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浅田マニア・・・とは名乗ってほしくない内容ですが、一応のご紹介です。
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青島健太 “オヤジ目線”の社会学(2012年12月26日)
浅田真央はなぜホームランを狙ってこなかったのか
なぜ浅田真央は、トリプル・アクセルを跳ばないのか。
正直言って、最近、彼女の滑りを見ることに興味を失っていた。
もしかすると、そう感じているファンが他にもたくさんいるのではないだろうか。
自称「浅田マニア」としては物足りない
先の全日本選手権(12月21~24日開催)にも勝って、今季4戦全勝と抜群の安定感を誇る。スポーツ紙にも「無敵の女王」という見出しが躍ったが、それでも当方はなんだかすっきりしない。
バンクーバー五輪銀メダリストの実力者が、6回目の日本女王に輝いても、彼女の才能と能力からすれば、それは当然だ……という気もする。持てる武器(トリプル・アクセル)を使わずに、安定感を求めて無難に滑る。悪いことではないが、見ている方からすればおもしろくない。
トリプル・アクセルに挑戦するからこそ、浅田真央なのだ。
たとえジャンプに失敗して転倒しても、そのチャレンジ精神を見るのが、彼女を見る楽しみでもある。だから近頃は、自称「浅田マニア」としては、少し熱が冷めるような感覚を覚えていた。
佐藤信夫コーチからストップがかかった
ところが、 新聞の片隅に載った小さな記事を見つけた。
全日本選手権のSP(ショート・プログラム)で「トリプル・アクセルを跳びたい」と浅田さんが佐藤信夫コーチに直訴したものの、それを佐藤コーチが止めたというのだ。
黒海の東岸に面するロシアのソチで12月初めに行われたグランプリ(GP)ファイナルのときにも、浅田さんは練習でトリプル・アクセルを決めていたという情報がある。
GPファイナルのリンクは、2014年2月に冬季五輪が開催される本番の舞台。いよいよそこでトリプル・アクセルを解禁し、自身の調子を一気に戦闘モードに切り替えるのか……と、個人的にもひそかに期待していた。
ところが、ソチの本番では跳ばずじまい。それでもチャンピオンに輝き世界中に浅田復活をアピールしたが、前述のように当方はあまり盛り上がることができなかった。そして今回も浅田陣営からストップがかかった。
ただ、この記事が心強かったのは、浅田さん自身は跳ぶ気になっているということだった。
ある選手の入団会見がヒントで理解する
トリプル・アクセルを跳ばない。
これが何を狙ってのことなのかは、もちろん聞いている。
浅田さんが佐藤コーチに師事して3シーズン目。佐藤コーチは、当初から浅田さんに基礎的な反復練習を課している。
基本となるスケーティングの見直し。スピンやターンのエッジワーク、これまで当たり前にやって来たことのクオリティーをさらに上げる。そして演技全体の表現力や芸術性を高め、安定感のある滑りを構築していく。その成果は、着々と実を結び6回目の日本選手権優勝にもつながっている。
しかし、それはトリプル・アクセルを跳びながらでも並行してできることではないかと思うのだ。ところが佐藤コーチは、浅田さんになかなかGOサインを出さない。
「なぜだろう?」とずっと疑問に思っていた。
ところが、まったく別のスポーツの、ある選手の入団会見がヒントになって、佐藤コーチと浅田さんがやろうとしていることがなんとなく分かったような気がする。
トリプル・アクセルはホームランだ
それは、メジャーリーグのオークランド・アスレチックスへの入団が決まった中島裕之選手(元埼玉西武)のこんなコメントだった。
「僕は、野手の間を抜ける当たりを打つ打者なので、そういう打球をしっかり打っていきたい」
西武時代の中島と言えば、おかわり君(中村剛也)と3番4番を組み、豪打で相手投手を困らせていたが、基本的にはセンターを中心にコースに逆らわないバッティングが持ち味の打者。甘いコースに来たときはもちろんスタンドに運ぶ力を持っているが、決してホームランを狙うバッターではない。
その意味で、中島は「野手の間を抜く打者」と言っているのだ。
フィギュアスケートの話を、野球に置き換えることは無理があるかもしれないが、私にはその方が分かりやすい。
トリプル・アクセルは、言ってみればホームランだ。
浅田さんは、世界でも有数のホームラン打者である。これを打てるのは世界に数人しかいない。そのことをもちろん佐藤コーチも知っている。
しかし、ホームランは「両刃の剣」である。ホームランをあまりにも意識し過ぎると、フォームを崩し強引なバッティングになってしまう。あくまでも基本は、来たボールを、センターを中心に打ち返えす。それが甘いボールだと自然にホームランになる……というのが理想だ。
今はセンター返しに徹している
今、佐藤コーチが浅田さんに求めているのは、どんなボールでも逆らうことなくきれいに打ち返すことなのだろう。それができるようになれば、打席の中で余裕を持って打つことができる。そして、その場面(シークエンス)が来たときには、甘いボールを軽々とスタンドに叩き込めばいいのだ。
ホームランだけを意識しているとそれができない。だから今は、ホームランの魅力と快感を忘れて、センター返しに徹しているのだ。
そう思うと、佐藤コーチの狙いと浅田さんの我慢の意味が見えてくる。
カルガリー五輪日本代表で解説者の八木沼純子さん(プリンスホテル所属)が、全日本選手権の浅田さんの滑りをこう解説している。
「浅田選手の土台が出来上がったという感じがします。この土台づくりの完成が『解禁』を呼ぶのではないでしょうか。」
いよいよホームランを狙いにくる……というわけである。
八木沼さんの見解によれば、五輪出場枠を賭けた3月の世界選手権(カナダ)。しかし、ぶっつけ本番では心配なので、2月の四大陸選手権(大阪)でチャレンジしてくるのではないかと見ている。
まずは基本を繰り返して、それを身に付ける
いずれにしても、トリプル・アクセルの解禁は間近のようだ。
いきなり大きい当たりを狙わずに、まずは基本を繰り返す。それが身に付けば、どんな状況にも対応できる。良い選手は、実はみんなそこからスタートしているのだ。
そしてこれは、何事にも共通する姿勢(向き合い方)なのだろう。
2013年、そしてソチ五輪に向けて、浅田真央選手に特大のホームランが出ますように……(by 浅田マニア)。
そして、みなさま、よい年をお迎えください。
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青島 健太(あおしま・けんた)
1958年生まれ。新潟県出身。慶応大学から東芝を経て、1985年ヤクルトスワローズに入団。5年間のプロ野球生活の後、オーストラリアで日本語教師となる。帰国後、スポーツライター、テレビキャスターとして活躍。2005年、社会人野球「セガサミー野球部」の監督に就任。07年、千葉市長杯争奪野球大会で初優勝後、退任。現在は、スポーツライター、「J SPORTS ワイド」のキャスター、TBSラジオの野球解説のほか、鹿屋体育大学、流通経済大学、日本医療科学大学の客員教授として教鞭をふるう。近著に『メダリストの言葉はなぜ心に響くのか?』 (フォレスト2545 新書)がある
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http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20121226/335173/?ST=career&P=1