独身で若かった頃は、自由に使えるお金があったことをいいことに、よく飲んだし、よく食べた。
女の子がいるお店にもよく遊びに行ったし、パチンコ屋にもよく行った。
終電を逃せば当たり前のようにタクシーで帰宅し、カプホやビジホに泊まることにも躊躇はなかった。
遊べる時にふんだんに遊んだおかげで、結婚後はすこぶる真面目になった(キリッ)が、ま、ちょっと授業料を多く支払い過ぎたかもしれない。

その当時、僕がよく読んでいたブログがあった。
今はもうなくなってしまったけど、「パチンコ依存症 パコの日記」というタイトルで、トモさんと言う女性がパチンコ依存症に陥った友人パコをなんとかして立ち直らせたいと、あれこれ試行錯誤するような内容だった。
パコに何度も裏切られながらも彼女の健気ながんばりにエールを送る読者も多かったのだが、ある時アディクションの専門家を名乗る者がちょくちょくコメント欄に現れるようになり、トモさんの行為は共依存だのと批判的なコメントを残すようになってきた。
最初の頃こそ真摯に向き合って対応していたトモさんだったけど、しつこく自分の意見に固執し、トモさんの主張に耳を傾けない専門家に絶望してしまったのか、とうとうブログを閉鎖してしまった。

そしてトモさんは名前を変え、新たなブログを立ち上げた。
次のブログは依存症とは全く関係がなく、トモさん(・・・としておく)の人生観をそのまま綴るようなエッセイ風のものだった。
彼女の知的で洗練された文章、物事の考え方、清らかでストイックな生き方など一々感銘を受けた僕は、前のブログ以上に彼女のファンになり、更新を待ちわびるようになっていた。
しかし2007年7月に立ち上げられたブログも徐々に更新が少なくなり、2012年5月を最後に一切の更新がなくなってしまった。
闘病ブログではないので亡くなった・・・とは思いたくないが、心配した僕は一度だけメッセージを送ったけど返信はなかった。
最後の更新からもう7年が過ぎたのかと、振り返れば歳月の流れる速度に今更ながら驚いた。
僕がブログを始めたのも、彼女の存在を抜きにして語ることはできない。

そんな彼女は、どうやらワールドビジョンで通訳(翻訳?)ボランティアをしていたようで、時々その活動状況をブログで紹介されていた。
そこで僕はチャイルド・スポンサーなるものを知った。
月々最低4,500円の寄付をし、貧困などの理由で十分な医療や教育を受けられない恵まれない子供たちに支援の手を差し伸べるのだ。
放蕩な生活を送っていた僕は自らを恥じ、ま、遊びはやめられなかったけどせめてもの償い?偽善?罪滅ぼし?なんとでも言えると思うが、僕はチャイルド・スポンサーに申し込んだのだった。

僕は女の子を希望した。
するとすぐに僕がスポンサーとなる子供の写真と、プロフィールが送られてきた。
ラオスの貧困地域に暮らすラ・ディーという名前の、目の大きな可愛らしい女の子だった。
ワールドビジョンを通じて手紙や物を送ったりすることもできるし、会いに行くことだってできる。
そしてワールドビジョンからは年に1回、黙っていても彼女の写真と学校の成績表、そして発育記録を送ってきてくれるので、何やら単身赴任しているお父さんのような気分だった。
トモさんはそういった手紙のやり取りの翻訳ボランティアをしていたようだ。

後に僕の妻となる当時の彼女は、僕がチャイルド・スポンサーをやっていることを知っていたく感動したと言っていた。
僕を夫にすることに決めたのは、このチャイルド・スポンサーが大きなポイントになったようだ。
でも、結婚した当初は何かと物入りでたくさんのお金が必要になり、僕も小遣い制になったことで自由に使えるお金が少なくなったので、妻に断った上で、数年間続けてきたチャイルド・スポンサーをやめてしまった。
そして先日、終活と称してラ・ディーちゃんの写真を含む当時の書類すら全部破棄してしまった。

ワールドビジョンからはそれからもちょくちょく活動報告会のお知らせや、募金をお願いするメールや封書がたびたび届いていたが、ほとんど見て見ぬふりをしていた。
ところが先日、封書で届いた「クリスマス募金」のチラシに掲載されていた恵まれない赤ちゃんの澄んだ瞳を見て、僕はまたもや自分を恥じた。


 

もちろん、若かった頃のような放蕩な生活を送っていたからではない。

同じワールドビジョンのチラシにはこんなことが書いてあった。
「10万円 → ヨルダンの難民キャンプに通うシリア難民の子ども91人に1か月分の給食を支給できる」
「3万円 → タンザニアで栄養以下の高いオレンジサツマイモの苗を10,000本を支援できる」
・・・と。

 

これを読んで、僕はなんとも居たたまれない気持ちになった。
僕は明日をも知れぬステージⅣのがん患者で、毎月の医療費は3割負担でも20万円弱になるからだ。

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でもね、ホント申し訳ないんだけど・・・、僕の病気はもう治らないところまできちゃったんだけど、それでも僕には治療を中止して、そのお金を君たちに回す勇気がないんだ。
僕の穢れた命よりも、つぶらな瞳で真っ直ぐ未来を見つめる君たちの命のほうが100倍大事なんだと分かっていてもね。。。
生きていても何ら社会貢献するわけでもなく、ただ命をお金で貪っているだけなんだけど、それでも今すぐ死ぬ勇気がないんだ。
医療費の7割を日本国民の税金で支えてもらっていながら寄付できるような身分ではないんだけど、償い?偽善?罪滅ぼし?何を言われてもいいんだけど、君たちの何かの役に立つようにと祈りながらささやかだけどお金を送ります。

どうか、君たちの元にもサンタがやってきますように・・・。