アンドラーシュ・シフさんによるベートーベン全ソナタについてのレクチャー・リサイタルから、第21番 ハ長調 作品53「ヴァルトシュタイン」の講義を訳してお届けしています。
講義の合間合間に演奏が入るので、実際の講義を聞きながら訳を読んでいく方法をお勧めします。
講義を聞くには、こちらのウェブサイトに行き…
Beethoven Lecture Recital Part 5 を探して…
4. Piano sonata in C major Op. 53 'Waldstein' をクリックします。
あるいは、YouTubeでも聞くことができます。
今日は、第2楽章(23:21〜31:25)を訳します。
この(第1楽章の)後に、ベートーベンは「Andante favori」という素晴らしい楽章を書いていました。
しかし友人達に聞いてもらったところ、皆から「美しいけれども、これを入れると全体が長くなり過ぎてしまう」と言われたのです。
ベートーベンは初めはその意見に怒りました。
彼は批判を受け止めるのはあまり上手ではなかった…
まあ、私達もそうですよね。
でも、結局その意見を取り入れました。
幸いにもその「Andante favori」は残っています。(演奏24:04)
輝かしい曲だと思います。
私がヴァルトシュタイン・ソナタを演奏会で弾く時には、必ずこの曲をアンコールに弾きます。
いずれにしても、ベートーベンが忠告を聞いたのは賢かったと思います。
この「Andante favori」の代わりに、ずっと短い第2楽章「Introduzione」を書きました。
テンポは「Adagio molto」つまり「大変遅く」です。
「Intermezzo 」ということで、最終楽章の準備という位置づけです。
このソナタ全体の中でも「Introduzione」は、第1楽章と第3楽章のつなぎとしての輝かしい役目を果たし、魔法を見ているような、最も素晴らしいセクションです。
「Andante favori」を用いては同じ様な効果は得られなかったでしょう。
この楽章は大変哲学的で思いやりがあり、また、深い思いを表しています。
(演奏25:49)
「Andante favori」と同じ F Major ですが、10小節目あたりまで来るまで F Major という感じがせず、どこにいるのか分からせない、素晴らしい書き方です。(演奏27:17)
F で始まりますが、すぐに遠くの調に行ってしまいます。
ところで、いつもバスの音の動きに注意してください。(演奏27:31)〜ここで属調〜そしてF。
ここまでは会話がありませんが、ここに来ると歌い手が歌い出し(演奏27:52)〜エコーが別の歌い手達によって歌われます。
ここで歌が中断させられ〜冒頭に戻りますが(演奏28:49)大変暗い雰囲気です。
冒頭の音形のバリエーションが現れ、次第にドラマティックになっていき… これ以上は説明すべきではありませんので、聞いてください。(演奏29:10)
そして素晴らしい最終楽章になります。
(次回に続く)