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次の日。
大学から戻り、部屋に入ると私は呆然としてしまった。
部屋には黒い薔薇が散乱していたのだ。
「な、何なのこれは?!」
机の上を見ると、一通の手紙が置いてあった。
恐る恐る封を切ると、中には手紙が入っていた。
朱里「機は熟した。お前を迎えに行く」
「・・・・・・亜蘭さん!」
頭の中に亜蘭さんの夢がよみがえる・・・・・・。
私は怖くなり、部屋を飛び出した。



(宝生さん!)
私は、遅くまで大学にいると言っていた宝生さんを探した。
(どこにいるの?早く宝生さんに会いたい・・・・・・!)
私は走って宝生さんの姿を探した。
校舎には人の気配がない。
余計に不安な気持ちを増徴させた。
(もう、寮に帰ったのかもしれない)
私は走って男子寮へ向かった。



「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・」
走って来た為に、息が苦しい。
(寮長さんに会えば、中に入れるかしら・・・・・・)
そう思いながら、男子寮の中へ入ろうとした。
橙矢「おい」
私は聞き慣れない声に驚いてしまった。
「あ、あなたは・・・・・・橙矢さん、でしたよね」
親睦会の時に、会った記憶がかすかに残っていた。
橙矢「やはりお前だったんだな・・・・・・狙われているのは」
「えっ」
橙矢さんは私の事情を知っているようだった。
「どうして橙矢さんが・・・・・・あなたは一体」
橙矢「俺は宝生のヤツらに頼まれた仕事があって来ただけだ」
近寄りがたい雰囲気のある橙矢さんは、私をじっと見つめていた。
橙矢「宝生を信用するな」
「えっ?」
橙矢「帝国軍がレブナントを欲しがってるらしい・・・・・・それに宝生が関わっているという噂を聞いてな」
(宝生さんが?皆の話では、それは亜蘭さんが・・・・・・)
呉葉「橙矢。僕の大切なまなに何をしているの?」
「宝生さん・・・・・・!」
橙矢「・・・・・・いいや、ただ、お嬢ちゃんとここで会ったから話をしていただけだが」
呉葉「そう。僕との用はもう済んだはずだけど」
橙矢さんは鼻を鳴らすとそれ以上何も言わず、去って行った。
呉葉「まな。どうしたの?こんなところまで来て・・・・・・」
「宝生さん!」
私は宝生さんに会えて気が抜けたのか、急に体が震えてしまった。
私は宝生さんの袖にすがったまま、うつむいた。
(やっぱり、宝生さんに余計な心配をかけてしまいそう)
呉葉「・・・・・・何かあったんだね。こんなに震えて」
「・・・・・・・・・・・・」
しばらく沈黙が流れた後、宝生さんは私を思い切り抱きしめた。
「ほ、宝生さん・・・・・・?」
呉葉「まな・・・・・・どうして君は」
宝生さんは切なげに囁き、さらに私をぎゅっと掻き抱く。
呉葉「何か嫌な事があったら、すぐに言ってほしい。・・・・・・それとも、僕じゃ頼りないかな」
「そんなこと・・・・・・」
呉葉「何でも受け止めるよ。まな。こんなにも君のことを想っているんだから・・・・・・」
「え・・・・・・?」
宝生さんの言葉に胸が高鳴り、思わず顔を上げる。
宝生さんの琥珀の瞳はまるで愛しい者を見るように熱く揺らいでいた。
(宝生さん)
私は宝生さんのおかげっで、落ち着きを取り戻した。
けれど、先ほどの宝生さんの言葉にまだ胸の高鳴りが収まらない。
呉葉「・・・・・・少し歩こうか。歩きながらでいいから何があったか聞かせて?」
「はい」
私は日の沈んだ道を宝生さんと歩き出した。



日も暮れて辺りは暗くなった。
大学の近くの公園に入り、遊歩道を歩いていた。
人の気配もなく怖い雰囲気はするが、宝生さんといると怖い気持ちが薄れる。
「宝生さん」
私は亜蘭さんの手紙を取り出した。
呉葉「朱里からだね」
すぐに分かったのか、宝生さんは受け取り手紙を読んだ。
呉葉「まな」
「はい」
呉葉「君は何も心配しなくていいよ」
私はその言葉を聞くと、安心できた。
呉葉「しばらくの間、君は僕と一緒にいた方がいいね」
「えっ」
呉葉「今夜から僕と一緒にいよう」
「それは・・・・・・どういう意味でしょうか」
呉葉「おいで」
私は宝生さんの言っている意味が分からずにいた。



宝生さんに連れてこられて、私は礼拝堂へやってきた。
呉葉「まな。しばらくここで待っていて」
「あ、あの・・・・・・!」
宝生さんは私を置いて、礼拝堂を出てしまった。
一人残された私は、静かな礼拝堂で待つしかなかった。
(早く家に帰らないと、みんな心配してしまうわ・・・・・・でも、部屋に戻るのは怖い)
一人になると、不安な気持ちが込み上げてくる。
指につけている指輪に目をやった。
「宝生さん・・・・・・」
指輪を見ると、少しだけ落ち着いた。
しばらくしてから、宝生さんが戻ってきた。
呉葉「行こう」
「どこへ行かれるんですか?」
呉葉「君が安心できる場所だよ」
そう言って、宝生さんは祭壇裏へ私を呼んだ。
向かうとそこには、地下へと続く階段があった。



階段を降りて奥へ進むと、扉が見えた。
宝生さんは扉を開けて中の電気をつけた。
「こんな所に部屋があるなんて」
呉葉「ここは僕達の隠れ家なんだ」
「隠れ家?」
呉葉「そう・・・・・・何かあった時のね」
宝生さんは、椅子に腰を下ろして私を呼んだ。
側に行くと、宝生さんは横に座るように言った。
呉葉「今日からここが僕とまなの部屋だから」
「えっ・・・・・・!」
私は驚いてしまった。
先程、言っていた意味が今になって分かった。
「で、でも!家に帰らないと」
呉葉「まなの家の人には、きちんと話をしてあるから」
「何と・・・・・・言ったんですか?」
呉葉「僕の友人がドイツから来ていて、語学交流の為にまなを招待したと言ったよ」
「そ、それでお父様は」
呉葉「とても喜んでいたよ」
「本当ですか・・・・・・?」
呉葉「ああ。勿論だよ」
宝生さんが嘘を言っているように見えなかったので、私は納得した。
呉葉「だから、家に戻るまでにドイツ語の勉強をしないといけないね」
「えっ?」
呉葉「嘘がばれたら、まなが困るから」
「でも、私はあまり外国語には詳しくないので」
呉葉「僕が教えるよ。二人の時間はたくさんあるから」
呉葉「しばらく過ごす分には困らない状態だし、何かあれば僕が用意するから」
(そう言われても・・・・・・宝生さんと二人っきりだなんて)
呉葉「欲しい物があれば、何でも揃えるよ」
「は、はい・・・・・・」
私の意志とは関係なく、ここで宝生さんと過ごさなければならなくなった。
(ずっと一緒だなんて・・・・・・どうしよう)



しばらく経っても、なかなか落ち着くことが出来ない。
宝生さんは、何かを話すわけでもなく、私をじっと見つめているだけだった。
(宝生さんは私のことを、本当にどう思っているのかな)
こんなにも君のことを想っている、そう言った宝生さんの言葉を思い出してまた胸がどきんと高鳴る。
けれど・・・・・・

朱里「純血の王族である宝生やその血族が、お前を利用しないはずがないだろう?」

亜蘭さんが言っていた言葉が急に頭をよぎった。
(そう・・・・・・あの時の亜蘭さんの話。宝生さんが私をどうしたいのか一度も聞いたことがない)
(私は宝生さんを信じてる。けれど・・・・・・ちゃんと宝生さんから聞きたい)
(それに・・・・・・)

焔「とっとと呉葉様が喰らっちまえばいいんだよ。そしたらあいつにも手出しができない」

そういえば親睦会の夜にも、八雲さんが妙な事を言っていた。
それで、宝生さんが私の目を閉ざして、そのまま眠って・・・・・・。
(思い出した。親睦会の帰り・・・・・・)
呉葉「まな。どうしたの?」
私は宝生さんの顔を見た。
すると目が合い、私と宝生さんは見つめ合う形になった。
「宝生さん。・・・・・・もしかして、親睦会の時に私の記憶を閉ざしたのは宝生さんなのですか?」
呉葉「そう・・・・・・やっぱり思い出したんだね」
呉葉「君の幼い頃の記憶がだんだん蘇ってきているから、そうなんじゃないかと思ったよ」
「どういう意味ですか?」
呉葉「いや・・・・・・」
呉葉「確かに親睦会のあの夜、皆が余計な事を言っていたから君の記憶を消したよ・・・・・・。君を巻き込みたくなかったから」
「宝生さん・・・・・・」
呉葉「勝手に記憶を消して、気を悪くしたかな」
「でも、宝生さんが頼りにしてほしいと言ったように、私も・・・・・・同じですから。本当の事を言ってくれて嬉しいです」
呉葉「まな」
宝生さんが私の頬を撫でる。
呉葉「君は素直で良い子だね」
「あの・・・・・・宝生さん。亜蘭さんに言われたことなのですが」
私は思い切って亜蘭さんに言われたことを話した。
宝生さんも私の血を狙っているのだろうかということを。
呉葉「君はそう思っているの?」
「わ、私は・・・・・・正直不安です」
呉葉「・・・・・・そう」
宝生さんは悲しい表情をしてしまった。
呉葉「確かに、一族からは言われているよ。僕が君の血を飲めば済むことだと」
「宝生さん」
(狙っているなんて、信じたくない。でも・・・・・・宝生さんは私の血が目当てではないと言ってくれない)
私は宝生さんから視線を逸らして、背を向けてしまった。
私はそれから、言葉が出なかった。
(信じたいけれど・・・・・・)
呉葉「・・・・・・君は朱里の言葉を信じる?」
「信じたくありません。でも・・・・・・本当に宝生さんは私の血が目当てではないのですか・・・・・・?」
呉葉「・・・・・・・・・・・・」
沈黙が流れた後、急に抱きしめられた。
「宝生さん・・・・・・?!」
呉葉「言ったでしょ・・・・・・僕は君をとても大切に想っているんだ」
そして宝生さんは私の首筋に唇を落としていく。
驚いた私は離れようとするも、思うように動けない。
呉葉「今も昔も・・・・・・」
「・・・・・・!」
頬を真っ赤にしながら、首から伝わる刺激に耐えていた。
呉葉「どれだけの想いか・・・・・・体で教えてあげるよ」
宝生さんは私の首筋に牙をあてた。
「宝生さん・・・・・・!」
私が身じろぐと力強く私を抑えつけた。
呉葉「じっとして・・・・・・」
そう耳元で囁くと、軽く牙で首筋をなぞっていく。
「んっ・・・・・・!」
呉葉「僕の可愛いまな。大好きだよ・・・・・・」
体中に電気がはしるような感覚が襲い、同時に、頭の中に幼い頃の記憶が蘇った。

呉葉「君に百合の花飾りを贈るよ」
「嬉しい!呉葉さん、大好き!」
呉葉「僕の可愛いまな。大好きだよ。ねえ、大きくなったら僕のお嫁さんになってくれる?」
「うん!私、呉葉さんのお嫁さんになる!」
呉葉「約束だよ!そしたら、今度は百合の指輪を贈るからね」


(私・・・・・・小さい頃、宝生さんのことが好きだったんだ)
呉葉「・・・・・・っ!」
突然、宝生さんがハッとした様子で顔をあげた。
呉葉「ごめん・・・・・・君の匂いに、つい我を忘れてしまいそうになった。嫌、だよね。こんな風にされては」
私は宝生さんに体を向き合うようにして、静かに首を振った。
「宝生さん、私・・・・・・小さい頃に」
呉葉「うん?」
「ある男の子が百合の花飾りを贈ってくれて・・・・・・」
「その男の子と結婚の約束をしていたんです」
宝生さんが私の手をとって、指にキスを落とす。
「それで、その男の子のことが、私もずっと好きで」
呉葉「・・・・・・まな」
呉葉「その男の子が、吸血鬼だったとしても?」
「はい、吸血鬼でも人間でも、好きな気持ちに変わりないですから」
呉葉「まな・・・・・・」
返事をする間もなく、宝生さんは私に口づけをした。
私は宝生さんに口づけをされたまま、椅子に倒された。
「んっ・・・・・・」
何も考えられず、頭が真っ白になりそうだった。
優しい口づけから、宝生さんの気持ちが伝わってくる・・・・・・。
それだけは感じることができた。
ゆっくりと唇が離され、私と宝生さんはしばらくお互いの瞳を見つめていた。
呉葉「僕は今、君に久しぶりに出会って二度目の恋をしているみたいだ」
呉葉「それは・・・・・・君も同じだと想っていいのかな」
「はい・・・・・・私も、同じです」
呉葉「愛してるよ。まな。ずっとずっと、好きだった」
「宝生さん・・・・・・」
(私と宝生さんは小さい頃から思いが通じ合っていたんだ)
「私もです・・・・・・宝生さん」
宝生さんは私にもう一度、幼い頃の約束を確かめ合うかのように口づけを交わした。
長く長く続いた優しい口づけは、今までの不安だった気持ちを全てかき消してくれるようだった。