前回に引き続き、スチュワート・ゴードン先生による【ベートーベン・ソナタの読み方】の動画の解説をお届けします。
今日はこちらの動画の49分39秒から56分29秒を訳します。
直訳の場合もあり、要約になる場合もあります。
譜例の演奏を聴けるタイミングを記しています。聴きながら説明を読むと、より理解して頂けると思います。
《スラーの読み方》
「悲壮」第8番、作品13、第3楽章
以下のスラー(Vで切る)は、メロディーの流れを考えると不自然。
しかし、指示通りに切ると、スフォルツァンドの効果が生まれる。
次のフレーズの「ソ・ソ・ソー」と呼応する表現になり、「ドー・・・ソソソー」という流れが聞こえてくる。そうすると(「ド」の音が)前のフレーズの終わりではなく、次のフレーズへの始めという様に聞こえてくる。ベートーベンがこの様なバランスを取ろうとする事はよくある。
演奏@49:50
第1番、作品2の1、第1楽章
43〜44小節目でも、同様のバランスの取り方が見られる。
普通は青で示された様なフレージングで弾かれる。しかし、Vで切ることによって、ラ♭にアクセントが付く様になる。すると、ラ♭と次の小節のミ♭(sFの音)との間にバランスが生まれ、2つのフレーズが呼応する表現となる。
ところで、ベートーベンは規則を破るのが好きだった。ソナタ形式についてはもちろん何が正しいのか承知していた。主題提示部では、第一主題が主調なら第二主題は属調、第一主題が短調なら第二主題は平行調の長調という決まりがある。ベートーベンは次の曲で、人々をからかっているかの様に聞こえる。
第1番、作品2の1、第1楽章
彼の最初のピアノ・ソナタ。彼の先生であるハイドンに捧げられた。(へ短調で始まるので、)第2主題は変イ長調であるべき。
演奏@52:41
21小節目。
しかしベートーベンは第6音(ファ)を半音下げて、皆をからかうように、短調を作り出す。
ここでも、スラーをVで切る事によって、スフォルツァンドのジャブが入るのが分かりますか?
演奏@53:03
このスフォルツァンドが彼が本当にしたかったことです。
それから3音からなるフレーズが数回ある。
演奏@53:19
ここでも、4分音符の前にフレーズが切れるので、4分音符は強くなる。
では今から2通りのスタイルで提示部全体を弾いてみる。
- 19世紀流
- ベートーベンのアーティキュレーションの指示通り
そうそう、ある研究者達は、ベートーベンの時代にはフレーズを小節ごとに切って書く慣しだったと言うが、ナンセンス!その時代でも小節を超えてフレーズは書かれていた。(つまり、ベートーベンは故意に短いフレーズを書いたということ。)
提示部全体の19世紀スタイルの演奏@54:35
提示部全体のベートーベンの指示通りの演奏@55:33
最後に先生が弾いてくださった2通りの演奏、沢山の違いが聞こえましたね!小さいことの積み重ねが、曲全体の印象をだいぶ変える事が分かりました。何よりも、そこまで読み込んで、試行錯誤を重ねた結果の表現は、説得力が生まれると思います。
次回は《装飾音の読み方》についての講義になります。
お楽しみに!