アンドラーシュ・シフさんによるベートーベンの『ピアノ・ソナタ第31番 変イ長調 作品110』の講義を訳してお届けしています。
講義の合間に演奏が入るので、実際の講義を聞きながら訳を読んでいく方法をお勧めします。
講義を聞くには、こちらのウェブサイトに行き…
Beethoven Lecture Recital Part 8 を探して…
2. Piano Sonata in A-flat major Op.110 をクリックします。
あるいは、YouTubeでも聞くことができます。
今日は第1楽章の第2主題から最後(4:37〜9:07)までの講義を訳します。
(演奏4:37)
そして、ここで第2主題です。
ところで、この楽章には3つの対照的な主題があります。
作品109の第1楽章とは違います。
作品110の第1楽章の性格は、旋律的、愛らしく、優しく、和声的と言えるでしょう。
劇的なドラマや葛藤のようなものはありません。
でも、主題提示部の最後に・・・
(演奏5:45)
この3段階で落ちていくステップが、これから先に来る暗さを予言しています。
実際、この次に現れる展開部では音楽が暗くなり、危険さが増し、多声法を使っています。
(演奏5:13)
第1主題の最初の2小節のリズム・モチーフを使っています。
7回あります。
その下に、16分音符でのバスとテナーの2声による対位する旋律があります。
ただ、バスはクレッシェンド、デクレッシェンドによる小さい強弱の揺らぎありますが、テナーの旋律にはありません。
再現部の後には、予想通りの大変詩的なコーダがあります。
(演奏7:51)
最後の3小節は、ちょっと奇妙な感じがします。
なぜかというと、中声部を聞くと・・・
(演奏8:30)
E-flat – A-flat – F – B-flat – G – C
どうですか?
この音程はこの楽章の初めにも・・・
(演奏8:41)
C – A-flat – D-flat – B-flat – E-flat
この音形が後にフーガとなります。
(演奏8:47)
A-flat – D-flat – B-flat – E-flat – C – F – E-flat – D-flat – C
下降する3度が作品109の主要な音程でしたが、作品110では上行する4度が主要な音程と言うことができるでしょう。
シフさんは作品番号によってソナタを区別していますが、これは欧米では一般的です。「Sonata Number 31」と言ってもほぼ誰も分かってくれないので、「Sonata Opus 110」と言わなければなりません。
今日の講義の中でシフさんは、第1楽章には「3つの主題がある」と言っていますが、調べたところによると、学者によってその意見はまちまちのようです。ざっと調べたところでも3種類の意見がありました。
- 主題は2つあり、20小節目からが第2主題
- 主題は3つあり、20小節目からが第2主題、28小節目からが第3主題
- 主題は2グループあり、第1主題グループ(1〜19小節)に主題が2つ、第2主題グループ(20から33小節)に主題が3つ
第1楽章の終わりの「中声部にフーガの音形が隠れている」というお話でしたが、その音形は以下の楽譜の青い丸で囲われた音です。
ちなみに、赤い丸で囲われた所に、第1主題の音形が隠されています。
ベートーベンって天才ですね!!
河村まなみ