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朝、目を覚まして私はベッドから降りた。
ふと、宝生さんと買い物に行った時の事を思い出す。
宝生さんの瞳が紅く光ったこと。
瞬時に怪我を治してくれたこと。
そして、おぼろげな幼い頃の記憶。
(よくわからないことが多いけど・・・・・・考えても仕方ないよね)
そんなことを考えていると、部屋に柏木が入ってきた。
柏木「お嬢様。おはようございます」
「おはよう」
柏木「これから旦那様の用事で車を出すのですが、よろしければ大学までお送り致しますが」
「そうなの?だったら、お願いしようかな」
柏木「では、支度がお済みになりましたら声を掛けて下さいませ」
「分かった。すぐに準備するから」
私は身支度を済ませると、柏木に声を掛けて車で大学まで送ってもらった。



(かなり早く着いたから宝生さんはまだ来ていないだろうな)
校内を歩いていると、柊さんと比奈森さんが何か話をしていたのを見かけた。
凪「嫌だよ。弓弦さんが行けばいいじゃない」
「おはようございます」
弓弦「あっ、まなちゃん。おはよう」
凪「おはよう、まなさん。聞いてよ、弓弦さんったら酷いんだよ?」
「どうしたんですか?」
弓弦「実は、呉葉がまだ起きてなくて」
「宝生さんが?」
凪「それでね、僕に起こして来てって言うんだ。朝の呉葉さまは怖いから嫌なんだよ!」
「それは・・・・・・寝起きがあまり良くないんですか?」
弓弦「まぁ、そういう言い方もあるね。あっ、そうだ!」
柊さんが何かを思いついたような顔をして私を見た。
弓弦「まなちゃんなら、呉葉もすぐに起きると思うんだ」
「えっ?」
凪「そうだよ!まなさんが行けばいいんだよ」
弓弦「寮長には僕から上手く話をつけておくから、お願いできるかな?」
柊さんの笑顔と、比奈森さんの訴えるような表情に、私は断ることができず宝生さんを起こしに行くことになった。



(困ったな。ここまで来たのはいいけれど・・・・・・)
男子寮の入り口で寮長さんに会い、中へ入れてもらった。
柊さんが、どういう理由を言ったのかは知らないけれど、とても微笑ましく迎え入れてくれた。
(殿方の部屋に入るなんて初めてなのに)
圭一郎の部屋に入るのとは違うので、部屋に近づくにつれ鼓動が早くなり緊張する。
「でも、ここまで来てしまったのだから・・・・・・」
私は覚悟をきめて、ドアをノックした。
けれど、返事はない。
(ど、どうしよう。入っていいのかな・・・・・・)
「宝生さん・・・・・・?失礼します」
小さく声をだして、恐る恐る部屋に入った。



部屋は静かで、カーテンは無造作に閉じられていて少し薄暗い。
ベッドに目を向けると宝生さんは寝ているようだった。
(寝ている、のかな?)
「宝生さん・・・・・・起きて下さい」
呉葉「ん・・・・・・」
私は一声掛けると、宝生さんの目がゆっくりと開けられた。
呉葉「おはおう。まな」
柊さん達から寝起きが悪いと聞いていた私は少し驚いた。
「あれ、起きていたのですか?」
呉葉「君の声ならすぐに目を覚ますよ」
そう言って、宝生さんは私の手を引くと、ベッドに引き寄せた。
「え・・・・・・?」
気が付けば、横になっている宝生さんの上に乗せられて、向き合う形になっていた。
「宝生さん・・・・・・!」
私が焦っている事を知ってか知らずか、宝生さんは昔の話を始めた。
呉葉「そういえば、昔、まなと遊んだときに・・・・・・」
「えっ?」
呉葉「よく一緒に昼寝をしていたんだよ?」
「一緒に・・・・・・ですか?」
私はその時のことを思い出そうとしたけれど、おぼろげにしか思い出すことができなかった。
呉葉「こうして一緒にベッドに入ると、まなはすぐに眠ってしまったんだ」
「そう、なんですね・・・・・・」
(何だか今日は宝生さんがいつもと違う気がする)
呉葉「他にも色々とあるよ。一緒に屋敷の中でかくれんぼをしたりね」
「かくれんぼですか?」
呉葉「そう。まなは僕に見つかって逃げようとした時に、転んで足を怪我したんだ」
「怪我を・・・・・・」
呉葉「そうだよ」
私は昨日の出来事を思い出した。
足を怪我して、宝生さんに手当てをしてもらったこと。
呉葉「君は泣きながらも手当てを終えると、僕にありがとうと笑顔を見せてくれたんだ」
「あ・・・・・・」
とても懐かしそうに話す宝生さんを見ていると、もう一度、昔の記憶が蘇ってきた。
おぼろげな記憶でしかなかった男の子の顔。
それが今度ははっきりと思い浮かぶ。
「あの時の男の子は・・・・・・」
(そうだ・・・・・・やっぱり、あれは宝生さん)
呉葉「僕はあの時の君の笑顔が可愛くて仕方なかったよ」
「その後・・・・・・確か私は疲れて寝てしまったんですよね」
呉葉「思い出したの?」
「はい。少しだけですが思い出しました」
呉葉「・・・・・・そう」
宝生さんはとても嬉しそうに微笑むと、私の髪に手を伸ばして梳いていく。
私もまた、宝生さんと向き合っていると懐かしい気持ちが込み上げて嬉しくなった。
(でも、宝生さんがこんな風に昔の事を詳しく教えてくれるのは初めてな気がする)
(今日はどうしたんだろう・・・・・・?)

呉葉「まな・・・・・・君は可愛いね」
「え・・・・・・?」
そう言って、宝生さんは私の体を強く引き寄せると、ベッドに横たえた。
両腕が捕らえられて、身動きができなくなる。
「ほ、宝生さん?」
驚いて見上げると、宝生さんがじっとこちらを見つめている。
私は突然の出来事に言葉を失って呆然としてしまった。
(どうしたらいいの・・・・・・?!)
私はどうしていいのか分からず、宝生さんを見つめるしかできなかった。
(からかわれているのかな)
呉葉「まな」
宝生さんの顔が間近に迫り、頬が一気に赤くなった。
(これ以上近づかれては、顔がくっついてしまう)
呉葉「驚いた顔も可愛いね」
耳元で囁かれて身体が小さく跳ねる。
呉葉「君の色んな表情を見てみたいよ。どうすれば見れるのかな・・・・・・」
「あ、あの・・・・・・」
宝生さんが私の首筋に指を這わす。
視線を逸らそうにも、じっと見つめる瞳を逸らすことが出来なかった。
呉葉「まな」
名前を呼ばれた瞬間、宝生さんの瞳がまた血色に光った。
「!!」
(ど、どうしてまた瞳が・・・・・・?部屋は暗くて光なんて当たっていないのに)
部屋には沈黙が流れ、少し動くだけでシーツの音が響きそうだった。
私の体には宝生さんの手が回されたまま、身動きがとれない。
(宝生さん、やっぱり今日は何だかおかしい。どうしてこんなことを・・・・・・)
「い、いや・・・・・・!やめてください」
ようやく上げた抵抗の言葉に、宝生さんがハッとした表情で身を起こす。

呉葉「あ・・・・・・まな?」
呉葉「僕は、一体・・・・・・」
「え・・・・・・?」
宝生さんの様子が一瞬にして変わる。
呉葉「君はいつからここに?」
「えっ?えっと・・・・・・起こしに来たら宝生さんに手をひかれて」
「それで、昔の話をして」
呉葉「昔の話?」
宝生さんは考えこむように黙る。
「たくさんお話してくれて、あの・・・・・・うれしかったのですが」
呉葉「そう・・・・・・なんだ」
呉葉「ああ、気にしないで。・・・・・・君が起こしに来る夢でも見ていたのかもしれない」
(もしかして、寝ぼけていたのかな)
(じゃあ、さっきのも?)
さっき宝生さんが覆いかぶさってきたことを思い出して、また恥ずかしくなってしまった。
呉葉「・・・・・・嫌な思いをさせてしまったよね。ごめん」
「そ、そんな嫌な思いだなんて!・・・・・・少し、驚きましたけど」
呉葉「・・・・・・そろそろ起きないといけないね」
宝生さんは私から離れて起き上がった。
(そ、そうだ!遅刻してしまう!)
私は宝生さんと起き上がり、時計を探した。
時刻は講義の始まる三十分前。
男子寮から教室まではまだ間に合う時間だった。
呉葉「着替えるから、少し待っててくれる?」
「は、はい」
私は少し乱れた髪を手で梳かしながら、部屋の外で宝生さんを待つ。
そしてふたりで学校へ向かった。



凪「あっ!呉葉さまとまなさんだ!」
弓弦「本当に?」
心配して待っていてくれたのか、柊さんと比奈森さんが何故か驚いた様子でこちらを見ていた。
弓弦「呉葉。ちゃんと起きたんだね・・・・・・すぐに起きたことがないから驚いたよ」
(すぐに・・・・・・というわけでもなかったけれど)
凪「信じられない・・・・・・」
弓弦「とにかくよかったよ。それじゃ、僕達は行くから。また後でね」
呉葉「ああ」
柊さんを比奈森さんは、まだ驚いた様子で歩いていった。
呉葉「・・・・・・・・・・・・」
(・・・・・・なんだか、気まずい)
(こうして宝生さんと過ごすことに大分慣れてきたけれど、やっぱりさっきの事が頭から離れない)
さきほどの寮での出来事を思い出さないようにしても、何だか気まずく感じてしまう。
宝生さんもまた、今日はいつもよりも私から一歩はなれて歩いているような気がした。
絢人「おはよう横山」
「おはようございます」
絢人「早く行かないと遅刻するぞ?」
(本当だ。宝生さんといるのも気まずいし、時間もないし・・・・・・どうしようかな)
「宗方さん、私は宝生さんと行きますので気になさらないで下さい」
私がそう言うと、宗方さんは宝生さんに一礼をして去っていった。
「急がないといけませんね」
呉葉「よかったの?彼と行かなくても」
「はい」
呉葉「そう・・・・・・」
「宝生さん?」
呉葉「いや、まなはさっきの事を気にしていないのかと思って」
「さっきのって・・・・・・。あ・・・・・・」
せっかく思い出さないようにしようと思っていたのに、また恥ずかしくなってきた。
呉葉「ああ、困らせてしまったかな」
「い、いえ・・・・・・」



講義の開始ベルがなり、授業のある生徒は教室へ急いでいた。
私は宝生さんに送ってもらい、教室へ入った。
呉葉「また、迎えに来るから」
「はい。ありがとうございます」
宝生さんと別れて、後ろ姿を見ながらひとつため息をつく。
(宝生さん)
気が付けば、宝生さんのことが頭をよぎっていた。
(まるで私・・・・・・宝生さんのことが)
小さく息を吐いて、自分に言い聞かせるゆおに呟いた。
「変に考えすぎだわ・・・・・・」



今日は朝から色々あり、疲れていた私はすぐに眠りについた。
「ん・・・・・・」
深夜、丑の刻に差し掛かった頃だろうか。
ふと、目が覚めると、月の光りが差し込む部屋に、自分以外の気配を感じた。
朱里「・・・・・・・・・・・・」
「あ、あなたは?!」
驚いた私は体を起こした。
ベッドの脇で亜蘭さんが私を見つめながら立っていた。
「どうして私を狙うのですか・・・・・・」
私は身を布団で隠し、亜蘭さんを睨んだ。
朱里「宝生の匂いがする。どうしてお前は宝生とばかりいるのだ」
「それは・・・・・・宝生さんが私を護衛して下さっているから」
朱里「ほう?宝生がまなを護衛か・・・・・・笑わせる。宝生もお前を狙っているのに」
「宝生さんが私を?そんなことあるわけがありません」
朱里「純血の吸血鬼が、特別な血を持つお前を欲しないわけがなかろう」
「一体、何の話でしょうか」
朱里「お前を花嫁として迎え入れ、血族と交われば、我らを超越する子孫が誕生するのだから」
(何を言っているの?純血の・・・・・・吸血鬼?)
朱里「何を驚いている。お前は私の供物となるのだ」
朱里「宝生が私の邪魔をするのは、宝生もお前を狙っているからだ」
(どういう・・・・・・こと・・・・・・?)
朱里「純血の王族である宝生が・・・・・・そしてその血族が、特別な血を持つお前を利用しないわけがないだろう?」
頭が混乱して、亜蘭さんの話が理解できない。
「宝生さんは、私を利用しようと・・・・・・近づいたと言うんですか?」
朱里「そうだ」
気が付くと、亜蘭さんは私の横に座り私の首に指をあてていた。
そして、首から肩にゆっくりとなぞるように指を落としていった。
「・・・・・・っ!」
朱里「じきにお前を迎えに行く・・・・・・それまで待っていろ」
小さく呟くと、亜蘭さんは立ち上がり消えていった。
「ま、待って下さい!吸血鬼とは一体・・・・・・!」
「これは夢・・・・・・?それとも・・・・・・現実なの・・・・・・?」
意識が遠のいて行き、私は布団を抱きしめながら倒れ込んだ。