アンドラーシュ・シフさんによるベートーベンのピアノ・ソナタ「第30番 ホ長調 作品109」の講義を訳してお届けしています。
講義の合間に演奏が入るので、実際の講義を聞きながら訳を読んでいく方法をお勧めします。
講義を聞くには、こちらのウェブサイトに行き…
Beethoven Lecture Recital Part 8 を探して…
1. Piano sonata in E major Op.109 をクリックします。
あるいは、YouTubeでも聞くことができます。
今日は、展開部から再現部のお話(17:14〜22:53)を訳します。
展開部は第1主題のみを使っていて、第2主題は全く使われていません。(演奏17:25)
ここから再現部になるのは分かりやすいですね。
提示部との違いは、ここではフォルテになり、確信に満ちて、最初のようなためらいがありません。
両手の距離がかなり遠くに離れていてますが、これは最期の3つのソナタによく見られる傾向です。
ベートーベンのピアノの鍵盤より現代の鍵盤はずっと鍵盤数が多いのを忘れないでくださいね。
現代のピアノは3オクターブ多くなっています。
ベートーベンの音形がこのように上がって行く時、鍵盤の一番上と一番下の音域を使っていて、それによって「天と地」そしてその間にいる「人」を表現していたと思います。
2回目に第2主題が現れるのは…(演奏19:16)
ここから、提示部でもそうでしたが、第2主題に変化をつけています。
展開部でのハーモニーを聞いてください。
とても現代的で魅力的です。(演奏19:51)
ここでハ長調の属7の和音です。
ハ長調の和音より純粋な和音はないはずなのに、ここの流れの中では、ものすごくワイルドな不協和音に聞こえます。
そして、ここはベートーベンが唯一「フォルティッシモ」と書いた箇所です。(演奏20:31)
このあたりは即興的に聞こえますが、聞いた通りを信じてはいけません。
なぜならベートーベンは大変慎重に計算して書き、譜面の指示は大変詳細なものになっているからです。
では最期の部分、コーダを弾いてみましょう。(演奏21:18)
ここはこの楽章全体のモットー(繰り返される音形)と言って良いでしょう。
ベートーベンは16分音符を用い(その中で主題を歌い)、ここではそのモットーが美しく端正なコラールになります。(演奏22:08)
そして第1主題に戻って(演奏22:25)
ここでは短調と長調の間を行ったり来たりして(演奏22:37)最後には長調が残ります。
次回は第2楽章についてです。
お楽しみに!
河村まなみ