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朝になり、私は目を覚ました。
(あまり寝られなかったな・・・・・・)
夢のことが気になり、熟睡できなかった。
時計を見ると、そろそろ支度をしなければならない時間。
(あまり深く考えないでおこう)
夢なのだから、と自分に言い聞かせて身体を起こすと、部屋に柏木が入ってきた。
柏木「お嬢様。宝生様が迎えにいらっしゃっていますが」
「えっ?!」
驚いた私は窓の外を見た。
外には一台の車が止まっており、その前に宝生さんが立っていた。
(どうして宝生さんが私を迎えに?確か護衛は学内だけのはずでは)
柏木「お嬢様?ご都合が悪いようでしたら、私が断りを」
「大丈夫よ、気にしないで。すぐに準備しないと」
あわてて身支度を済ませて、急いで家を出た。



呉葉「まな。おはよう」
「おはようございます」
挨拶を済ませると、宝生さんは私を車へ案内した。
車に乗った後、柏木が私に荷物を渡そうと近づいてきた。
柏木「お嬢様」
呉葉「僕が預かるよ」
柏木「そんな、宝生様にお荷物を」
呉葉「構わないよ」
柏木「・・・・・・では、宜しくお願い致します」
柏木は宝生さんに荷物を渡すと一礼をして下がった。
そして、宝生さんも車に乗り込むと、私の隣に座った。



車中は静かで、小さな咳ですら響きそうなくらいだった。
(話しかけた方がいいのかな・・・・・・)
宝生さんの持つ雰囲気に圧され、なかなか声を掛けづらかった。
そんな静けさの中、宝生さんが口を開いた。
呉葉「迷惑だったかな?」
「えっ?」
呉葉「僕が突然迎えに行ったこと」
宝生さんの顔を見ると、まっすぐにこちらを見つめている。
「迷惑だなんてそんなことないです。少し、驚きましたが」
私は正直な気持ちを宝生さんに伝えた。
呉葉「そう。それならよかった」
返事を聞いた宝生さんは、少し表情を緩めた。
呉葉「少しでも君のそばにいようと思って」
「私とですか?」
呉葉「そうだよ。僕は君を守る護衛だから」
「でも、護衛は学内だけでは・・・・・・何だか申し訳ないです」
呉葉「いいんだ。君に危ない目に合わせるわけにはいかないからね」
(本当にいいのかな・・・・・・まさか迎えにまで来てくれるなんて)
少し困って身を硬くしていると、宝生さんが微笑んだ。



車が走り出してからしばらくして、遠くに大学が見えてきた。
呉葉「まな」
急に名前を呼ばれ、宝生さんを見る。
宝生さんは、窓の外を眺めたまま、話を続けた。
呉葉「・・・・・・そういえば覚えている?この道。昔、まなと一緒に歩いた事があるんだけど」
(え・・・・・・?)
窓の外を見ると、家々が建ち並び、ところどころに商店も並んでいる。
この辺りは繁華街からは離れていて静かな場所だけれど、それでも数年前に比べて随分賑やかnなったものだ。
(この通りを、宝生さんと一緒に・・・・・・)
呉葉「やっぱり、覚えてはいないかな」
宝生さんが窓に肘をつくと、私の方を見た。
その表情からは宝生さんの気持ちを汲み取ることはできない。
「えっと・・・・・・ごめんなさい。すぐには思い出せなさそうです」
呉葉「・・・・・・いいよ。気にしないで」
宝生さんは薄く微笑むけれど、その口元は少し苦く歪んでいた気がした。
(宝生さん・・・・・・?気を悪くしてしまったかな・・・・・・)
(本当に、どうして私は思い出せないの。宝生さんは覚えていてくれているのに)
呉葉「さあ、もうすぐ着くよ」
宝生さんは姿勢を直すと、車のシートにもたれて片手を投げ出した。
その手が、私の背中近くに置かれているので、妙に気になってしまう。
(・・・・・・な、何だか身動きできない)
身を強張らせてままでいると、宝生さんが不思議そうにして私の顔を覗き込んだ。
呉葉「まな?」
「え・・・・・・!は、はい」
私があわてて返事をすると、宝生さんがくすりと笑う。
呉葉「おかしなまなだね。見ていて飽きないよ」
「そ、そうでしょうか・・・・・・」



しばらくして大学に着き、宝生さんのエスコートで車から降りた。
「ありがとうございます」
運転手さんにもお礼を言い、私は宝生さんから荷物を受け取った。
呉葉「まな。僕は午後まで用があるから。それまでいい子にしていてね」
「はい。分かりました」
宝生さんが背を向けた時に、ふと昨日の夢のことが頭をよぎった。
「あ・・・・・・」
呉葉「どうしたの?」
「い、いえ」
呉葉「君の話なら何でも聞くよ」
「夢のことを思い出したもので」
呉葉「夢?怖い夢でも見たのかい?」
(でも、こんなことで宝生さんを引き止めるのも悪いわ)
呉葉「僕でよければ話を聞くよ」
「大したことではないので、気になさらないで下さい」
(また今度、ゆっくりできる時に聞いてもらおう)
呉葉「そう?まながそれでいいなら、いいけど」
「ありがとうございます」
呉葉「それじゃ、また後でね」
私は宝生さんの車が見えなくなるまで見送った後、教室へ向かった。



夕子「ねぇねぇ!まなさん!今日は宝生さんの車で登校なさったんでしょ?ふふふっ」
「そ、それは・・・・・・」
夕子「いいですわね~。あんな素敵な殿方に愛されているなんて」
「愛されているだなんて。宝生さんは護衛をして下さっているだけです」
夕子「そうかしら?きっと宝生さんとまなさんはこれから恋に落ちていく運命なのだと思ったのだけれど」
「そ、そんなことありませんよ!」
夕子「ふふっ。まなさんに嫌われたら嫌だから、この辺でやめておこうかしらね?」
笑いながら、夕子さんは教室を出て行った。
(もう、夕子さんったら。そんなことを言われたら、変に意識をしてしまうじゃない)
私は荷物を急いでまとめ、教室を後にした。



宝生さんがまだ来ていないようだったので、校内を散歩いていた。
(ここは礼拝堂ね。中には入れるのかな)



礼拝堂の中に入ると、突然辺りが暗くなり始めた。
(何だろう・・・・・・夕立?)
窓の外を見ていると、背後から誰かに名前を呼ばれた。
??「まな」
「あ、あなたは!」
朱里「ごきげんよう・・・・・・横山まな」
「あなたは・・・・・・どうして私の名前を知ってるの?」
朱里「私は亜蘭朱里。特別な血を持つお前を迎えに来た」
この間、帰り道に会った金髪の男。
そして、夢にまで出てきた人が、突然目の前に現れたことに驚いた。
視線から感じる凍てつくような冷たい雰囲気に背筋がぞっとする。
(こ、怖い!逃げないと!)
慌てて逃げようとしたが、何故か体が思うように動かなかった。
朱里「なぜ逃げるのだ?」
亜蘭さんは近づいて、私の顎に手をかけた。
ひやりとした指先が触れると、一瞬身が震える。
朱里「まな・・・・・・どうしてお前は宝生などと一緒にいる」
「宝生・・・・・・さん?」
(どうして宝生さんのことが出てくるの?)
朱里「お前は宝生を選ぶのか?」
私を見つめる亜蘭さんの瞳が赤く光った。
(瞳が・・・・・・!亜蘭さんは一体何者なの?!)
必死に逃げようとするも、体が思うように動かない。
朱里「私利私欲の人間どもと共存を考える奴らの何がいいのだ」
「え・・・・・・?」
朱里「我らがどれだけ苦しみ、苦痛を味わってきたか!」
強い口調で言い捨てる亜蘭さんは、険しい表情をしている。
(どういうこと・・・・・・亜蘭さんと宝生さんの間に一体、何があったというの?)
呉葉「ここで何をしているの?」
「宝生さん・・・・・・!」
朱里「やはり来たか」
呉葉「彼女に手を出したら・・・・・・許さないよ」
宝生さんから、押しつぶされそうな威圧感を感じて体に力が入る。
二人ともじっと睨みあう状態だったが、近くに学生の声が聞こえた。
朱里「人の気配か・・・・・・ここは一旦引くとしよう」
亜蘭さんの手が私から離れた。
朱里「まな。機が熟すその時、必ずお前を迎えに来る・・・・・・」
そう言い残して、亜蘭さんは去っていった。



呉葉「まな。大丈夫?」
宝生さんが私の傍へ近づいた。
「だ、大丈夫です」
震える声を落ち着かせるようになんとかそう言うと、宝生さんが心配そうに目を細めた。
呉葉「まな、君は強い子だね。でも、無理はしないで」
そして私の頬にそっと手を添えた。
呉葉「ごめんね。怖い思いをさせてしまって」
宝生さんは私の頭をそっと撫でた。
宝生さんの長くて細い指が、私の髪の一筋を一度だけ梳いていく。
呉葉「もう、大丈夫だから」
「は、はい・・・・・・」
呉葉「僕がいけなかったんだ。もっと早く君のところに来ていれば」
「そんな、宝生さんのせいではありません。私がひとりで歩いていたから・・・・・・」
呉葉「僕の失態だよ」
「宝生さん」
悲しい表情から安堵の笑みに変わった宝生さんは私をみつめた。
呉葉「まなが無事で本当によかった」
少し落ち着きを取り戻した私は、気がつけば、宝生さんの顔が間近にある事に慌ててしまった。
「あの、ありがとうございました・・・・・・もう大丈夫ですから」
呉葉「そう・・・・・・?」
恥ずかしくなって、慌てて宝生さんから離れた。



呉葉「ここにいると気分が優れないね。行こうか」
「・・・・・・はい」
呉葉「歩ける?」
「はい。大丈夫です」
私は礼拝堂を後にして大学を出た。



しばらく沈黙が続き、私は少し気まずかった。
(さっきの宝生さん・・・・・・とても優しかった。それに、いつも感じている距離感も感じなかったし)
亜蘭さんが去った後、私を安心させてくれた宝生さん。
(それなのに・・・・・・)
横で歩く宝生さんを見た。
(今はいつもと同じ。すぐ横にいるのに)
まるで私と距離を保っているようにも見えた。
(やっぱり護衛なんて迷惑、なのかな・・・・・・)
呉葉「まな」
「は、はい」
呉葉「少しだけ朱里と話したことを聞かせてもらえる?」
「・・・・・・分かりました」
私は亜蘭さんが話していたことを覚えている限り話した。
呉葉「そう・・・・・・。彼はそんなことを言っていたんだね」
「あの・・・・・・宝生さん」
私は色んなことが気になっていた。
(亜蘭さんは、私を迎えに来たといっていた。宝生さんは亜蘭さんと知り合いのようだけれど、どんな関係なおんだろう。それに、特別な血って・・・・・・)



朱里「お前は宝生を選ぶのか?」
朱里「私利私欲の人間どもと共存を考えるヤツらの何がいいのだ」



亜蘭さんの言っていた言葉。
まるで自分が『人間』ではないかのような言い方をしていた。
呉葉「彼の言うことを信用してはいけないよ」
「え?」
宝生さんが立ち止まり、私をまっすぐに見据える。
呉葉「言葉の通りだよ。彼を・・・・・・朱里を信用しては駄目」
(亜蘭さんは悪い人なのかしら。確かに怖い感じはしたけれど・・・・・・)
「宝生さんは、亜蘭さんとお知り合い・・・・・・なんですよね?」
呉葉「・・・・・・まな」
「は、はい」
呉葉「家まで送って行くよ」
私の声が聞こえていなかったのか、宝生さんは微笑むと別の話を始めた。
(それとも、はぐらかされたのかな)
「あの・・・・・・」
呉葉「大学には、校内に不審者が出たと報告しておくよ」
「でも・・・・・・」
呉葉「大丈夫。君は何も気にしないで」
「宝生さん」
宝生さんはそれ以上何も言わずにまた歩き出した。
(きっと知り合いだと思うけれど・・・・・・聞かれたくないことだったのかしら)
亜蘭さんはどうして私を狙っているのだろう。
特別な血というのは何なのだろう。
そして・・・・・・
(宝生さん、あなたは何を考えているのですか・・・・・・?)
不可解な出来事で頭の中がいっぱいになる。
戸惑いはあるけれど、私は宝生さんの後について、また歩きはじめていた。