「皆、指の練習はするけど、心の練習はしない。」
プレスラー先生は
「指の技術は当然、その上に心の練習をしなさい」
という意味でおっしゃっているので、前回は技術の訓練に関するエピソードを書きました。
その記事はこれをクリックして下さい。
今日は、心の訓練に関するエピソード。
私「先生のショパンはいつも本当に美しいです!そしていつも微妙に違う弾き方をされますね。」
先生「ショパンをいつも同じ様に弾くのは、嘘をついていると思う。」
ショパンは即興的な要素が多いので、演奏者もその日、その時で曲の受け止め方が違ってくるはず。もしそうでないとしたら、その人は心でショパンを聞いていないか、自分の心に嘘をついている、とおっしゃるのです。
作品に忠実に弾く、という事をここまで追求しておられる。
でも、ステージで、本番の演奏中に自分の心に聞き、作品と対話し、理にかないながらも即興風に弾く、というのは大変高度な技ですよね!
日々、作品と対話し、自分の心に聞く練習をしていなければできない事だと思います。
あるマスタークラスで、演奏者がベートーベンのソナタを、ほぼ全ての記述を忠実に再現し、テクニックもほぼ完璧な演奏をしました。
先生「あなたは完璧に勉強し、完璧に書いてある事を再現できましたね!ここまでできた人を、私は今まで聞いた事がない!素晴らしい!!・・・ でも残念ながら、大事な事が足りない。心が再現されてない。作曲者も私達もロボットではない。」
「全ての勉強した事を網羅できる様に練習する、しかし本番ではそれを超えて、インスピレーションによって演奏しなければならない。」
と先生はいつもおっしゃっています。
モーツァルトの「2台のピアノのためのソナタ、K.448」を先生と一緒に弾かせて頂いた時、リハーサルは前日と当日の2回でした。
このリハーサルで先生から言われた注意や変更は全て覚えて、本番で再現する事で、私の頭の中は一杯でした。
でも、本番でそのレベルでは先生の演奏に釣り合いません!
「演奏は生きてなくてはならない!」と言い聞かせてステージに向かいました。
演奏後、先生から「良くやった。楽しんで弾けたね。」と言われた時は、涙が出るくらい嬉しかったです。
音楽家としての極みを教え続けて下さるプレスラー先生には、いくら感謝してもしきれません。
2018年1月、プレスラー先生がロサンゼルス・チェンバー・オーケストラとコンチェルトを共演され、その後、関係者の皆さんとお食事に行きました。先生の隣には、演奏会に駆けつけたピアニストのジャン=イヴ・ティボーデさん。