78歳男性。家族に顔色が悪いと指摘され、娘と共に来院した。家の階段を登り降りすると息切れがする。62歳に胃癌で胃全摘術を受けた。舌乳頭萎縮を認める。脈拍98/分、整。血圧114/76mmHg。血液検査所見:赤血球280万、Hb10.2g/dL、MCV114fL、白血球4800、血小板21万。
この患者に対する治療はなにか。
ヘモグロビン10.2の貧血がありますね。顔色が悪いのと階段昇降時の息切れはこれが原因と考えて矛盾ないでしょう。MCVは100以上なので、大球性貧血です。胃全摘の既往から考えて、巨赤芽球貧血が考えやすいですね。
巨赤芽球貧血は葉酸欠乏orビタミンB12欠乏によって起こります。なので、この患者に対する治療としては、葉酸欠乏なのかビタミンB12欠乏なのか調べて、ビタミンB12筋注投与や葉酸補充をしてあげればいいわけですね。
巨赤芽球貧血の患者を見た時に、注意しなければならないのは、ビタミンB12欠乏なのか葉酸欠乏なのかわからない状態で、葉酸の先行単独投与を行うことは禁忌だということです。
なぜ禁忌なのでしょう
ビタミンB12の体内で①葉酸代謝経路②脂肪酸代謝経路の2つの経路で重要な役割を果たしています。
①葉酸代謝経路
貯蔵型葉酸→活性型葉酸→DNA合成
②脂肪酸代謝経路
メタルマロニルCoA→サクシニルCoA→TCA回路
これらの経路にはビタミンB12が必要なわけですね。①の経路が障害されると巨赤芽球貧血が起こります。②の経路が障害されると亜急性脊髄連合変性症が起こります。
ポイントは、①の経路はビタミンB12と葉酸の両方が必要で、②の経路はビタミンB12のみが必要だということです。
もし、ビタミンB12欠乏の状態で、葉酸が補充されるとどうなるでしょうか。葉酸が補充されれば、①の経路によってDNA合成ができ、貧血は改善します。しかし!一方でビタミンB12は①の経路によって、より一層消費性に減少して、②の経路がより一層停滞します。その結果、神経症状が悪化してしまうのです。
なので、ビタミンB12欠乏なのか葉酸欠乏なのかわからない状態での葉酸の先行単独投与は禁忌なのですね。