差別は人間のいや、日本人のしゅくあのようなものだ。昨今の風潮では日本人が日本及び日本人について否定的な意見を述べると、すぐさま反日だとか、某国の回し者扱いされるばかりか、日本人を装う在日外国人ではないか、とまでいわれかねない。おろかなことである。日本人だからこそ、日本及び日本人の醜い部分が良く見える。当たり前のことである。日本社会の息苦しさに、どれほど多くの日本人がくるしみもがき、病気になるほどに嫌気がさしているかを、少しは知ると良いだろう。そして、わたしも日本人なのだから、評論家のようにせせら笑いながら、反日本論を展開しているわけではないのだ。何とか、自分の住みやすい、息をしやすい日本に変えたいのである。ついでながら、わたしには愛国心などほとかけらもありはしない。ただ、自分のすみやすい環境を求めるだけのエゴイストである。
まあ、すくなくとも近代以降の歴史においては日本人の差別は隣近所に向けられている。早い話、中国、韓国、北朝鮮などの国々である。これらの国々が遥かに貧しい時代はわれわれも余裕を保っていられたが、国力が拮抗し、さらにこちらは落ちていく一方だ。高度経済成長も特段いいものではなかったが、経済でしか人生を評価できない人々には、現状にどうしようもなくあせりに近い感情が生まれるのだろう。
われわれはせっかちである。そもそもが外国人になれていない。ことばがつうじない者に対し、対等な人間扱いさえできない。救いがたい田舎者である。国力を増してきた隣人たちが、われわれを攻撃する切り札は戦争中に日本軍が犯した罪悪である。ここに、差別が政治問題化する理由がある。これにたいし、そんなことはうそだ、お前たちはことさらにうそを言ってわれわれから賠償金をふんだくろうとするのだろう、と反応する。ちょっと待ってほしい。他国の領土に無理やり押し入って戦争を仕掛けた集団が、一人の女も犯さず、一羽の鶏も盗まず、品行方正で、正規軍のみと正々堂々と交戦し、捕虜に対しては人道的に礼節をもって扱い、武器を捨てたものに対し発砲するようなことはせず、非武装の住民は絶対に殺さない、、、、そんなことがあるわけないだろう。いつでもどこでも、侵略軍は無慈悲に男を殺し、女は犯す。物資は盗み、見えざる敵に備えて動くものすべてに銃口を向ける。当たり前だろう。侵略軍なのだから。周りのすべては敵なのだから。そりゃあ、傀儡のゴマすりの『親日家」はいただろう。だが腹のそこでは復讐の機会をうかがっているであろうことはお見通しだったはずだ。その覚悟でなければ、大陸に戦争を仕掛けることなぞできるわけがなかった。だいいち、当事者が血まみれの行為の数々を語っているではないか。それもみんなうそか?まあ、言いたいことはまだあるが、おおかたの日本人が思うことは次のごとくであろう。
天皇の命令の元に統率されていた軍隊がそんな悪いことをするはずがない。
かりにそんなことが多少はあったとしても、わたしがやったわけではないのに、なぜ批判されなくてはならないのか。
これに対する答えはこうだ。天皇教にがんじがらめだったからこそ、天皇を信じない異国のやからを虫けらのように扱うことができたのだ。
日本軍の行為と、現代に生きるわれわれはそりゃあ直接関係ないだろうが、われわれを非難する隣人は祖父母や親兄弟親戚友人恋人を日本人に殺されているのだ。われわれの先祖は大陸に行って人を殺した。そしてその子孫はいまだにわれわれを恨んでいる。記憶が生々しいのだ。日本人だって、満州開拓団を殺したソ連の後継国家であるロシアを嫌うものはいるだろう。原爆をおとしたアメリカへの反感から街を歩く米兵につい冷たい視線を向けるわたしのような者もいる。ま、アメリカについては、すばらしい洗脳のおかげで大方アメリカ大好きになってしまったわけだが。なかには映画の中の勝新太郎のように「おれはゴキブリと英会話が死ぬほどきれえなんだ」という吾人もいるだろう。
関係はないが祖父や父の犯した過ちをうけとめるのはいわば宿命である。現代アメリカ人が、関係はないとしても原爆投下した国の重みを背負っているのと同様に。それに、われわれがたとえば、アメリカを批判するとき、原爆を落としたと同じ体質を今もあいつらは持っている、という嗅覚が働くのだ。やつらはいざとなったら、非白人の頭上に核を炸裂させるだろう、決してロンドンやパリにはしないことをな。そう思っているからである。同じことが中国や韓国の側からの対日批判についても言える。こいつら、またなにか理屈をつけて攻めてくるのではなかろうかと。わたしが中国人や韓国人だったらそう考えるのが自然だろう。
侵略とは国境を無視して他国に軍を進めることだ。そしてわれわれの国家は迎撃戦では守れない、と軍事の専門家は言う。つまり、行き着くところは相手の陣地に行って元をたたく、これ、つまり侵略でしょうが。
われわれは中国や韓国の加害者であり、彼らを見下す習性から抜けられないわれわれは、その批判がうっとうしくてたまらず、一方ではアメリカの属国であって、国家としての独立性を完全に封じ込められている。つまり、かつての戦争の名目であった打倒すべき白人国家に完全に従属し、逆らうこともできず、その鬱屈を同じ肌の色の隣人に対する差別でバランスをとる、あいもかわらずそんなことを繰り返しているわけだ。何度でも言う。白人へのあらゆる面での劣等感を、アジアの隣人を見下し、俺たちアジアナンバーワンとほえることで溜飲を下げる。この劣等感と差別のセットになった感情こそがわれわれに植え付けられたしゅくあだ。
すべての米軍基地を日本から追い出せ。米軍を一人残らず海に突き落とせ。まずはそう心の底から叫んでみようではないか。