アンドラーシュ・シフさんによるベートーベンの全ソナタについてのレクチャー・リサイタルから、第21番 ハ長調 作品53「ヴァルトシュタイン」の講義を訳してお届けしています。
講義の合間合間に演奏が入るので、実際の講義を聞きながら訳を読んでいく方法をお勧めします。
講義を聞くには、こちらのウェブサイトに行き…
Beethoven Lecture Recital Part 5 を探して…
4. Piano sonata in C major Op. 53 'Waldstein' をクリックします。
あるいは、YouTubeでもきくことができます。
今日は、1楽章の展開部から最後まで(14:50〜23:21)までを訳します。
さて、次に来る素晴らしい展開部がどうなっていくのか見てみましょう。(演奏14:5)
この2つの和音(3〜4小節目のモチーフ)を使って…
ここはまるでシンフォーニー・オーケストラの全ての楽器が演奏しています。(演奏15:29)
ここ(107小節の1拍目と2拍目の左手のF)は自筆譜ではF♭でした。
近代の楽譜がそれをFに直してしまった。
Fフラットの方が断然美しいと思いませんか。(演奏16:10)
これは大変難しい編集の問題です。
ヘンレ版はとても良い版です。
このたびヘンレ社から新しい版が出るので、宣伝するわけではありませんが(シフ氏が編集に参加している)作品31まで終わり、私の同僚であり友人のマレイ・ペライア氏が大変良い仕事をしてくれました。
まだヴァルトシュタインまでは行っていません。
さて、では次に何が起こるか見てみましょう。(演奏16:55)
さて、今私達はどこにいますか?
C major、主和音ですね。
でも実感は主和音からかなり離れている感じがします。
家(C major)に帰ってきた感じはしませんし、構造上もそうです。(演奏17:27)
こちら主題(50小節目の右手のモチーフ)が手の込んだポリフォニックな技法で対位法的に綴られます。(演奏17:49)
これで戦い、嵐の部分を通り過ぎたわけですが…
ここまでのセクションは、アクセントやスフォルツァンドの連続などによって戦いの表現がいっぱいに表されていましたが、その嵐は収まり、ここで属音(G)に至ります。(演奏19:00)
そしてPPで、遠くから低音の地鳴りの様な音が聞こえてきます。(演奏19:10)
そしてここは本当にドキドキする瞬間です。
まるで自然界で言うなら太陽が昇る時の様な、天地創造の時の様な…
ハイドンの「天地創造」の太陽が昇る時の様な…
初めに混沌があり…
ついに戻ってきます。
太陽を想像して下さい!
聞くのが難しいですが、ここ(154〜155小節、左手)のC〜C#〜Dの変化を聞いてください。(演奏20:12)
そして再現部に戻りますが、長くなるのでコーダに行きましょう。(251小節目)(演奏20:54)
ここは主調に対してナポリタン調です。
C major に対して、D♭major なので、とても遠い関係です。(演奏21:01)
ここで初めて応答が大変ドラマチックに返されます。
全てのスフォルツァンドが2拍目に来ています。
ここまでは大きなコンチェルトの大きなカデンツァの様ですね。
そして短いスケールが2回…(284〜285小節)
それから、あの美しい第2主題がついに主調で、次に違う高さで、最後の音がない不完全な形で、それから短調になり、3回目に再び長調になり、それから緊張が解けます。
この(第1楽章の)後に、ベートーベンは「Andante favori」という素晴らしい楽章を書いていました。