アンドラーシュ・シフさんによるベートーベンの全ソナタについてのレクチャー・リサイタルから、第21番 ハ長調 作品53「ヴァルトシュタイン」の講義を訳してお届けしています。
講義の合間合間に演奏が入るので、実際の講義を聞きながら訳を読んでいく方法をお勧めします。
講義を聞くには、こちらのウェブサイトに行き…
Beethoven Lecture Recital Part 5 を探して…
4. Piano sonata in C major Op. 53 'Waldstein' をクリックします。
あるいは、YouTubeでも聞くことができます。
今日は、第3楽章のAB~Coda(41:23〜最後)の部分を訳します。
そして(Aに戻って)輝かしいフォルティッシモが爆発します。
その後、最初のエピソード(B)が戻ってきますが、1回目より拡張され、前回に増してオーケストラ風になります。(演奏41:36)
このセクションでは、オーケストラはトゥッテイで、全員が演奏に参加しています。
このセクションの最後(378小節目〜)では、ベートーベンは「メイン・リズム」(8分音符〜8分休符〜4分音符〜2分音符)を繰り返しています。
シェーンベルグはこのようなリズム・モチーフを「Hauptrhythmus」あるいは「メイン・リズム」、略して『HP』と名付けました。(演奏42:30)
ここ(403小節目)からコーダに入ります。
「Prestissimo」です。
ここからはすごく速く弾いて良いですよ!(演奏43:10)
いつもこのリズム(メイン・リズム)!(441小節目)(演奏43:49)
ピアニストにとって、ここ(465小節目〜)は意見の分かれる所です。
自筆譜には、ベートーベン自身がピアニッシモと書き、レガートを書き記し、オクターブの一つ一つに、1−5、1−5と指使いを記入しました。
(自筆譜)
それは明らかに「オクターブをグリッサンドで弾く」という意味です。
現代の多くのピアニストはここでも、「ベートーベンの時代のピアノなら可能だったろうけど、今のピアノでは…」と言うわけですよ。
そうですね… 確かに良いピアノは必要です。
それで私は最近の演奏会では、自分のピアノを運び入れて弾いています。
最近数回そうしなかったのを、実は後悔しています。
どうしてそんなに神経質なのかと言われてしまうと難しいのですが…
もちろんウィグモア・ホールのピアノも大変良いですよ。
でも、自分のピアノで弾くというのは、自分のベッドで寝るのと同じくらい心地良いのですよ。
自分のベッドを持ち歩けて、どこでもそれで寝られたら気持ち良いでしょう?
というわけで話を戻すと、多くのピアニストはここのパッセージをペダルを踏んで、このように弾いています。(演奏45:49)
このように(見えないので間違っているかもしれないが、両手で弾く方法だと思われる。)弾けるのは素晴らしいですが、これは全くの不正です。
(このパッセージに)対応可能なピアノであれば、このように弾けます。(演奏46:03)
そしてここ(485小節目)に、トリルとメロディーの組み合わせを再び使っています。
そしてこんなに技巧的なコーダですが、美しい転調が起こります。(演奏46:40〜最後)
ありがとうございました。
これで「ヴァルトシュタイン」の講義は終わります。
ちなみにですが、私が現在勤務するBiola University に学生で在籍していた頃、ルドルフ・ゼルキンさんの演奏会に行き、彼が3楽章コーダの465小節目からを本当にグリッサンドで弾いたのを見て、驚きました!
初めてそう弾いている人を見たので、一番上の席から身を乗り出して見たのを覚えています。
その技術にも驚きましたが、グリッサンドによって現れる美しい音色の効果にもとても驚きました。
学校の寮に帰って、すぐ練習室に行き、自分もできるか試しましたが、私の手では6度までが限界で、7度になると手の形が保てませんでした。
何日か練習しましたが、やはり無理でした・・・
後にインディアナ大学でプレスラー先生に聞いて頂いたところ、「グリッサンドで四苦八苦しているところを聞かせるより、両手を使ってスムーズに弾いた方が良いでしょう。」と言われました。
それで私は両手を使っています。
とは言え、私自身この講義で多くの事を学びました。
シフさん、ありがとう!!
次回から「ソナタ第30番作品109」をお届けする予定ですが、開始は6月になると思います。
リクエスト受付中です!
では、次回をお楽しみに。