私は、恩師メナヘム・プレスラー先生の弾くショパンが好きです。
先生の十八番である『ノクターン 嬰ハ短調 遺作』は演奏会のアンコールで聞かれた方もいるかもしれません。
私は、それこそ何度聞いたか覚えていません。
その他にも、マズルカ、ワルツ、ポロネーズ、コンチェルトなど聞かせて頂きました。
美しい音色、フレーズの美しいアーチ、完璧な声部のバランス、美しいトリル、明瞭な構成プラン、絶妙なリズム感がいつもそこにあります!
でもその表情やニュアンスは弾くたびに微妙に違っています。
それなのに、どの場合でも「これが一番素敵!」と思えてしまうのです。
ある時先生に「先生のショパンは聞くたびに少し違うのに、これが一番美しい、と思ってしまうのですが、どうしたらそうのように弾けるのですか?」と伺った事がありました。
先生のお答えは、「自分のその時の心情に沿うこと。ショパンをいつも同じように弾いているとしたら、それは自分に嘘をついている。」でした。
「自分に嘘をついている」とは厳しいお言葉!
でも確かに、ショパンの作品とはそういうものだと思いました。
また、先生は曲の構成をしっかり把握して、セクションやフレーズの性格付けがはっきりしているので、その中での微妙な変化があっても、曲全体のバランスや流れが揺らがないのではないかと思いました。
それ以来、私も自分のその時の心情に素直になり、微妙に違う表情で弾く事にためらいがなくなりました。






