ここで誤解のないように念押しをしておこう。
僕は代替療法で治療を受けている人を馬鹿にしたり、批判したりするつもりは毛頭ない。
なにしろ昭和56年以降、死亡原因が第1位の病気になってしまったのである。
死の恐怖に脅えるあまり、草の根を食べてでも死にたくないと思う人がいても全く不思議ではない。
故に、人類の英知を集積した現在の標準治療以外の、
「もっといい治療」
「(副作用の少ない)もっと楽な治療」
を追い求めるのは動物として極めて自然な姿だろう。
僕が憤りを感じているのは、(僕如きが憤りを感じたところでどうしようもないけど・・・)エビデンスのない治療、・・・つまり安全性や効果が確立していないものや、過去の研究で明確に効果がないことが分かっているものを、「治る」とか「抗がん剤の副作用が楽になる」と称し、「何としてでも生きたい、死なせたくない・・・」と切実に願う癌患者やその家族に、高額で治療を売りつける詐欺まがいの商売をしている者のことだ。
実は今回、「最高のがん治療」以外にジャーナリストの岩澤倫彦氏が書いた「やってはいけない癌治療」という本も購入した。
勝俣先生も「いいね」をしていた本だったので、ついでに・・・と言えば失礼だが一緒に購入してみたのである。
この方、検査で肺に影が映ったことをきっかけに、「がん放置療法」で有名な「近藤誠がん研究所」に潜入取材をされている。
セカオピ外来の費用は、30分32,000円(たっか!)で、虚実を織り交ぜながら患者を脅かし、不安にさせて信用させるいわゆる典型的な「不安商法」だったと言う。
ちょっとネットで調べて勉強するだけでも近藤誠氏が本当のことを言っているのか嘘を言っているのか分かりそうなものだけど、そこは口八丁でご商売されてきただけに、患者の微妙な心理状態を的確に読み取り、納得させる話術は相当見事だったようだ。
論文やデータを巧みに使い、自分の都合のいいように説明し、逆に都合の悪いところには触れない。
「がん放置療法」の臨床試験なんてできるはずがない。
がん患者を治療せずに放置するグループと、抗がん剤治療を受けているグループに分けてそれぞれを観察するという非人道的で犯罪的な実験なんて許されるはずがなく、つまり彼の理論は検証することが不可能なのである。
そんなエビデンスのない彼の言うことを信じ、治療をやめてお亡くなりになった方がどれほどいるのだろうか。
その他、岩澤倫彦氏は代替療法についても鋭く切り込んでいる。
1 高濃度ビタミンC療法
節操のないクリニックでは、早くも「新型コロナウイルス」の予防や治療に有効だ・・・なんてもっともらしい論文を併載して宣伝しているが、論文は医師が書いたとしてもほぼ体験談と同じ扱いで、エビデンスとしては最も下位に位置するもの。
実際に人間に投与したランダム化比較試験の結果がないと、こんなものに手を出してはいけない。
高濃度ビタミンCの効能をうたうクリニックでは、2005年にアメリカ国立衛生研究所の「がん細胞にだけ高濃度ビタミンCが毒性として働く」・・・という発表を根拠にしているが、これはあくまで試験管の中でのお話。
人間の体の中は試験管の中よりもずっと複雑で、試験管の中で成功したことのほとんどが人間の体内では再現することができないという。
ビタミンCを使った臨床試験は1970年代から数多く行われてきたが、「効果がなかった」という結論がすでに出ている。
エビデンスがないのに患者からお金を取るのは詐欺だ・・・と、心ある学者は憤っている。
2 ハイパーサーミア(温熱療法)
がん細胞は42.5度以上になると死滅する・・・といって、40年以上前から日本で導入されているがほとんど普及されていない。
(一社)日本ハイパーサーミア学会のHPのQ&Aには、このような回答が掲載されている。
○ 理論上はあらゆる癌に有効ですが、実際には温めやすいもの・温めにくいもの様々です。また、施行病院によって様々ながんに対する治療の得手・不得手もあります。
○ 今のところ、がんに対して「十分に加温ができる」装置は開発されておらず、ハイパーサーミアだけでがんが根治できるのは稀と考えられています。一般的には放射線治療や抗癌剤治療と組み合わせるのが一般的です。
専門学会がこのように明言しているだけでも十分ではないだろうか?
僕ならこの説明を読んだだけで(お金を出してまでやる治療ではないな)・・・と思うけどな。
3 丸山ワクチン
がん患者だったら一度は耳にしたことがあるだろう。
僕も過去に自分なりに調べてみたけど、効くのか効かないのかなんだかよく分からなかった。
オプジーボを開発された本庶佑先生は、2020年3月号の文芸春秋のインタビューで、
「丸山ワクチンは常に同じ成分を調整することが困難で、科学的なコンポーネント(構成要素/成分)を記載できなかった」
と言っている。
丸山ワクチンは1976年にゼリア新薬から「抗がん剤」として承認申請されたが、臨床試験で有効性を証明することができず、却下されている。
しかし当時は丸山ワクチンが癌の特効薬として癌患者から強い期待が寄せられていたので、旧厚労省が「有償治験」という位置づけで、特例措置を設ける裏技を使ったのだ。
今でも有償治験として誰でも使うことができるが、もはや承認を得ることが目的ではなく、投与するための手段になっているので、この先丸山ワクチンが新薬として承認されることはまずあり得ないという。
4 サプリメント類
経口摂取するようなものだけでも、「水素水や還元水」「ビワ、梅、桃、ぶどう、あんずの種(レートリル)」「サメや牛の軟骨」「アガリスク」等等・・・あげてみれば枚挙に暇がないが、がんの治療や改善、延命等が科学的に立証されたものは一つもない。
特に果実の種子(レートリル)は、1980年代に国立がん研究所が臨床研究を行い、青酸中毒を起こす危険性があると結論づけている。
2019年に行われた研究では、抗がん剤中にサプリを飲んでいた乳がん患者ほど予後が悪く、ビタミンB12のサプリを治療前から治療が終わるまで飲んでいた患者さんは死亡率が高かった(・・・つまり抗がん剤の効果を弱めた)という結果もある。
鉄剤は再発率を高めると言うし、まだ一つの研究結果が出ただけなので確定的なことは言えないまでも、こういったリスクの可能性があるものを主治医と相談しないで服用するべきではない。
さらに「抗酸化物質」と言えば、一般的に動脈硬化や癌、老化防止に人気があるが、中高年男性が高用量のビタミンEを摂取しても癌になるリスクが低下せず、かえって前立腺がんの発症が17%アップしたことも報告されている。
また、動物実験では癌の転移を促し、腫瘍の成長が早くなったという報告だってあるのだ。
(出典:厚生労働省の「統合医療に係る情報発信等推進事業」)
誰もがブログやSNSで簡単に広く情報を発信できる時代になったが、命に係わる情報だけは安易に発信してはいけない。
「抗がん剤と併用することができ、副作用を劇的に軽減する」・・・なんて広告は至るところで見ることができるが、前述したように迂闊に手を出すと抗がん剤の主作用を弱める可能性がある。
抗がん剤治療を行う時は同時に副作用を抑制する薬を使うのが通常だが、「副作用が軽かったのはサプリを飲んだおかげ・・・」と言うように、薬効を横取りするような体験談も数多く見ることができる。
前の記事で僕がセカオピを受けた時の医師は、「標準治療は、足しても引いてもいけないもの」とも言っていたが、この言葉も強く印象に残っている。
民間療法の胡散臭さなんて少し調べればすぐに分かることだが、生きたい・・・と必死に願う癌患者が信じるほうがバカなのだろうか。
僕にはそうは思えない。
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医師が行う自由療法である免疫療法にしてもそうだ。
「製薬会社と医者との間に癒着や陰謀があって、本当に効果がある治療法を認めないのだ・・・」とか、「西洋医学の医者には西洋医学の知識しかないからだ・・・」なんて、過去数千年の研究で明確に否定されたものを使いたがる医師こそ勉強不足ではないか・・・と言いたくなる。
癌は、新型コロナウイルスのように昨日今日できた病気ではない。
数千年にもわたる人類と癌との闘いの中で、癌に効きそうなものがあればすでに研究者が飛びついて研究している。
わざわざ高いお金を出し、自分の体で命を懸けた実験をしなくてもいいのだ。
そもそも安全性が確立されていない薬を投与するのに、怪しいクリニックには入院設備がなく、しかも救急外来を受け付けていないところが多い。
それって、「外来に来られなくなるほど体調が悪くなった患者さんは、もう知らないよ。」っていう意思の表れなんじゃないだろうか?
怪しいクリニックに通っている患者さんの体調が悪化して寝たきりになり、唯一処方された痛み止めで必死になって痛みを抑えている・・・なんていうブログをいくつか見たことがある。
自由療法を標榜しているクリニックこそ、いつどんな状態になっても患者を診察できる体制が必要だと思うのだが…。
僕は再発するまでは小さな怪しくないクリニックでフォローしてもらっていたが、CEAが上昇傾向に転じた途端に放り出されてしまった・・・と当時のブログに恨めしく書いたことがある。
先生は立派な経歴と豊富な臨床経験があり、優しく患者に寄り添ってくれる先生だっただけに、
「やっぱり町医者っていうのは手間のかかる面倒な患者は要らないんだな」
と寂しさを感じたものだった。
でも今から思えば、「この小さなクリニックではどうしようもなく、きちんと設備の整った大きな病院に手遅れにならないうちに行ったほうがいい」・・・という、先生の最後の優しさではなかったのかと思えるようになってきた。
(続く)