アンドラーシュ・シフさんによるベートーベンの全ソナタについてのレクチャー・リサイタルから、第21番 ハ長調 作品53「ヴァルトシュタイン」の講義を訳してお届けしています。
講義の合間合間に演奏が入るので、実際の講義を聞きながら訳を読んでいく方法をお勧めします。
講義を聞くには、こちらのウェブサイトに行き…
Beethoven Lecture Recital Part 5 を探して…
4. Piano sonata in C major Op. 53 'Waldstein' をクリックします。
あるいは、YouTubeでも聞くことができます。
今日は、第3楽章のABAC(29:10〜41:28)の部分を訳します。
(第2楽章の終わりからの演奏29:10)この様にして素晴らしい最終楽章「ロンド」になりますが、テンポ表示は「Allegretto moderato」ですから、そんなに速くはありません。
時々、電車に間に合うために走っているかの様に速く弾く人がいますが、どうでしょうか。
中庸のテンポです。
この楽章の最後の部分は「Presto」になりますから、そこは速く弾きます。
しかし、その前から速く弾いてしまうと、「Presto」セクションの役目が果たせなくなります。
第2楽章の最後の音はGで (演奏32:13)スフォルツァンドがついています。
第3楽章のテーマは、バスのCから始まります。(演奏32:25)
これらの音(ド-ソ-ソ)は一つのグループで、別々のグループではありません。
後に構造的に大変大事な要素になってきます。
ペダル奏法についてはすでに話しました。
(ペダルの話はこちらを参照)
C Major と C Minor から成る一つの長いパッセージが、一つのペダルで弾く事により、音の洪水を起こします。(演奏32:58)
そして、ここ(23小節目)でベートーベンは(自筆譜に)丸印を書いていますからペダルを離します。(演奏33:22)
ペダルは離しますが、(スラーが書いてあるから)レガートで弾かなければなりません。(演奏33:30)
ここ(31小節目)で再びペダルを踏み(演奏33:40)
ペダルなし(41小節目)
ペダルあり(43小節目)
ペダルなし(45小節目)
ここ(51小節目)で再びベートーベンは、新しいピアノの演奏技術で、現在も大変難しい技術を使いました。
ベートーベン自身が脚注として、「もし難しい場合は、幾つかの音を抜いても良い」と書いています。
トリルを弾きながら…(演奏34:41)メロディーを弾きますが…とても難しいです。
ここでロンドの最初のセクション(A)が終わり、最初のエピソード(B)になります。
Bは交響曲的、また、ロシアの田舎の踊りのようです。(演奏35:08)
ここ(88小節目)がとてもロシア的に聞こえます。(演奏35:43)
またここ(98小節目)で(ペダルを続けて踏むことによる)音の洪水が起きていますね。(演奏36:05)
そしてロンド(A)に戻ります。
Aを完全に再現した後、2つ目のエピソード(C)が大変緊張した短調で現れます。(演奏36:40)
ベートーベン特有の、交響曲第3番や第5番にも見られるような、英雄的な表現、戦いや格闘の表現ですね。
ここは美しく弾いてはいけません。
楽譜の通りに、そのまま正直に弾きます。
さてベートーベンはこのセクションをこのように終わらせます。(演奏37:55)
ここ(221小節目)は「希望のモチーフ」です。
フランスではこのソナタを「L'Aurora」つまり「夜明け」と名付けていますが、こここそがそのイメージにつながります。(演奏38:34)
ここ(239小節目)が真ん中(分岐点)、D♭Major でナポリタン調という関係になっていて、ここから出口を探す、つなぎの部分になります。(演奏39:03)
シンコペーションが続き…
ここ(251小節目)からのアルペジオをチェルニーの練習曲とは思わないでください。
素晴らしいアルペジオではありますが、むしろバスの動きを聞いてください。(演奏48:24)
最初のテーマ(ド-ソ-ソ)を思い出して・・・その重要性が分かりますね。
ですからアルペジオより重要です。(演奏39:52)
このセクションは素晴らしい転調の連続ですが、書かれているペダルは全てベートーベンのオリジナルで、全てはピアニッシモです。
そして、再現部への入り口になります。(演奏40:56)
ここ(295〜312小節)は全て一つのペダルで弾きます。
そして(Aに戻って)輝かしいフォルティッシモが爆発します。
(次回に続く)