こんにちは、お久しぶりです。
今日から、アンドラーシュ・シフさんによるベートーベンのピアノ・ソナタ「第30番 ホ長調 作品109」の講義を訳してお届けします。
講義の合間に演奏が入るので、実際の講義を聞きながら訳を読んでいく方法をお勧めします。
講義を聞くには、こちらのウェブサイトに行き…
Beethoven Lecture Recital Part 8 を探して…
1. Piano sonata in E major Op.109 をクリックします。
あるいは、YouTubeでも聞くことができます。
今日は、イントロ(最初〜5:01まで)を訳します。
こんにちは。皆さん、聞こえますか?
いつも1週間後になると、「あの時は聞こえなかった」と言われるのですが…
最善を尽くします。
この午後、お集まり頂きありがとうございます。
32のベートーベン・ソナタ・シリーズもこれが最後になりました。
大変長い旅路で、ほぼ3年になります。
終わりを迎えるのは寂しい気もしますが、発見の喜びを感じた時でもありますし、さらに先に旅は続くわけです。
今まではこのレクチャーを演奏で始めましたが、今日はお話から始めます。
ベートーベンのソナタについて話すのは容易ではありませんが、特に最後の3つについては難しいです。
なぜならあまりに偉大すぎて、言葉では説明し切れないからです。
少なくとも私の言葉では…
トーマス・マンは、彼の素晴らしい作品である『ファウストゥス博士』の中で、ベートーベンのソナタ作品111(32番)を最も美しく的確にまた詩的に説明しています。
彼の表現は今までのどの音楽学者より的を得ていると思います。
最後のソナタは未完成だと考える音楽学者がいるようですが、トーマス・マンはその見解の間違いを美しい言葉で指摘しています。
最後のソナタには未完成な部分はなく、ベートーベンはこれが自身の最後のソナタだと分かっていました。
その時点で、彼はすでに30年以上ピアノ・ソナタを書いていたわけですが、その後、ピアノ曲としてはバガテルや重要なディアベリ・バリエーションなどを書きますが、ソナタについては、全ての事は32番までに書ききったのです。
3つのソナタは1820年から1822年の間に書かれました。
ベートーベンのスケッチからも明らかなように、この3曲は別個にではなく、同時に作曲されていました。
ですからこの3つはトリプティック(三連祭壇画、三面鏡)のようなもので、モーツァルトの最後の3つのシンフォニーや、シューベルトの最後の3つのピアノ・ソナタにも見られます。
この3つのソナタには、これらを一つにまとめるたくさんのモチーフが用いられています。
それから当時、ベートーベンの健康が急速に悪化し、聴力は殆ど無くなっていたというのも、手紙などから知る大変重要な事実です。
これは過去20年に渡って彼を悩ませてきた、大変な悲劇です。
また彼の私生活においては、甥のカールの世話をし、親権を得るために争っていました。
このような事が、最後の3つのソナタが書かれた時の背景です。
次回からは、最後の3つのソナタの音楽的特徴についてです。
お楽しみに。