◆閑なときは街中を歩き回り可愛い女の子に声を掛けてデジカメで写真を撮らせてもらい家に帰ってからそのはにかんだ笑顔をフォトショップで猫のボディや建設機器とコラージュして薄気味悪いアート作品を制作するくらい閑なのに、ここ最近は夜も眠れないほどやらなきゃいけないことがあって夜眠れないから昼ぼんやりしてパソコンのディスプレイに映ったK社の損益計算書を眺めたまま1時間近くフリーズしていたりするくらい忙しい。


おれはどの会社にも所属していないのだが、モデルエージェンシー会社のK社にはいままでプロパーに近い形で関わってきた。そのK社を休眠化し、一部の業務を新しくつくる経営コンサルティング会社のG社に営業譲渡することになった。

いまそのための業務の整理にかかっているのだが、これがおそろしく膨大な煩雑を処理しなければならず、遅々としてなかなか作業が進まないでいる。


この作業と同時に、数ヶ月前から進めていたコスプレリラクゼーションサロンのオープンがいよいよ今月の24日に迫ってきており、今週辺りからオープン前の準備が佳境にさしかかりつつある。おれはプロデュース&コンサルタントとしてかなりベタな関わり方をしていて、女の子の面接からリーフレットの色校確認に至るまで、細かな実務が毎日目白押しに重なっている。

出資者の一人のジャバ・ザ・ハット(仮名)は、時間と支払いにルーズで、もうひとりの出資者である探偵社の社長を毎日のように苛立たせている。そのギクシャクした雰囲気を浄化するのもおれの役割だ。ともすると激しいフリクションに高まりそうな空気を軽い冗談のレベルに逸らして場をとりもたなければならない。

“まったくよぉ。あいつと約束するときは30分前に時間言っておかないとどうしようもねぇよな”“ああ、ねぇ。まずあの体型からしてルーズですからね”“ぷ。ちげぇねぇな”


業務委託契約、コンサルティング契約を交わしているいくつかの会社の日常的な業務も、年末が近付いているせいか、なんとなく慌しい。

こんな状況でも、新規開拓マシーンのK社のN社長は、次々と仕事の種を拾ってきてくれる。“Mのキャパシティって無尽蔵だよね~”って、そんなわけねぇだろうが!と瞬間的にキレかかり、しかしそこは瞬間的に持ち直して“ええ。いくらでも繋いできてくださいねぇ。どんなネタもぜんぶ金にしますよぉ”と半ば自棄になってそう応える。“すごいねっ。最高っ。Mっ!”“わはははっ!”


◆移動中は、アイポッドで、このあいだ買った倖田來未のベストを聴いている。<Selfish>をくりかえしリピートして、“I just want to get away あなたはきっと 私無しでは 輝けないの 今がその時 今日こそは 私の前にひざまずかせてあげるわ Selfish”の部分にくりかえしゾクっとしている。

聴きながら、永作博美女王様(仮名)のことを思い出す。彼女の前でひざまずいている自分を想像する。ペニスに血が流れ込んで硬くなる。

ふとそういや最近あんまりセックスしてねぇなと思う。誰かと愛し合うという状態にうまく入れなくなっている。

愛のないセックスから与えられるものなんてのはしれているし、終わった後、なんだか惨めな気分になる。新しい誰かと次々にセックスすれば、好奇心は刺激されるけれど、なんていうのか、もうそうした刺激にも飽きているんだと思う。

永作に“懲罰”を受けている自分を想像する。完全に勃起してしまってとても歩きづらい。


◆夜、コスプレリラクゼーションサロンで店長をやってもらうスチャダラアニ(仮名)と、居酒屋で飯を食った。

彼は28歳。税理士の勉強のかたわら、パチスロを研究し、確実に勝ち続け、それで一千万の貯金をつくったという興味深い実績の持ち主だ。

K社の浅野忠信(仮名)の友だちで、彼の紹介で、今回、しばらく店長を頼むことになった。

今月の最初から雇用契約を結び、準備を手伝ってもらっているのだが、オーナーの探偵社の社長とは折り合いが悪いようだ。


“今日なんか、特に、アレ、機嫌が悪くて。思いっきり理不尽な怒鳴られ方されましたよ”

“最初に言ったじゃん。アレ、小っちぇからさ。臆病なのを高圧的な態度で覆い隠してるってタイプだからね。きみみたいな「生意気な若造」が怖くてしょうがねぇんだよ(笑)”

“いや、ほんと、それ、よく分かりましたよ。まぁ、そう考えると、もうバカらしくて腹も立たないんですけどね。部下の人たちに聞いても、みんながみんな愚痴言いますもんね。あんだけ人望がないのもめずらしい”

“まぁね。臆病で嘘つきで見栄っ張りでどうしようもない(笑)確かにね。まぁ、それでも、あの人にはおれにはできないことができるし、おれにはないものを持っててさ。少なくともおれにとっては付き合う価値のある人ではあるんだよね”


“それにしても、ここに来てまだ数日目ですけど、不思議だなと思ったのは、ジャバ・ザ・ハットも探偵社の社長も、別に社会的な能力が高いわけでもないし、人間的にも低いじゃないですか。でも同年代の普通の人たちより、ずっと金回りがいいんですよねえ。あれ、何なんでしょうね”

“うん。つまり、金を稼ぐというのは、その人間に社会的能力が有るか無いか、人間的な価値が高いか低いかということは、直接関係のない能力だってことだよな。逆にいえば、いかに能力が高くて人間的に尊敬できる人であれ、それだけでは金を稼ぐことはできないってことになるね”

“ううん、そうなりますよね。金を稼ぐ能力って、でも、どういうんでしょうね”

“ああ、どういうんだろうね。物理の運動法則みたいな、金の運動法則ってのがあって、それを見通すことができれば、あとは金が流れているところに、手をつっこめばいいってことなんだろうけど。ううん、まだ十分には説明できないな。まぁね、しばらく連中の動きを見ながら、勉強してみたらいいんじゃないかな”

“ああ、うん。…そうですね”

“しょぼい連中だけど、それでも、あいつらは、きみがそうしたくて、でも、できないでいることができてるわけでね。付き合う価値はあると思うよ”

“…ええ。…そうですね”

“わかるか?あいつらに屈服しろとか、あいつらに従属しろとかね、あいつらを尊敬しろって言ってるわけじゃないんだぜ?”

“ああ、いや、わかってますよ。そんなん言われてもムリだし(笑)”

“うん(笑)軽蔑してりゃいいから、同時に、連中を評価して、謙虚に勉強させてもらった方が得だぜ、と言ってるんでね。おれは、きみみたいに、野心があってポテンシャルの高い人間にしかこういうアドバイスはしないんだよ(笑)”

“ああ、…ええ。わかりました(笑)”

◆今日も沖縄の夢を見た。帰ってきてから3日間連続で夢に見ている。


―エメラルドグリーンの海と紺碧の空。中空には太陽が燃えている。誰もいない波打ち際でおれはひとりで散歩している。宇宙に放り出されたような、寄る辺のない不安感と、恐いくらいの解放感。おれは小さく武者震いしている。―


じっさいの那覇滞在時には、昼はサウナで昼寝して、夜は明け方近くまでキャバクラで飲んで過ごしていた。海には一度も行っていない。



◆那覇にはここ数ヶ月、月一回くらいのペースで通っている。今回は3回目だ。一応仕事なのだが、いまのところ半端な内容の業務しかなく、ほとんど休息に行っているようなものだ。

那覇には松山という歓楽街があって、どの店も朝の5時までやっている。沖縄では、仕事が終わったらいったん家に帰り、夜中に遊びに出るという人が多いのだそうだ。おれたちも3回目にして、昼はホテルやサウナで仮眠を取り、夕方からは夜通しキャバクラで遊ぶというパターンができあがってしまった。



◆松山のキャバクラに、ひとり、とても気に入っている子がいる。

容姿や雰囲気に惹かれるというだけでなく、話していると、彼女の生きることへの素直な意志が伝わってきて、それがおれにはとても魅力的に感じられる。


―自分の未来は自分自身が切り拓く。そうしなきゃ生きることの充実なんてない。死ぬまでの残り時間を数えるように日々を過ごしている人も多いけれど、私はそんなのイヤだ。私は充実したい。空っぽになるまで燃焼し尽くして、何も遺すことなく、笑って消えていきたい。―

もちろん、おれは、その子がじっさいにどういう人間なのかは知らない。

これは、おれがその子から受け取った印象の描写であり、彼女自身の内面を想像しての語りなどではない。

ただおれから見た彼女は「そんなふうに魅力的だった」ということである。

おれは本来、思い入れの強い人間ではない。

男女を問わず、意外と人に惚れにくい体質の人間である。

だから、女の子と話しているだけでワクワクするような気持ちになったのは、ごく久しぶりのことだった。


◆10時に入店して、明け方の4時まで、6時間、薄めた泡盛を飲みながら、ひっきりなしに煙草を吸って、延々と彼女と喋って過ごした。

彼女が質問して、おれがそれに答える。


“結婚しないと老後が淋しいなんて嘘だと思うの。連れ合いや子どもに捨てられるなんてざらでしょ?家族がいるからってそれだけで豊かな老後を迎えられるなんて保障はどこにもないよね?”

“家族と豊かな交感を実現するってすごく難しいことなんだよ。それができるほどの人間なら家族がいなくたって友だちにも不自由しない。つまりさ。家族がいようがいまいが、コミュニケーションスキルの高い人間は豊かな老後が送れるんだろうし、そのスキルを磨くのを怠った人間は、いずれにしろ淋しく老いていくしかない。ね?”

“うんうん。そう。そうなの。Mさんすごく的確よね?”


きみがおれの言うことを的確だと感じるなら、その瞬間、おれたちは通じ合ってるってことだ。

コミュニケーションスキルが高いってのはそういうことで、だから、ほら、おれはこの瞬間、すごく幸せで、かけらも淋しくない。