私が出会った最強の営業マンの話をしたい。
32歳で、「営業が好きだから」とうちに転職してきた。
私は家庭教師の営業をやっている。うちの家庭教師は勉強が苦手な子専門なので、親というよりは子供が「やりたい!!」と思ってくれているかというのが大事である。
そのため、「スーツ」とか、「メガネ」とか、そういうのは最悪。
私はいつも、営業だけどパーカーとか、なんなら流行りの服を着ていく。可愛いネイルをして、思いっきりおしゃれをしていく。そうすると子供は、「勉強できるとこんなにキラキラした大学生活が待っているんだ!」と思ってくれるし、親しみやすい。親としてもスーツで行くより営業マンという感じがしなくて、構えなくて済むので仲良くなりやすく、懐に入りやすい。
「明るく楽しく勉強して子供の心を掴めるか」が鍵だ
と、いうのがこれまでの私たちの常識。そうやって習ってきた。
しかし、新人営業マンの加賀美さんは、バッチバチのスーツ姿で、喋り方も丁寧で隙を全く見せない礼儀正しさ。
ゆっくりとした喋り方で、表情も、永遠の硬い作り笑顔から一向に動かない。まるでロボットみたい。
これまで私が教えてもらった営業時の立ち振る舞いとは真反対の彼だが、営業をずっとやってきており私より圧倒的に経験も長いし、「営業が好き」という点ではある程度営業は得意なのであろう。30代で転職という点は気になるが、いろんな営業を試したくなったと言われれば、なるほどと言わざるを得ない。
結果はどうなるのだろうと思っていたのだが、驚いたことが起きた。
なんと、新人に回ってくる渋すぎるアポや即決を取ることは難しい他社比較のアポで、一番大きな契約をいきなり3件連続取ってきたのだ。
しかも、家庭のお父さんに気に入られて、鳥貴族でご飯まで奢ってもらったという。
一体どういうことかと驚いてしまった。
大抵の人間は自分の感情から多少は失言をしたり、礼儀正しさも意識はしようともロボットのように完璧にすることは難しい。知らないことも多い。
隙を全く見せない礼儀正しさというのは、普通の人間にとってとてもしんどいことなのである。
しかし加賀美さんは絶対に失言をしないし、自分の感情を発言したりしない。自分の話も、余計な話もしない。相手に必要のある情報しか話さないし、常に相手の目を見て、たとえ引きつっていようが笑顔で話す。
完璧なのである。非の打ち所がない。
私にはこの強さが足りないと思ってしまった。
結局加賀美さんは、夜遅くなる家庭教師の仕事で今までと生活リズムが逆転をすることから、体調を崩して3日でやめてしまった。
私は加賀美さんの隙を見てみたかったし、人間らしい部分も見てみたかった。笑顔でなく怒った顔も見てみたかった。そして、できることならお客さんに尽くし切る強さも加賀美さんからもう少し学びたかった。
彼はもういないが、私の中では伝説の、今でもお手本としたい営業マンである。




