる時は血色が良くて、常に笑みばかり浮かべていたのに、よく眠れていないのか目の下にはクマが出来、肌も青白かった。表情も暗い。


その顔を見て、衝動が走り抜けた。
今すぐ飛んで行って、抱きしめたい。
あの温かくも大きい手で頭を撫でて欲しい。
恋しい、寂しい、側にいて。ねぇ、オレの――。
切実な声が、猫だったときの感情が不意に浮き上がって、慌てて心身を制す。違う、そうじゃない。すべてはまやかしだ。術を食らった弊害だ。


「あっらー、イルカ先生の愛猫はぁこーんなところで何しているのかしらぁ?」
油断すれば駆けだしそうになる体を手のひらに爪を立てることで押さえつけていれば、上から揶揄する声が落ちた。
「……紅」
面白がるなと視線に険を含ませれば、紅は気のない素振りで肩を竦める。
「いい加減、可哀相になるのよ。イルカ先生、ずっとアンタのこと探してるし。嫌なら嫌で正面から断りなさいよ。イルカ先生のためにも」
言うだけ言って、紅は自分の定位置のソファへ腰かけ、ファッション雑誌をめくり始める。
お節介とも言える一言に顔を歪めていれば、イルカ先生を追い返してくれたゲンマがこちらにやってきた。
「カカシさん、言われた通り、無難に優しく追い返しておきましたよ」
トレードマークの長い楊枝を上下に動かしながら報告してきたゲンマにありがとうと呟く。
「今度、酒奢る」
言葉少なく告げれば、ゲンマは数秒オレを見ていたが、特に何も言わず「期待してます」と片手をあげて去っていった。
紅のように口で言われるのも厄介だが、ゲンマのように敢えて何も言わないのも結構堪える。


小さくため息を吐いて、ソファへ座りなおす。
気分転換にいつもポーチに入れている愛読書を取り出すが、いざ開いても文字が頭に入らず目が滑る。
こういうときは何をしていても意味がない。
だから、観念してオレはとある記憶を思い返す。


事の起こりは数週間前。
オレが7班の任務中にへましたことから始まる。


任務の内容は、忍びを引退した老人の書庫の整理。
件の老人は古書の収集家でもあり、一風変わった巻物も所蔵している人物だった。そして、イチャパラの熱狂的な大ファンでもあった。
密かな趣味として古書や巻物収集をし、イチャパラ好きとして公言しているオレとしては、前々からその老人とぜひとも話をしてみたかった。
だが、望む望まないに関係なく、里の売れっ子忍びとして昼夜を問わず駆けずり回っているオレは、その老人に会いたいとは思っていてもなかなか会う機会がなかった。
そこへきての、件の老人からの依頼だ。
くだらないやり取りを繰り返す子供たちを尻目に、任務書を漁り、それを見つけた時は、内心飛び上がるほど喜んだ。


しかし、熱望するその任務を阻もうとする輩が現れた。
うみのイルカ。
九尾の狐が封印されているナルトを見守り、卒業へと導いた教師。
7班の子供たちからイルカ先生と大層慕われている、中忍先生。
最近、アカデミーの他に受付にも入り始めたようで、特に元生徒たちが絡む任務となると上下関係なく口を突っ込む人だ。
三代目は大層気に入っている様子だが、オレは苦手意識の方が強かった。


まずあの綺麗すぎる目がいけない。
中忍になれるくらいだから、自分の手を汚したことも何度もあるだろうに、彼の黒い瞳は淀みの欠片もなく、真っすぐに物を見つめる。
時々、彼に見つめられると、自分が居たたまれなくなる。

汚泥に塗れた己を白日の下にさらけ出されるような忌避感。
彼の目の前ではひどく自分が恥ずかしいものに思えていけなかった。
だからか、彼と話すとついやり込めてしまう。オレの言葉に二の句が継げなくなり、ぐっと歯を食いしばり、激情故にか瞳を潤ませてこちらを睨み付ける様は、オレの加虐心を大層満たしてくれた。それこそ癖になってしまいそうなくらい。
そんな時は三代目がそれとなくオレを咎めてくるから素直に引いてやっている。
男を甚振る趣味ができるなんてオレもごめんだしーね。


健全な精神も、すっと綺麗に伸びる背筋も、大きな声も、忍びらしからぬ妙に人臭い性格も。
どれもこれもオレには縁遠いものを全て持っている彼。
任務でも一緒に組むのは嫌だなと、選り好みしないオレが唯一避けたくなるほどに、苦手意識があった。

そんな彼が、なりたての下忍に任せるには難のある、書庫整理の任務を声高に反対してきたのだ。
だが、件の任務を見た瞬間、彼の言い出しそうなことは分かっていたので、それよりも早く三代目へ視線を送った。
『たまにはご褒美任務くださいよー』
三代目も結構なイチャパラファンで、件のご老人のことは知っている。
目配せすれば、連日連夜小難しい任務を入れた自覚があるのか、あっさりとオレの要望を聞き入れてくれた。ま、その分、後の取り立てが恐いけど。

「まぁ、よかろう。カカシ、お前がいるのじゃからな。気をつけて行って来い」
軽くそう告げた三代目の隣で悔しがる彼を横目に、オレは望んだ任務を勝ち取り、ついでに少し毛の違う任務が取れたことに子供たちも大興奮していた。
去り際、彼の過保護っぷりが鼻についてやり込めたが、まぁ、これはどうでもいいことだ。
任務地へついて、子供たちに書庫の整理を任せ、件の老人と話をした。
さすがイチャパラ大ファンを名乗るだけあって、オレにはない切り口からイチャパラを語ってくれ、その奥深さと年を経た者だけがもつ含蓄にひどく感銘を受けた。
これを機にまた話をしたい、今度は酒も一緒にと盛り上がったところで、子供たちが騒ぎを起こした。


件の老人が集めた巻物はほぼ安全だと聞いていたこともあり、おっとり刀で駆けつけて、悲劇は起こった。
やたらと古めかしい巻物がナルトとサスケの揉みあう衝撃で発動した。
術の気配から変化。それも特に害はない、ありきたりなもの。
そう判断し、慢心したのが悪かったのか。
いざ発動した術を無効化する印を組んで、微かに違う術式の気配を感じ、後悔した。
これ、もしかすると今は廃れた古語使ってなーい? あ、やっちゃった。
せめて子供たちは守らねばと、発動する術式へ体を投げ込んだ直後、オレはオレという枠を失った。


見るもの全てが真新しい。
どこにいるのか、自分が何をしていたかなど、全くわからない。
目の前で耳を突き刺す不快なまでに甲高い音に嫌気が差して、オレは高い場所へと登った。
右往左往する二本足の生き物がオレを見てはわめく。
言っている言葉も分からないし、何をしているのかも分からない。
ただオレに注目していることは分かったから、警戒心がむき出しになった。
そうこうしているうちに、黒一色の二本足がオレに触れようとするから、死ぬ気で抗った。一人二人と、三人目まで地面へ落としたが、四人目と五人目から細長い紐を投げつけられ、戸惑っているうちに体を拘束されてしまった。
雁字搦めにまとわりつく紐に腹が立って、オレの意志を無視してどこかに連れて行く二本足を心底恨んだ。


黒い二本足こと暗部に連れられ、オレは執務室へ直行した。
猫の意識を持ったオレから見る三代目は、とにかく煙臭いの一点だった。目と鼻が異常反応を起こして、非常に辛かったのを覚えている。
そこで新たな二本足であるところのイルカ先生が、三代目に説得という名の強要をされて、オレの面倒を見ることになったのだが、猫なオレは何がこの先待っているか全くわからず、警戒と威嚇ばかりかましていた。


暗部に連れてこられたイルカ先生のアパートは狭かった。
でも、猫のオレには非常に居心地の良い場所だった。古い畳の匂いに、窓から差し込む日の香り。家主であるイルカ先生も、オレを始めこそ見ていたが、そのうち視線を逸らして、オレの好きなようにさせてくれた。
先ほどの黒いのとは小さいのとは違って、強要してこないし、うるさくないし、ゆったりとした落ち着いた気配を醸し出すその人に、興味を持つのは自然な成り行きだった。
そっと近づいて匂いを嗅ぐ。
オレに気付いたのか、緊張した面持ちになったが、イルカ先生は黙って好きにさせてくれる。くんくんと匂いを嗅いで、でも何だかもっと嗅ぎたくなって、自分の鼻を覆っているものを取って直に嗅ぐ。
色んな匂いが鼻腔を満たして、好きな匂いと嫌いな匂いを数えて、好きな匂いが圧倒的に多いのに気付いて嬉しくなった。
オレを警戒しない、好きにさせてくれて、好きな香りがする人。
猫のオレはイルカ先生をこのとき好きになったのだと思う。
無性に甘えたくなって、膝に懐いて、優しく撫でてくれてもっと好きになって、でも手荒いのは嫌いだから手を出せば、思った以上に吹っ飛ぶばかりか倒れたまま動かなくなって、どうしようかと足踏みしているオレに手を差し伸べてくれた。
優しい音と温かい眼差しがとても印象的だったのを覚えている。
その手がオレに危害を加えないことを、そればかりか包んでくれることを知ってしまった。


それから、オレとイルカ先生との生活はひどく満ち足りていた。
オレが鳴けば、イルカ先生は返事をしてくれて、撫でろと身を寄せれば大きな手で撫でてくれる。時々撫でて欲しいところとは違うところを撫でるから怒ってしまったこともあるけれど、その時はオレを膝に乗せて気のすむまで抱きしめてくれるから寛大なオレは許した。
出してくれるご飯も美味しかった。
魚や肉の温かい料理。
気に入ったものはイルカ先生にねだれば、追加をくれるから、それに味を占めてイルカ先生のおかずをオレが全部食べたこともある。
そのせいで夕飯が白飯と味噌汁だけとなったのに、イルカ先生はオレが喜んで食べてくれたことが嬉しいのか、ひどく幸せそうな笑みをオレに向けてくれた。
その笑みはひどくむず痒いけれど温かい。
いつしか、オレはイルカ先生の笑顔を追い求めるようになっていた。


そうして、日々を重ねるうち、猫なオレにとって転機が訪れる。
その日は、外がやけに騒がしかった。
激しく鳴き喚いたかと思えば、絡み合って物騒な物音を立てる。
ゆったりと昼寝をしていたオレにとってはいい迷惑で、いつも少しばかり開いている窓から顔を出した。
「シャー!!」
うるさい、黙ってろと気配のする場所へ一喝すれば、絡まり合っていた気配が飛んで逃げていく。これで静かになったと安堵したと同時に、何かの匂いを嗅ぎ取った。
何となく甘くてざわついた匂い。
癇に障るような、ひどく濃厚な香り。
ふと視線を感じて、道を挟んだ先にある民家の屋根の上を見れば、一匹の縞柄のメス猫が座っていた。
何かを期待するようにこちらを見つめる媚びた視線に、不快さを感じる。
視線が合ったことに気付いたのか、嬉しそうな気配を出してこちらに近付こうとするメス猫を睨み付け、オレのテリトリーに入るなと威嚇する。
ここはオレともう一人のための場所なのだ。他の奴らが入り込むなど考えただけでもおぞましい。
オレの本気に気付いたのか、メス猫は血相を変えて逃げ出した。
目障りな奴らを撃退し、これでようやく安心して眠れると、あの人の匂いが染みついた寝間着を顔に埋めて目を閉じる。
いつもならあの人の温かい優しい匂いに包まれて、心底安堵して眠りにつけていたのに、何故か今日は眠りが一向にやってこなかった。
そればかりか、胸がドキドキして体が熱くなってくる。
頭の芯は眠たいと訴えているのに、体がもぞもぞと落ち着きなく動いてしまう。
結局その日は午前中の睡眠ができなくて、昼頃になって帰ってきたあの人に訴えた。


ちょっと、オレ何で寝れないのよ、ねぇ、アンタ何かわかる!?
鳴くオレに、その人は顔を緩めて、優しい声でオレの頭を撫でてくれる。
温かい感触と気持ちの良い手に嬉しくなって、自分から体当たりしてもっと撫でろと促した。
しばらく撫でてもらって、昼ご飯を食べる。
がちゃがちゃと音を立てて水を切った後、あの人は丸い四つ足の上で何かの作業をし始めた。いつものことなので、オレもあの人の体に引っ付いて、眠れなかった分を取り戻そうと目を閉じる。
さらさらと何かが動く音と、呼吸音。
外から二本足の気配と小さな物が飛び立つ気配。
微睡みながら、ゆったりとその人と過ごす時間はオレにとって、とても大事で大好きな時間だ。
けれど、この時もオレは眠れなかった。
腹の奥がもぞもぞして落ち着かない。
何かがしたいのに、何をしたいのかわからない。
ついイライラして尻尾が勝手に畳を打ち付ける。
オレのイライラに気付いたのか、あの人はオレに視線を向けて、声を掛けてくれた。
頭を撫でてくれる大きな手。嬉しいのに、何だかとっても癪に思えたオレは、本能のままその手に噛みついた。


かぷかぷっと景気よく噛みつく。
傷つけたい訳じゃないから甘噛み程度のそれ。
その人は大きく目を見開いたけど、何か面白がるような音を出して、オレの顔を両手で挟むように撫でてきた。
応えてくれたことが嬉しい。
手で突っぱねて距離を取り、噛みつく寸前に手が抜かれ、ひらひらっと宙を舞うそれに負けん気が沸く。捕まえてやると手を出すも、ひょいっと逃げられる。なにくそと狙うけどこれまた失敗。
今度こそは、今度こそはと夢中になって追い求めて、やっと捕まえた時には、その人の体の上に乗り上げていた。
くつくつと体の下が揺れ動く。
間近で見るあの人は楽しそうに笑っていて、手を噛みついているオレを穏やかな目で見つめている。
興奮していた気持ちが急速に落ちた。
代わりに小さく鼓動が打ち始める。
咥えていた手を離して、その人の顔に近付いた。


真っ黒い瞳がオレを見つめる。
水たまりの水面のように揺らめいて、黒い瞳がきらりと光る。
覗き込むと、その黒い瞳にオレが映っていて、そのことが無性に嬉しくなった。
舌を出して、それを舐める。
瞬間、目を閉じられて、目的の物は舐められなかったけど、舌に感じた肌はさらりとして少し甘かった。
ドキドキが少し大きくなる。
その人はオレを見つめ、何やら囁いたけど、意味は分からない。それでも嫌がる素振りはないから、オレはもっと味わうようにその人を舐めた。
噛みつきやすい鼻筋の上をなぞって、途中で感じた凹みの上に進路を変える。ふるりと動いた頬を舐めながら甘噛みして、ふっと息のかかった口元へと舌を這わせる。
今まで舐めたところとは違う、つるりとした感触が心地よくて、何度も舐めた。
くすぐったいのか、急に顔が背けられて、首筋が目に入った。肌色の中に浮かび上がる線を見て、噛みやすそうだと思った。
そのままちらりと舐めて歯を立てて、感情が弾けた。
自分がしたかったことが急に分かる。
噛みついて、圧し掛かって、貫きたい。


その衝動は正しいと言わんばかりに鼓動が激しく高鳴る。
けれどこのままでは駄目だ。体勢が違う。背後をとらないといけない。
もどかしく思いながら、首筋に噛みつき、その人の体に触れた。途端に、布の感触がひどく邪魔くさいものに思えた。これじゃない、これに触りたいんじゃない。この奥のものに触れたい。
忙しく手を動かしながら、布をどけようと躍起になる。
掴んだり引っ張ったりしていたら、ようやく布がずれる。触りたかったものに触れられると、嬉々として手を突っ込む寸前。
ぐんとあの人の体が前に抜け、上体が起き上がり、オレの胸元と左腕が前に引き込まれた。あの人の右足が上がったと思ったら脇の下から左足が上がり、気付けばとんでもなく息苦しい状況になっていた。


何が起きたか分からなくて、苦しい中、悶え苦しんでいたら、不意に解放される。
目を白黒させてあの人を見上げれば、あの人は何やら自慢げに胸を張り、白い歯を見せて笑っていた。
なんだかとてつもなく悔しくなった。それと同時にこのままですませるものかと執念に似た思いに駆られた。


それからというもの、オレは何度も何度もあの人の首に噛みつき、押し倒そうと頑張った。
あのとき分かった、オレがしたいことのうち、貫きたいだけがまだよく分からなかったが、とにかく噛みついて押し倒すまでいかなければならないので、オレは何度も何度も挑戦した。
寝起きにもやったし、帰ってきたところを襲ってもみた。風呂場でもやってみた。
けれど、どれもこれもうまくいかない。
あの人は笑いながらオレからするりと逃げ、反対にものすごく痛いことを仕掛けてくる。
本当だったら痛いことをされた時点で止めているはずだった。でも、どうしても止められない。これがオレのしたかったことだと分かるから、止めるなんて考えもしなかった。
オレの望みが叶ったら、きっとあの人ともっと近くなる。きっと今よりももっとずっと掛け替えのない何かになると確信していた。


なのに。


夢から覚めるように、気が付いた。
小さな小さな部屋の中。
古臭い6畳間の生活感に満ち溢れた中に一人きり。
傍らには、オレが片時も離さなかった寝間着があって、それをぎゅっと握りしめていた。
「あぁ、解けた、のか」
確認するように呟いた言葉はひどく弱弱しくて、この日常が終わりを告げたことを意味していた。


今まで世話になっていた部屋を見回し、そのまま無言で去った。
己の本当の部屋に帰る道のりは、現実感がひどく薄くて、その過程の記憶がない。気付けば埃っぽい家の中に、突っ立っていた。
その手にはイルカ先生の寝間着が握りしめられていて、無断で持ち出したことを知る。
「……返さない、とね」
くたくたになるまで着続けたそれは、イルカ先生のお気に入りのはずだ。袖口はほつれ、色も褪せてきているのに、ずっとこれを着ていた。
日中はオレが離さないものだから、ここ数日洗濯できていなくて、イルカ先生はどこか困った顔をしていた。それでも夜はそれを着て眠ってくれたのは、午前中いなくなる自分の代わりに置いていってくれたのかもしれない。


洗って返そうと、ひとまず自分のベッドへ置き、三代目に術が解けたことを報告しに行った。
ようやくかとどこかほっとした気配を滲ませて、明日以降の任務について話し合った。
臨時休暇をやったも同然だからしばらくは無休だと言い切る三代目の言葉に、何となく安堵する。
7班の子供たちの任務は昼からということで、オレもその日から合流し、久しぶりに子供たちと会った。
目の玉が零れ落ちそうなほど見開いてオレを見つめた後、子供たちはごめんなさいと一斉に頭を下げてきた。オレに対して意地を張るサスケですら頭を下げたことに少々驚きつつ、頭を撫でてその謝罪を受け入れる。
というより、まんまと術を食らったのはオレにも原因があるのだが、ま、それはそれだ。汚い大人の習いとして黙っておこう。
子供たちはいつもだったら文句を言いながらこなす草引き任務を実に真面目に行い、予定より大幅早い時間帯で終了させた。この調子でいつもやってくれたら苦労はないのだが、いつまで続くやら。
任務報告しに皆で受付所へと行く道すがら、前を行くナルトがちらちらと後ろを見えては頬を緩めている。サクラもどこか機嫌がよく、サスケもいつもの仏頂面はどこへやら心なし表情を穏やかにさせていた。こういうところを見ると、可愛い奴らだと思う。
罪滅ぼしも兼ねて、帰りにラーメンでも奢ってやろうと、先行く子供たちへ声を掛ける直前、見知った気配に気付いて咄嗟に姿を隠した。
それに遅れて数秒後、ナルトが気付いて真っ先にその人へ駆け寄る。
イルカ先生。
子供たちを認めて、イルカ先生は相好を崩す。
任務帰りかと無造作に頭を撫でて、話を聞く彼を見て、少し息苦しくなる。
ナルトが大振りに手を振り回しながら話し、サクラやサスケもそれに続いて口を開き、不意にイルカ先生の表情が固まった。
それは一瞬のことですぐさま笑みが浮かんだが、確かにそれは失望を表すものだった。
それ以上見ていられなくなって、イルカ先生が去るまで影に隠れてやり過ごした。


それからだ。
オレを探すイルカ先生から故意に逃げるようになったのは。
その癖、彼が気になって、後を追う自分がいる。そっと影から覗き、イルカ先生の動向を毎日観察している。
上忍連中はオレの矛盾した行動を面白がっているようで、静観を貫く立場の者が多いが、紅のようなイルカ先生と顔見知りの連中はそれとなくこちらに助言めいた言動を差し向けてくる。



ふっと息を吐き、ただ開いているだけの本を閉じて視線を上げる。
時計はいつの間にか、待機時間をとうに過ぎている。そして、イルカ先生の受付任務が終わる頃合の時間帯だ。
「じゃ、お先」
まだ待機時間がある紅へ声を掛け、上忍待機所から出る。背中に何か言いたげな視線が送られてきたが、それは無視した。
正直、オレだって困惑しているのだ。


薄暗い闇に閉ざされた廊下を歩きながら、申し訳ない程度についてある照明灯に照らされた中庭を見る。
中庭を挟んだ、斜め下に受付所がある。
そこは未だ煌々と明かりが点り、人の往来があることを示していた。
さすがに受付所内までは見えないが、オレはいつものように一度建物内から出て、アカデミーの運動場へと向かう。そして、気配を殺し、建物に沿って植えられた木の上に駆け上がった。


三階建ての建物とほぼ同じ高さの木には、受付所の中が見える位置に、座るのに適した幹がある。猫だったオレがよく使っていたそこは、受付任務をしているイルカ先生の姿がよく見えた。
後姿しか見えないことが物足りなくて、何度か受付所へ直接乗り込んで構ってもらいに行っていたが、今はそんな気さえ起こらない。
会いたいと思うのは確かだが、面と向かって顔を合わせるのは辛い。
こうしてずっと逃げ回り続けることはやろうと思えばできるが、気持ち的にこうして長引かせていいことではないと分かっている。
任務とはいえ、イルカ先生には世話になったのも事実。
でも、だけれど。


堂々巡りの考えに小さく息を吐いた。らしくないったらありゃしない。
あの部屋を出てからずっと同じことばかりを考えている。
「……いつからこんなに臆病になっちゃったのかーね」
情けない己にぼやけば、視線の先のイルカ先生が受付の引継ぎをし終え、外に出ようとしていた。
じっと耳を澄ませ、神経を集中してイルカ先生の気配を追う。
アカデミーのグラウンドの横を過ぎ、校門から外へと出る。
建物の影や壁に隠れつつ、そっとイルカ先生の後を追った。

前屈みに傾いた背中に、疲れたように落ちる肩。
鼻についていたピンと伸びていた背中は見る影もない。
いい気味だとほくそ笑んでもいいはずなのに、オレの気持ちはちっとも喜んではいなかった。
イルカ先生は時折周囲を見回し、何かを探すように視線を飛ばし、求めるものがないことを知ると、地面に視線を落として歩を進める。それを数回繰り返して、自宅へ帰っていくのがいつもの行動だ。
そして、その寂しげな背中を追い、アパートに入るまで見送るのがオレの日課。


だけど、今日は違った。
自宅アパートが見えたところで、突然、民家の塀と塀の間で足を止め、イルカ先生はしゃがみ込んだ。
顔色が悪かったこともあり、気分が悪くなったのかと慌てて駆け寄る。
声を掛ける寸前、オレの耳に小さな声が聞こえた。
「おまえ、一人か? だったら俺のところに来るか?」
続いてにゃーんという小さな声が聞こえ、イルカ先生の肩越しに見えたものに目の前が真っ赤に染まった。
しゃがみこんだイルカ先生の足元。差し出した手に頬を摺り寄せ、いつか見た縞柄のメス猫が浅ましくもイルカ先生に媚を売っていた。


「ふざけんじゃないよ、この泥棒猫が!! とっとと去れ!!」
足を踏み出し、全身で威嚇する。
オレのテリトリーを一度ならず二度も侵そうとした存在をくびり殺したくて堪らない。
オレの剣幕を受け、ギャッとみっともない声を上げて、メス猫は脱兎の如く駆けていく。
よほど慌てていたのか、民家の雨どいにぶつかりながら逃げる後姿に、駄目押しに罵声を吹っかけ、そこでようやく息がつけた。
「ちょっと、アンタ。オレというものがありながら」
無意識に背中に庇った相手を振り返って、言葉が途切れる。今、オレは何をした。
目の前には、目を見開き、ぽかんと大口を開けてオレを見上げているイルカ先生がいた。

その視線と真正面から絡み合い、全身から汗が噴き出した。
咄嗟に視線を逸らし、ついでに右手で握りしめていた腕からそろりと指を外す。頭の中は真っ白で、過去にないくらい動揺している自分に気付く。
こうなれば。こうなれば押し切るしかない。



「あ、どうも。それじゃ」

にこっと笑って、全てをなかったことにして背を向ける。だが、逃げるより早く腕を掴まれ、逃走を阻まれた。
イルカ先生の拘束を解くなど簡単だが、ここで無理やり逃げれば今以上に顔を合わせづらくなるのは火を見るより明らかだ。
迷って、迷って、逃げたいと叫ぶ臆病な心をねじ伏せて、肩の力を抜く。
もう、逃げるのは止めだ。


詰めていた息を吐き、降参とばかりに振り返って、体が跳ねる。
振り向いた先のイルカ先生はオレを見つめながら大粒の涙を流していた。
「え。え? え!? いや、そのオレが悪いのは分かります。こう、その世話になったのに礼も言わないばかりか避けるような真似をして、その、だから、あの」
言い訳じみた言葉を吐きながら、目の前で泣くイルカ先生に焦る。
その、あのと意味のない言葉を吐くオレの腕を、まるで逃さないと言わんばかりに握りしめながら、イルカ先生は突如土下座した。
えええええ!?
頭の中は大混乱だ。前にも増して焦るオレを尻目に、イルカ先生は土下座を継続したまま話し出した。
「は、はたけ上忍、ごめんなさい。俺のやっていること、本当は気持ちの悪いストーカー行為だって分かってるんです。同僚にも犯罪行為に近いって、止めろって何回も言われました。でも、でも、どうしてもあなたに会いたかった。俺、どうしてもあなたに言いたいことがあるんです」
前半部分の言葉に、思わず胸を押さえる。
自分のしてきたことが世間的にはどう見えるかが、明確になった一瞬だった。
ぐっと言葉に詰まるオレに、イルカ先生は顔を上げて、真っ赤にした顔を曝け出す。

愚直なまでに真っ直ぐで、こうと決めたら一歩も引かないイルカ先生。

そのイルカ先生がすがるようにこちらを見つめている。あの疚しさの欠片も見せない、きれいな黒い瞳にオレだけを映している。

その事実に、ふいに気持ちが軽くなった。



「うん、何?」
掴まれた腕もそのままに、オレもしゃがんで距離を近付ける。
それだけで再び涙を零す瞳を見やって、濡れている頬に手を伸ばした。覆うように頬を包んで、親指で涙を拭う。手甲を隔てて感じる温度に、外せばよかったと惜しく思う。
「おれ、おれっ」
「うん」
しゃくりあげながら、頬に当てたオレの手を両手で捕まえるように握られた。途切れる言葉に相槌をうって、静かに待った。
きゅうっと黒い瞳が細くなって、眩しいものを見るようにオレを見つめる。
その眼差し一つで、オレは自分がもう逃げ出さなくていいことを知る。
「はたけ上忍と暮らすのが楽しくて。任務だって、任務だって分かってたけど、もうそんなの関係なくて。あなたが家にいないのが寂しいんです。一緒にご飯食べてくれないのが辛い。今、何してるのか気になって仕方ない。もっと、色んなことをしてあげたいって思っちまうんです。俺。俺は、」
トクンと大きく鼓動が鳴る。
表面が揺らめいて、鈍く輝く黒い瞳に例えようもなく惹き付けられる。
「はたけ上忍と一緒に暮らしたいんです。また、一緒に生活したいんです。駄目、ですか?」
震える声で、それでも万感のこもった声音に顔が緩んだ。
あまりに自分の都合のいい言葉に笑みが隠しきれない。


所かまわず笑いたくなって、けれどそれはひどくイルカ先生にとって失礼な話で。
オレはぐっと俯いて笑みを噛み殺す。嬉しい。あぁ、ひどく嬉しい。あまりの多幸感に体が震えてきた。
「はたけ上忍」
オレの内心をちっとも読めないイルカ先生は、ひどく悲し気な声でオレを呼ぶ。すぐにでもこの気持ちを告げたい。だけど、イルカ先生とオレの気持ちはきっと微妙に違うから、そこを擦り合わせるために言質をとろう。


「オレは、もう猫じゃないですよ」
自分の感情を表面上から消して、小さく囁く。
「分かってます、分かってますけど、俺は!!」
オレの言葉に焦ったように応えるイルカ先生にほくそ笑みながら言葉を続ける。
「オレを誰よりも優先してくれないと拗ねます。常にオレを気に掛けて、優しく甘えさせてくれないと暴れますよ。ご飯も一緒に食べて、お風呂も一緒に入って、夜寝る時も一緒の布団じゃないと嫌ですからね。あと、カカシって呼んでくれないと怒ります」
ついっと視線を上げ、イルカ先生の顔を窺う。
くしゃみを我慢しているような、息を吸うことに失敗したような、変な表情を浮かべていた。ほんの少し怖がっていた臆病な心はそれで綺麗さっぱり無くなる。
顔を上げて、真っすぐ黒い瞳を見つめた。
あれだけ見つめられることに忌避を覚えた瞳と真正面から向き合う。
「好きですよ、イルカ先生」
口布を下げて、本心を告げる。
そのまま顔を傾けて近付こうとすれば、それより早くイルカ先生の腕が後ろ首に絡みついた。そして、固いベストに顔を打ち付けられる。
「俺も、大好きです、はた――カカシ上忍!!」
ぎゅぅっと頭を抱きしめられて、ごつごつとしたベストが当たって顔が痛い。
オレが動くより先に行動したイルカ先生の素早さに内心見誤ったと愚痴りつつ、それよりも気になることで頭がいっぱいになる。
カカシ上忍って何さ。上忍は外すところでショ。
オレの困惑に一欠けらたりとも気付かず、イルカ先生は嬉しそうな笑い声を響かせていた。



******



ぐったりとしどけない姿を晒して眠り込んでいるイルカ先生を腕に抱き込み、オレは上機嫌に笑う。
お互いに意味の違う好きを告白し合った後、オレは今日からイルカ先生のところに住むと宣言し、イルカ先生も嬉しそうに賛成してくれた。
鉄は熱いうちに打て。勝機は逃してはならない。
即決即行動が常識の上忍クオリティを遺憾なく発揮し、オレは食事もそこそこにイルカ先生と風呂に入り、それとなくそういう雰囲気に持ち込み、考える余裕すら与えず体を陥落させた。
風呂から上がって、ねちっこくイルカ先生を鳴かして、泣かせ、これでもかというほどオレの所有印を施し、肝心要の呼び名についても「カカシ上忍」から「カカシさん」に変更させた。
もう止めてと音をあげるまで快楽責めし、初心者ぺーぺーのイルカ先生にオレの跡をしっかりと残した。
ここまですれば、イルカ先生はオレのテクの虜だろう。今更、離れたいと言っても体がそれを拒むこと請け合いだ。
すやすやと眠るイルカ先生の額に口付け、頭にすり寄る。
もう絶対逃さない。
怒られても、泣かれても、イルカ先生はオレのものだ。そうオレが決めた。
これから本当に好きになってもらうため、何をすればいいか、その手段と方法を考えているうちにいつしか眠り込んでいた。


頬に違和感を覚えて、不意に意識が浮上した。
右に引っ張られ、前に引っ張られ、ぐいっと大きく抓られる。
遠慮がちなそれは痛いと思うほどではなく、くすぐったいくらいだ。
そっと薄目を開けてみれば、イルカ先生がオレの腕の中から手を出して頬にちょっかいをかけている。
可愛い悪戯に笑いそうになったが、根性で我慢して事の成り行きを見守る。
頬ばかりか鼻や、額、唇を引っ張ったり、押し込んだりもしていたが、それも飽きたのか、手の動きが止まった。
「くそぅ、この腹ただしいまでのイケメンめ。豚鼻にしてもかっこいいとは何事だ……」

さんざん泣かせた影響でかすれた声になったイルカ先生が悔しそうに呟いた。
誉め言葉にしか聞こえない文句に危うく吹き出しそうになる。
他にも閨が気持ちよすぎたとか、キスが信じられないくらい感じたとか、オレが眠っていると思っているせいか赤裸々に呟いている。
本人としては文句を言っているみたいだが、オレにとって全て誉め言葉だった。どうやらオレはイルカ先生にこの世の果てはおろか、天にも昇る気持ちを味わせたようだ。全力を尽くして挑んだ甲斐があったというものだ。
あれが気持ちよかった、まさかあそこで感じるとはと真剣な声音で思い返しているイルカ先生に、思わずあらぬところが元気になりそうだったが、散々泣かせたこともありそこは鋼の精神力で平静を保つ。
イルカ先生って無意識に煽ってくるタイプなのかーね。
この先、箍が外れて責めまくり、イルカ先生を抱き潰してしまう己がいるような気がして、恥ずかしくなる。我を忘れて襲いかかるなんて、思春期でも経験していない。


余裕のない未来の己について考えていると、不意にイルカ先生が柔らかい手つきで俺の頭を撫でてきた。
猫だったオレを撫でてくれたように、慈愛のこもったそれ。
もう猫でも何でもないオレに触れるには、心がこもり過ぎたそれに、一瞬息を飲む。


アンタは、無体を働いたオレにもそれをくれるの?


胸の内で思わず問いかける。
聞こえたわけでもあるまいに、イルカ先生はふっと小さく息を吐いた。
「まぁ、いいか」
お気楽な言葉に困惑して、薄目を開ける。
イルカ先生はひどく嬉しそうな笑みを浮かべて、そしてそっとオレに口付けをくれた。
「大好きですよ、カカシさん」
囁くように、大事な何かをそっと渡すように告げられた言葉に、胸が鈍痛を訴える。でも、痛いだけじゃない、苦しいのに甘い。甘くて温かくて、ひどく切ない。
オレも何かを伝えたくなって、けれど出てくる言葉は何もなくて、オレは腕の中にあるイルカ先生の肩に顔を押し付けた。
イルカ先生は起きていたオレに一瞬体を強張らせたけど、すぐに力を抜いて抱きしめてくれた。


「猫被っていた次は、狸ですか?」
くつくつと笑うイルカ先生にオレは拗ねた声をあげる。
「……オレはイルカ先生の猫なの。加えて、大事な人になったの」
自分でもよく分からない主張をするオレに、イルカ先生は「そうですね」とあっけなく受け止める。そればかりか、言葉を付け足した。
「ちなみに俺はカカシさんの飼い主で、それに加えて大事な人、ですよね」
確信を持ったその言葉に泣いてしまいそうになる。

肯定するかのように、背中に回した腕に力を込めれば、「苦しい、くるしい」とちっとも苦しそうでない声をあげて笑うから堪らない気持ちになった。



イルカ先生の笑い声と振動を感じながら、胸の内でそっと呟く。


ねぇ、イルカ先生。
もしオレが、初めて会った時から惚れていたって言ったらどう思う?
意地の悪い言葉を言ったのは、アンタに認識されたかったから。
アンタにオレを見つめてもらいたかったからだって。


苦手意識は好意の裏返し。
アンタはオレにとって手が届かなくて、眩しすぎる存在だった。
それと同時にオレをひどく臆病な奴に変えてしまう存在だった。
好ましくて、厭わしい。
焦がれていて、けれどひどく不快。
惚れていた分、憎くて憎くてしょうがなかった。


矛盾すぎる胸の内を全部話しても、アンタはオレを許してくれる?


でもね、ただこれだけは変わらないことがある。
猫になる前も、猫になっている時も、元に戻った時でさえ、アンタが好きっていう、この気持ち。


ねぇ、オレの――愛しい人。




おわり


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……なんとなく、こういうの書いた気がする管理人は、作品が代り映えしないという証拠な気がします。

くっそ、磨かないとー、頑張れ、自分ー!!

 

お読みいただきありがとうございます!