アンドラーシュ・シフさんによるベートーベンのピアノ・ソナタ「第30番 ホ長調 作品109」の講義を訳してお届けしています。
講義の合間に演奏が入るので、実際の講義を聞きながら訳を読んでいく方法をお勧めします。
講義を聞くには、こちらのウェブサイトに行き…
Beethoven Lecture Recital Part 8 を探して…
1. Piano sonata in E major Op.109 をクリックします。
あるいは、YouTubeでも聞くことができます。
今日は、イントロの5:01〜10:04 を訳します。
音楽的には、この最後の3つのソナタは、彼の最後の弦楽四重奏群とミサ・ソレムニスの出発点になったと位置付けられると思います。
ミサ・ソレムニスは全ての音楽作品の最高峰で、3つのソナタと同時期に作曲されました。
これら3つのソナタの特徴ですが、まず純粋な器楽曲で、声楽的な要素はなく、歌詞もありませんが、宗教的感覚が常にそこにあると思います。
例えば…(演奏5:49)
変イ長調ソナタ作品110から「Arioso dolente(伊) Klagender Gesang(独)嘆きの歌」でした。
多くの皆さんはご存知だと思いますが、バッハの「ヨハネ受難曲」の中で、アルトがヴィオラ・ダ・ガンバの伴奏で歌うアリア… (演奏6:59)
「Es ist vollbracht(完了した)」
ここはキリストが死ぬ場面ですが、ベートーベンはバッハ受難曲のこの部分をそっくりそのまま引用しているので、ベートーベンがここで何を考えていたかは明らかです。
この「Arioso dolente」の後、第1フーガになります。(演奏7:47)
考え過ぎだとは思いませんが、「Arioso dolente」がミサの「Agnus Dei(神の子羊)」だとしたら、この部分は「Dona Nobis Pacem(我らに平和を与えたまえ)」だと言えるでしょう。
この歌詞を(フーガに乗せて)歌う事ができます。(演奏8:19)
もちろん歌詞は付いていませんが、このような関連はあると思います。
音楽は単なる音の連続ではありませんから。
作品109ホ長調のソナタの最終楽章は主題と変奏ですが、第5変奏はこのようになっています。(演奏8:56)
この音形(G♯-E-A-F♯)は私には「Credo(信仰宣言)」と言っているように聞こえます。
そして、この「Credo」の音形は「ミサ・ソレムニス」の中にもあります。(演奏9:26)
私は一人の神を信じています。
私は音楽の無神論者ではありません。
皆さんが鑑賞するには何を信じていても、あるいは何も信じていなくても良いですが、演奏者は、あるいはベートーベンを聴く者は彼に合わせるべきだと思います。
次回からはいよいよ作品109についてのお話になります。
お楽しみに。