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吉良「野球、辞めるってどういうことだよ……」
入江「本気でやりてぇことが、見つかったからよ」
入江「……野球はここまでだ」


吉良くんが、退部届けを握りしめ、こぶしをふるわせている。
入江さんは覚悟を決めた瞳で、吉良くんの眼差しを受け止めていた。

哲「まなちゃん。一体、何がどうなってんだよ?これ……」

哲さんが私の肩を叩いて、小さくつぶやいた。

「……」

私は、微かに緊張しながら、ことのなりゆきを静かに見守っていた。

(入江さん……。本当に、野球を辞めるんだ)
大地「ガキの頃から、野球一筋だったじゃねぇか」
大地「本気でやりたいことって……なんだよ?」

大地くんが心配そうに、入江さんの顔を覗き込んでいる。

入江「……」

バーテンダーという、新しい夢に辿り着いた、入江さん。
入江さんは、私がお店を訪れた翌日、退部届けを手にグラウンドに姿を現した。

吉良「答えろよ。入江」
入江「お前に、いちいち言う必要はねぇだろ」
吉良「なんだと!てめぇ!」

吉良くんは、グローブを地面に叩きつけると入江さんの胸ぐらを掴みあげた。
張り詰めた空気が、一瞬で周囲を支配してゆく。

入江「やるのかよ?ああ?」
(ど、どうしよう!)
(……止めなくちゃ!)
「吉良くん!入江さんも、落ち着いて!」


私は急いで、ふたりの間に割って入った。

吉良「逃げてんじゃねぇぞ!入江!」
入江「逃げてなんかいねぇ!」

入江さんが、吉良くんの胸ぐらをつかみ返す。
そして、勢い良く顔を引き寄せた。

入江「俺は……野球より打ち込める道を見つけたんだ」
大地・哲「!?」

入江さんの真っ直ぐな言葉を受け、全員が言葉を失った。

「入江さん……」
(入江さんの気持ちを……)
(ちゃんと、伝えた方がいいのかもしれない)
「こんな風に、悲しい辞め方は良くないですよ……」


入江さんが、私の想いを受け取ったように小さくうなずく。

吉良「言えよ」
吉良「それとも……仲間に砂をかけるようなマネをしたままで辞めるのかよ」
入江「……」

吉良くんが、入江さんを軽く突き飛ばし、あごを上げて睨みつけている。
沈黙を洗い流すように、一陣の風がグラウンドの砂を巻き上げていく。

入江「俺は……吉良や高柳みてぇに野球に人生を賭けるつもりはねぇからよ」
入江「でもよ。石森みてぇに、明確な目標もなかった」

「……入江さん」
(そうか……。だから、石森くんと話していた時に少し辛そうな顔をしていたんだ)

入江「だけど今、吾朗さんのバーで、バーテンダーをしている」
吉良・大地「!?」
入江「ずっと続けたいと思える仕事に、巡り会えた……」
入江「半端に挑みたくねぇから、野球を辞める。……それだけだ」


入江さんの告白を受け、全員が互いの顔を見合わせた。

大地「……!」

大地くんは、状況がつかめないといった様子で立ちすくんでいる。

大地「つーか!兄貴、東京にいるの!?しかも、新しい店?」
大地「なんで、弟のオレが知らねぇんだよ!ってか、学人がバーテンダー!?」
(そういえば……大地くんには内緒にしてるって言ってたもんね)

大地くんが頭を抱えて、地団駄を踏んでいる。
そんな大地くんのお尻を、吉良くんが軽く蹴飛ばした。

大地「ぐぉっ!蹴るんじゃねぇよ!」
吉良「ちょっと黙ってろよ。大地」

吉良くんが大地くんの肩を押すと、再び入江さんに詰め寄っていく。

吉良「試しにやってみたら、楽しかったぐれぇでやってける世界じゃねぇだろ?」
入江「……」
吉良「もっとマジに考えろよ。……高校の時みてぇに、ガキじゃねぇんだからよ」
入江「ガキじゃねぇから、決めたんだよ……」
入江「てめぇなんかに、話すんじゃなかったぜ」


入江さんは、ポケットに手を突っ込むとグラウンドに背を向けた。
一度も振り返ることなく、歩き続ける入江さん。
その姿は、野球との本当の別れを意味しているようだった。



その日から、入江さんは今まで以上に仕事に打ち込むようになった。
まるで、吉良くんの言葉を振り払うかのように。


入江「エンジェルキッスとモスコミュール、入りました!」

次々と入る注文を受けながら、入江さんがシェーカーを振り続けている。
私はカウンターの席の隅に座り、入江さんの鮮やかな手つきを静かに眺めていた。

(益々磨きがかかっているように見えるなぁ……)
入江「次、ブルドッグとジンフィズ」
男性客A「あ、こっち!カンパリソーダとビール頼むわー!」

店内は、週末ということもあって、かなり混雑していた。
厨房の吾郎さんやヘルプの春夫さんもカウンターに並び、次々とオーダーを受けている。

吾郎「学人。フルーツのストックが切れそうなんだけど、頼める?」
入江「ちょっと厳しいっすね……」
(……すごく忙しそう)
春夫「ごめんなさいね、まなちゃん!」
春夫「折角来てもらってるのに、入江くんと話せなくて」
「ううん!大丈夫です」

私が笑顔で返事をしている間にも扉が開き、新規のお客さんが空いている席に腰を降ろしていく。

春夫「いらっしゃいませー!すぐ注文にうかがうわー」
(私がいると邪魔になっちゃうかな……)
(何か……お手伝いできることがあればいいんだけど)
(カクテルは作れないけど……これなら!)
「私が注文を受けてきますね!」


私はメニューを手にすると、テーブル席へと向かった。

入江「……まな」

入江さんが色鮮やかなカクテルを作りながら、私を見てフッと微笑んだ。

「はい!ブルーハワイとマンハッタン。それにピクルスの盛り合わせですね」
「オーダー、お願いしまーす!」


私はお客さんから受け取った注文を、入江さん達に元気良く伝えた。
すると、入江さんがこらえきれないといった様子で笑みをこぼした。

入江「ったく……。本当に変なヤツだな、お前って」
入江「普通、当たり前みたいに注文受けに行くか?」

(わわっ……。あきれられちゃったかな?)

私が体を小さくしていると、入江さんが私の頭にポンッと手を乗せた。

入江「吾郎さん。人、足りねぇからコイツも雇えば?」
(えっ!?)
春夫「あら!いいわねー!私は賛成よ!」
吾郎「じゃあ。厨房、手伝ってもらってもいい?」
「はい!」
吾郎「とりあえず、カクテルに添えるフルーツを切るのをお願いしてもいい?」
「わ、分かりました!」

私はにこっと笑顔を浮かべ、しっかりとうなずいた。

入江「これ、着ろよ」

入江さんが、黒を基調としたシックなエプロンを手渡してくれる。

「ありがとうございます!」

私が急いでエプロンに手を通していると、入江さんが私の耳元にそっと唇を近付けてきた。

入江「変なことになったけどよ。……こういうの悪くねぇよな」
入江「仕事中もお前と一緒にいられるし……」
入江「将来的には、こういう感じにしてぇからよ」

「将来的に……」

心を溶かすような入江さんの言葉が耳の奥にしみ込んでゆく。
一瞬で頬を染めた私を見て、入江さんがクールな笑みを浮かべた。

入江「ほら、行けよ。ぼぉーっとして、指を切るなよ」
「き、気をつけます……」

私は呼吸を整えると、厨房へと入っていった。

(将来的には、こんな感じかぁ……)

私は心の中でそうつぶやき、あふれ出る笑みを両手でそっと隠した。



春夫「お疲れ様ー!まなちゃん。疲れてない?」
「大丈夫です!春夫さんもお疲れ様です!」
吾郎「ホント、助かったよ。まなちゃん」

初仕事を終えた私は、閉店後、店の前で談笑の花を咲かせていた。
ほど良く疲れた体を、少し冷えた夜風が優しく撫でてくれる。

吾郎「急なことで、大変だったんじゃない?」
「いえ。楽しかったですよ」
春夫「平気よねー!好きなカレと一緒に働いているんですもの!」

春夫さんが恋する乙女の眼差しで、私の腕をつついた。

「もう!春夫さん!」
吾郎「でも、学人もいつも以上に張り切ってたかもね」
(入江さんも……?)
吾郎「いいね。青春って感じでさ」

私は嬉しい気持ちと恥ずかしい気持ちを抱きながら、入江さんの姿を探した。
だけど入江さんはまだ店内で、何やら作業をしているようだった。

吾郎「ああ、学人?なんか勉強したいことがあるらしいよ」
春夫「もっと腕を磨きたいって言ってたわ……。本気なのね、あの子」

春夫さんが感激した様子で、瞳を瞬かせている。

(入江さん……。吉良くんの言葉を気にしてるんだ)

私が店の扉を真っ直ぐに見つめていると、春夫さんが私の手を引いた。

春夫「ご飯、食べて帰りましょうよ。ね?」
吾郎「そうそう、まなちゃん。週に3日ぐらい店、出られる?」
「はい。こちらこそ、よろしくお願いします!」
(バイトか……頑張らなきゃ……)
(何か……私にも入江さんのお手伝いできることがあるといいけど)


私がお店を振り返って、そんなことを考えていると、先程の入江さんの姿がふいに脳裏に浮かんできた。

入江「将来的には、こういう感じにしてぇからよ」
(入江さん……さっきの言葉、本気かな……)

入江さんの言葉が、耳の奥で優しくリフレインしていた。



入江さんと一緒に働くようになって、1週間が過ぎようとしていた。
お店に行けば、入江さんに会える。
だけど、ふたりきりで過ごす時間は徐々に減りつつあった。

(入江さん。最近、学校も休みがちだけど……。大丈夫かな?)

私はポツンと空いた隣の席に、視線を落とした。
すると、ふたつの影が私のすぐ前に並んだ。

石森「どうかしたの?まな。元気ないみたいだけど」
吉良「不幸そうな顔してっと、不幸になるんだぞ。知ってっか?まな」
「石森くん……。吉良くんも」
石森「もしかして、入江のこと?」
(……えっ?)

石森くんが小さく首を傾げながら、私の不安を簡単に言い当てた。
コクリとうなずいた私の手を、石森くんが優しく引いた。

石森「ちょうど良かった。入江の店に、連れてって貰ってもいい?」
「ん?どういうこと……?」

石森くんが小さく微笑む、吉良くんの肩を引き寄せた。

石森「ヒロキがね。俺に相談してきたんだよ」
石森「ちょっと入江に言い過ぎたんだけど、どうしたらいい?ってね」
吉良「そんな言い方してねぇからな!脚色してんじゃねぇよ!ユウマ!」

吉良くんが石森くんの太ももを軽く蹴り上げた。
だけど、石森くんは吉良くんの蹴りを軽やかに避けて、クスッと微笑んだ。

吉良「まぁ……。俺も言い方が悪かったからよ……」
吉良「連れてけよ、まな」
「うん!」
石森「じゃあ。早速、行こうか?」

吉良くんの不器用だけど温かな感情に触れ、私の心が優しさで満たされてゆく。
私達は笑顔をかわして、学校を後にするのだった。



石森「へぇ。ほとんど休まずに、勉強し続けてるんだ。入江」
「うん……。もう1週間ぐらいそんな感じかな……」

夕闇迫る繁華街を歩きながら、私は石森くん達に近況を報告した。
ふと顔を上げると、吉良くんが居心地悪そうに、視線を彷徨わせている。

(うん……?)
吉良「……」
石森「ヒロキのひと言が、よっぽどムカついたんだろうね」

石森くんが、髪を風に遊ばせながらサラッと言い放った。

(わわっ!ストレートすぎるよ!石森くん)
吉良「ユウマ!前から思ってたんだけどよ。お前って、結構性格悪いよな!」
石森「そう?人が真剣に将来の話してるのに、いきなりダメ出しよりマシかも」
吉良「わぁったよ!俺が悪いんです!」
吉良「だから・・・…ちゃんと謝りに行くし!こんなのも見つけてきたしよ」

吉良くんが唇を尖らせながら、1枚の紙をポケットから取り出した。
そこには“カクテルコンクール”の文字がおどっていた。

「優勝者の作ったオリジナルカクテルを、全国で一斉販売……」
吉良「何か目標があった方がいいかと思ってよ」
吉良「まぁ。どうでもいいんだけど……。入江のことなんてな」
石森「通訳するとね。“まなのことが心配で怒っちゃったんだ。入江、ごめんね”っていう意味だよ」
吉良「勝手に変な通訳してるんじゃねぇよ!」

吉良くんが顔を真っ赤にして、石森くんの背中をバシッと叩いた。
そんなふたりの様子を見ていると、高校の頃を思い出して、つい笑みがこぼれてしまう。

石森「高校の頃もさ……。似たようなことがあったよね」
吉良「ああ……。入江がまなと距離を置いて、自分の世界に戻ろうとした時な」

私達は、ビルの合い間に消えていくオレンジ色の夕陽を見上げながら、懐かしい思い出に浸った。




それは、雨の中での突然の別れから数週間後のできごと。
私は、吉良くんと石森くんと一緒に黒崎町へとやってきていた。

石森「最近、入江とはどうなの?連絡ないまま?」
「……うん。ちょっと、忙しいみたい」

私が言葉少なに答えると、石森くんと吉良くんの瞳が微かに曇った。

吉良「男のくせにグダグダ言いやがって。俺がガツンと殴ってやるよ」
石森「それいいね。俺も参加しようかな」
「ちょ……ダメだよ!今日はお買い物にきただけなんだから……」
(それに……どんな顔して会っていいかも分からないよ)


“俺のことなんて、早く忘れろ”
入江さんの言葉がふいに蘇り、私の心を締めつけていく。

(入江さん……)

私が小さく息を吐いたその時、目の前で黒いバンがタイヤを鳴らして停車した。

石森「何か、嫌な感じ」
吉良「……同感」
「えっ……?」

石森くんと吉良くんが、私を守るようにサッと身構える。
すると、バンから真っ赤なパーカーに身を包んだ不良達が姿を現した。

不良A「お前、入江の女の横山まなだろ?」
不良A「俺らと一緒に来いよ」
吉良「こいつに気安く話しかけてんじゃねぇよ。タコ!」

吉良くんが、不良のひとりの肩をつかんだ瞬間、私の前の前にナイフが突き出された。

「……ナイフ」
石森「ヒロキ!動かない方がいい」
吉良「そんなもんがねぇと、ケンカもできねぇのかよ。クズが!」
不良A「なんとでも言えよ。おらっ!とっとと車に乗れよ!」

鉄パイプやナイフで武装した不良達にうながされて、私達はバンへと乗り込んだ。
その時、視界の端で銀色の髪が風になびいた。

(……!)
不良A「入江と黒崎の連中だ!早く車を出せ!」

不良のひとりが合図を出すと、バンはエンジンをうならせて走り出した。

入江「まな!くそっ!」
入江「てめぇら、ぶっ殺してやる!降りてこいよ!」


入江さんが、バンを必死で追いかけ、窓にこぶしを叩き込んでいる。

「入江さん!」
入江「ふざけてんじゃねぇぞ!」

入江さんのこぶしは何度も炸裂し、窓に亀裂を走らせた。
その手が、痛々しく血で滲んでいく。

不良A「こいつ、化け物か!おら!もっとスピード出せ!」

バンは更に加速し、徐々に入江さんを引き離していく。

入江「吉良ー!石森ー!まなを守ってくれ!頼む!お願いだ!」

入江さんの叫び声が、空を駆け、私の胸に飛び込んできた。

(入江さん……私……)

私はその言葉をそっと抱きしめ、何があっても負けないと心に誓った。


石森「あの時は、本当に焦ったよね。ヒロキが全然使えなくてさ」
吉良「お前だって、とっとと縛られてたじゃねぇか!」
「ほらほら、ケンカはそこまでだよ……」

私はふたりをなだめると、お店を見上げた。
そして重厚な扉に、そっと手をかけた。

オープン前の店内は、独特の静けさに包まれている。
普段は決して聴こえないような調理音が、心地良く響き渡っている。

入江「どうした?まな。今日は早ぇな」

カウンターから入江さんが顔を覗かせた。

「はい……。ちょっと大切な用事がありまして……」

私が唇をきゅっと結んでいると、背後から吉良くんと石森くんが姿を見せた。

入江「吉良……石森」

入江さんがつぶやくと同時に、吉良くんがカウンターへと詰め寄っていった。
そして、勢い良く頭を下げた。

吉良「前は、悪かった!」
吉良「つーか、闇雲に勉強してねぇでこれに出ろ!」
(吉良くんらしい、謝り方だなぁ……)
吉良「これで優勝すれば、誰もが認めるスーパーバーテンダーだからよ!」

吉良くんがチラシをバッと広げて、入江さんを真っ直ぐに見つめている。

入江「……」

一瞬の沈黙の後、入江さんがスッと背中を向けた。

(入江さんは、こういうコンクールに興味ないのかな……?)

私と石森くんが、不安を抱きながら顔を見合わせていると、入江さんがふいに振り返った。

入江「……もう知ってる」
入江「ってか。これに出る為の勉強だったからよ」


その手には、吉良くんと同じチラシが握られていた。

吉良「知ってたのかよ!」
石森「ヒロキ。無駄足だったね」
吉良「うるせぇよ!」
(入江さん。だからあんなに練習してたんだ……)
入江「相変わらず、バカだなおめぇらは……。でも、ありがとよ」
吉良・石森「!?」
「……入江さん」

入江さんの素直な言葉が、一瞬で場を和ませていく。
そこには、わだかまりや怒りなどは少しも存在してはいなかった。

吉良「ったく……。何しにきたか、分からねぇし」

吉良くんが照れ臭そうに、椅子に腰かけた。

吉良「なんか、飲ませろよ。未来のバーテンダー」
入江「金は払えよ」
吉良「ダチに、細けぇこと言ってんじゃねぇよ」
入江「俺はダチだから・・・…うやむらにしたくねぇんだ」

カウンターの上を飛び交う、楽しい言いあい。
昔は反発しあったふたりだからこそ、生み出せる空間がそこにはあった。

石森「じゃあ、俺も何か作ってもらおうかな。おすすめ、ある?」
入江「……ああ。まな、手伝ってくれよ」
「はい!」

私は元気よく声を返すと、急いでエプソンをつけた。
そして入江さんの隣に並び、グラスやフルーツを並べていった。

石森「息がぴったりって感じだね。ちょっと妬けちゃうかも」
吉良「いつかこんな感じで……。ふたりで店をするのかもな」

石森くんの言葉を追うように、吉良くんが小さくつぶやく。

石森「そんなお店があったら。毎日、通いたくなるね」
吉良「入り浸ってやるよ!覚悟しとけよ!」
入江「ったく。しょうがねぇヤツらだな」

軽口の叩きあい。
それは高校の頃、喫茶吾郎で良く見た風景。
場所はすっかり変わってしまったけれど、こうして集まればあの頃の風が吹き抜ける。
私はいつまでも大切にしたい景色を、心の中のカメラにそっと収めた。