スチュワート・ゴードン先生のレクチャーは前回で終わりましたが、先生は強弱記号の読み方については触れられませんでした。
ですので、今日は番外編として、私がプレスラー先生から教えて頂いた「強弱の読み方」について、「ワルトシュタイン」を例にして書きたいと思います。
ここに取り上げる読み方は、他の曲を弾く際にも応用できると思います。
《強弱記号の読み方》
プレスラー先生は、ベートーベンの強弱を概ね次のように教えて下さいました。
・ベートーベンにとって強弱記号は生命線であり表情記号。
・基本的には書いてある強弱はそのままその通りに読み、弾く。
・記号の効果は、基本的には書いてある場所から次の記号が出てくる場所まで続く。
・その中での微妙なニュアンスは曲を分析して判断する。
・書いてある強弱記号を最大限に活かす演奏をする。(例えば、Cresc.と書いてある前からCresc.を始めない、むしろCresc.と書いてあるところに向かってDiminuendoをする。)
「ワルトシュタイン」第21番、作品53、第1楽章
・1〜8小節はPP(ピアニッシモ)それより大きくなってはならない!和音の連打はなめらかに、遠くから聞こえてくるように。キツツキじゃない!(と実際に言われました。笑)
・1〜8小節は、PPの中に微妙なフレーズがあり、<>がある。音楽がどこに向かっていくか(英語ではDirectionと言います)を考える。
・9小節目冒頭はPPP。Cresc.を始める所が一番小さい。
・クレッシェンドは基本的には次の指示(ここではDecresc.)が来るまで続く。
・11小節目のs F(スフォルツァンド)は一瞬、その次の音はFFではない。もしFFで弾いてしまうと、s Fが聞こえない。
・13小節目はP。PPではない。
・20小節目まではPP
・21小節目でPPPに落としてからクレッシェンド
・22小節目終わりまでクレッシェンドを続けて、23小節目でSubito P
・23〜26小節は、Pの範疇で<>を作る。
・23〜24と25〜26はシークエンス(ゼクエンツ)。25小節のフレーズは23小節を誇張しているので、少し大きくなる。しかし、その終わりはDim. することで、次のCresc. の準備をする。この4章節の中で、一番大きい時(25小節の冒頭)、一番小さい時(26小節の最後)をきっちり弾く。
・27〜30小節はクレッシェンドが長いので、29の頭まで1つのクレッシェンド、そこから1度落として、もう1回、31小節の最初の音までクレッシェンド。基本的にはCresc. と書いてある所が一番小さいし、Decresc. と書いてある所が一番大きい。
・28小節目、s F(スフォルツアンド)の連続は、基本的にはクレッシェンド。
【プレスラー先生の演奏者としての基本姿勢】
私達演奏者は作曲家と作品に仕える者。忠実に楽譜を読み、再現する事を心がけなければならない。勿論、演奏する時には、その上にインスピレーションがなくてはならない。そのために、指の練習だけでなく、心の練習をしなければならない。







- PPで始まるソナタ:5つ
- P:20
- mP:なし
- mF:なし
- F:4
- FF:1
- FP:1
- 指示なし:1
一番多い強弱記号はP(ピアノ)です!
ベートーベンは音が大きいというのが一般的な印象だと思うので、曲の頭にPが一番多いのは以外ですね。
しかし、Fが印象深くなるのは、実はPを効果的に使っているからだと思います。
つまり、私達が演奏する時も、小さい音で弾く事に注意を払うと、よりF、FFが効果的に聞こえてくる様になると思います。
インディアナ大学のピアノ音楽史の授業で、古典派の最も重要な概念の一つが「コントラスト」だと習いました。ソナタという形式、調性、強弱の使用方法などを通してベートーベンが発展させた「コントラスト」をより効果的に表現するのも、彼のソナタを弾く面白さだと思います。
お役に立つことを願いつつ。