NHK杯を制した高橋大輔の威風堂々。
ついに日本のエースが帰ってきた!(Number Web 11月11日(月)17時7分)
日本のエースが戻ってきてくれた。日本中のスケートファンが、そう安堵のため息をついたことだろう。
スケートアメリカでは、驚くほど不調な演技で4位に終わった高橋大輔。彼らしくないジャンプミスが出て、本人も原因がわからないと当惑の表情を見せていた。
このままではGPファイナル進出どころか、五輪代表も危ういのではないか。周囲のそんな不安の声を見事きれいに拭い去る、NHK杯の優勝だった。
宮本賢二振付によるSP「バイオリンのためのソナチネ」では、冒頭の4回転トウループが気持ちよく決まった。そのまま良い流れを保ち、3アクセル、そして3ルッツ+3トウループのコンビネーションも軽々と着氷。ステップシークエンスは体全体を大きく使って情熱的に滑りきった。ようやく見ることのできた高橋大輔らしい演技に、国立代々木競技場に集まった観客たちは熱狂的なスタンディングオベーションをおくった。
■高橋が歴代2位となるSPスコアの95.55!
95.55という得点が出ると、大きな歓声があがった。94.00の自己ベストスコアを1.55上回り、歴代でもパトリック・チャンに次ぐ2位の高得点である。それでも本人には笑顔がなかった。
「久しぶりに会心と言える演技ができた。でもまだフリーが残っていますから、気を引き締めていきます」と会見で語った。スケートアメリカの後、どのように気持ちを切り替えたのかと聞かれると、「あまり深く考えすぎないようにして、がむしゃらに練習をしてきました」と答えた。
■ウォームアップで転倒するも、本番で4回転を。
翌日のフリーは、ローリー・ニコル振付によるビートルズメドレーである。「イエスタデイ」のメロディから始まる、彼のスケート人生を描いたプログラムだという。
演技前の6分間ウォームアップでは、4回転で転倒してファンたちをハラハラさせた。最終滑走の高橋がリンクの中央に出てくると、「大ちゃん、頑張れ!」という声援があちこちから湧き上がる。観客席は彼の応援グッズである“D1SK”と書かれたタオルと日の丸で埋まっていた。
■日本のエースらしい風格ある演技。
冒頭の4回転がきれいにきまると、会場内から割れるような歓声と拍手が沸いた。続いて予定していた2回目の4回転は3回転になり、2度目の3アクセルの着氷が乱れたものの、演技の流れが途切れることはなかった。後半の3ルッツコンビネーションから最後の3サルコウまで、残りのジャンプはピシリと決めて、日本のエースらしい風格のある演技を滑りきった。
フリー172.76、総合268.31でトップを独走し、5度目となるNHK杯優勝を果たした。
「失敗はしなれているので、(ウォームアップの失敗の)動揺はそれほどなかった。(本番では)思い切り跳ぶということだけを考えました」
会見では、少し苦笑しながら、そうコメントした。
「自分を信じる気持ちを取り戻したいと願って滑った。少しは自信になりました」
■ファイナル進出可能性大で、チャンとの対決に!
高橋が、こうした追い詰められた状況で実力を出せたのは、やはりこれまで何度も怪我などの修羅場を乗り越えてきたからに違いない。
「スケートアメリカの後、周りの人たち、特にニコライ(モロゾフ)からかなりきついことを言われて、自分のオリンピックに向かう気持ちを改めて考えなおしてみた。ようやくこの3試合目にきて、オリンピックに向かう舞台に立った。これからが本当のスタートだと思っています」
スケートアメリカの4位とこのNHK杯の優勝で、GPファイナルの進出の可能性が高まった。そこではディフェンディングチャンピオンとして、世界王者のパトリック・チャンと今季初めて顔を合わせることになるだろう。
■安定した演技を見せた織田信成。
一方織田信成は、SP「コットンクラブ」では、4+3トウループのコンビネーションを含む素晴らしい演技を見せた。
本人も会心の演技と感じたのだろう。笑顔でキス&クライに座ったが、回転不足やルッツの不正エッジなどの減点を取られて得点は82.70と思いのほか伸びずに3位スタートとなった。
フリー「ウィリアム・テル序曲」では、冒頭に予定していた4回転コンビネーションが3回転になったものの、2つ目のジャンプでは4回転トウループを成功させ、得意の3アクセル+3トウループもきれいに降りた。織田の機敏な動きをよく生かしたプログラムを観客たちは大きな手拍子で後押しし、残りをきれいにノーミスで滑りきった。
■「まだまだ点を伸ばせると思う」
フリー170.46という高いスコアが出ると、キス&クライでは驚いたような笑顔を見せた。
「(経験を積んできて)諦めない心が出てきた。まだまだ点を伸ばせると思う」と語る。
総合253.16で、結果は2位。
スケートカナダ3位と合わせて、総合順位点は24ポイントと高橋と同点である(1位15ポイント、2位13ポイント、3位11ポイントで、順位点の総合がもっとも高いトップ6選手がファイナルに進出する)。だがタイブレークでは、1位をとった高橋大輔が上に来る。
中国杯で3位に終わった小塚崇彦のGPファイナル進出が絶望的となった現在、織田の進出は残り2試合の他の選手たちの成績にかかってくることになる。
■浅田真央、4度目のNHK杯タイトル。
女子では、浅田真央がSP、フリーともにトップを保って独走優勝を果たして4度目になるNHK杯タイトルを手にした。
SP、ショパンの「ノクターン」は、スケートアメリカの後に振付師のローリー・ニコルとかなりの手直しをしたのだという。ニコルは「オリンピックに向けて改良した、“ノクターン・その2”。真央に新たなモチベーションを感じてもらいたくて、手を入れた」とコメント。3アクセルの着氷がわずかに乱れたものの、振付全体に以前より体の動きが大きく感じられる。最後まで丁寧に滑りきって、71.26とスケートアメリカに続いて70点台を出した。
フリーのラフマニノフ「ピアノ協奏曲第2番」では、冒頭の3アクセルが回転不足の判定を受けたものの、全体をよくまとめて総合207.59で自己ベストを更新した。
「3+3のコンビネーションを入れることを目標にしていたので、ちょっと悔しい気持ち」
そうジャンプに関する反省の言葉を口にするも、プログラムの表現も以前より意識するようになったと言う。
■浅田はファイナル確定。鈴木は他の選手次第に。
「つい見る人もジャンプに集中してしまうと思うのですが、今シーズンのプログラムはSPもフリーも気に入っている。フリーもこれからさらに手を入れて、良いプログラムを見せたいと思っています」
浅田真央のフリーの新しい衣装は、濃いブルーの布地を使ったダイナミックなデザインのもの。以前のものよりも動きやすくて気に入っているのだという。
スケートアメリカに続いての優勝で、いち早くGPファイナルへの切符を手に入れた。
一方鈴木明子は3位に入り、4個目のNHK杯メダルを手にした。
カナダの2位と合わせて織田と同じく24ポイント獲得で、ファイナル進出は他の選手たちの成績にかかることになる。
男女合わせて総合4個のメダル――。
日本勢は改めてその実力を世界に見せつけた試合となった。
(「フィギュアスケート 氷上の華」田村明子 = 文)
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20131111-00000003-number-spo