唐突に呼びつけてすまなかった。
私が呼ばなかったらまだゆっくり眠ることが出来たろう朝。
かまいません、と言われたが、
のちに10分ほど遅れる、と連絡がくる。
かまわないがやはり遅れるのか。
外国人なのに遅れる旨 律儀に連絡をくれたので、まぁ許そうと思った。
遅れてすみません。
そう言いながら被り物を脱ぎ、顔を見せて会釈された初対面、
私はラッキーだと思った。
周囲のボーイに比べて若かったからだ。
私が歳をとった証拠。
のちにそれは、初対面ではなかったのだけれど。
歴史が好きなわけじゃない
空気が綺麗だったわけじゃない
料理が美味しかったわけでもない
星が出ていたわけでもないカンボジア。
途中、道がわからなくなった
それを迎えにきてもらった
その時の安堵が安心にかわって、居心地にかわっていたのだと思う。
夜、上を向くとまだ夜とわかる賑わいの、
ナイトマーケットへ行って買い物をし、
30分かけてくたびれたサンダル足で戻ったホテルのロビーで、
横切ったボーイが貴方でした。
恋に落ちるって、この瞬間のこと。
そちらはご存じだったのだろうけど、
私はまた会えるなんて思っていなかったので、
その前夜にそういえば話した君のことを思い出し、
用事もなく会いたくて、夜中ホテルのロビーをうろついてはロビーの叔母さまに何をしているのかと尋問された。
以来、私は終わっては始まって、忘れた頃に始まって、
君からの通知がなるたびに、踊る気持ちをループして楽しんでいる。