新橋演舞場 「花の生涯」
サンクスコンサート
2013・6・30(日) 14:00
~ 2 ~
「 兄弟船 」 昭和57年
作詞: 星野 哲郎
作曲: 船村 徹
♪ 波の谷間に 命の花が
二つ並んで 咲いている
兄弟船は 親父のかたみ
型は古いが しけには強い
おれと兄貴はヨ 夢の揺り籠さ
~ ~ ~ ~
~ ~ ~ ~
やけに気の合う 兄弟鴎
力合わせてよ 網を巻きあげる
~ ~ ~ ~
~ ~ ~ ~
雪のすだれを くぐって進む
熱いこの血はよ 親父ゆずりだぜ
鳥羽一郎さんのデビュー曲。
北島さんの曲は多分今までにも歌われたことがあるだろうから、もしか
したら、この曲が舟木さんがステージで初めて歌われる曲かな、と思った。
豊かな恵みをくれる海も、時には牙を剥くときもある。
力を合わせて乗り切らねばならない兄弟の、熱い結びつき。
父とのつながり。海の男の血潮を歌う熱い歌。
しかし、” 演歌 ” のこんなに濃い世界でさえ、舟木さんは重くなり
過ぎずに表現し、心地よい気持ちが届いてくるのは、どうしてなのだろう。
ラスト
「 なみだ船 」 昭和37年
作詞: 星野 哲郎
作曲: 船村 徹
♪ 涙の終わりの ひとしずく
ゴムのかっぱにしみとおる
どうせおいらは ヤン衆かもめ
泣くな 怨むな 北海の
海に芽を吹く 恋の花
~ ~ ~ ~
~ ~ ~ ~
惚れたら 遠慮はできまいが
いやというなら ぜひもない
夢を見るなよ ヤン衆かもめ
にしん枕に 北海の
月に哀しや 泪船
昭和37年6月、「王将」のヒット記念として公演された大阪劇場の
「村田英雄ショー」で前座を務めたのが、この月に「ブンガチャ節」
でデビューした北島三郎さんであった。
巷間歌われていた「ブンガチャ節」は、歌詞に問題ありとして発売後
すぐに放送禁止指定曲となり、その代替え曲として、8月に急遽
「なみだ船」が発売された。この曲はミリオンセラーとなり、北島さんの
歌手としての地位を確立する曲となった。
(参考:「歌謡曲」---時代を彩った歌たち 高 護 岩波新書 P83)
「 なみだ船 」 について、レコード業界に身を置き、作詞家でもあった
五木寛之氏は、このように記す。
『 なみだ船 』という曲を聴いたときに、やはりプロの歌はこういう
作品でないとだめなんだ、中途半端にホームソングみたいな曲を書いても
だめなんだなと思い知らされました。この曲には、北島さんのいいところが
全部出ている、印象の強い歌です。星野哲郎さんの傑作の一つですね。
(わが人生の歌がたり 昭和の青春 角川書店P137)
また、先の高氏も、「 なみだ船 」がいかに優れた作品であるかを
語られる。
星野哲郎・船村徹による「なみだ船」は、音域が広く表情の豊かな聴き
応えに満ちた、そして革新的な作品である。 (同 P84)
底辺に生きる庶民のリアルな心情を歌に託したこの作品は、来たるべく高度
成長に向けて単なる労働力としてのみ認識されていた、地方に実在する若者
の苦しい心境とささやかな希望を描ききっている。 (同 P85)
「なみだ船」や「風雪ながれ旅」が、多くの人々の心を捉え、名曲である
のはもちろんである。
多くの方に支持されている” 演歌 ” という一ジャンルがあるのは確か
なのだが、また反面、苦手としている人たちが多いのも確かである。
固定した世界観の中で、情念を押し付けられる音楽、としか捉えること
ができなければ、やはり心地よくはない。
ところが舟木さんの歌われる ” 演歌 ” は、情念は届くが、過剰な情念
ではないように思う。
圧倒的な歌唱力で”演歌”の世界を繰り広げながら、聴き手の自由な
想いもOKになりそうな、”情緒”とか”叙情”に近い”情念”のように思わ
れる。 こちらの想いも入れてOKというのは、相当に心地いい。
そして、” やっぱり、舟木さん、うまい!最高!!” と聴き惚れる。
アンコール
「 夕笛 」
作詞: 西條 八十
作曲: 船村 徹
♪ ふるさとの 蒼い月夜に
ながれくる 笛の音きいて
きみ泣けば わたしも泣いた
初恋の ゆめのふるさと
~ ~ ~ ~
~ ~ ~ ~
ふるさとへ いつの日かえる
屋敷町 ふるいあの町
月の夜を ながれる笛に
きみ泣くや 妻となりても
あゝ花も恋も かえらず
ながれゆく きみの夕笛
西條八十特集、船村徹特集でのアンコールなら、やはり「夕笛」
しかない。叙情歌系は舟木さんの財産だ、ということがよくわかる。
22歳のとき西條先生に作って貰った「絶唱」でレコード大賞
歌唱賞を授与されて以来の ” うまく歌おう、じょうずに歌わなくては
・・・” という舟木さんの ” 「絶唱」後遺症 ”
そして、ある時、舟木さんの元へ突然架かってきた船村先生からの
一本の電話のエピソード。
” 僕が君のために作った「夕笛」は誰が歌ってくれるんだい? ”
その後の舟木さんの歩みは、もうご承知の通り。
35を過ぎてから、やっと、
(うまい歌手になんかならなくていいんだ。いい歌手になろう )
という大テーマをかかげられるようになってきた。~~~
ステージのエネルギーというか、勢いというか、ともかく歌手のパワーで
お客さんを巻き込む、聞かせてしまう、そんな歌手を目指そうと思ってから
僕の中の ” 「絶唱」後遺症 ”は完全に昇華した。
(「怪傑!!高校三年生」P134)
新橋演舞場サンクスコンサートは、いつにもまして、まさしく舟木さんが
目指してこられたステージ、その通りのステージであったように感じた。
ともかく、聴かせられてしまった。
決して気持ちを押し付けたりはされないのに、声に乗って心が届いて
くる。スケール大きく、激しい荒波のような歌詞だけれど、男らしい舟木
さんの心のこもった優しい気持ちがふんわりと、じんわりと届いてくる。
力強く、海の男の歌を歌っていても、舟木さんの気持ちの暖かさが伝
わってくる。これが、舟木さんの歌唱力、説得力。
今までお聴きしてきた舟木さんの ” 演歌 ” のなかでも、圧巻の”演歌”
が並んだ夜だった。