満月 -2ページ目

高層ビル

暑い夏

突然のメールで待ち合わせをする事になる

女の人はね、突然家を出れないんだよ」と私が笑う

だって、シャワーを浴びたりメイクをしたり服を選んだり・・・

色々大変なの


彼はなるほどっといった表情で頷いている


照りつける日差しが少し弱くなる夕方

私の右手と彼の左手は磁石


高層ビルのレストランでワインを頼む

窓からはまだ電気のついたオフィスが見える

この時間まだ働いてる人が多いね

不思議な優越感

休日の時にお出かけしたのと同じ気持ち


もう暗い西新宿

磁石をくっつけたまま歩く

好きになってもいいの?」と彼が聞いた


・・・・・・・・・


私は何と言えば良かったのだろうか?


その言葉が全ての始まり




大阪

新横浜の駅で合流だね


私は品川から彼は新横浜から新幹線に乗る

駅が近くなると窓から彼の姿を探す

隣に座った二人は手を繋ぐ


新大阪に着くとお互いの用事を済ませる

為に別行動となる


じゃぁ夕方ホテルに集合ね


私の用事が先に終わる

部屋で彼の帰りを待つ

帰ってきたらすぐ食事に出れるように

シャワーを浴びて着替えておく


タクシーに乗るときも

見知らぬ大阪の街を歩く時も

二人は手を繋ぐ


翌日帰りの新幹線

新横浜でお別れするのやだな

と私が言うと・・・

たまには僕が先に帰ってもいいでしょ?」と彼が笑う


そう、いつもは彼が私を駅まで送ってくれるのだ


行きはこれから一緒に過ごす為に乗った新幹線

帰りは別々の家に帰る為に乗る新幹線

いたたまれないような寂しい気持ち


ないものねだり

ただ好きになれる人が欲しいだけ


好きになれる人が欲しいだけなのに





サザンテラス

スターバックスで待ち合わせる

スタバのちょうど裏の席で待っています

とメールを送る


今、着きました

彼からのメール

少し微笑んでこちらに向って歩いてくる彼は

KRIZIAのスーツを着ている

新宿駅のたくさんの路線

見下ろせるその場所は風が強かった

私の長い髪が揺れている


南口近くのお店に向う

私は歩いてる途中香水の蓋を落とした

香水をそのまま持ってるの?」と彼が笑う

私は小さ目の香水のビンを持ち歩き

アトマイザーには移していなかった

小さいビンだからいいの」と私が笑う


香りは記憶と深く絡み合う

細い細い糸をたどって遠い記憶を呼び覚ます

彼の香りと私のTresor


忘れていたそのたった一瞬を

体温も細くてきれいな指も

今、この手で掴んだように思い出す






ひび割れたグラス

左胸の上に大きなひび割れ

そこから少しずつ私自身が漏れ出している


口移しでたくさんの愛情を注がれても

全身が満たされる事はなく

その愛情はひび割れた部分からどこかへ落ちていく


まるで砂時計の砂が細い部分をサラサラと落ちるように

身体中から私自身の感情も誰かが私に注いでくれた感情も

止め処なく流れ落ちる


物事に対する正しい反応を

物事に対する正しい感情を


私は忘れてしまった


笑うって何?

悲しいって何?




恵比寿

西口改札で待ち合わせる

グレーのスーツを着てる彼

同じ様な色をセレクトしたね」と笑う

私は紫の上にシフォンを重ねたドットのワンピース

ちょうどグレーのように見える


駅から少し歩き裏路地にあるそのお店は

四角いピザを出してくれる

お寿司屋さんで使うような木の台に乗っている


ここのピザはぜひ紹介したかったんだ」と笑う

彼と一緒なら何を食べてもおいしい

味覚が気持ちに浸食されて

おいしさが自分の気持ちと比例する


階段が苦手なの

という私の手を引いてくれる彼

後ろ向きで階段をエスコートしてくれた時

彼の方が一段踏み外しそうになってお互い笑う


甘い香水とやわらかい肌

私が一番好きだったところ

今でも他の誰かに探している二つ