いっぱいのお運び、厚く御礼申し上げます。毎度バカバカしいお笑いを、一席。

 え~、どんな人にでも『名前』というものはついておりますね。人以外にも動植物・物品・土地・病原体・現象などなど、名前というものはそのものの存在証明であり、とても大切なものでございます。
 しかし、昨今では『個性』というものを勘違いしたのか、自分の子どもに暴走族の屋号みたいな名前をつける輩が増えており、“騎士(ナイト)”とか“金星(マアズ)”とか“ペ若人(ペヤング)”なんてビックリな当て字の名前も珍しくはありません。「ペット感覚で名前をつける親」なんて度々ニュースで比喩されることもあり、また古風につけたらつけたで逆に“ぶってる”と言われたりして、現代日本では名づけという行為は相当ハードルの高いものと言えるのかもしれません。

 ところかわって、昨今ではペットを家族同然として扱う人も増えておりますね。人間以上に良いものを食べさせたり毛皮があるのに服を着せたり、飼い主(お父さん・お母さんなんて呼称するらしいですが)にしてみれば、自分の息子・娘と同じと言っても差し支えないのかもしれません。
 一時世間を騒がせたアザラシなんかには、一般的なものとは違いますが『特別住民票』なんてものを区があてがったりして広くアピールしており、もはや動物は人間と同等の存在と言っても過言ではないのでしょう。

 さて、ここまでペットの価値観が高まった世の中になりますと、先ほどとは逆に、ペットに人間的な名前をつける人も出てくるのかもしれませんね。
 “セバスチャン(セバスチャン)”とか“田中(タナカ)”とか“ペス男(ペスオ)”とか。もしくは、――――“太郎(タロウ)”とか“次郎(ジロウ)”とか……

………………っ! な、南極物語____、


☆★☆★☆

――――そうは言いましても、

 先ほどから現代人の名前のつけ方をディスってばかりでございましたが、昔の人が“太郎”や“次郎”、“花子”や“せへ”などのド鉄板な名前だけを子どもにつけていたか、と言いますと存外そうでもございません。
 男の子には“悪太郎(あくたろう)”や“尿太郎(いばりたろう)”、女の子には“お捨(おすて)”なんて現代では到底受け入れられないものも多数ございました。また、“牛若丸”などに使われております『丸』の字は、つまるところ“おまる”のことであるという説もございます。
 しかし、これは自分の子どもが悪いものに取り憑かれないようあえて汚いものを名前につけ、ウチの子は汚いから触るんじゃない、と魔を欺き大人になるまで健やかに育てたいという親の情愛に他ならぬもの。まだ現代ほど科学も発展しておらず、また現代よりすべからく信仰心の強い時代の産物でございました。
 そして、子どもが『元服』(現代で言う『成人』)を迎えますと、改めて立派な名前つけるものとなっておりました。

 さて、以上を鑑みておりますと世代、世情、世相関係なく、いつの世も親が子どもに託す願いは大きいもの。それは決して自画自賛やエゴからではなくただ純粋に子どもの幸せを願ってのものでありまして、子どもの健康と長命を千歳飴に願をかけたという『かくまでに親は思うぞ千歳飴』なんて昔の句もございます。
 さりとて、煌びやかで尊大で大仰な名前をつけられた子どもほど、名前負けをして鬱屈してしまうことも無きにしも非ず。
 『個性』や『存在感』は名前や容姿、装飾品ではなく『心の内』から滲み出る、そんな子どもに育ってほしいものですね。

☆★☆★☆

「こんちは」
「おお。誰かと思えば、八っつぁんじゃないかい」
 大工の八五郎が訪れたのは、町の賢人・ご意見番で知られるご隠居の猫屋敷。
「お前さん、今日はどうしたんだい?」
「いや、ご隠居。この度はおめでとうございます」
「なんじゃ? わしになんかめでたいことでもあったのかのう?」
「ええ。大変めでたいことがありまして……」
「ほほう。いったい何があったんじゃ」
「はい。実はですね、長家でお子さんがお生まれになりまして」
「(ドキッ) あ、あら、そうかい? そりゃ気が利かなかったね。それでどちらでお子さんがお生まれなさったんだい?」
 八五郎の発したふいの一言に、ご隠居の顔は冷や汗でまみれ、心臓は道路工事で地盤を固めるやつみたいな感じで早鐘を打ち出す。しかし____、
「ええ。あっしのところでね、お生まれなさったんです」
 八五郎の頓珍漢な言葉に、新喜劇並みにずっこけるご隠居。
「(ふう。セフセフ) なんじゃ! 自分のところで“お生まれなさった”て言うのはおかしいじゃろ」
 そう言いつつご隠居は自分の心当たりとは違うことに人心地つき、ホッ、とした途端に体中の毛穴という毛穴から汗が噴き出し着衣が汁にまみれる。
「まあいいんじゃが。それで、生まれたのは男の子かい? 女の子かい」
「うちに生まれたのはね……男のBoyなんですよ」
「なんだよ。男のBoyてのは」
「でね、うちのかみさんが言うには、お前さん、今日は“しょなのか”だからなんとかしておくれよ、てことらしいんですよ」
「……ああ、そうかい。そりゃお気の毒だったね。生まれるとすぐに亡くなったのかい」
 ご隠居が八五郎の心中を察し、胸の前で十字を切っていると、
「冗談言っちゃいけない、全然ピンピンですよ。日がな一日マカレナ踊ってますし」
「お前さん今、『初七日』だから、て」
「ええ。生まれて七日目ですから!」
 八五郎はセクシーに腰を振りながら、子どもの健在ぶりをアピールしている。
「生まれて七日目を初七日て言う奴があるかい。人間生まれて六日目を『六日垂』、七日目を『お七夜』、世の不条理と大人の汚さ、そして自分の無力さを痛感した十五年目の叫びだしたい夜を『十五の夜』と言うんだ」
「なるほど。盗んだバイクにトランスフォームしたくなりますね。そうそう、その『お七夜』」
「ま、世間ではだいたいお七夜に名前をつける習わしになっておる」
「ご隠居、そこなんです!!」
 ご隠居の言葉を受け、八五郎は身を前に出した。
「うちのかみさんが、お前さん今日はお七夜だから名前をつけておくれよ、そう言うんですよ。あっしは強い子に育ってほしいから『武井壮』なんてのはどうだい? て訊いたら、うちには“和田”っていう立派な苗字があるんだよ。それじゃあ“和田武井壮”になっちゃうじゃないか。そんな名前じゃ百獣の王目指しちゃうよ、て文句ばっかりで。そんなときに、横丁のご隠居はハゲてるわりに難しい本とか読んでるから、上手くおだてりゃ良い名前でも浮かぶんじゃないか、なんてことになりまして。なんか良い名前考えてくれます?」
「………………お前さん、言いにくいことをハッキリ言うね」
「え? なんか言いましたか?」
「なんか言いましたか、じゃないよ。“横丁の”からなんて言った?」
「ええ。横丁のご隠居は小難しい本を読んで知識を頭に詰め込んで、代わりに頭から髪の毛を追い出してる。もう奴の毛根は八割方死滅してるよ……」
 話しながら何かに気付いた八五郎は、
「そう言やかみさんも言ってたよ。――この話は当人の前で言っちゃいけないよ、て」
 てへぺろ、と舌を出し不二家った。
「当たり前だよ。しかし、そうかい。あたしが名づけ親にしてもらえるのかい。そいつはありがたいね」
「そうでしょ。一つ良い塩梅にお願いしますよ」
「それでお前さんはどんな名前をつけたいんだい?」
「そうですね……なるたけ長生きをする名前をつけてもらいたいんですがどうでしょう?」
 八五郎は、庭に一本そびえ立つ天まで届かんばかりに伸びた長い木を見上げながら、そう一人ごちた。
「そりゃまあ、親はそう思うもんだよ。長生きをして願う、そりゃ確かにそうだ。願わない親なんてないから。そうねえ、長生きって言うと、頭に浮かぶのは『鶴は千年』なんて言うが、名前に『鶴』の字を使うのはどうだい」
「なるほどね。鶴なんてのは縁起が良いですね」
「どうだい一つ、“鶴男”とか“鶴吉”、“鶴蔵”、“鶴太郎”てのは?」
「鶴太郎……なんか“プッツン”しながら“パンツ一丁でカメラ”を持ち、“熱々のおでん”を食べて“画伯”になりそうな名前だね。それにツルツルツルツル、ご隠居みたいにハゲ散らかしそうだよ」
「あ! まだ言うか。この野郎」
「いやいや、でも鶴は千年経ったら死んじゃうんでしょ?」
「まあなあ。千年経ちゃ、即Deadだけれども……」
「それで参っちゃ面白くないですよ。もっと長生きする名前はないですかね?」
「お前さん、欲と業が深いね。じゃ『亀は万年』だな。“亀吉”、“亀太郎”、“亀蔵”とか。あと“亀治郎”なんてのもあるぞ」
「亀治郎、ねえ……今ちょうど歌舞伎界で枠が空いてる名前だね。そりゃ確かに、海老ってつけるよりかはWEST麻布で灰皿にテキーラ注がれて飲まされそうな名前じゃないけども、う~ん、でもちょっと違うね。なんて言うか、千年万年経つと死んじゃうなんて穏やかじゃないでしょ。もっとさ、もう死なないような常しえに生きるような……」
「なにが常しえだよ。床上手のお前さんからそんな言葉聞くなんて、ちゃんちゃらおかしいよ。だがそうだねえ、まあそう言っても始まらないから、昔の書物など紐解くと色々めでたい文句があるから、その中から一つ二つよってみようか」
「おっ! 願いましょう。それで一ついきましょう。どんな具合ですか?」
「そうだねえ。あたしの好きな文句で『寿限無』なんてのがあるけど、どうだい?」
 ご隠居の突飛な発案に、暫し口を開いたけたまま、ポカーン、とする八五郎。
「へー……じゅ、じゅげ、じゅげ……ねー。そりゃ、なんですか?」
「“寿”“限り”“無し”と書いて『寿限無』だ。どうだい? 寿=年齢に限りが無いてんだ。あたしゃめでたいと思うね」
「ほお、なるほどねえ。まだありますか?」
「うーん。それじゃあ『五劫の擦り切れ』なんてのはどうだい?」
「なんですかそりゃ! ふざけちゃいけませんよ、“ごこうのすりきれ”なんて。きんぴらごぼうを作る下準備みたいなもの」
「そりゃ“ごぼうのささがき”だろ。これはなあ、天人が三千年に一度天下ってくるんだな。そして地上の岩を己の着ている軽い衣でそっと撫でる。で、上がってから三千年経つとまた下りてきてこの岩を撫でる。ね? 三千年毎に下りてき上がりでやっているうちにすっかり岩が擦り切れて無くなるのが一劫っていうんだ」
「ふーん。なるほど」
「それが“五劫の擦り切れ”てんだから、何億年何兆年何無量大数年て先の話だろ」
「ほぉ、こりゃ良いや。あっしも擦り切ってもらいたいね。まだありますか?」
「まあ、『海砂利水魚水行末雲来末風来末』なんてのは?」
「へー。すいぎょうばつうんらいばつふうらいばつ、バツバツ並んでますね。まるで昔住んでた懲罰房思い出しますよ」
「これはね、海砂利水魚、海の砂利というものは取っても取っても取り尽くせるもんじゃない。魚とて同じだ、“水の魚、取っても取っても取り尽くせない”てところから、これもめでたいだろ。で、後にきて雲の行く末風の行く末、これも何処から来て何処へ行くやら果てしもなく広いもんだ、と大層めでたいもんだ」
「はああ、なるほどね。か、かいじゃり……かいじゃり……くりぃむしちゅー……かいじゃりすいぎょばつばつばつ! と、面白くなってきましたね。まだありますか?」
「ふむ。“衣食住”と言うから『食う寝るところに住むところ』ぐらいのことも考えておいた方が良いだろう」
「………………はあ。なるほどね。まだありますか?」
「あるけどさ。いいのかい? どんどん続けて?」
「ええ。続けて続けて」
「『やぶら小路の藪柑子』て言うがね」
「はああ? KOJI1200なら知ってますがね」
「『今田耕司』と一緒にするやつはないだろ。こりゃ“柑子”という木だな。草花、植物だがね、大変めでたいんだよ。春、若葉を生じ花を咲かせ、やがてこれが秋に実がなる。冬になってもその緑が、お前さん風に言うと常しえに変わらないてな。常に緑で大層長寿な木だ」
「なるほど。やぶらこうじのやぶこうじ……その木はどこにあるんですか?」
「どこにあるとか、そういうことじゃなくて」
「でも、あったら引っこ抜いてウチに持って帰ろうと思いましてね」
「……そんなことしたら怒られるよ」
「へへ。そしたら素直に謝りゃ、後に大統領になれるかもしれませんよ」
「その前に銃殺刑だよ」
「で、まだ後なんかないですかね?」
「お後お後、てうるさいね。じゃどうだい、『パイポパイポ パイポのシューリンガン シューリンガンのグーリンダイ グーリンダイのポンポコナーのポンポコピー』てのは?」
「こりゃ、恐ろしく並べましたねー」
「これはまあ、昔パイポという国にシューリンガンとグーリンダイという王様とお后様がいてね、そこに産まれたのがポンポコナーとポンポコピーという子どもだ。大層長生きをして国が盛って、何万年の間国が繁栄したって話があるね」
「ほへえ。外国の方にも色々ありますね。でも外国じゃなくて、日本に何かないですかい? 和製ビヨンセみたいなやつ」
「日本て言うとね。あたしに名前をつけなきゃいけない子どもでも孫でもいたら『長久命の長助』、“長く久しく命を助ける”なんてのは良い名前だと思うけどどうだい?」
「ありがたいね。それくらいで結構ですから、ちょいと紙に書いて下さい」
「はあ。書くのは構わないけど」
「あ! 本字(漢字)で書かれると駄目なんだあたしは。読めないからね。一番取りつくやつ“かな”てやつね。本字ってやつはどうもね。かんじ(感じ/漢字)が悪くてかな(適/かな)わない、てのはドヤッ」
「つまらねえ洒落を言うね、お前さんは」
 ご隠居は八五郎のドヤ顔を流しながら、和紙にさらさらと文字をしたためていく。
「ほら。書いたよ」
「へへ。ありがとうございやす」
 八五郎はご隠居からそれを受け取ると、
「えー……『じゅげむじゅげむ ごこうのすりきれ かいじゃりすいぎょのすいぎょうばつふうらいばつうんらいばつ くうねるところにすむところ やぶらこうじのやぶこうじ ぱいぽぱいぽ ぱいぽのしゅーりんがん しゅーりんがんのぐーりんだい ぐーりんだいのぽんぽこぴーのぽんぽこなーのちょうきゅうめいのちょうすけ』、ね。はいはい」
 一頻り紙に書かれた名前を読み上げ、
「よっ!」

 ビリランッ!!

 おもむろに紙を引き裂いた。
「お、お前さん。なにをするんじゃ」
「なにをするんじゃ、じゃねえよ、このアデランス野郎。なんだこりゃ! 名前つけろってのに、衣食住辺りから名前になってねえじゃねえか」
「じゃ、じゃが、お前さんが縁起の良いものと……」
「じゃがもポテコもねえよ。そんな変な名前つけて周りから浮いたらどうするんだ。昔ニュースで“夢”て書いて『ドリーム』て読ませる子が出てたぞ! そりゃ小さい時分は良いかもしれねえが、順当に年老いたら末は“ドリームおじいちゃん”だぞ! ちょっとした町のトピックス・名物おじいちゃんみたいじゃねえかっ!!!!!」
「ふ、ふぇぇ……」
 八五郎は、まくし立てられ半涙目となっているご隠居を尻目に、ビリビリに破った紙と罵詈雑言と吐瀉物を撒き散らしながら、ノーモーナヤミムヨー、と最後に一言残してその場を飛び出していった。

――――ご隠居の家を後にした八五郎は、

「ったく、あのプロピア野郎の所為ですっかり時間を無駄にしちまったぜ。しかし、どうしたもんかなー、名前は。やっぱ『武井壮』が妥当か?」
 プリプリ怒ったまま家路につき、やはり初志貫徹! と息子の名前を決めかけていたその時、

わーわー、キャーキャー、ピ・ピカチュウ

 ちょうど横を通りかかったおもちゃ屋から、たくさんの歓声と拍手喝采が響き渡っていた。
「なんだあ? ここで祭りでもやってんのか?」
 八五郎がその声に誘われて店の中に入ってみると、
『おめでとうございます。大会を優勝して見事“ポケモンマスター”の称号を手に入れたのは、今国智章くん四十三才でーす』
 店の天井に吊されたスピーカーから爆音のアナウンスが流れるや否や、割れんばかりの大きな拍手と喝采が店内に鳴り響く。八五郎がその喧騒に誘われて店の奥へと足を運ぶと、大型モニターの前で全身タイツの男性が誇らしげにゲームボーイを掲げて立っていた。
「おい、ちょっと。お前さん、今一身に拍手喝采を浴びてるけど、なにかあったのかい?」
「おじさん、なんだい? 僕はポケモンマスターさ」
「ポケ……ポケ……アイマス……ポケモンマスターっての? そいつは偉いのかい?」
「僕はこの中で一番ポケモンが強いんだ! もちろん世界で一番偉いよ」
「そうかそうか」
 男性の力強い一言に、これはしたり、と八五郎が男性に話し出す。
「そいじゃ、ちょっとお前さんに頼みがあるんだけどね。七日前におじさん家に子どもが生まれたんだ。元気な男の子の赤ちゃんだよ。その子の名前を是非つけてほしい」
「な、名前!!」
「そうなんだよ。世界一のお前さんにしかできないんだ。一丁、強そうな名前をつけておくれ」
「わかったよ。おっさん、まかしとけ!」
 八五郎に請われて、男性は早速名前を考えだす。
「うーん。『ポケモン赤』で強いって言えば、『ノーマル系』だろ。ノーマル系といえば『ケンタロス』・『ラッキー』・『ガルーダ』だけど……でも、他のポケモンにも個性があるし。一般的にパラメータの高いポケモンだけ選べば良いのか? それじゃあ大会対策だけで面白さの欠片もないし……」
「………………?」
「……大会で勝つために強キャラだけの布陣じゃ、その場では勝てたって避難囂々は目に見えてるし、みんなそんなキャラだけ使うようになったら6体もポケモンがいたら充分だ……」
「お、おい!」
 名前を考えているはずの男性は、ブツブツと益体のないことを一人ごちているばかりで、一つも候補が挙がらない。八五郎はだんだんと男性の将来が心配になり声をかけてみるが、男性はそれを無視して蚊の入るような声でブツブツと言うばかり。
「……どんな人にも趣味嗜好があるから151体もポケモンがいるわけだし、成長前のカワイイ風体も成長後のゲロッパみたいな成りも、全てのキャラに魅力があって各々が選択出来るからポケモンは素晴らしいゲームなんだ。……やはり『愛』だ! 『愛こそ全て』なんだ!」
「おいっ! 目覚めろ!」
 八五郎はとうとう我慢が出来なくなり、渾身の力で男性の頬を張った。

 バシッ!!

「はっ! おじさん? どうしたの?」
 男性はその一撃で目を覚まし、トリップから覚醒する。
「どうしたの、じゃねえや。お前さんが名前を考えるのにブツブツ言いながら軽くトランスっちゃってたんで心配になって一叩きしただけだよ」
「なまえ?……名前……そうだっ! おじさん。ボク、良いことを思いついたよ!」
「おお、そうかそうか。考えてくれたかそれでどんな名前だい?」
「へへへ。それじゃあ、いくよ」
 男性は照れ笑いしながら、一呼吸おき____、

「ピ力チュウ/カイリュー/ヤドラン/ピジョンコダック/コラッタ/ズバット/ギャロップサンダース/メノクラゲパウワウ/カラカラ/タマタマ/ガラガラフシギダネ!
アーボ/イーブイ/ウツドン/エレブーカビゴン/カブ卜/サイドン/ジュゴンポリゴン/ディグダ/ドードリオ/ゲンガードガース/ルージュラ/ニャース/シャワーズクサイハナ!
コクーン/ゴースト/イワーク/ヒトカゲラッキー/ラッタ/オニドリル/コイル/レアコイルプクリン/ゼニガメ/ニョロゾ/トサキントファイヤー/ブースター/フーディン/ブーバーストライク!
キャタピー/ピクシー/シードラ/ライチュウヒトデマン/クラブ/ニドクイン/サンドパンアズマオウ/卜ランセルドードー/タッツー/ガーディ/マンキードククラゲ!
オニスズメ/サンド/パラセクトスリープ/ビードル/カイロス/ピジョットコ・イ・キ・ン・グ!
サイホーン/マタドガス/フシギソウ/カメックスシェルダー/サンダー/リザード/ナッシーべ・ト・べ・ト・ン!
ポッポ/ウツボット/プリン/ケーシィ/べ卜べターガルーラ/ギャラドス/ゴローニャ/ピッピイ・シ・ツ・ブ・テ!
ゴルダック/オムナイト/ゴルバット/アーボックニドラン(メス!)/ニドラン(オス!)ナ・ゾ・ノ・ク・サ!
ニョロボン/カモネギ/ラプラス/ラフレシア力ブトプス/ニドリーナ/バリヤード/マルマインフシギバナ/パラス/リザードンコンパン/ヤドン/メタモン/ゴースビリリダマ!
ユンゲラー/キングラー/サワムラー/エビワラーカイリキー/スリーパー/ゴーリキー/スターミーマダツボミ/プテラ/ニドリーノ/ぺルシアンハクリュー/ミュウツー/キュウコン/スピアーべロリンガ!
バタフリー/ダグ卜リオ/ニドキング/オムスターパルシェン/ニョロモ/ゴローン/ロコン/ケンタロスポニータ/モンジャラ/ミニリュウ/ワンリキーモルフォン/カメール/ウィンディ/フリーザーオ・コ・リ・ザ・ル!」

 ポケモンの名前をリズムにのって口にした。
「ポケモン、ゲットだぜ!!」
「おお! こりゃみんな良い名前だ」
「うん。おじさん、どのポケモンも個性があってみんな素晴らしいんだ」
「そうか。お前さんのポケモンに対する愛がひしひしと感じられるよ。じゃあ今のを全部紙に書いてくれるかい? あ! でも本字はいけねえよ。おじさん読めないからな。かんじがわるくてかなわない、てな」
「HAHAHAッ! おじさん、サイコーだよ! 大丈夫さ、ポケモンの名前はみんなカタカナ五文字以内だから」
「ほお、そいつはありがてえ」
 男性がポケモンの名前を和紙に書き込み、八五郎がそれを受け取ると、
「すまねえな。そいじゃ、行ってくるぜ」
 その足で市役所まで駆け込み、書かれた名前をそのまま全て出生届に書いて提出してしまいました。

――――時は流れ、早五年。

 八五郎の息子はすくすくと育ち、昨今の子ども中では恰幅も良く腕っ節も強い。またその名前の通りポケモン好きになっており、近所にいる友達・レイモンドくんと遊びに行くと言っては、“公園で携帯型ゲーム機をやっている”という現代っ子の負の部分を受け継いだ子として芳しく成長していたのであった。
 今日も今日とて、母親がF2層向けのテレビ番組を視ているのを横目に、友達と遊んでくる、と3DSを持ち元気に家を出て行ったのだが____、

「HEEEEYYYY。あアアァんまりだアアアア」

 息子と遊んでいるはずのレイモンドが、豪快に泣き叫びながら八五郎の家に飛び込んできた。
「あら、レイモンドくん」
 一頻り泣きわめいたレイモンドは、
「フーーー。スッとしたぜ」
 涙と一緒に愛憎入り混じった心情も流したのか、スッキリとした面持ちでその場に立っていた。
「どうしたの? レイモンドくん」
「おばさん。
ピ力チュウ/カイリュー/ヤドラン/ピジョンコダック/コラッタ/ズバット/ギャロップサンダース/メノクラゲパウワウ/カラカラ/タマタマ/ガラガラフシギダネ!
アーボ/イーブイ/ウツドン/エレブーカビゴン/カブ卜/サイドン/ジュゴンポリゴン/ディグダ/ドードリオ/ゲンガードガース/ルージュラ/ニャース/シャワーズクサイハナ!
コクーン/ゴースト/イワーク/ヒトカゲラッキー/ラッタ/オニドリル/コイル/レアコイルプクリン/ゼニガメ/ニョロゾ/トサキントファイヤー/ブースター/フーディン/ブーバーストライク!
キャタピー/ピクシー/シードラ/ライチュウヒトデマン/クラブ/ニドクイン/サンドパンアズマオウ/卜ランセルドードー/タッツー/ガーディ/マンキードククラゲ!
オニスズメ/サンド/パラセクトスリープ/ビードル/カイロス/ピジョットコ・イ・キ・ン・グ!
サイホーン/マタドガス/フシギソウ/カメックスシェルダー/サンダー/リザード/ナッシーべ・ト・べ・ト・ン!
ポッポ/ウツボット/プリン/ケーシィ/べ卜べターガルーラ/ギャラドス/ゴローニャ/ピッピイ・シ・ツ・ブ・テ!
ゴルダック/オムナイト/ゴルバット/アーボックニドラン(メス!)/ニドラン(オス!)ナ・ゾ・ノ・ク・サ!
ニョロボン/カモネギ/ラプラス/ラフレシア力ブトプス/ニドリーナ/バリヤード/マルマインフシギバナ/パラス/リザードンコンパン/ヤドン/メタモン/ゴースビリリダマ!
ユンゲラー/キングラー/サワムラー/エビワラーカイリキー/スリーパー/ゴーリキー/スターミーマダツボミ/プテラ/ニドリーノ/ぺルシアンハクリュー/ミュウツー/キュウコン/スピアーべロリンガ!
バタフリー/ダグ卜リオ/ニドキング/オムスターパルシェン/ニョロモ/ゴローン/ロコン/ケンタロスポニータ/モンジャラ/ミニリュウ/ワンリキーモルフォン/カメール/ウィンディ/フリーザーオ・コ・リ・ザ・ル!
ちゃんと一緒にポケモンの対戦やってたんだけど、ボクが勝負に勝ちそうになったら無理矢理通信ケーブルを引き抜くんだ。そうしたらボクの3DSがバグっちゃって動かなくなっちゃったんだよ」
 レイモンドはそう言って3DSを高々と掲げる。
「あら、本当に? うちの
ピ力チュウ/カイリュー/ヤドラン/ピジョンコダック/コラッタ/ズバット/ギャロップサンダース/メノクラゲパウワウ/カラカラ/タマタマ/ガラガラフシギダネ!
アーボ/イーブイ/ウツドン/エレブーカビゴン/カブ卜/サイドン/ジュゴンポリゴン/ディグダ/ドードリオ/ゲンガードガース/ルージュラ/ニャース/シャワーズクサイハナ!
コクーン/ゴースト/イワーク/ヒトカゲラッキー/ラッタ/オニドリル/コイル/レアコイルプクリン/ゼニガメ/ニョロゾ/トサキントファイヤー/ブースター/フーディン/ブーバーストライク!
キャタピー/ピクシー/シードラ/ライチュウヒトデマン/クラブ/ニドクイン/サンドパンアズマオウ/卜ランセルドードー/タッツー/ガーディ/マンキードククラゲ!
オニスズメ/サンド/パラセクトスリープ/ビードル/カイロス/ピジョットコ・イ・キ・ン・グ!
サイホーン/マタドガス/フシギソウ/カメックスシェルダー/サンダー/リザード/ナッシーべ・ト・べ・ト・ン!
ポッポ/ウツボット/プリン/ケーシィ/べ卜べターガルーラ/ギャラドス/ゴローニャ/ピッピイ・シ・ツ・ブ・テ!
ゴルダック/オムナイト/ゴルバット/アーボックニドラン(メス!)/ニドラン(オス!)ナ・ゾ・ノ・ク・サ!
ニョロボン/カモネギ/ラプラス/ラフレシア力ブトプス/ニドリーナ/バリヤード/マルマインフシギバナ/パラス/リザードンコンパン/ヤドン/メタモン/ゴースビリリダマ!
ユンゲラー/キングラー/サワムラー/エビワラーカイリキー/スリーパー/ゴーリキー/スターミーマダツボミ/プテラ/ニドリーノ/ぺルシアンハクリュー/ミュウツー/キュウコン/スピアーべロリンガ!
バタフリー/ダグ卜リオ/ニドキング/オムスターパルシェン/ニョロモ/ゴローン/ロコン/ケンタロスポニータ/モンジャラ/ミニリュウ/ワンリキーモルフォン/カメール/ウィンディ/フリーザーオ・コ・リ・ザ・ル!
がごめんなさいね。あなたー、あなたー。
ピ力チュウ/カイリュー/ヤドラン/ピジョンコダック/コラッタ/ズバット/ギャロップサンダース/メノクラゲパウワウ/カラカラ/タマタマ/ガラガラフシギダネ!
アーボ/イーブイ/ウツドン/エレブーカビゴン/カブ卜/サイドン/ジュゴンポリゴン/ディグダ/ドードリオ/ゲンガードガース/ルージュラ/ニャース/シャワーズクサイハナ!
コクーン/ゴースト/イワーク/ヒトカゲラッキー/ラッタ/オニドリル/コイル/レアコイルプクリン/ゼニガメ/ニョロゾ/トサキントファイヤー/ブースター/フーディン/ブーバーストライク!
キャタピー/ピクシー/シードラ/ライチュウヒトデマン/クラブ/ニドクイン/サンドパンアズマオウ/卜ランセルドードー/タッツー/ガーディ/マンキードククラゲ!
オニスズメ/サンド/パラセクトスリープ/ビードル/カイロス/ピジョットコ・イ・キ・ン・グ!
サイホーン/マタドガス/フシギソウ/カメックスシェルダー/サンダー/リザード/ナッシーべ・ト・べ・ト・ン!
ポッポ/ウツボット/プリン/ケーシィ/べ卜べターガルーラ/ギャラドス/ゴローニャ/ピッピイ・シ・ツ・ブ・テ!
ゴルダック/オムナイト/ゴルバット/アーボックニドラン(メス!)/ニドラン(オス!)ナ・ゾ・ノ・ク・サ!
ニョロボン/カモネギ/ラプラス/ラフレシア力ブトプス/ニドリーナ/バリヤード/マルマインフシギバナ/パラス/リザードンコンパン/ヤドン/メタモン/ゴースビリリダマ!
ユンゲラー/キングラー/サワムラー/エビワラーカイリキー/スリーパー/ゴーリキー/スターミーマダツボミ/プテラ/ニドリーノ/ぺルシアンハクリュー/ミュウツー/キュウコン/スピアーべロリンガ!
バタフリー/ダグ卜リオ/ニドキング/オムスターパルシェン/ニョロモ/ゴローン/ロコン/ケンタロスポニータ/モンジャラ/ミニリュウ/ワンリキーモルフォン/カメール/ウィンディ/フリーザーオ・コ・リ・ザ・ル!
が、レイモンドくんのピコピコを壊しちゃったらしいわよ」
 こういう時に女親というものは、とんとゲームに疎いもの。こうなったらアメリカのドリームチームを召集して訴訟だ、などと奮然としているレイモンドを宥めながら、奥にいる八五郎を呼び出します。
「なんだって?
ピ力チュウ/カイリュー/ヤドラン/ピジョンコダック/コラッタ/ズバット/ギャロップサンダース/メノクラゲパウワウ/カラカラ/タマタマ/ガラガラフシギダネ!
アーボ/イーブイ/ウツドン/エレブーカビゴン/カブ卜/サイドン/ジュゴンポリゴン/ディグダ/ドードリオ/ゲンガードガース/ルージュラ/ニャース/シャワーズクサイハナ!
コクーン/ゴースト/イワーク/ヒトカゲラッキー/ラッタ/オニドリル/コイル/レアコイルプクリン/ゼニガメ/ニョロゾ/トサキントファイヤー/ブースター/フーディン/ブーバーストライク!
キャタピー/ピクシー/シードラ/ライチュウヒトデマン/クラブ/ニドクイン/サンドパンアズマオウ/卜ランセルドードー/タッツー/ガーディ/マンキードククラゲ!
オニスズメ/サンド/パラセクトスリープ/ビードル/カイロス/ピジョットコ・イ・キ・ン・グ!
サイホーン/マタドガス/フシギソウ/カメックスシェルダー/サンダー/リザード/ナッシーべ・ト・べ・ト・ン!
ポッポ/ウツボット/プリン/ケーシィ/べ卜べターガルーラ/ギャラドス/ゴローニャ/ピッピイ・シ・ツ・ブ・テ!
ゴルダック/オムナイト/ゴルバット/アーボックニドラン(メス!)/ニドラン(オス!)ナ・ゾ・ノ・ク・サ!
ニョロボン/カモネギ/ラプラス/ラフレシア力ブトプス/ニドリーナ/バリヤード/マルマインフシギバナ/パラス/リザードンコンパン/ヤドン/メタモン/ゴースビリリダマ!
ユンゲラー/キングラー/サワムラー/エビワラーカイリキー/スリーパー/ゴーリキー/スターミーマダツボミ/プテラ/ニドリーノ/ぺルシアンハクリュー/ミュウツー/キュウコン/スピアーべロリンガ!
バタフリー/ダグ卜リオ/ニドキング/オムスターパルシェン/ニョロモ/ゴローン/ロコン/ケンタロスポニータ/モンジャラ/ミニリュウ/ワンリキーモルフォン/カメール/ウィンディ/フリーザーオ・コ・リ・ザ・ル!
がレイモンドくんのピコピコ壊しちゃっただと。おお、レイモンドくん、そいつはすまなかったな。後で
ピ力チュウ/カイリュー/ヤドラン/ピジョンコダック/コラッタ/ズバット/ギャロップサンダース/メノクラゲパウワウ/カラカラ/タマタマ/ガラガラフシギダネ!
アーボ/イーブイ/ウツドン/エレブーカビゴン/カブ卜/サイドン/ジュゴンポリゴン/ディグダ/ドードリオ/ゲンガードガース/ルージュラ/ニャース/シャワーズクサイハナ!
コクーン/ゴースト/イワーク/ヒトカゲラッキー/ラッタ/オニドリル/コイル/レアコイルプクリン/ゼニガメ/ニョロゾ/トサキントファイヤー/ブースター/フーディン/ブーバーストライク!
キャタピー/ピクシー/シードラ/ライチュウヒトデマン/クラブ/ニドクイン/サンドパンアズマオウ/卜ランセルドードー/タッツー/ガーディ/マンキードククラゲ!
オニスズメ/サンド/パラセクトスリープ/ビードル/カイロス/ピジョットコ・イ・キ・ン・グ!
サイホーン/マタドガス/フシギソウ/カメックスシェルダー/サンダー/リザード/ナッシーべ・ト・べ・ト・ン!
ポッポ/ウツボット/プリン/ケーシィ/べ卜べターガルーラ/ギャラドス/ゴローニャ/ピッピイ・シ・ツ・ブ・テ!
ゴルダック/オムナイト/ゴルバット/アーボックニドラン(メス!)/ニドラン(オス!)ナ・ゾ・ノ・ク・サ!
ニョロボン/カモネギ/ラプラス/ラフレシア力ブトプス/ニドリーナ/バリヤード/マルマインフシギバナ/パラス/リザードンコンパン/ヤドン/メタモン/ゴースビリリダマ!
ユンゲラー/キングラー/サワムラー/エビワラーカイリキー/スリーパー/ゴーリキー/スターミーマダツボミ/プテラ/ニドリーノ/ぺルシアンハクリュー/ミュウツー/キュウコン/スピアーべロリンガ!
バタフリー/ダグ卜リオ/ニドキング/オムスターパルシェン/ニョロモ/ゴローン/ロコン/ケンタロスポニータ/モンジャラ/ミニリュウ/ワンリキーモルフォン/カメール/ウィンディ/フリーザーオ・コ・リ・ザ・ル!
にもきつくお灸をすえとくからな。どれ、おじさんにピコピコ見してみな…………………………おいおい、レイモンドくん、嘘言っちゃいけねえや。画面に何も映っちゃいないじゃないかい」
 八五郎がレイモンドから手渡されたゲーム機を見ると、うんともすんともどころか画面に何も映っていない様子。こりゃゲームが壊れたと言って電池代をかすめ取る新手の詐欺か、といぶかしんでいたところ、
「うわぁぁぁぁぁん。あまりに名前が長いから、ゲーム機の充電が切れちゃったんだーい」

――――さらに時が流れて、一年後の春。

 教師生活三年目の田尻は、この春から初めてクラスの担任を受け持つこととなり、緊張と不安であまり睡眠も取れないまま始業式を迎えることとなっていた。
 先輩教師からも、今の子どもはキレたら何するかわからない、やら、モンスターペアレンツがすぐに怒鳴り込んでくる、やら、三秒間なら体罰にならない『三秒ルール』がある、やら……あることないこと吹聴されたことがさらに不安を募らせ、田尻を泣きゲロ吐いちゃうほどの心持ちにさせられていた。
 そして、不安を抱えたまま教室の中に入っていく田尻。すると____、
「せんせー、おはよーございます」
 誰に言われるまでもなく口々に挨拶をしてくる子ども達。その子ども達の顔を見てみると、どの子も希望に満ちて活き活きとした表情をしており、それが田尻の不安でいっぱいだった心の靄を軽く吹き飛ばしてくれたのであった。
「みんな、おはよう。僕がこのクラスの担任になる田尻智です。これから一年間宜しくお願いします」
 田尻の言葉に子ども達は耳を傾け、はーい、と元気よく返事が返ってくる。

――――このクラスならやっていける。

 田尻は先ほどまでと打って変わって心が晴れやかになり、子ども達がまっすぐに成長できるよう粉骨砕身して挑むことを心に決意したのであった。
「では、出席をとります。名前を呼ばれたら大きな声で『はい!』と答えてください。」
「ワイワイガヤガヤ」
 さあここからだ、と田尻が出席簿を開いて名前を読み上げる。
「…………浅田美羽(みう)さん」
「はい」
「(呼びづらいな……)……安藤優由(ゆ、ゆ?)さん」
「はい」
「(……ゆゆで良いのか……)上野……ポチ男……くん?」
「はーい」
「……プッ……クク……近藤……──麗音菜愛梨亜(……読めん)……近藤さん!」
「はい」
「近藤さんのお名前はなんて読むのかな……?」
「れおなあめりあ」
「そうですか。ありがとうございます…………(読めねえよ)……佐藤……光中(こうちゅう)……くん?」
「ぴかちゅう」
「失礼しました……(十万ボルト……)佐々木メロディ愛(めろでぃあ)さん(今度こそ正しいだろ!)」
「メロディあい!」
「ごめんなさい……メロディあいね…………中野世歩玲(せふれ?)さん」
「はい」
「(セックスフレンド……略してセフレ……)……西田…………王子様……君」
「はーいはーい」
「(あだ名はプリンス)……浜田光宙(こうう?)くん」
「せんせー。俺、ピカチュウ!」
「ごめんごめん。ピカチュウね(二匹目ゲットだぜ)…………松田太郎くん(やっとマトモなのが来た)」
「?」
「あれ?松田君?松田太郎君?」
「ジョンです」
「ジョン!……(いいえ、それはトムです)…………山下愛子さ…………愛子エンジェルさん……」
「はーい」
「和田ピカチ……(三匹目! ここはピカチュウの群生地だな)ピカチュウく……
……ピ力チュウ/カイリュー/ヤドラン/ピジョンコダック/コラッタ/ズバット/ギャロップサンダース/メノクラゲパウワウ/カラカラ/タマタマ/ガラガラフシギダネ!
アーボ/イーブイ/ウツドン/エレブーカビゴン/カブ卜/サイドン/ジュゴンポリゴン/ディグダ/ドードリオ/ゲンガードガース/ルージュラ/ニャース/シャワーズクサイハナ!
コクーン/ゴースト/イワーク/ヒトカゲラッキー/ラッタ/オニドリル/コイル/レアコイルプクリン/ゼニガメ/ニョロゾ/トサキントファイヤー/ブースター/フーディン/ブーバーストライク!
キャタピー/ピクシー/シードラ/ライチュウヒトデマン/クラブ/ニドクイン/サンドパンアズマオウ/卜ランセルドードー/タッツー/ガーディ/マンキードククラゲ!
オニスズメ/サンド/パラセクトスリープ/ビードル/カイロス/ピジョットコ・イ・キ・ン・グ!
サイホーン/マタドガス/フシギソウ/カメックスシェルダー/サンダー/リザード/ナッシーべ・ト・べ・ト・ン!
ポッポ/ウツボット/プリン/ケーシィ/べ卜べターガルーラ/ギャラドス/ゴローニャ/ピッピイ・シ・ツ・ブ・テ!
ゴルダック/オムナイト/ゴルバット/アーボックニドラン(メス!)/ニドラン(オス!)ナ・ゾ・ノ・ク・サ!
ニョロボン/カモネギ/ラプラス/ラフレシア力ブトプス/ニドリーナ/バリヤード/マルマインフシギバナ/パラス/リザードンコンパン/ヤドン/メタモン/ゴースビリリダマ!
ユンゲラー/キングラー/サワムラー/エビワラーカイリキー/スリーパー/ゴーリキー/スターミーマダツボミ/プテラ/ニドリーノ/ぺルシアンハクリュー/ミュウツー/キュウコン/スピアーべロリンガ!
バタフリー/ダグ卜リオ/ニドキング/オムスターパルシェン/ニョロモ/ゴローン/ロコン/ケンタロスポニータ/モンジャラ/ミニリュウ/ワンリキーモルフォン/カメール/ウィンディ/フリーザーオ・コ・リ・ザ・ル!……くん?」
「はーい」
「(やっと終わった)……それでは、みなさん、授業をはじめましょう」
 現代っ子の独特な名前を、ねーよorz、と悪戦苦闘しながら読み上げ、やっと授業が始められる、と田尻が顔を上げた瞬間____、



キーンコーンカーンコーン~♪
「せんせー。もう終わりの時間でーす」





____お後がよろしいようで。
 いっぱいのお運び、厚く御礼申し上げます。毎度バカバカしいお笑いを、一席。

 え~、『夫婦喧嘩は犬も食わない』と昔から申しますが、これは“普段は何でも食べる犬でさえ夫婦喧嘩には見向きもしない”と言うことから、“すぐに元に戻るようなことなのだから、ほうっておけば良い”との意味だそうです……ま、夫婦喧嘩は食べなくてもペディグリーチャムならバクバクってなもんですが。

 最近では結婚も昔ほど重い意味を持たなくなりましたね。惚れたはれたですぐに結婚して、性格の不一致やらマンネリ化やら音楽性の違いやら、些細なことで離縁する方も多いように思います。
 育った環境の違う二人ですから、価値観の相違から喧嘩をすることもあるでしょう。しかし、人の心は円熟していくもの。最初は自分と合わなくても次第に相手の“粗”とか“癖”とか“価値観”とか、自分に無かったものを受け入れたり上手くいなす方法が見つかるのではないでしょうか______、


 ってか、カメラの前じゃ喧嘩してるけど、カメラ回ってない夜半過ぎにはヤルことヤッてんだろ!! ダディ!!


……いや、まったく。『仲良きことは美しき哉』ってなもんです______、

☆★☆★☆

 『子は鎹(かすがい)』という言葉が御座いまして、“鎹”とは――建築において、木材と木材をつなぎ合わせるための要素、若しくは互いの材が外れぬように固定する製品。直線的または直交する材同士を繋ぐ目的で用いられる。一般的に「コ」の字の形状をしている。両端をつなぎ合わせる木材にそれぞれ打ち込むことにより接続する(Wikipediaより引用)――というものですが、転じて『子は鎹』とは――子供への愛情から夫婦の仲がなごやかになり、縁がつなぎ保たれることのたとえ(Wikipediaより引用)――となっております。
 いくら夫婦喧嘩が絶えずに瞬間最高離婚率が最高値を叩き出しても、子供のためを思うと簡単には別れられない……正に、子供が男親と女親をつなぎ止める“鎹”の役割となって親子の縁が続いていくことを象徴しているのですね。

 また『斯くばかり偽り多き世の中に子のかわいさは誠なりけり』という諺も御座いまして、これは――人や己を偽ることの多い世の中でも、我が子の可愛さは正真正銘の真実である――という教訓歌で御座います。噛み砕いて申しますと「言いたいことも言えないこんな世の中じゃ、ポ……でも、自分の子供の可愛さだけはガチ!! あげぽよ~」となっているので御座います。

 昨今はオメデタ婚やらエンジェル婚やらできちゃった婚やら子供が出来たからって結婚したのに、少し厭なことがあるとすぐに離婚して、『シングルマザー』なんてのが格好良いと思っている輩が多いように感じますが、片親がいなくなる子供のことを鑑みるとそんなことは全く御座いません。
 真に子供のことを思うなら、やはり多少のことは耐え忍んで、両親が健在な家庭の方がお良ろしいと思う次第で御座います……但し、喧嘩の理由がバイオレンスな場合を除きますが。

☆★☆★☆

「わかりました。それなら私、今日限りでこの家を出て行かせていただきます」

 今日も今日とて酒に酔ったまま帰ってきた夫・熊五郎。しかし熊五郎が漏らした不用意な発言を機に、妻のお光はため込んだ物を全て吐き出すかのように口を開く。
「あんだとォ。この家出てくってのか」
「ええ、ええ。今まで随分と我慢してきましたけど、今日という今日はもう愛想もこそも尽き果てました。この家を出て行かせていただきます」
 熊五郎が酒を飲んで帰ってくることは珍しくなかったが、今日の熊五郎は好みのコスプレイヤー(以下、レイヤー)のカメラマンだったことに気を良くしたのか、写真撮影が終わった後にレイヤーを食事に誘いその後まんまとしっぽりいったことまで嬉々として妻に話してしまったことが、先のお光の発言に繋がっていたのである。
「……ぉう……おうおう……て、手前なんか顔もみたくねえや。出てけ出てけ」
 熊五郎は凛として突きつけられた妻からの三行半に動揺を隠せず、しかし売り言葉に買い言葉、妻の言葉に頭を下げてはどうにも男が廃る、と引っ込みがつかなくなり勢いに乗って離縁を言い渡す。
「それから亀ちゃんのことですけど……男の子は男親に付いた方が良いって言いますけど、私が出て行った後に入ってくる人がもし亀ちゃんをいじめたら私辛くなりますので、亀ちゃんも一緒に連れて行かせてもらってもよろしいですか?」
「あにッ!? 亀も連れて行く? おお、連れてけ連れてけ。あんなチビ居られたらな、返って足手まといだ」
「ええええ。連れて行かせてもらいます」
 お光はそう言うと後ろに向き返り、襖の影に隠れている我が子に向かって呼びかける。
「亀ちゃん、こっちにいらっしゃい。ほら、行儀にお座りなさい」
 名前を呼ばれた亀吉は、たたたっ、と母親のもとまで駆け寄り、
「お母ちゃん、これからどうなんの?」
 不安を隠しきれない面持ちで、母親の着物の裾をつかむ。
「お母ちゃんとあんたと、今日限りでこの家を出て行きますから、お父ちゃんに挨拶しましょう」
 お光は亀吉の小さな手を両手で包み込んで優しく諭すと、亀吉の肩を掴んで熊五郎に向き直った。
「いままでお世話になりました。亀ちゃんと私と、今日限りで出て行かせてもらいます」
「おうおう。早く出ていけ」
「ええ。出て行かせてもらいます」
 酒の酔いも手伝って妻と息子を放り出した熊五郎。一方お光と亀吉は、まだほの暗い夜の道を何処へかと向けて歩き出しました。

――――それから三年後。

「こんちは。熊さんいるかい?」
 お光が家を出て少ししてから、世界中でIT革命が起こり民衆が政権を勝ち取るなか、人間を改めた熊五郎。それまで呑まない日はなかった酒を、スパパッ、と断ち酒の代わりと言うかのごとく仕事に精を出す毎日。すると、元々腕の良い職人が仕事に直向きになったものだから、その姿勢を見た人たちにより噂が噂を呼び、休む間ないほどの注文が殺到するようになっておりました。
 住んでいたボロ家も匠の技で劇的にビフォーアフターし、なんということでしょう、と皆が言わんばかりにすっかり箱根細工仕掛けに変貌した家の前から、熊五郎を呼ぶ声がする。
「え? どちらさんで御座いますか?」
 玄関先から名前を呼ばれ、地面と平行になった体を起こして玄関へ向かう熊五郎。
「あ、こりゃあコスプレスタジオの店長さんじゃありませんか。なんです? ご用があるならバイトの方でも差し向けてくれりゃあ、すぐに出向いたものを……」
「いやね、それじゃあ間に合わないんだよ。お前さんに頼んでいたご隠居の撮影会の件なんだけど、年寄りは気が急るんだろうねえ、儂は先も長くないし暇な体だから早く撮りたい、と。売れっ子で予約三ヶ月待ちの熊さんだろうけども、申し訳ないが先に回してもらうことは出来ないかね、てんで私が来たんだよ。で、忙しい身の熊さんだから家にはいないのかと思ったんだが、今日は仕事が無かったのかい?」
「無いわけありませんよ。いや忙しいんですけどもね、今日はお客が突然のキャンセルになっちまいまして。ええ、いわゆる“突キャン”ってやつです。で、たまには片づけ物でもしようかなぁと思って戻ってきたばかりなんです。撮影会? これからですか?」
「いや、衣装の打ち合わせだけでもしてもらいたいんだが」
「あ、そうですか。わかりました。お供いたします」
「行ってくれるかい? ありがとう、そしてありがとう。ま、衣装の話だけでもすればご隠居も喜ぶし、正直ボケてるからあとはなあなあで大丈夫だから」
「それじゃ、今支度しますからちょっと待って下さい」
 熊五郎はそう言うと、隣の家に向かい、
「お隣さ~ん。すいません、これから店長さんのお供で新宿まで行ってきますので留守お願いします。それと、amazonからの荷物が代引きで来ますので、お金を封筒に入れてお渡ししますので代わりに受け取ってもらえますか。じきに戻ってきますから、留守お願いします」
 隣家の女性に留守を言付け、店長に向き直る。
「どうも。お待ちどう様です」
「いや、お待ちどう様、て。お前さん、いちいち隣に挨拶しなきゃならないのかい?」
「ええ。独り者で御座いますからね。まあ、留守を頼むのはどうってことないんですよ。だけどね、マメにやってるつもりですけど、掃除や洗濯がすぐに溜まっちゃって、やっぱり男一人は駄目ですね。『女やもめに花が咲き 男やもめに蛆がわく』って言いますけど、まったくですよ」
「何を言ってるんだい。お前さんは良い思いをした報いだからそれは仕方ないだろ。だけど前のおかみさんと坊ちゃん、亀ちゃんて言ったっけ? を追い出して後から来たレイヤーのおかみさんはよっぽど酷かったみたいだね」
「ええ、『焼け木杭に火がつく』なんて言いますけど、そうじゃないんですよ。向こうが勝手に来たみたいなもんで。個撮の後に連れ立って居酒屋で食事してたんですよ。まあ酒も入ってたんで、一緒になってもいい、なんて言ったんでしょうね。図々しく転がりこんできちまいまして。カカアと子どもが出ていきましたよ」
 熊五郎は心底、まいった、という心中で頭を掻きながら話を続ける。
「そしたらね、働かないんですよあの女。レイヤーの時は綺麗ですけどね、化粧取ったらジャバザハットみたいだし、家に連れてきたら動かなくて仕方がないんですよ! 『手に取るな やはり野に置け 蓮華草』て言いますけどその通りでね、朝寝をして昼寝をして宵寝をして、使いを頼もうとしても狸寝入りしてるし、将来的には“コールドスリープ”して自分の美しさを未来の人にも見せてあげたい、なんてぬかしやがるんです。まったく安い馬飼ったみたいなもんですよ。深夜にモゾモゾッと起きてきちゃあアニメを見て、後はずっと2chなもんで、テメーなんざ出ていけ! てデコまで出かかったんですがそれを言うとこっちの負けですからね。そしたら向こうも察したんでしょうね、どこぞに出て行っちまいまして。このままじゃ人間が駄目になっちまうってんで、プッツリと酒を断ってやってたら『案ずるより生むが易い』てなもんで、今日日まで稼がせてもらってます。これもみんな店長さんのおかげですよ」
「いやいやいやいや。熊さんには随分と働いてもらったからね。アタシが仲介したお客はみんな、熊さんの仕事はさすがだね、立派だね、ツイてるねノッてるね、てFacebookで“いいね!”を連打して下さるから紹介したアタシも鼻が高いよ。随分と¥も貯まった……いや、そこはどうでも良いけどさ。だけどお前さんは一生懸命働いてるのに、いつまでも一人身じゃつまらないじゃないか……三年経つかい?」
「え? 先のカカアと? ええ、そうですね。それくらいになります」
「カメちゃん幾つになった」
「倅ですか? 六つの時でしたから……まだ六つですね」
「そりゃ二次元倅の“カメ蔵くん”だろう。そうじゃなくて、モノホンの息子のことだよ」
「あ、惨事の方。そうですね……奴も六つの時でしたから、もう九つになってますね」
 言いつつ、熊五郎は目を閉じて亀吉の姿を思い浮かべる。
「もう学校行ってるんじゃないかい」
「ええ。そうかもしれませんね」
「どうした。思い出すかい?」
「え? 何が?」
「いやいや。思い出すだろ」
「誰が? カメ蔵くんのこと?」
「そうじゃなくて」
「カカアのこと? いや、カカアのことはあまり思い出しませんけどね、亀のことはちょくちょく夢の中にも出てきましてねえ」
「ほお。そうかいそうかい」
「この間なんかね、饅頭屋の前通ったら蒸籠からプーッと煙が出てて、出来たての饅頭が美味そうなんですよ。ウチの亀は饅頭が好きだったから、食わしてやりゃ喜ぶだろうなあと思ってね。それを見ている内に不覚にも涙が出てきちまったんですが、それを見た饅頭屋の店員さんに、饅頭を見て泣くなんてこの人はよっぽど饅頭に恨みがあるんだな、饅頭に親でも殺されたか! アンサツ(暗/餡 殺)てな、なんてツマラネー洒落言われちまいまして。店長さんの前ですけど、親なんて馬鹿なもんでしてね」
「いや、馬鹿なことなんてないよ。それが本当の『親の情愛』と言うもんだよ。どうだい? おかみさんが新しい亭主を迎えていなかったら、元の通り一緒になればいいじゃないか。元サヤっちゃえば良いじゃないか」
「……いやあ、今はどこでどう暮らしているのか、皆目見当もつきませんよ。上手くやってると良いですけど。元々コスプレの衣装作りをしてましたから針が達者なもんで、何とか暮らしてると思うんですけどね」
「そうかい。それにしても、亀ちゃんは本当に可愛かったね。先のおかみさんが作ったコスプレ衣装を亀ちゃんに着せて、それをお前さんが写真に撮ってよく見せてくれただろ。あれには相当ブヒれたもんだよ。ああ、今でも思い出すだけで……亀ちゃん、亀ちゃん、亀ちゃんんんんんンンンンンッ!!!!!……ふぅ……あ、アレ!? あそこに居るのは亀ちゃんじゃないかい?」
 と、賢者タイムになった店長が、道沿いにある公園を指差す。
「へ?」
「ホラッ! 向こうに三人の子どもが遊んでるだろ。それで、あの絣のある着物を着てる子、さっきから気になってならないんだが、ありゃお前さんとこの亀ちゃんに似てないかい?」
「へ? 亀が? 冗談言っちゃいけませんよ。こんな所いつも通る道ですから、いればすぐに………………亀だ」
 公園の奥で友達とおぼしき子どもたちと駆け回る我が子を見つける熊五郎。
「そうだろ」
「ええ。間違い御座いません。亀です」
「おお、やっぱりそうかい。熊さん、声をかけておやりよ。話をしている際に会えるなんて縁だよ。縁。アタシャ先行って待ってるから、ゆっくり後からお越しよ」
「いえ、いけません。それじゃあ甘え過ぎに……」
「いや、甘えてかまわないからさ。亀ちゃんと話せばおかみさんの様子も知れるし何処に住んでいるかわかるんだから。ホラッ! 早く声をかけておやり」
「はいっ! ありがとうございます。じゃ、じきに追いかけますから、甘えさせてもらいます。どうも」
 熊五郎は店長に礼言うと、公園の中に入り大きな声で呼びかけた。
「亀ッ! 亀や!……はは。キョロキョロしてやがる。こっちだこっちだ、お父っつぁんだよ」
「え……?……おと……おと……お父っつぁん?……!!……お父っつぁんかい!?」
 公園で遊んでいた亀吉は、三年振りに見た父親の姿に戸惑いつつ、しかしそれ以上の喜びに心を弾ませ父親の下へと駆け寄った。
「ホラッ! こっちこっち。おお、丈夫丈夫して。まっ黒けになっちゃって骨太になったな。はは、お前大きくなった」
 熊五郎は息を切らせながら駆け寄ってくる息子を抱き止めると、三年前より逞しく成長した姿に嬉しさを隠せない様子で息子を高く抱き上げる。
「∧_∧
( ´∀`)オモエモナー」
「……いや、お父っつぁんはな、昔魔女に呪いをかけられて、毎年○・三ミリずつしか大きくならねぇんだよ。人間も大きくならねぇ……毎年三センチずつしか。はは、恥ずかしいことだな」
 亀吉の屈託のない言葉に、一本取られた、と言わんばかりに自虐を披露する熊五郎。
「ところでさ……どうだい? お父っつぁんは可愛いがってくれるか?」
「へ?」
「お父っつぁんだよ。お父っつぁん」
「……? お父っつぁん、てお前じゃねぇか」
「いや、そうじゃなくてな。俺は先のお父っつぁんだ。後から出来たお父っつぁんがいるだろ?」
「? そんなわかんねぇ話はねえよ。子どもが先にいて、親が後からできるなんて、―――ずっと一人っ子かと思ったら突然『血の繋がらない妹』がやってきて一緒に暮らすことになって妹と同じ名前の同級生も気になるけど最終的に妹と結婚する、てくらいありえない設定だよ」
「キャッチャーはこぶ平だとか、生意気なこと言うんじゃねえ。お前は子どもだからまだわからねぇかもしれねぇけど、学校から帰ってきたら突然知らないオジサンが訪ねてきておっ母さんに、これあげるから少しの間遊んできな、てお銭もらったりするだろ? その時来るのが新しいお父っつぁんだよ。ただな、そういった時は絶対に外行かなきゃいけねぇぞ。おっ母さん何してるんだろう、なんて考えて押し入れの中に隠れてたりしちゃ絶対駄目だぞ!」
「そんな日活ロマンポルノみたいなことあるかよ。お父っつぁんはわからねえんだ。自慢じゃないけどウチは狭い家なんだよ、ダンボール二枚しかないんだ。そこにねタンスにゴンがぶら下がってたり、おぜんをひっくり返してストレス解消するゲームがあったり二人で寝るんだけど……さ、狭いだろ? この間なんかうっかり寝返りうったら家が倒壊しちゃったんだから。三十五年ローンが一瞬でパーだよ」
「狭ぇ家に住んでるんだな。じゃお前本当に二人きりかい?」
「そうだよ」
「そうかそうか。どうやって暮らしてるんだ?」
「針仕事だよ。コスプレ衣装縫ったりしてるよ、おっ母さんが」
「そうか! めっぽう針が達者だったからそれで仕事してるのか。へー、学校行ってるのか?」
「うん。行ってるよ」
「この最中に学校行かせてもらってるんだから、勉強しなきゃバチが当たるぞ」
「おっ母さんもよくそう言うよ。お前はよく勉強しないといけない。勉強しないとお父っつぁんみたいになっちゃうんだから」
「そうだそうだ。そりゃ本当だ、はは………………所でよ。おっ母さんはオレのことなんか言ってるか?」
「え? 言ってるよ。あのね、大家さんが時々来るんだよ。まだ若いんだから別の亭主を持ったら良いだろ。間に挟まるから一緒になれ、て。でもおっ母さんは、いつも断って。そしたら大家さんが、それじゃアタシのスタンドD4C……『Dirty Deeds Done Dirt Cheap(いともたやすく行われるえげつない行為)』を使って別の次元から先の夫を連れてくるから。この夫は外見は先の夫と同じだけど少しだけ違う所があるから中には酒飲みじゃないのもいるだろ、て。でもおっ母さんは、お前に不憫な思いをさせたくないからおっ母さんは一人でいるんだ。第一、亭主は先の飲んだくれで懲り懲りした、て」
「……そうだよな、あの時分は酒ばっかりかっ食らって、母さんにも随分迷惑かけたもんな。じゃあ、俺のこと恨んでるだろ」
「ううん。恨んでなんかいないよ」
「いや、恨んでるよ」
「恨んでなんかないっつってんだろ、このバカチンがッ!!」
 熊五郎の消極的な発言に苛立ちを覚えた亀吉は、風にたなびく長い髪を耳にかけつつ、国語教師を彷彿とさせる口調で叫んだ。
「あのね。雨なんかが降ると、おっ母さんの仕事がなくてアタイも遊びに行けなくて、そういう時はよく昔の話をしてくれるんだ」
「ほお。そうか」
「あのね、おっ母さんは昔アーティストの衣装デザイナーだったんだって。それでお父っつぁんはフリーのカメラマンで。ある日、ぱみゅってるアーティストの写真撮ってるところでお父っつぁんとおっ母さんが出会って、その瞬間『ポンペイ最後の日』の如く『愛が生まれた日』だったんだって」
「はは。あいつ、そんなことまで話したのか! まったくな~」
「でもおっ母さんがね、あの人はお酒が良くない。お酒がなければ良い人だ。本当に良い人だ、て……ん~、まだ未練がありそうだよ」
「生意気なこと言ってんじゃねえ。お父っつぁんもな、目が覚めて女なんぞ叩きだしちまった。三年前に酒も止めたよ。ホラッ! 一生懸命稼いでるから、ライカの『lllaクローム+ズマール50mmF2』だって持ってる」
「えっ! ライカの『lllaクローム+ズマール50mmF2』だって! 『lllaクローム+ズマール50mmF2』って言ったら一台で家が一軒建つくらいの代物じゃないか。そりゃお金持ちだ……でも、一人でいるんじゃ淋しいでしょ。この近くだから、ウチにおいでよ」
「いや、お父っつぁんは大人だから大丈夫だよ。それにおっ母さんには随分と酷い目に合わしちまったからな。その内時期を見て、頭を下げて許してもらったらお前とおっ母さん迎えに行くから。はは、ありがとな。何か嬉しくなっちまったから今日は小遣いでもやろう。手ぇ出しな」
「へ? お小遣い!」
「いいから。これ持ってけ」
「え? お父っつぁん、これアタイにくれるの? 五千円だよ、五千円」
「そうだよ」
「……アタイ、お釣りないよ」
「いや、お釣りなんかいらないよ。あのな、それで何か買いな」
「あ、あのね。この間えんぴつをおっ母さんに買ってって言ったんだ。だってたばこのフィルター部分くらいまで短くなっちゃったんだもん。でもおっ母さんは、このえんぴつはまだ使えるでしょ、て買ってくれなかったんだ。これでえんぴつ買っていい?」
「そういうものはいくらでも買いな。勉強に使うものならお父っつぁんどんどん買ってやるから。おう、落とすといけないから帯の間にいれときな………………おい、さっきから気になってならねえんだけどさ、なんだよ“男の子の向こう傷”てのは。デコに傷があるじゃねえか、俺は墨がはねたのかと思ったよ。どうかしたのか?」
「え? これ? これかい? これだろ? これね、この間ね、斉藤さん家の坊っちゃんと『ベイブレード』してたんだよ。それでアタイの方がシュートしたのにね、オレの方がシュートしたんだよ、て言うんだ。アタイの方がシュートしたんです! て言ったら、オレの方がシュートしたんだコノヤロッ! てベイブレードでここぶったんだ」
 話しながら当時を思い出したのか、亀吉の目から大粒の涙が、ポロポロ、と落ちていく。
「そしたら皮が破れて血だらけになってクロスボンバーで剥がされたマスクも盗られてマスクコレクションにされたから、オイラおっ母さんの所に泣いて帰ったら、誰にやられたの? 男親がいないと何されるかわかったもんじゃない。アタシが怒鳴りこんであげるから、誰にやられたの? てこう言うから、斉藤さん家の坊っちゃんにやられたんだ、て言ったら、痛いだろうけど我慢しろ、て」
「………………」
「あそこの奥さんには色々お仕事貰ってるし、お古のコスプレなんかを貰ってお前に着せてるんだから、子どものケンカくらいで気まずくなって親子二人が路頭に迷うことがあるといけないから痛いだろうけど我慢しろ、ておっ母さん泣きながら言ってたよ。こんな時に飲んだくれでもいてくれたら少しは案山子になる、て」
「………………すまなかったな、お父っつぁんが馬鹿したばかりにお前たちに苦労かけちまって。本当に悪かった」
 そう言う熊五郎の目からも、亀吉同様にナイアガラのような涙が流れていた。
「おい! お前さん“鰻”が好きだったな」
「大好きだよ!」
「おお、鰻食ってるか?」
「食えるわけないだろ! ウチの財政状況と日本の就職率、及び世界のトウモロコシ畑の数を考えてもの言ってみろってんだ」
「おいおいおい、そんなこと大きな声で言うんじゃねえ。いや、これから店長さんのお供でな新宿まで行かなきゃならねえんだ。お客さんの衣装合わせでな。じゃあ……明日の今時分はどうだ? 角にメイド喫茶があって美味い鰻をだしてくれるんだ。たらふくご馳走するからよ。今時分、来れるか?」
「うん」
「そうか。じゃあ、あそこの角で待ってるからな。そしたら、おっ母さんが心配してるから帰んな………………おい、ちょちょちょ、待て。今日、お父っつぁんに会ったことは内緒だぞ」
「どうして?」
「お前さんはまだ子どもだからわからなくても良いんだよ。知らないオジサンに会ったとか、変なオジサンに鰻ご馳走になるとか、ルーレットマンがガジノでスロットしてたとか、適当にごまかしとけ。いいか、お父っつぁんの名前だけは出すなよ」
「うん。わかった」
「よし。じゃあ、おっ母さんが心配するから、早く帰んな」
 そう言われると、亀吉が脱兎の勢いで駆けだした。
「おいおいおい。駆け出すのは良いけど、ちゃんと前見て走りな。エクソシスト走りじゃあ、ひっくり返った時に怪我しちまうぞ。寧ろもうひっくり返ってるし、首の辺りが怪我っぽくなってるだろ………………なんだ? そこの豆腐屋の? 裏に入ったとこ? にいつもおからがおいてある……わかったわかった。それで新しい家建てるんだな」
 熊五郎は我が子の後ろ姿をいつまでもいつまでも見つめていた。そして、
「……いやあ、まったく。大きくなりやがったな」
 亀吉が見えなくなると、自分の記憶の中の亀吉と現在の亀吉を比べ、再度頬を熱くしたのであった。


「おっ母さん。ただいまー」
 亀吉が勢いよく扉を開いて家の中へ駆け込むと、
「ただいまー、じゃないよこの子は。よその子と遊んでる場合じゃないだろ? おっ母さんのお手伝いをしてくれなきゃ困るじゃないか。さあさ、ここに座って。糸を巻くんだから手を出しなさい、手を」
 亀吉を待ちかねたように母親のお光が立っていた。そして、有無を言わせず両の手に糸を巻き出す。
「本当に困った子だねえ、あんたは。おいおい、汚い顔も良いけど鼻を垂らしたままにするんじゃありませんよ」
「………………」
「鼻をおかみなさいっての」
「おっ母さん。そんなこと言ったって両手がふさがっちゃってるんだから、鼻をかむなんて高等技術、土台無理な話だよ」
「……じゃあ、いったん糸を取って鼻をかみなさい」
 亀吉が手に巻かれた糸を外してちり紙で勢い良く、ブビバー、と鼻をかんだ時、亀吉の着物の帯から先刻貰った五千円が、ファミコンソフト『仮面ライダー倶楽部 激突ショッカーランド』で壁を壊して出てきたお金のように、ヒラリヒラリ、と舞い落ちた。
「あら、何だい、これは………………!! お前、このお金どうしたの」
「へっ? あ、そ、それ、それアタイの」
「この五千円どうしたんだい」
「い、いや、だから、アタイ、アタイ……もらったんだ」
「もらった? 馬鹿なことをお言いじゃないよ。こんな大金をよそ様がくれるわけないだろう。あ! お前どなたかにお使い頼まれたんだね。じゃあ、おっ母さんのお手伝いは後回しで良いから、買い物にいってきな」
「お使いなんて頼まれてないよ。それ、アタイがもらったの」
「もらった? どなたにもらったの?」
「ど、どなたにもらったって、言えねえんだよね。でもアタイのだから、早く返しておくれよ」
「五千円だよ。赤の他人様がくれるわけないだろう。ワケがあるのかい? 誰にもらったのッ!」
「……そんな大きな声で言わないでおくれ。あの、その、もらったの。でも言っちゃいけないって……男と男の約束なの」
「生意気を言うじゃないか。じゃ、どうしてもおっ母さんに言えないの? わかったわかった。お前ね、すまないけど表を閉めてきておくれ」
 亀吉は母親に言われた通り家の玄関をしっかりと閉じる。しかし___、
「閉めたかい?……何をそこに立っているんだい。こっちへおいで。別におっ母さん怒りはしないから。いいからこっちへ……こっちへおいで……」
 母親に異様な雰囲気を感じ取り、玄関から離れることが出来ずにいた。
「何してるんだい? おいでっての…………おいで、―――何をグズグズしてるんだいッ!! 用があるからこっちに来いってんだコンチキショウ!!」
 突如大声を張り出し亀吉に迫るお光。
「何という情けない了見を出すんだい。三度のものを二度にして二度のものを一度にしておっ母さんがひもじい思いをしても、お前にひもじい思いをさせたことないだろ! 盗んだものは仕方がない、おっ母さんも一緒に謝ってお詫びしてあげるから、どこで盗んできたの?」
「盗んだんじゃないんだおっ母さん。もらったんだよ」
 亀吉は、右から来た母親を左へ受け流しつつ、チャラチャッチャッチャラッチャー、とナウな流行歌をムーディに歌いながら、なおも迫り来る母親をスウェーバックでかわします。
「じゃあどなたにもらったの!?」
「男と男の約束だから言えねえんだよ」
「生意気を言うんじゃないよっての。顔を上げな、今持ってるのわかるかい? 『写ルンです』だよ。お前がお父っつぁんと別れるときに何故か風呂敷包みに入れてきた『写ルンです』。これでお仕置きをするのはお父っつぁんがお仕置きするも同じことだ。まだ言えないのかい!?」
「ううぅ……言えないんだ」
「言えないのかい? 強情張ってろ、言わしてやるから。お前の裸写真を撮って、ネットの海にバラまいてやるからっ!」
「うわーん。おっ母さん勘弁して、“児ポ”だけは勘弁してよぉ。もらったんだもらったんだ」
「だから誰にもらったの!?」
「その『写ルンです』にもらったんだ」
 亀吉が発した一言に虚を突かれ、お光の動きが、ピタッ、と止まる。
「……何、『写ルンです』って……?」
「だから、お父っつぁんにもらったの!!」
 今度は確定的に発せられた、お父っつぁん、という言葉を耳にして、お光の胸が早鐘のように高鳴る。
「……お父っつぁんにもらったの? じゃ、何かいお前さん、お父っつぁんに会ったのかい?」
「何だよ。お父っつぁん、て聞いたら急に艶っぽい声を出しちゃって」
「生意気なこと言うんじゃないよ。どうだい? また汚い格好して飲んだくれて歩ってたかい?」
「ううん。お酒飲んでなかったよ。だってね、変な女の人は叩き出しちゃってお酒もプッツリと断って一生懸命稼いでるって。たくさんのお出入りがあるんだろうね、ライカの『lllaクローム+ズマール50mmF2』を首から提げてたよ」
「そうかい!」
「お前たちに苦労をかけてすまなかった、てお父っつぁん泣いてたよ」
「あらまぁ。あの人がお酒を断ってくれたなら申し分ない人になるからね。そうかい、そうかい。それで、、、おっ母さんのこと何か言ってたかい?」
「………………両方で同じこと言うんだもん。嫌になっちゃう」
「何よ、嫌になっちゃう、て」
 お光の言葉を聞いた亀吉は、そのデジャヴ感に両手を広げ、マイガッ、と天を仰ぐ。
「あのね、明日ね、鰻食べに連れてってくれるって言ってたけど、行ってもいーい?」
「ああ。行っといで行っといで」

――――――女親は嬉しいもんで御座いますから、翌日になりますと一端の着物を設え子供をだしてやります。そして自分も気になるものと見えまして、鏡台の前に座り白いものを、ちょこちょこちょこ、とどやし半纏を引っかけてメイド喫茶の前を行ったり来たり行ったり来たり。

「……あの、すみません。ちょっとお聞きしますが……」
 行たり・来たり・ラジバンダリ、と店の前を往復していたお光は、意を決し店の扉を開いて声をかけます。
「おかえりなさいませ、お嬢さま! どこかお座敷をご用意いたしましょうか?」
 すると、店の奥からメイドが顔を出します。
「いえ、そうじゃないんです。あの……手前どもの悪さが、お邪魔しているはずなんですが……」
「へ?……ああ! お嬢さまのお坊ちゃまで御座いますか。そう言えばどこかのご主人様と二階で一緒におりますけど、お呼びいたしましょうか?」
「いえ、いいんですよ。ちょいと上がらせていただいてよろしいですか?」
「はい。どうぞお上がり下さいませ」
 お光は中に通され階段を昇ると、恐る恐る部屋の奥に向かって声をかけました。
「あのー……亀や、亀や」
「お父っつぁんやっぱり来たよ!」
 母親の登場に嬉しさを隠せない様子の亀吉。
「おっ母さーん、こっちに来なよ」
「あ、亀! 何ですね、この子は。見ず知らずの方とご一緒して」
「あんなこと言って。よく知ってるくせにね」
「おっ母さーんこっちだよ。お父っつぁん、遠慮してるんだから声をかけておやりよ。おっ母さーん。ほら、お父っつぁんも。おっ母さーん。お父っつぁん……まったく、仲人は世話が焼けるよ」
「おいおい。何言ってるんだよ、こいつは」
 熊五郎はスマホを取り出し、

熊五郎 @kumagorou_of_the_forest                           1分前
どうぞ、こちらへ
Twitter for iPhoneから

 『Twitter』を使ってお光に呼びかける。
 お光も裾からフィーチャーホンを取り出し、

お光 @kame_lovelovelove_mitsu                            1分前
昨日はお小遣い頂戴いたしまして。その上、鰻までご馳走になって。一体どこのどなたなんだい、て問いつめましたがなかなか喋りませんでしたけど……やっぱり、お前さんでしたか
モバツイから

熊五郎 @kumagorou_of_the_forest                           1分前
ははははははっ。いやあ驚いちゃったよ、あんな所で会うとは思わねぇでさ。昨日ばったり亀の野郎に会っちまって、小遣いやったんだ。おっ母には内緒だぞって言って。で、鰻食いてぇか? て聞いたら、食いてぇ、て言うから、じゃ今日は駄目だから明日の今時分においで、て言ったら来てくれてさ
Twitter for iPhoneから

熊五郎 @kumagorou_of_the_forest                           1分前
で、二階上がった……ははは、子どもは正直だからな、おっ母さんの前でペロッと喋っちまう……ははは……
Twitter for iPhoneから

熊五郎 @kumagorou_of_the_forest                           1分前
き、昨日ばったり亀の野郎に会っちって小遣いやって、鰻食ってっか、て聞いたら『うなぎパイ』だってめったに食わない、情けねぇこと言うからさ、じゃ鰻食おうじゃねぇか、てことになってさ……おっ母には内緒だって言ったにも関わらず、ペロッと喋っちまって、ははは……
Twitter for iPhoneから

熊五郎 @kumagorou_of_the_forest                           1分前
昨日ばったり亀に会って……
Twitter for iPhoneから

「お父っつぁん。同じことばっかりツイートしてるよ……てか、何でツイッターでやりとりなのさ」

熊五郎 @kumagorou_of_the_forest                           1分前
俺からこんなこと言えた義理じゃねぇけど……ま、俺はともかく、この子は先がある身だからな。俺が悪かった。図々しい願いってことは百も承知だけども、一つ水に流してもらって“元の鞘”に収まるってわけにはいかねぇかな?
Twitter for iPhoneから
                                          7人がリツイート

お光 @kame_lovelovelove_mitsu                            1分前
ぅう……嬉しいじゃないかねぇ。だってそうじゃないか。三年振りにお前さんに会えてこういうことになるって言うのも。あたしはともかく、行く末この子がどれだけ幸せになれるかわかりゃあしないもの……
モバツイから

お光 @kame_lovelovelove_mitsu                            1分前
昔の人は『子は鎹』なんて上手いこと言いましたけど、IT革命が成された今になっては、子はパソコンとネットワークを繋ぐ『LANケーブル』のようですね
モバツイから

「え!? アタイがLANケーブルかい?」
 亀吉は母親の発した言葉に、何処か得心入ったように頷き、言った______、



「通りでおっ母さんが、裸の写真をネットにバラまくと言った」





______お後がよろしいようで。
 いっぱいのお運び、厚く御礼申し上げます。毎度バカバカしいお笑いを、一席。

 え~、昨今では『家電芸人』なんて職業がまかり通るくらい、どのお宅にとっても家庭用電気製品は切っても切れないものとなっております。
 “簡易エアコンの付いた洗濯機”とか、“ボタンを押そうとすると逃げる目覚まし”とか、“マイナスイオンの出るテレビ”とか……どれも多機能で遊び心があり、正に技術大国『日本』の名に恥じないものばかりで御座いますね。

 そんな中、皆様方に一番親しみのある家電製品と言えば、―――『携帯電話』ではないでしょうか?
 昨今ではやや『ふじりんご』マークのやつに押され気味では御座いますが(余談ですが、私は『王林』の方が好みであります)、日本独自展開のものはその多機能さが売りであり、インフラストラクチャも万全に整備されていて諸外国に比べると大変使い易いものとなっております。
 しかし、機能や設備が整っている反面、端末代金や通信費用が少々お高めになってしまうのは、庶民には手痛いものでは御座いますな。

 さて、近年はインターネットの普及からか、情報の伝達が『風林火山』のどれかの如く広がりやすくなりまして、“どこが一番値引きしてくれるか”や“良い値引きの方法”、果ては“ここの店員は対応が良かった悪かった”なんてお店には胃の痛い話題で各掲示板や.comなんかが賑わいを見せております。
 ですが、どんなにチラシを見比べても結局amazonの値引き率と送料無料に行き着いて、家電量販店が開店休業状態になり街が廃墟化してリアル『北斗の拳』状態になる(メリケン作の実写版って意味じゃなく)……なんて、寂しいことにはならないようにしたいものですね______、


☆★☆★☆

――――――甚平 さんが入室しました。

甚平> トメさ~ん、トメさ~ん(/・ω・)
トメ> おお、甚平さんじゃねぇか。何か用かい?
甚平> ちょいとうちの母ちゃんに頼まれちまってさ、トメさんに買い物付き合ってほしいだけど……(((∋∀≦*)つ))з゜)
トメ> おお、買い物な。別に構わねぇが……瀬戸物屋かい? 電気屋かい?
甚平> 瀬戸物やら電気って、なんだい? いやほら、オイラ『ヒッキー』じゃねえか。外に出たら負けだと思ってるし<( ̄^ ̄)>
トメ> 自慢気に言ってるんじゃないよ。それじゃ一体何を頼まれたんでい?ネット通販ならひきこもったままでも出来るだろ
甚平> いやぁ、そいつがさ。トメさんの言う通りネットの買い物なんですが、買い物っても店相手じゃなくて、個人間でのトレードってなもんで
トメ> ああ、成る程。RMT(リアルマネートレーディング)ってやつかい。何だい、甚平さんはネトゲでもしてるのかい?
甚平> いや、ネトゲじゃないんだけど……あにさん『ポケゲーシティ』って知ってますかい
トメ> ああ、知ってる知ってる。やたらめったらCMで“無料、無料”のたまってるわりに、入口だけ無料でやり込むには銭が掛かるってぇ代物だろ
甚平> トメさんはハッキリものを言うねぇ。そんで、うちの母ちゃんがソレに嵌っちまって
トメ> はぁ。甚平さんも奇特な嫁を持っちまったなぁ
甚平> はは、まったくだよ。やつぁ朝から晩までずっと携帯と睨めっこなもんで(Θ∇Θ)
甚平> そんで、母ちゃんに買い物を頼まれたんだけど、ヤツ曰わく―――お前さんくらい買い物が下手な人はいないよ。お前さんは高い物を言われるままの値段で買ってきた挙げ句「ありがとう御座いました」なんてお礼まで言っちゃって、こんな馬鹿な話はないわさ。そこいくとね、トメさんは買い物が上手いから、一緒に行ってもらったらどうだい? あの人は人間が狡っ辛く出来てるから、頼まれればきっと一銭でも安く買ってくれるよ―――って、こう言うんだよ。すまねぇけどトメさん、一緒に行ってもらえねぇかな?
トメ> ……うん。そりゃオメェ……構わねぇんだけどな……甚平さんこそ随分と言いにくいことをハッキリ言うな
甚平> 何が?
トメ> 何がじゃないよ。オメェとこのカカア、俺のことを何て言ってるって?
甚平> ええ。ですからね、トメさんは人間が狡っ辛く出来てるから……
甚平> └(゜◇゜;)┘
甚平> へへへ。ウチの母ちゃんも言ってたよ―――アンタ。このことは当人目の前にして絶対に言っちゃあいけないよ―――って\(^o^)/
トメ> そりゃそうだ。わざわざ悪口言われたいんだったら、俺は相当のM……所謂“SM”ってやつだよ
甚平> ああ~、トメさんすまねえ。お願いだから、お願いだから一緒に買い物しとくれよ┌(_ _;≡;_ _)┐
トメ> いやいや、オメェに怒ってもしょうがねぇからな。そんな地べた舐め回してる顔文字使わなくても、買い物はしてやるって
甚平> ホントかい。トメさんすまねぇ、恩に着やす。そんじゃ、ポッシティのRMTが盛んなサイトに行きやしょう丶(゜v゜ 丶(゜v゜*)

――――――甚平 さんが退室しました。
――――――トメ さんが退室しました。

☆★☆★☆


『POCKET RMT』

 “ボケゲーシティ”に特化したRMTサイト。
 アイテム・キャラクター・ゲームマネーの売買だけではなく、攻略法の論議、一緒に冒険をする仲間を募集をする者、掲示板による雑談、ete.ete.
 また、昨今ではポケゲーシティに興味のない者が出会いを求めて氾濫する・と言う、半ば無秩序状態なサイトとなっている。
 しかし、ポケゲーシティに関しては業界最大手と言うこともあり、いまだ同系列サイトの中では利用者数トップを誇っていた。

 そこではRMT利用の際、買う側は無料・売る側は有料の会員登録が必要である。個人・業者問わず多くの売人登録がされており、その圧倒的登録者数により、必然、品揃えに関しても業界最大手である。
 利用方法は、先ずサイト側が用意したRMTのチャットサイトに入室し、そこから自分の用途に合わせて売人を選択。その後売買の交渉に移り、見事成立すれば買い側は指定の口座にお金を振り込み、売り側は登録者のIDに向けてアイテムを添付したメールを送る、と言った具合。

――――――トメ さんが入室しました。
――――――甚平 さんが入室しました。

トメ> ところで甚平さん、今日は何を買いにきたんだい?
甚平> えーと、なんだ、ポッシテの中で自分の代わりにしてる“アピタ”っての?
トメ> 『アバター』な。アピタってどっかの大型スーパーじゃねぇんだから
甚平> そうだったそうだった。んで、そのアバターってのに装飾する“羽根”のアイテムが欲しいってんだよ
トメ> オメェとこのカカアは、テメェのナリも考えずに飾り立てることばっかだな。少しは分を弁えろってんだ
甚平> トメさ~ん。そうハッキリ言わないどくれよ
トメ> はは。さっきの悪口のお返しだ。んで、どんなのが欲しいんでぇ?
甚平> へぇ。それがですね、今まで“二枚羽”のアイテムを付けてたんでやすが、最近それに飽きちまったようでして、今度は“四枚羽”を付けたいって言ってるんでさぁ
トメ> 二枚羽だの四枚羽だのって贅沢だな。“赤い羽根”でもテメェの面に付けとけってんでぇ
甚平> トメさ~ん
トメ> いや、すまねぇ。悪戯が過ぎた
甚平> ところでトメさん。アイテム売ってる人いっぱいいますけど、誰から買いやしょう(>_<)
トメ> 慌てるな慌てるな。言ったろ、万事俺に任せとけって。その代わりオメェ、買い物中は一切口出すなよ
甚平> ウチはカメラもマイク繋いでないから、チャット中は喋っても聞こえないよ。でもメッセージ打つのに、手ぇ出すのはおkなのかい?
トメ> 細けぇ揚げ足取りすんじゃねぇよ。オメェはただ指くわえて見てりゃいいんだ。そうすりゃ俺が良い買い物してやるから。いいな、今日は俺の一人舞台だぞ
甚平> 「男と女~操りつられ~♪」ってやつだね
トメ> そりゃ「恋はい~つでも初舞台~♪」だ。いいから、絶対に黙ってろよ。そこの店にするぞ

【アイのや】 ←クリック

トメ> ちょいと邪魔するよー
店主> いらっしゃいませ。アイテムの売買から攻略情報、果ては人生相談まで。ポケゲーシティのことなら当店で間違い御座いません
店主> お客様。本日は何をお探しでしょうか?
トメ> おおぅ、威勢がいいな。んならアバターのな、オプションで付ける“羽根”が欲しいんだけど、あるかい?
店主> はいはい。アバターに付けます羽根でしたら、当店では、クエストで獲得した材料を下地に作る『二枚羽』、期間限定で配布された『四枚羽』、今まで手に入れた方が百人にも満たない限定中の限定『六枚羽』、こちらの三種取り揃えて御座いますので、どうかよろしいのをお見立て下さい
トメ> ほうほう。そしたらな、この“二枚羽”ってのをもらおうか。いってぇ幾らだい?
店主> ありがとう御座います。え~この界隈同商売が並びます中、わざわざ手前どもを選んで下さったお客様のことですから、Gu~~~と勉強して働かせて頂きまして、三千五百円がいっぱいなんで御座いますが
トメ> ほぉ、なるほどな。同商売がZuraっと並んでるところを、わざわざ選んだ俺らのことだから、Good勉強して働いて三千五百円が一円もまからねぇ・と、こう言うんだな
店主> Exactly(そのとおりでございます)
トメ> おお、そうかい。んじゃなお前さん、ちょいと聞くがな、この界隈に同商売がZurarararaーと……なくて、俺たちがわざわざ選ばなくて、勉強しなくて働かなかったら、この羽根は一体幾らなんだよ?
店主> ええ~、そうなりますと、え~と、それは……
店主> 三千五百円です
トメ> 同じだよ。調子の良いことばっかり言いやがって
店主> すいません
トメ> いや、いいっていいって。所謂、商売人の愛想・アメリカンジョークってやつだろ。こっちも心得てるよ
トメ> だがな、今日は俺の買い物じゃないんだよ。今日は一緒に来てるやつのカミさんに頼まれちまったんだよ、買い物が上手ぇとか何とか煽てられてな。で、俺も頼まれた手前、一円でも安く買ってやるのが人情ってもんだろ。だからな、三千五百円ってのが安いのはわかっちゃいるが、そっから五百円ばかり半端をポーンと取っ払っちまってよ、一つ三千円ってわけにはいかねぇかな?
店主> いやいや、それは困ります、お客様。我々RMTの商売人と申しますのは、とても不安定な商売で御座いまして。いつ運営から限定アイテムの増産が成されるかわかったものじゃ御座いません。今日万額付いていたものが、明日には数百円の値に下がることもザラで御座いますゆえ、どうか一つ言い値でもってお買い上げを
トメ> いや、お前さん、そう言うもんじゃないよ。昔からよく言うだろ『商人は損して得取れ』って。もしね、お前がその羽根三千円に負けてくれたら、ポケゲーやってる友達の携帯にハッキングして、全部データをクラックして回っちまうんだから。そしたらな、みんなお前さんのところに連れてくるからよ、そん時に本物の商売すればいいだろ。だからよ、顔繋ぎ縁繋ぎってことで三千円にまけてくれ
店主> ………………う~ん。かしこまりました、この度は私の負けで御座います。これは初商い、縁起物で御座いますから、どうぞ三千円でお持ち下さい
トメ> すまねぇな、ありがてぇ。甚平さん、まけてくれるってよ。三千円振り込め
甚平> で、でも、トメさん……
トメ> いいから。いいから指定のネットバンクに振り込め、コノ野郎。払ったね、んじゃな、データを送ってもらえるかい
店主> かしこまりました

―――ピコピコ

甚平> トメさん、データ来やしたけど……
トメ> そっか。世話になったな、また来るよ
店主> 本日はどうもありがとう御座いました。またのお越しをお待ちしておりますので、どうかご贔屓に
トメ> あいよ~

――――――トメ さんが退室しました。

甚平> あ、ちょ、トメさ~ん

――――――甚平 さんが退室しました。

「ふぅ。さて……」

―――ピロピロピロ

 トメさんが一仕事終えた・と安堵し一服しようとお茶に手を伸ばした刹那、パソコンにUSB充電していたiPhoneがけたたましく鳴り響く。

「あんだぁ? 甚平さんから?」
 トメさんはiPhoneを自分に寄せ、メール画面を凝視する。

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
[来] 甚平さん
[題] 何やってるのよのやのさ~!!\(`ε´#)/

[文]
トメさんはど~して人の話を聞かないのっ!
オイラが欲しいのは“四枚羽”だって言った
でしょ。二枚羽なんて買っちゃってどーする
のさ!?
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

「ちっ、あの野郎。黙ってろってのに」
 トメさんはメールの画面に舌打ちし、気怠そうに携帯を手に取る。

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
[行] 甚平さん
[題] シャラップ!!?

[文]
オメェ、口出すなっつっただろ。
もう少ししたら二枚羽が四枚羽になるから、
待っとけ!
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

 トメさんが甚平さんへの返信を滑らかなフリックで入力すると、

―――ピロピロピロ

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
[来] 甚平さん
[題] えっ(゜∀゜;ノ)ノ

[文]
二枚羽が四枚羽に……ふやけるの?
『ふえるわかめ』みたいに!!!
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

 一息吐く間もなく甚平さんから返事が返り、それを見たトメさんプルプルと苛立たしげにiPhoneを握りしめ、

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
[行] 甚平さん
[題] ふやけるかっ!

[文]
わかめじゃねぇんだ。
いいから、またさっきの店に入るぞ。
ついて来い。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

 烈火の如く画面に指を滑らせ、iPhoneを布団目掛けて投げつけると、先ほどのサイトへ再度(←ライムを刻んでるよ)入り込んだ。

――――――トメ さんが入室しました。
――――――甚平 さんが入室しました。

トメ> ごめんよ
店主> これはどうも、先ほどのお客様。何かお忘れですか?
トメ> おお、「お忘れですか?」なんて言ってくれるってこたぁ、俺のこと覚えていてくれてるのかい?
店主> 何を仰います。今さっきお買い物をして頂いたばかりじゃないですか。何か商品に不備でも御座いましたか?
トメ> いやすまねぇ、とんだドジをしちまったんだ。ちょいと聞いてくれよ、まったく情けねぇ話だ。何でも、こいつの欲しいアイテムってのが“二枚羽”じゃなく“四枚羽”だってんだよ。そうならそうと早く言えってんだよ、このバカっ!!
甚平> 何言ってるの、トメさん。オイラ最初から四枚羽…
トメ> 余計なこと言うなってんだよ。いや、そう言うわけでな、四枚羽が欲しいんだよ
店主> 左様で御座いますか。いやいや、そんなにお怒りにならなくても。人間誰しも間違いは御座いますし、四枚羽でしたらまだ充分御座いますから
トメ> うん。で、その四枚羽は、いってぇ幾らなんだい?
店主> はい。こちらのアイテムは二枚羽の倍羽根が付いております。ですので、お値段もそう言うことになっておりまして、三千五百円の倍の七千円ってことに……
店主> ( ̄○ ̄;)
店主> お客様、先ほどその二枚羽のアイテムを三千円でお求めになられた。ってことは……
店主> 四枚羽は倍の、、、、、六千円ですか?
店主> あなた随分手の込んだ買い方なさいましたね、ここで千円の開きが出ようとは!!!!!
トメ> た、たまたまこうなっちまったんだよ。だがどうだろうねぇ、四枚羽……六千円ってわけにはいかねぇかな?
店主> はい、わかりました。今日は私の完敗で御座います。もうね、どうぞ、六千円でお持ち下さい。今度私の体調の良い時に、アナタとサシでみっちり勝負をしたいと思いますから、今日は六千円で構いません
トメ> そうかい、すまねぇな。それからなぁ、もう一つ頼みがあるんだよ
店主> 何で御座います?
トメ> 四枚羽を買うについちゃ、さっき買った二枚羽が無駄になっちまうんだよ。似たアイテムがあってもしょうがねぇだろ。だからよ、この二枚羽を下に取って欲しいと思うんだけどね、どうだろうな?
店主> ああ、そうですか。そりゃ構いません。手前共でお売りしたんですから、こちらでお取り致します
トメ> そうかい、悪いね。幾らで取ってくれる?
店主> 先ほどお売りしたばかりで御座いますから。データの改竄さえされてなければ、元通り三千円でお取り致します
トメ> ありがてぇ、三千円で取ってくれるかい。じゃあよ、お前さんにさっき三千円渡したな
店主> はいはい。まだ口座から下ろさずに入っております
トメ> そうかい。で、この二枚羽を三千円で下に取るんだから、合計で六千円だ。データ送ってくんねぇ
店主> はっ?
トメ> いや、「はっ?」じゃないよ。最初(ハナ)お前さんに三千円渡したろ
店主> ええ。その三千円は口座に御座います
トメ> で、二枚羽のアイテムを三千円で下に取るんだから、三千円と三千円で合わせて六千円だろ。早く四枚羽送ってくんねぇ
店主> はあはあ……え~三千円と羽根?……あ、ああ、はいはいはい。わわ、わかりますよそのぐらい。三千円と三千円で合わせて六千円、わかってますわかってます。じゃ、今度はお間違え御座いませんか?
トメ> おう。“バッチリ千里足”ってぇくらいバッチリだ
店主> 左様で御座いますか。では四枚羽を送らせて頂きますので、そちらからも二枚羽をお願い致します

―――ピコピコピコ

甚平> トメさ~ん。桶だ~(b^ー°)
店主> はい。こちらも間違い御座いません。それではまたのお越しをお待ちしております
トメ> おう。邪魔したな

――――――トメ さんが退室しました。
――――――甚平 さんが退室しました。

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[来] 甚平さん
[題] まんまとやりやしたね♪♪

[文]
トメさん。うまいこと四枚羽手に入れやしたね。
o(≧∇≦)b
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[行] 甚平さん
[題] 応よ!

[文]
どんなもんだい、俺のネゴシエート術はっ!

これで甚平さんトコのカカアも満足だろ。
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[来] 甚平さん
[題] それなんですが…

[文]
トメさん、ここまできたらもう一っこ上の“六枚羽”
もお願いできやせんか?(^w^)
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[行] 甚平さん
[題] バカやろうっ!!

[文]
調子にのんな。こういうのは、深追いすると火傷
するぞ。

ノリとタイミングで押し切って、炎上したブログ46
49、知らん顔してドロンするのが吉なんだよ。
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[来] 甚平さん
[題] すいやせんm(_ _)m

[文]
でも、サプラって六枚羽を持ち帰ったら、母ちゃん
どんなに喜ぶことか…

オイラ母ちゃんの喜ぶ顔が見てえんでさあ。
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[行] 甚平さん
[題] …ったく。

[文]
オメエはホント、カカアとカカオとだだちゃ豆が好き
な奴だな。

仕方ねぇ。オメエの男を上げるために、もう一肌
だけ脱いでやる。
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[来] 甚平さん
[題] へい(≧∇≦ゞ

[文]
トメさん。
一生恩に着やす!!!
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[行] 甚平さん
[題] ただな。

[文]
駄目と思ったら即時撤退だぞ。

そしたら、またさっきの店にLet'sらGoだ!
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――――――トメ さんが入室しました。
――――――甚平 さんが入室しました。

トメ> ごめんよ~
店主> アレッ! 先ほどのお客様? 今度はどういたしました?
トメ> 何度も邪魔して悪ぃな。いや、手違いじゃねぇんだがな、色々話してたら“六枚羽”が欲しいってことになっちまって
店主> 左様で御座いますか? いえ、私は一向に構いませんが
トメ> そうかい? 手間かけて悪ぃな。そんで六枚羽は幾らだい?
店主> はい。六枚羽は四枚羽の一.五倍の羽根枚数なのですが、こちらは限定物ですので、少しプレミア価格を上乗せさせて頂きまして四枚羽の二倍のお値段となっておりまして……
トメ> て~ことは……幾らだい?
店主> 四枚羽が七千円。その倍ですから……あ、いえ、わかっておりますよ。お買い物上手のお客様のことですから、通常より二千円の開きが御座いますが、六千円の倍で一万二千円とさせて頂きます
トメ> おお、そいつぁ嬉しいねぇ。んじゃあな、もう六千円渡してあるから、それと四枚羽を下に取ってもらって六千円、合わせて一万二千円でいいな
店主> はい……え、あ、はい?
甚平> (>艸<)プッ
トメ> いや、だからな。最初に渡した三千円、それと二枚羽を下に取った三千円、更に四枚羽を下に取って六千円、合わせて一万二千円でいいだろ。六枚羽送ってくんねぇ
店主> はー……はぅぇぇえええ?
トメ> 珍妙な打ち込みするんじゃねぇよ。わっかんねぇかな~。そしたら『電卓のアプリ』起動しねぇ
店主> い、いえ。私もこの商売長ぅ御座いますから、たかだか一万二千円の勘定で電卓など……
トメ> いや、お前さんがわからねぇっつうから言ってんだよ。いいから、電卓起動しねぇ
店主> はぁ。そうですかぁ

[スタート]→[すべてのプログラム]→[アクセサリ]→[電卓]

店主> 起動しました
トメ> そしたらな、今から俺が言うように電卓叩くんだぞ
トメ> 先ず、お前さんに三千円渡したろ
店主> あ、あの、この三千円は良いんです。私、この三千円には何の疑いも持っていませんから。入れました
トメ> それから、二枚羽のアイテムを三千円で下に取るんだろ。三千円と入れてみろ
店主> そうなんです、これなんです。この二枚羽に、何か火曜サスペンス劇場的な匂いが……
トメ> 何を下らねぇこと言ってやがる。いいから入れてみろ
店主> いや、待って下さい。この二枚羽はお客様が三千円でお求めになられた。これは、間違い御座いませんね
トメ> おう
店主> で、この二枚羽を私が下に取る。下に取ると言うことは、この二枚羽がお客様の手を離れてこっちにくる。二枚羽がこっちにくると言うことは、三千円をお客様にあげなくちゃいけない……あげてない。あげてないと言うことは……あ、いいんだ、これ。入れて良いんだ。入れて良いと言うことは電卓で叩きまして
甚平> プギャプギャ―――m9(^Д^≡^Д^)9m――――!!!!!!!
トメ> 最後に、同じ要領で四枚羽を六千円で下に取る
店主> ……ろくせんえん
トメ> 幾らになった?
店主> やれば一万二千円になるんですよ。なるんですけども、このままお客様にアイテムを送ってしまいますと、「あ~、今日は良い商いをしたな」と言う……満足感が得られないんです
トメ> 何を下らないこと言ってるんだ。お前さんの心持ちまでは知らないよ
甚平> (゜∀。)ワヒャヒャヒャヒャ―――♪
店主> ちょ、ちょちょ、待って下さい。もう一度やりますから。三千……三千……六千………………一万二千………………ぁっ!?
トメ> ほらほら。ちゃんと数字に出てるなら、とっとと送ってくんねぇ
店主> くぁwせdrftgyふじこlp。何か言わないで下さい!私今ね、わかりかけたけど、アナタが何か言うからわかんなくなっちゃったじゃないですか。それからお連れ様、さっきから変な顔文字打ち込まないで下さい。静かにして下さい

――――――愛・燦 さんが入室しました。

愛・燦> すいません
店主> はい。何でしょうか
愛・燦> 水がめのアイテムありますか?
店主> ええ、御座いますよ。水がめはこちら一点のみですから、お代は千五百円となります
愛・燦> あ、あの……その……ちょっと
店主> ……? 申し訳御座いません、先客の方で少しとりこんでまして
愛・燦> ぁの……少し負かりませんか?
店主> 申し訳御座いません。負からないんです、ウチ。言い値でもってお買い上げをお願い致します
愛・燦> で、でも……どうしても負かりませんか?
店主> ――――――――――。
店主> 負けません。それもう売りませんから、隣の売人に行って下さい。隣に同じ物売ってますから、むしろ隣の方が安く売ってますから。そっちで買え・バカぁぁぁぁああああ!!!!!!
愛・燦> ひぃぃぃぃぃいいいいいっ!!!!?

――――――愛・燦 さんが退室しました。

店主> 私はね、この勘定が合わないと商売なんかやってられないよ。ホントに。えっと……三千円……三千円……三千円……三千え~~~~~ん
店主> すみません。今スパコンの電卓起動しますんで、少々お待ち下さい
トメ> 『京』に変えたって同じだよ。お前さん、こんなに待たせてどうしてくれるんだ
店主> お客様どうも申し訳御座いません。お客様が悪いわけじゃございませんが、今日の所は四枚羽でお帰り下さい
トメ> 馬鹿なこと言うな。俺たちはな、六枚羽が欲しいんだって
店主> ええ、ええ。ですから______、



店主> 頂いたお金も、お返ししますから
トメ> そうかい?そんじゃあ、今日のところは『しまい(四枚/終い)』にしよう





______お後がよろしいようで。