アンドラーシュ・シフさんによるベートーベンのピアノ・ソナタ「第30番 ホ長調 作品109」の講義を訳してお届けしています。
講義の合間に演奏が入るので、実際の講義を聞きながら訳を読んでいく方法をお勧めします。
講義を聞くには、こちらのウェブサイトに行き…
Beethoven Lecture Recital Part 8 を探して…
1. Piano sonata in E major Op.109 をクリックします。
あるいは、YouTubeでも聞くことができます。
今日は、第2楽章についての続き(26:32〜32:35)を訳します。
ではPrestissimo に戻りましょう。
(演奏26:32)
既に属調です。(演奏26:40)
半音階の連続が聞こえます。(演奏26:55)
これはバロック時代の修辞学的音型である「Passus duriusculus(パッスス デュリウスクルス)」、キリストが十字架をかついで歩いた苦難の歩みのよう…(演奏27:15)
ここが主題提示部の終わりです。
では更に先に進んで、大変ミステリアスなセクションを見てみましょう。(演奏27:44)
先ほどお話ししたバス(演奏27:56)が今度は上声部にカノンの形で現れます。(演奏28:02)
2つの声部で聞こえますね。
そしてティンパニーのようなトレモロが聞こえます。(演奏28:19)
ここでバスがB♮から半音上がってC♮になり…(演奏28:39)
ここでフェルマータですが、ここは本当に特に異例なパッセージで、音楽学者が博士課程の卒業論文の題材にする事があります。
私はそんな事はしないので、ご心配なく。
(演奏29:12)
ここでベートーベンは "una corda" と書いていますから、ハンマーがひとつの弦だけを叩くようにして欲しいわけです。
この音響効果はその当時のピアノ独特のものなので、現代のピアノで再現するのは大変難しく、殆ど不可能です。
私は自分のピアノの調律師に、極端に "una corda" になるようにお願いしてみましたが、それでも当時のフォルテピアノのそれとは大分違います。(演奏29:59)
ここに、反転したテーマがあります。
バスにテーマ、次に反転したテーマ、それらが一緒になって…(演奏30:16)
そしてフェルマータ…
テーマと反転テーマ… まるで "palindrome(回分)" のようで、前から読んでも後ろから読んでも同じように読める語句や文のようです。
どの言語にもあると思いますが…(演奏30:50)前進と後退の両方が同時に起こっています。
そして再現部です。(演奏31:04)
ベートーベンは、この楽章の中でたった2回しか "espressivo" と書きませんでしたが、このテーマの時のみです。
「表情豊かに」という意味ですが、メインのテンポより「少しゆっくり」という意味合いも含まれています。
なぜそう分かるかと言うと、その後すぐに "a tempo" と記しているからです。(演奏31:38)
この様にして「地獄」の楽章が終わり、ベートーベンが書いた中でも最も美しい楽章に移ります。
次回は第3楽章です。
シフさんの講義を聞きながら演奏を聞くと、深く、細部に至るまでの理解が音に反映されているのが分かり、彼のピアニストとしての凄さに、更にベートーベンの作曲家としての凄さに、感嘆と感動の連続です!