完レポになりますので、閲覧にはご注意ください。



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とある日の夕方。
私は風邪をひいて、この数日寝込んでいた。

頼朝「まな」

頼朝様は毎日公務を終えると、まっすぐに私の元へ見舞いに来てくれる。

頼朝「食べたいものがあったら、なんでも言ってほしいな。すぐ手に入れるから」
「わかりました」

くすっと思わず、ほほえみがもれる。

頼朝「どうしたんだい?」

頼朝様は含み笑いをする私の顔をのぞきこむ。

「ここへ来た当初も、そうやって優しい言葉をかけてくださいました。でも、その時は、いつも言葉ばかりで、実際に動くのは侍女やご家来衆だったなあって」
頼朝「それは、いろいろと忙しかったんだよ」
「でも、今は忙しいのに、いつも頼朝様自らが持ってきてくださるでしょう。それが嬉しいんです」
頼朝「それは、私から手渡せば、まなのよろこぶ顔が見られるじゃないか。そんなおいしい役は、もう誰にも譲る気はないからね」
「そう思ってもらったことが嬉しいんですよ」
頼朝「けど、私はあなたに謝らないといけないことがある」

頼朝様はふと視線を手元に落とした。

頼朝「私はそのころ、あなたを騙していたから……」
「騙していた?」
頼朝「法眼殿のことだよ。本当はね、法眼殿はあなたを自分のもとへ戻すように何度も催促をしていたんだよ」
「そうだったんですか!?」
頼朝「うん。正確にはあなたをもとの世界に戻させるように言っていた。けど、私は……」

頼朝様は顔を赤らめる。

頼朝「最初は正直、先見の巫女など眉唾だと思っていた。とはいえ、そんな存在が平氏の手に渡ったとなれば、源氏の士気が落ちてしまう。だから、あなたを手元においておく必要があった」
「頼朝様は一度も私に先見をせよとおっしゃらなかったので、そうではないかと思っていました」
頼朝「先見なんて信じてなかったんだよ。けど、あなたはいろいろとこの国以外のことにも詳しかったし、確かに誰も知らないような知識を持っていた。だから、興味を持った」
「頼朝様は私の持ち物に興味津々でしたものね」
頼朝「けど、そうやって話をするうちに、その……」

頼朝様はさらに顔を赤らめる。

頼朝「あなた自身のことを好きになってしまったから、もうどこにもやりたくなくて……それで法眼殿にも渡したくなかったし、別の世界なんかに帰って欲しくなかった」
頼朝「……怒った?」

彼は私の手をそっと握る。
最近、気付いたのだけど、彼は不安なとき必ず私の手を握る。

「いいえ」

私は微笑んだ。

「もういいんです。私もあなたのことが好きになってしまったから、もうどこにも行きません」
頼朝「あなたは優しい」

頼朝様は私の額に自分の額をコツンと軽くぶつけた。

頼朝「優しいから、私はどんどんつけあがって、どうしようもなくわがままな男になってしまう」
「頼朝様はそんなにわがままじゃないと思いますけど」
頼朝「そんなことない。ものすごく、わがままだ。普段は我慢してるけど」
「じゃあ、我慢しないとどうなるんですか?」
頼朝「どうなるんだろう。あなたがこうして私に優しくて甘やかしてくれるから、私は穏やかでいられるけど、もしあなたが冷たくて逃げ出そうとしていたら、私はどうしたのか分からないよ」
「たとえば?」
頼朝「手足に縄をつけて、私の横に縛り付けておくかも」
「まさか」

私は笑った。

頼朝「けど、そうしたら、とても悲しかっただろうね。あなたが私を愛してくれなかったら、とてもとても悲しかった」

頼朝様は悲しそうな顔になる。

「じゃあ、私がぎゅっとしてあげます」

私は手を広げ、彼の頭をぎゅっと抱きしめた。

頼朝「……」
「あ、ちょっと苦しかったですか?」
頼朝「いや。気持ちいい。ぎゅっとしてもらうの」
「ふふふ、子供みたいですね」
頼朝「もっと、ぎゅっとして」
(この人は誰よりも大人で、誰よりも子供なのね……)

私は彼の背中を撫でた。

「あ!」
頼朝「何?」
「駄目です、こんなことしてたら」

私は慌てて彼を突き放す。

頼朝「?どうして?」
「私の病気があなたにうつります」
頼朝「……」

頼朝様がみるみる不満そうな顔になる。

頼朝「別にいいよ」
「駄目です。お体にさわりますから」
頼朝「じゃあ、私がぎゅっとしよう。それなら、いいだろう」

彼は強引に私をぎゅっと抱きしめた。

「これじゃ、いっしょですよ」
頼朝「そう。私たちはずっといっしょ」

彼の吐息が首筋をくすぐる。
しあわせな時間に涙が出そうだった。