前回に引き続き、スチュワート・ゴードン先生による【ベートーベン・ソナタの読み方】の動画の36分05秒から39分55秒までを訳します。
直訳している場合もあれば、要約の場合もあります。
譜例の演奏を聞けるタイミングを記しています。聞きながら説明を読むと、より理解して頂けると思います。
前回に続き《スタッカートの読み方》
「熱情」第23番、作品57、第1楽章の中にも大変有名なスタッカートの問題がある。
10〜13小節目
最初の矢印の音にはスタッカートがあるが、次の3つの矢印の音にはスタッカートがない。
自筆譜(下書き)も初版もこう記されている。
ベートーベンが3つのスタッカートを書き忘れたのか?
あるいは・・・
4回の同じリズム・パターンを、ただの繰り返しではなく、ある表現をするために、少しずつ変えて書いたとするなら?
この後の嵐の様なセクションを準備するための効果、として書いたなら?
(演奏@38:04)
右手のフレーズにスタッカートはなく、左手がそれに呼応している。
納得できるでしょう?
私は長い間この種の問題を、「ベートーベンが書き忘れたのだ」と思ってきた。しかしその考え方をやめて、「作曲者がそう書いた理由はなぜか?」と考え始めた。するとほぼ90%の場合は、理由が考えられるようになってきた。
「ワルトシュタイン」第21番、作品53、第1楽章
3、7小節目のソは8分音符、4、8小節目のソは4分音符にスタッカートが付いている。
8分音符のスタッカートは、4分音符のスタッカートより短く弾くべきで、ここにも意味がある。
(演奏@39:24)
ここに、はっきりしたパターンがある。
4分音符のスタッカートによって、エコー効果が発生する。
このように、一つ一つの指示に意味があることが分かる。
私の生徒がゴードン先生にレッスンして頂いた時に、「音価を正確に読む」ことについてワルトシュタインと似たような箇所を指摘されました。
第27番、作品90、第1楽章
- 28~36小節は2つのフレーズのシークエンス(ゼクエンツ)になっているが、
- 31小節目は8分音符
- 35小節目は4分音符
- その違いを表すべき。
実際に音価の意味を考えて弾いてみて下さい。
1つ目のフレーズより、2つ目のフレーズの方が音が低く落ちていく。4分音符で終わることによって、深刻さ、暗さ、重さが増す。
また、その後に続く8分音符の2つの和音が1回目と2回目では違って聞こえてくるし、違う表現で弾かなければならない、と思えてきます。
楽譜を正確に読むことで、表現の幅が増し、イマジネーションも広がってくる。そして、改めて、ベートーベンの奥深さを実感しますね!
次回は、《タイかスラーか》についてのお話です。
お楽しみに!